日本測地系2024(JGD2024)への移行で何が変わる?建設・測量現場への影響と対策
2025年4月18日 掲載
2025年4月から日本の測地系が「日本測地系2024(JGD2024)」に切り替わるというニュースに、建設・土木・測量などの現場担当者の方は戸惑いや不安を感じているかもしれません。図面上の座標や標高が大きく変わってしまうのではないか、これまでの測量データや機器は使えなくなるのではないか…と心配になりますよね。
実際、「測地系変更」「座標系移行」と聞くと専門的で難しく思えます。しかしポイントを押さえれば、JGD2024への移行は決して怖いものではなく、むしろ現場の精度向上や効率化につながる前向きな変更です。
本記事では 「JGD2024とは何か」 、そして 「JGD2011から具体的に何が変わるのか」 をわかりやすく解説し、変更の背景や現場への影響、そしてスムーズに移行するための実務上の対策まで詳しく紹介します。
JGD2024とは何か?基本情報と背景
JGD2024(日本測地系2024) とは、日本における最新の測地基準座標系(測地系)の名称です。これは2025年4月1日から公式に施行される新しい座標基準で、従来使用されてきた「日本測地系2011(JGD2011)」に代わるものです。
名前に「2024」とあるのは、測量成果を更新する基準となった年(元期が令和6年=2024年)にちなんでいます。国土地理院はこの日付に合わせて全国の基準点(電子基準点、三角点、水準点など)の公式な測量成果値を更新し、新しい測地成果を「測地成果2024」と定義しました。それに伴い測地系の名称もJGD2011からJGD2024へ変更されたというわけです。
重要なのは、日本測地系自体の基本的な枠組み(経緯度座標系や楕円体)はJGD2011から変わりません。JGD2024への移行は、主に「全国の標高値(高さ)」を最新の値に改定することを目的としており、緯度・経度などの水平位置の定義はそのまま継承されています。つまり、今回の測地系変更は日本全国の高さの基準を見直す作業であり、新しい年次で測量し直した成果に合わせて測地系の名前を付け替えたものと考えるとわかりやすいでしょう。
では、具体的に何が変わり何が変わらないのか、次で詳しく見ていきます。
JGD2011から何が変わるのか?水平座標はそのまま、標高のみ改定
結論から言えば、JGD2011からJGD2024への変更で影響を受けるのは「標高値」だけです。緯度・経度や平面直角座標系などの水平座標はこれまで通り同じ基準を使うため、数値が変わることはありません。
例えば、地図上の位置(X,Y座標)やGPSで得られる経緯度情報はJGD2011とJGD2024で共通なので、図面の平面位置が突然ずれてしまう心配は不要です。
一方で、標高(高さ)については全国的に一斉に見直し・改定が行われます。長年使われてきた標高基準が最新の測量によって更新されるため、地点によって旧標高との差(標高差)が数センチから数十センチ程度生じることになります。改定による標高の変化量(標高差)は地域ごとに異なり、最大でおおよそ±60cm程度に達します。
例えば、国土地理院の試算では宮城県牡鹿半島で約+57cm、北海道知床半島で約-67cmの改定(旧標高に対する増減)が報告されています。多くの地域ではここまで極端な差は出ませんが、平均して数十センチ未満の高さのズレが生じると考えておきましょう。
いずれにせよ、「水平は不変・高さのみ変化」というのがJGD2024移行の大前提です。
では、なぜ高さだけを改定する必要があるのでしょうか。その背景を次で解説します。
測地系変更の背景:地殻変動の影響・水準測量の限界・新ジオイドモデル導入
日本測地系を今回更新する背景には、大きく分けて (1) 地殻変動による既存標高のズレの蓄積、(2) 従来手法(水準測量)の精度的な限界、そして (3) 衛星測位技術とジオイドモデルの進歩 があります。
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地殻変動による標高ズレ: 日本列島はプレート運動によって常に少しずつ動いており、特に東日本大震災のような大地震では一瞬で土地の高さが大きく変化します。従来の基準点(電子基準点や三角点・水準点)の標高は長年据え置かれてきたため、現実の地表の高さと測量基準値との間にズレが生じていました。例えば東北地方では震災後に土地が沈下・隆起したにもかかわらず、旧来の標高値を使い続けているケースがあったのです。
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水準測量の累積誤差: 従来の日本の高さの基準は、東京湾の平均海面を0mと定め、日本水準原点から各地へと水準測量(レベル測量)を延伸することで全国をカバーしていました。しかしこの方法では、距離が離れるほど微小な測定誤差が積み重なり、遠方ほど基準面からのズレが大きくなる傾向がありました。実際、北海道や離島など日本水準原点から遠い地域では、本来の平均海面から見た標高に数十センチ単位のずれが蓄積していたとされています。
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衛星測位と新ジオイドモデルの導入: 技術の進歩により、GPSやみちびき(準天頂衛星)などの衛星測位(GNSS)で高さを直接測定する手法が実用化しました。しかしGNSSで得られる高さは地球楕円体からの高さ(楕円体高)であり、そのままでは従来の「海抜(標高)」とは異なります。そこで登場するのがジオイド・モデルです。ジオイドとは平均海面に対応する重力ポテンシャル面(いわば「海抜の基準面」)で、楕円体高からジオイド高を引くことで標高が求められます。今回、国土地理院は重力データを駆使してより精密な新しいジオイドモデル「ジオイド2024日本とその周辺」を構築しました。このモデルは日本全国どこでも東京湾の平均海面と一致する基準面を提供するものです。

以上の背景から、国土地理院は「衛星測位+ジオイドモデル」による新たな標高体系へ移行する決断をしました。これにより、長年の地殻変動で生じた標高のズレを解消し、これからは現状に即した高さを迅速に提供できるようになります。
例えば大地震直後でも、GNSS観測と新ジオイドモデルによって各地の標高を速やかに再計算・改定でき、復旧・復興工事を遅滞なく進められることが期待されています。
さらに公共測量にもGNSSによる高さ測量(GNSS標高測量)が新たに導入され、従来の水準測量に比べて業務の効率化・省力化が図れる見込みです。
要するにJGD2024への移行は、精度向上と作業効率化のために必要なアップデートなのです。
では、この変更が実際の現場業務にどんな影響を与えるのか、具体的に見てみましょう。
現場への具体的な影響と注意点
JGD2024への移行に際し、建設・測量の現場では主に標高データの差異に関連した注意が必要です。ここでは、実務上影響の大きいポイントと対策を整理します。
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標高データのズレに注意: 既に述べた通り、基準点の標高値が地域によって数cm~数十cm変化します。例えば、これまで「標高100.00m」だった地点が、新基準では「100.30m」になるといったズレが生じ得ます。現場で既知点の高さを利用する場合、旧基準(JGD2011)の標高なのか新基準(JGD2024)の標高なのかを必ず確認しましょう。混在に気付かず作業を進めると、後で測量成果が合わずに大きな手戻りが発生する恐れがあります。特に移行直後の時期は、旧標高と新標高が現場で混在しやすいため要注意です。
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図面・設計への影響: 設計図書や施工図で使用している高さ基準にも目を配る必要があります。例えば、上下水道の勾配設計や造成の仕上げ高さなど、絶対的な標高値が重要な設計では、新旧標高差によって設計値と現場実測値に差異が出る可能性があります。国や自治体発注の工事では2025年4月以降、新標高での成果提出が求められるため、移行前から進行中のプロジェクトでも必要に応じて新基準への換算・設計修正を検討してください。既存の図面をそのまま使う場合は「標高はJGD2011基準」等の注記を入れるなど、どの基準の高さであるか明示する工夫が大切です。関係者全員が認識を共有していれば、誤解による施工ミスを防げます。
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測量機器・GNSSの対応: 測量機やGNSS機器にもアップデートが必要です。2025年4月1日を境に、電子基準点から提供される補正情報やVRS(仮想基準点)によるRTK測位の結果が新しい標高体系に切り替わります。したがって、4月1日をまたいでGNSS測位を行う場合、改定前後で得られる標高値が混在しないよう細心の注意が必要です。具体的には、GNSS受信機の設定やデータコントローラのジオイドモデルを更新し、「ジオイド2024」対応の設定に切り替える必要があります。アップデートを怠ると、4月1日以降も旧ジオイドによる計算が行われ、結果的に数十cmの誤差を生じることになります。また、光学式のレベル(オートレベル)やトータルステーション自体は高さ差を相対的に測る機器ですが、既知高や現地のベンチマークの値を新基準に置き換えることを忘れないようにしましょう。
以上の点を踏まえ、次章ではJGD2024移行に向けた具体的な実務対策を紹介します。
移行に向けた実務対策(測量データ変換・管理・製品対応)
スムーズにJGD2024へ移行するために、現場で今から準備できることを整理しましょう。「既存データの変換」「データ管理の徹底」「機器・ソフトのアップデート」の3つがポイントです。
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既存測量データの変換: 過去に測量した標高データや基準点の高さは、新しい基準に合わせて変換(換算)しておくことを検討してください。国土地理院は今回の改定に合わせて、旧標高を新標高に換算するための「標高補正パラメータ(グリッドデータ)」を公開しています。このデータを使うことで、旧測地系で得た標高値に適切な補正量を適用し、新測地系(JGD2024)に対応させることが可能です。例えば、ソフト上で旧基準の座標系と新基準の座標系を変換する際にこのパラメータを適用することで、自動的に標高値を補正できます。ただし補正にはわずかな誤差が伴うため、厳密さが要求される場面では余裕を持った対応が必要です。重要なプロジェクトでは、できれば移行後に再測量して新標高を直接取得するか、公式に改定された基準点成果を参照するようにすると安心です。
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データ管理と共有の徹底: 測量成果や設計データを扱う上で、どの測地系(座標系)に基づくデータかを明確に管理する仕組みを作りましょう。移行期にはJGD2011とJGD2024のデータが混在するため、ファイル名や図面注記、メタデータに「JGD2011」または「JGD2024」と明示することをおすすめします。例えば、基準点台帳や成果表に使用座標系を記載したり、図面の凡例に「(標高はJGD2024)」等と追記するなどです。社内で共有フォーマットを決めておくと良いでしょう。こうした座標系の一元管理により、チーム内で誤った基準のデータを使用するリスクを低減できます。また、過去の蓄積データについても、必要に応じて一括変換ツールを利用し新基準データセットを作成しておくと後々便利です。
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機器・ソフトウェアのアップデート(製品対応): 手持ちの測量機器やソフトがJGD2024に対応しているか確認し、必要なアップデートを行いましょう。主要メーカー各社は今回の改定に合わせて測量機器向けのファームウェア更新やジオイドモデルファイルの提供を行っています。GNSS受信機やデータコレクタの場合、新しいジオイド「ジオイド2024」のモデルファイルを機器に導入する必要があります。弊社が提供する LRTKシリーズ をはじめ、最新のRTK-GNSS機器や測量ソフトウェア製品は順次JGD2024対応が進んでおります。現場の機器をアップデートしておくことで、移行後も従来通りの手順で測量・設計業務を継続できるようになります。
万一アップデート方法が不明な場合は、弊社サポート窓口に問い合わせてください。以上の対策を講じておけば、JGD2024移行による混乱を最小限に抑えられるでしょう。
日本測地系2024(JGD2024)への移行に際して押さえるべきポイント
日本測地系2024(JGD2024)への移行に際して押さえるべきポイントをまとめると、「水平座標は不変」「標高のみ更新」「地域差はあるが最大数十cm程度の高さ変化」「新技術で精度向上」といったところです。
最初は戸惑うかもしれませんが、仕組みを理解し事前に対策しておけば、現場で大きな支障が出ることはありません。むしろJGD2024によって、これまで気づかぬうちに生じていた高さ基準のズレがリセットされ、より正確で一貫した測量データを扱えるようになります。それは今後の施工品質や測量効率の向上にもつながるメリットと言えるでしょう。
移行期の不安は「知らないこと」から来るものです。本記事の内容がお役に立ち、少しでも不安解消につながれば幸いです。もし「具体的にどう対応すればいいの?」「手持ちの機器をアップデートできているか不安」といった疑問・相談がございましたら、ぜひお気軽に弊社までご相談ください。
JGD2024対応に関する詳細やソリューション提案は、製品紹介ページでもご案内しております。また、個別のご質問や機器対応状況の確認などはお問い合わせページよりご連絡いただければ、専門スタッフがサポートいたします。
最新の測地系への円滑な移行をともに実現し、これからの測量・施工業務をより安心・確実なものにしていきましょう。最後までお読みいただきありがとうございました。引き続き、安全で正確な現場運用をお祈りしております。
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