なぜ今"点群DX"なのか？現場に3D活用が求められる理由とは

近年、建設業界でもデジタルトランスフォーメーション（DX）の波が押し寄せており、現場業務に3D技術を取り入れる動きが活発化しています。中でも、レーザースキャナーや写真測量で取得する「点群データ」は、現場の実状を丸ごとデジタル化できることからDXの中心的役割を果たす存在として注目を集めています。本記事では"点群DX"とは何か、建設現場で3D（点群）活用が求められる理由について、基礎から具体例、背景までを分かりやすく解説します。さらに、軽量・低コストで即時に点群を取得できる新技術 LRTK の事例や、ドローン・TLSなど他の3D計測手法との関係にも触れ、未来志向でその重要性を考察します。

点群データとは？建設DXとの関係

点群データとは、レーザースキャナーや写真測量（フォトグラメトリー）によって取得した無数の3次元点の集合で、地形や構造物の形状をありのままデジタル記録したものです。いわば現実空間の精密なコピーであり、図面や従来型の2D写真では把握しきれない現場の詳細まで再現できます。点群データを用いれば、紙の図面が残っていない老朽インフラでも現況を3Dモデル化でき、現場をデジタルツインとして丸ごとデータ化することが可能です。これにより設計データとの比較や解析が容易になり、施工計画の最適化や完成形のシミュレーションなど高度な活用につながります。

建設業界におけるDXとは、ICTやデジタル技術を活用して設計・施工・維持管理といったプロセスを抜本的に変革することです。例えば国土交通省は2023年度から直轄工事でBIM/CIMの原則適用を開始し、業界全体での3Dデータ活用が加速しています。深刻な人手不足や働き方改革関連法への対応（いわゆる「2024年問題」）も相まって、生産性向上と安全性確保が急務となる中、現場を丸ごとデジタル化できる点群データはDX推進の鍵として非常に重要なのです。点群による現場の3Dスキャンは、従来は人手と時間がかかっていた作業を大幅に効率化します。例えば手作業で2日かかっていた地形測量がドローンによる写真測量で0.5日で完了したという報告もあり、点群データ活用が生産性革命につながることが実証されています。

建設現場における点群活用の具体例

点群データは設計から施工、維持管理に至る幅広い場面で活用でき、現場の業務プロセスを大きく変えつつあります。以下に、建設現場での具体的な活用シーンを例示します。

測量: これまで人力で行っていた現況地形の測量に点群を活用すると、精度と効率が飛躍的に向上します。ドローンを用いた写真測量や地上型レーザースキャナーによって広範囲の地形を短時間で点群化し、数値地形モデル（DTM）や等高線を自動生成するといったことが可能です。実際、ドローン導入により測量期間が従来の4分の1に短縮された例も報告されており、点群測量は地形把握の生産性を劇的に向上させます。

出来形管理: コンクリート構造物や基礎工などの出来形（施工後の形状）検測にも点群が活躍しています。従来はトータルステーションや下げ振りで位置・傾きを一本ずつ測定していた作業も、レーザースキャナーで施工箇所全体をスキャンし解析することで一括して形状を把握可能です。例えば深さ20mを超える橋梁基礎の掘削現場で、点群計測により杭の傾斜や位置ずれを安全に確認する実証が行われ、従来比で作業の省力化と安全性向上が報告されています。点群データ上で設計モデルと出来形を重ねて誤差を視覚化できるため、手戻りの削減や品質確保にも大きく寄与します。

維持管理: 完成後のインフラ維持管理にも点群活用が広がっています。道路や橋梁の定期点検で構造物表面をレーザースキャンし、時系列で点群データを比較することで、ひび割れの発生や変位量を効率的に検出できます。点群データをフィルタ・分類して特徴を抽出すれば、劣化や変状のある箇所を自動で洗い出すことも可能です。こうした3Dデータによる現場の見える化により、不具合の早期発見と補修計画の的確な立案が実現します。

施工記録: 点群は工事の記録資料としても極めて有用です。着工前の現況、施工中の出来高、竣工後の完成形状などを3Dデータで蓄積しておけば、写真や平面図では残しきれない詳細な情報を後から参照できます。例えば災害復旧現場では、崩壊した地形をドローンで即座にスキャンして被害状況を詳細に記録し、土砂量を見積もって復旧計画に役立てるといった使い方がされています。点群による記録データは将来的な改修工事やトラブル発生時の検証にも活用でき、技術継承の資料としてベテランの知見をデジタルに残す役割も果たします。

図1: スマートフォンを用いたフォトグラメトリー点群生成の例。現場の構造物（階段）をiPhoneでスキャンすると、その場で高精度位置情報付きの詳細な3Dモデル（右）が生成される。「LRTK Phone」を使えば、取得モデル上で距離や面積、体積を現地で即計測できる。

なぜ"今"点群DXが必要なのか ～その背景～

では、なぜ今これほどまでに点群データの活用＝「点群DX」が求められているのでしょうか。その背景には、業界を取り巻く複数のトレンドや課題の顕在化があります。主な要因を整理すると次のとおりです。

i-ConstructionによるICT施工推進: 国土交通省は2016年頃からi-Constructionと称してICT活用による施工効率化を推進してきました。具体的にはドローンによる3次元測量やマシンガイダンス、BIM/CIMの活用など、生産性向上のための施策を業界横断で展開しています。2023年度から直轄工事でBIM/CIM原則適用が始まったのもその延長線上にあり、受発注者間で3Dデータを共有して業務を高度化する流れが本格化しています。

働き方改革と人手不足の深刻化: 建設業界では熟練技術者の高齢化と若手入職者の減少による人手不足が深刻です。さらに2024年から建設業にも時間外労働の上限規制が適用される（いわゆる「2024年問題」）ため、これまでのように長時間労働で現場を回すことが難しくなります。その解決策として、点群を含むデジタル技術で業務を省力化・自動化し、一人当たりの生産性を上げる必要性が高まっています。DXの推進によって限られた人員でも安全かつ効率的に施工を行える環境整備が急務なのです。

デジタルツインの台頭: 上述のように点群データは現場のデジタルツイン構築に欠かせない基盤です。最近は設計BIM/CIMモデルと施工中に取得した点群を統合し、常に仮想空間上で現場の"今"を再現する取り組みが進んでいます。デジタルツイン上で出来形と設計の差異をチェックしたり、施工手順のシミュレーションを行ったりすることで、リアルタイムに計画の最適化や意思決定が可能になります。このような3Dデータ連携により、設計・施工・検査のプロセスがシームレスにつながるスマート施工（Smart Construction）が現実のものとなりつつあります。

技術継承と品質確保: ベテラン技術者の引退に伴い、現場での勘や経験に頼った品質管理では限界が指摘されています。そこで点群データとAI分析の組み合わせによる省力化・自動化にも期待が高まっています。例えば、膨大な点群から劣化箇所をAIが自動検出したり、掘削や盛土の進捗を点群データから把握して工程管理にフィードバックしたりする技術が研究されています。デジタル技術を使えば、熟練者の「カンとコツ」に依存していたチェック作業を誰もが再現可能なプロセスに変えられます。点群DXの推進は、属人化しがちな現場業務をデータに基づく客観的で再現性の高いものへと変え、世代を超えた技術継承と品質確保に寄与すると期待されています。

軽量・低コストで即時性のある新技術の登場（LRTKの事例）

これまで3Dの点群計測というと専門業者や高価な機器が必要で、中小の建設現場にはハードルが高いものでした。しかし近年、点群取得を飛躍的に手軽にするツールが登場しています。その代表例が LRTK（※レフィクシア社の提供するシステム）です。LRTKはスマートフォンやタブレットと組み合わせて使う小型デバイスで、RTK-GNSS（高精度測位）受信機能と3Dスキャン機能を備えた万能測量機と言えるものです。専用の「LRTK Phone」アプリをスマホに入れ、現場で端末をかざして周囲をスキャンすると、その場で3D点群データを取得できます。得られた点群にはセンチメートル級の位置情報が付与されているため、現地ですぐに点群上で距離や面積、体積を測定することも可能です。たとえば盛土や残土の山を短時間でスキャンし、その場で正確な土量を算出するといった使い方も現実のものとなっています。従来は外注していた点群計測が、自社スタッフのスマホ操作だけで完結するため、現場DXを一気に加速できるでしょう。

LRTKシリーズには他にも用途に応じた機器がラインナップされています。より広範囲を高密度に測りたい場合には「LRTK LiDAR」と呼ばれる専用3Dレーザースキャナーを用いることで、従来は高価だった長距離レーザ計測を低コスト・高速に実現できます。また作業員が身に着けて歩くだけで周囲の点群を取得できるウェアラブル端末や、ヘルメット一体型のGNSS受信機など、屋外・屋内を問わず測位と点群取得を容易にするデバイスが揃っています。現場の規模や目的に合わせてこうしたツールを組み合わせれば、あらゆる局面で3Dデータを活用することが可能です。従来は専門機関に頼るしかなかった点群計測が、LRTKのような手軽な技術によって身近な業務に落とし込めるようになったことは、まさに「点群DX」が現実解になりつつある証と言えるでしょう。

ドローン・TLSなど他の3D計測手法との違いと組み合わせ

点群データを取得する手法はLRTK以外にも多様に存在し、それぞれに得意分野があります。ドローン（UAV）による写真測量は上空から広範囲を短時間で3D化できるため、造成現場の地形測量や災害現場の状況把握などに多く活用されています。近年はRTK-GNSSを搭載した高精度ドローンも登場し、空中写真から生成される点群にも位置精度を付与できるようになっています。一方で、上空からは死角になる構造物の裏側や室内空間の計測には地上設置型のレーザースキャナー（TLS）が有効です。TLSは静止した位置から360度レーザーを照射して高密度な点群を取得するため、橋脚やプラント配管など複雑な構造物の詳細計測に適しています。その反面、装置の持ち運びや多数地点での測定が必要になるため、広大な現場をカバーするには手間と時間がかかります。

こうした各方式の長所を生かすため、複数の計測手法を組み合わせて現場全体を点群化するアプローチが一般的になりつつあります。例えば山岳トンネル工事では、トンネル坑内は地上型LiDARでスキャンし、坑外の地形はドローンで写真測量し、それぞれの点群を繋ぎ合わせることで途切れのない3Dモデルを構築できます。地上で取得した点群と空中からの点群データを統合すれば、広範囲かつ詳細なデジタルツインが完成します。LRTKデバイスはこの統合にも一役買っており、例えばLRTKの高精度測位データをドローン写真のジオリファレンス（位置合わせ）に用いることで、写真ベースの点群にも測量基準点並みの精度を持たせることが可能です。このようにドローン・TLS・モバイル型スキャナーそれぞれのメリットを活かしつつ補完し合うことで、どんな現場でも漏れのない精密な3D記録が実現します。

おわりに：点群DXが切り拓く未来

点群DXは単なる作業効率化に留まらず、建設業の未来像を大きく変えようとしています。現場の「今」を高精度にデジタル化し、それを設計データやAI技術と融合することで、私たちはこれまでにないスマートで持続可能な施工管理を実現できるでしょう。まずは身近な一歩として、試験的に現場の一部を3Dスキャンし従来手法と比較してみるだけでも、その効果を実感できるはずです。点群データを社内で共有し可視化することで、関係者全員のデジタルへの理解が深まり、DX推進への追い風となります。幸いなことに、LRTKのような手軽な計測技術が登場した今、誰でも必要なときに3D点群を取得・活用できる時代が到来しました。ぜひこの機会に点群DXに取り組み、未来の現場標準となる3D活用の波に乗っていただきたいと思います。

なお、LRTKの詳細な機能紹介や導入事例については公式サイトで公開されています。興味のある方はぜひ LRTK公式サイト を参照してみてください。現場での3D活用を支援する最新情報やソリューションが得られるはずです。