点群データが変える土木設計:
3Dモデル活用のメリットと実例

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2025年2月28日 掲載

1. はじめに
点群データとは、X・Y・Zの座標を持つ無数の点で構成された三次元のデータ集合です。それぞれの点が地形や構造物表面の一部分を表し、全体として現場の3D形状を詳細に再現します 。点群は通常、レーザースキャナー(LiDAR)やソナーによる測定で取得されます 。取得された点群データはそのままではただの点の集まりですが、必要に応じて3DのメッシュやCAD/BIMモデルに変換することで、土木の計画・設計に活用できる実用的な形にします 。
つまり点群データは、現場の「ありのまま」の詳細情報をデジタル化したものであり、これをもとに設計者は正確な現況把握やモデル作成が行えます。
3Dモデルと点群は密接に関連しており、点群が実在する地形・構造物の精密なコピーだとすれば、3Dモデルはそれを設計目的で解釈・整備したものと言えます。設計者は点群を参照しながら3Dモデル(設計モデル)を作成したり、逆に完成したモデルを点群と重ねて検証したりすることで、設計の精度と信頼性を高めています。
2. 点群データの活用メリット
2.1 設計の精度向上
点群データの活用により、土木設計の精度は飛躍的に向上します。レーザースキャンによって地形や構造物の形状をミリ単位で詳細に取得できるため、従来の測量では見落としがちな細部まで把握可能です。高密度な3D情報が得られることで、設計者は現場の状況を正確に把握し、より的確な意思決定が行えます 。その結果、測量誤差や計測モレが原因となる設計ミスを未然に防ぐことができます。実際、不正確で質の低い情報は誤った判断や手戻り、無駄、コスト増大の一因となり得ると指摘されています 。点群データという信頼性の高い現況データを用いることで、こうしたリスクを減らし、設計段階から品質を確保できます。
2.2 コスト削減と工期短縮
点群データの導入は、プロジェクトのコスト低減や工期短縮にも直結します。詳細な3Dデータを活用すれば設計のワークフローが効率化し、図面修正や設計変更にも素早く対応可能です 。現場を再度測量し直すことなく、デジタルな点群上で検討を重ねられるため、変更による作業中断を最小限に抑えられます。また、施工段階では点群データを用いた出来形の検証により、誤差や不具合を早期に発見できます 。デジタル上で干渉やずれを事前に把握できれば、手戻り工事を防いで余計な出費や工期延長を避けられます。その結果、正確な3Dモデルを活用することで大幅なコスト削減と工期短縮が実現できることが報告されています 。
2.3 施工管理の効率化
施工管理の場面でも、点群データは作業の効率化に寄与します。例えば出来形管理では、完成した構造物や造成地形をスキャンして得た点群を設計データと自動比較することで、従来は人手で行っていた検測作業を迅速かつ的確に行えます。施工中に定期的に点群スキャンを実施すれば、計画と進捗のズレをリアルタイムで把握でき、出来形の不足や超過を即座に検出可能です 。これにより、現場監督者は品質と進行状況を常にデジタルデータで確認し、問題があれば早期に対処できます。さらに、施工で取得した点群データはそのまま記録として残るため、引き渡し後の保守・維持管理にも活用できます。完成時の正確な3D情報があれば、将来の変化を評価したり補修計画を立てたりする際にも、追加の調査負担を減らしつつ信頼性の高い判断が下せます。
3. 点群データの具体的な活用事例
3.1 測量
土木分野での測量において、点群データの活用は既に革命を起こしつつあります。地上型のレーザースキャナーを用いれば、三脚に据え付けた機器が周囲360度を高密度にスキャンし、現場の詳細な3D測量図を作成できます。一方、ドローン(無人航空機)を使った方法では、上空から広範囲の地形を短時間で取得可能です。ドローンによる写真測量(フォトグラメトリ)では高解像度の画像から点群を生成できますし、LiDARセンサー搭載ドローンであれば植生下の地形まで含めた精密な地形データを取得できます 。例えば、固定翼ドローンにLiDARを搭載した場合、1回の飛行で約10平方キロメートルもの範囲をカバーでき、水平方向約10cm・鉛直方向約5cmという極めて高い精度で測量できたとの報告があります 。これは従来の地上測量では考えられないスピードと精度であり、広域な道路網や造成予定地の測量に威力を発揮します。地上型LiDARとドローン測量を組み合わせることで、細部から広域まで統合された現況の点群データを得ることができ、以後の設計・施工計画に活かせる土台が築かれます。
3.2 土木施工
施工段階でも点群データの利活用が進んでいます。施工計画を立案する際、着工前に取得した現地の点群データ上で重機の配置や仮設構造物のレイアウトをシミュレーションすることで、効率的かつ安全な施工手順を検討できます。また、工事の進捗管理にも点群は有用です。例えば、週次や工程ごとにドローンや地上LiDARで現場をスキャンしておけば、得られた点群を設計モデルや工程計画と比較することで、予定通り施工が進んでいるか一目で把握できます。盛土や掘削の量を点群データから自動計算し、出来高を定量的に管理するといったことも容易です。実際に、点群データを活用することで計画と実際の差異を早期に検出し、必要な対策を施す運用が現場に定着し始めています。例えば施工中の建物を逐次スキャンしておけば、設計図と施工実績のズレをリアルタイムに検出でき、適宜工程の見直しや修正施工を行えます 。このように、点群データは施工現場の「デジタルツイン(現場の仮想複製)」として機能し、施工管理者の意思決定を強力に支援します。
3.3 維持管理
道路・橋梁・トンネルの維持管理分野でも、点群データの活用が注目されています。インフラ構造物の健全性を評価する点検作業において、LiDAR計測による高密度点群は現場の現状把握を迅速かつ詳細に行える手段となります。例えば橋梁点検では、橋全体をレーザースキャンして高精度の3D点群を取得すれば、交通を止めることなく構造全体の状態を把握し、変状の有無を解析できます 。取得した点群データから部材のわずかなたわみや亀裂の兆候を捉え、必要に応じて補修計画を立てることも可能です。同様にトンネル内でも、暗所や狭隘な空間で人が近づきにくい箇所を含め、走行車両に搭載したLiDARでトンネル内壁をくまなくスキャンできます。点群化されたトンネル内面のデータを解析すれば、ひび割れや剥離、漏水跡といった異常を早期に検知でき、補修の優先度判断に役立ちます。道路においても、車両搭載型のモバイルマッピングLiDARで路面や路側設備の点群を取得することで、舗装のわずかな凹凸や標識・ガードレールの配置をデジタル記録し、維持管理に役立てる取り組みが進んでいます。点群データによるインフラ点検は、人力に頼る従来手法に比べて安全かつ効率的であり、データに基づく客観的な維持管理計画策定を可能にします。
4. 点群データの取得方法
点群データを取得する方法にはいくつかの種類があり、用途や現場の状況に応じて使い分けられます。代表的なのは据え置き型のレーザースキャナー、ドローン(UAV)による空中測量、そして近年普及しつつある可搬型のLiDARデバイスです。
スキャナー(据え置き型レーザースキャナー): 三脚に設置するタイプのレーザースキャナーは、極めて高い精度と分解能で周囲の点群を取得できます。建造物の内部やトンネル内、プラント設備など、細部まで精密に測定したい場合に用いられ、ミリメートルオーダーの精度で数百万点規模の点群を得ることができます。ただし据え置き型は一度にカバーできる範囲が限定されるため、広いエリアを測量するには複数地点に移動して計測し、後でデータを合成する必要があります。
ドローン測量: ドローンを使った方法には、カメラで空撮して写真から点群を作るフォトグラメトリ(写真測量)と、ドローンにレーザー(LiDAR)センサーを搭載して直接点群を取得する方法があります。写真測量はオルソ画像やカラーポイントクラウドの生成に適しており、構造物の表面テクスチャまで含めた記録が可能です。一方、LiDAR搭載ドローンは樹木の茂った地域でも地表面の点群を取得でき、全天候・昼夜を問わず安定した精度で測量できる利点があります。いずれの方法でも、従来より短時間で広大な範囲の地形情報を収集できるため、測量作業の生産性が飛躍的に向上します。
モバイル・ハンディ型LiDAR: 最近では、車両に搭載して走行しながら測量できるモバイルマッピングシステムや、手持ちできる小型のLiDARセンサーも登場しています。これらは広範囲を高速に計測したり、狭い空間や人が立ち入れない場所の点群取得を実現したりするものです。精度は機器によって異なりますが、地上据え置き型や高性能ドローンLiDARと比べると若干劣る場合もあります。しかし、現場の状況に合わせて機動的に測量できる点で利便性が高く、点検用途などでは十分な成果が得られます。特に近年はスマートフォンにもLiDARが搭載されており、これと高精度測位技術を組み合わせた新しい計測手法も登場しています(後述のLRTKなどがその一例です)。
絶対座標の付与: いずれの方法で取得した点群データであっても、必ず考慮すべき重要ポイントが「絶対座標の付与(ジオリファレンス)」です。単に点群を取得しただけでは、データは任意の座標系上に存在する相対的な位置情報に過ぎません。これを設計図や他の地理情報と整合させるには、国土地盤座標系や平面直角座標系といった既知の基準座標に合わせる必要があります。一般的には、現場に既知点(既設の測量基準点やGNSS基準点)を用意し、スキャン時にそれらを計測して点群に紐づけることで座標を割り当てます。またはRTK-GNSSを機器に搭載し、測定と同時に各点にグローバル座標を付与する方法もあります。こうした基準点による補正を行うことで、点群データの精度と信頼性が大幅に向上し 、設計座標系への取り込みもスムーズになります。絶対座標が付与された点群は、CAD図面やBIMモデルとの重ね合わせが容易で、真に実務で活用できる「デジタル現場モデル」として機能します。
5. LRTKで点群データ取得を簡単に
LRTK Phone(エルアールティーケー・フォン)は、iPhoneに装着して使用できるポケットサイズのRTK-GNSS受信機です。iPhoneの内蔵LiDARスキャナーと組み合わせて使うことで、誰でも手軽に高精度な3D点群を取得できるソリューションとして注目されています。従来は高価な専用機器が必要だったセンチメートル級精度の測位・点群計測をスマートフォン1台で実現し、現場で即座に利用できる点が画期的です。実際、LiDARを搭載するiPhoneにLRTK Phoneを組み合わせれば、地形や構造物の3D点群データを取得でき、その点群を構成する一つ一つの点にRTKによる高精度な位置座標が自動付与されます 。つまり特殊な熟練技能がなくとも、現場の技術者自身がポケットから取り出したスマホで測量から点群スキャンまでこなせるようになるのです。
LRTKで取得した点群データは自動的にクラウド(LRTK Cloud)上にアップロードされ、ウェブブラウザを通じて3Dビューアや解析ツールで活用できます 。例えば点群上で任意の2点間距離を計測したり、盛土の体積を即座に算出したりといった作業も、現場でスマホを使って瞬時に行うことが可能です 。クラウド上にデータがあることで、現地で取得した最新の点群をオフィスの関係者と即時に共有でき、離れた場所からでも現況を把握して適切な指示や設計変更を行えます。iPhoneの使いやすいインターフェースと組み合わせたLRTKのアプローチにより、点群データ取得のハードルは大きく下がり、日常的な測量・設計フローに組み込める時代が訪れつつあります。
6. まとめ
土木設計における点群データ活用は、精度向上や効率化の観点から今や欠かせない要素となりつつあります。現場の実状を詳細に反映した3D点群は、計画・設計・施工・維持管理のあらゆる段階で意思決定を支える「デジタル基盤」として機能します。近年の技術進化により、点群の取得と活用はますます容易になっています。LRTKのようなソリューションは、高度な測量技術を現場の誰もが使えるツールへと変革し、業界全体の生産性向上に寄与するでしょう。今後もセンサーやAIの発展によって点群データの利活用は拡大し、リアルタイムでの解析や自動化も進むと期待されます。点群技術を積極的に受け入れることは、単なる新技術の採用に留まらず、建設業界の将来をより効率的で精度の高い持続可能なものにする戦略的な一歩だと言えます 。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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