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杭打ち作業の現状と課題 

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2025年2月28日 掲載
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杭打ち作業の現状と課題 

 

土木工事で基礎となる杭打ち作業では、「正確な位置に杭を打つ」ことが何より重要です。従来は測量士が図面上の座標をもとに現場で位置出しを行い、地面に墨出し(印を付ける)や木杭を打って目印とし、それを頼りに重機オペレーターが杭を施工していました。しかしこの方法では人手と時間がかかりやすく、ミスが生じるリスクもあります。例えば、測量担当者と作業者のコミュニケーション不足で位置がずれたり、目印の杭がずれてしまうと施工精度に影響が出ます。また、法面(のりめん)や水辺など物理的に目印を設置しにくい場所では位置出し自体が困難でした。大規模な現場では重機にGNSS(衛星測位)を搭載したマシンガイダンスが導入され始めていますが、専用機材は高価で中小の現場ではまだ普及が進んでいません。結果として、多くの施工現場で杭打ちの精度確保が課題となっているのが現状です。従来の光学測量による杭位置出しは時間がかかり、生産性を阻む要因でした(従来法の測量は最新技術の約6倍の時間を要したとの報告もあります )。こうした背景から、現場ではより効率的で正確な杭打ち誘導方法が求められていました。 

RTK測位技術と杭打ち誘導の関係 

 

この課題を解決する鍵の一つがRTK測位技術です。RTK(Real Time Kinematic)とは、衛星測位(GPSやGNSS)の誤差を基地局からの補正情報でリアルタイムに補正し、数センチの精度で位置を特定できる技術です。簡単に言えば、「現場で使える超高精度のGPS」です。RTK測位により、杭打ち作業において設計図上の座標と実際の現地位置をピタリと一致させることが可能になります。例えば、杭を打つべき地点の座標をRTK対応の機器で設定しておけば、現場でその機器が示す位置に誘導することで、杭位置のずれを最小限にできます。 

従来は測量担当者が巻尺やトランシット(光学測量機)で杭位置を出していましたが、RTKを使えば測量データ上の目標地点に直接ナビゲーションできるため、中間の墨出し作業を省略できます。国土交通省も提唱する「ICT施工」や「i-Construction」において、GNSSを活用した施工精度向上は重要なテーマです。杭打ち誘導にRTKを取り入れることで、熟練者の勘に頼る部分を減らし、誰でも同じ精度で杭を配置できるようになります。重機オペレーターにとっても、車両や杭に取り付けた受信機からリアルタイムに自分の位置と目標位置のズレがわかれば、手元の画面を見ながら杭打ち作業を進められるため、安全性と確実性が向上します。RTK測位技術は、このように杭打ち誘導(杭打ち位置へのナビゲーション)に革命をもたらしつつあります。 

スマホ測量の導入による変化 

 

近年、このRTK測位をより手軽に活用できる**「スマホ測量」が登場し、施工現場に大きな変化をもたらしています。スマホ測量とは、その名の通りスマートフォンを測量機器として活用する手法です。専用の小型RTK-GNSS受信機をスマホに装着するだけで、従来は専用機器が必要だったセンチメートル級の測位が可能になります 。例えば、あるスタートアップ企業が開発した「LRTK Phone」というデバイスでは、iPhoneに重さ125g程度の受信機を付けるだけでポケットサイズの測量機**となり、いつでもどこでも携行して必要な時に使えます 。これにより、現場の誰もが1人1台の高精度測位装置を持ち歩ける時代が来ました。 

スマホ測量がもたらすメリットは計り知れません。第一に、操作が直感的で簡単です。スマホアプリの画面上に現在位置や目標地点が表示されるため、専門知識がない作業員でも扱いやすくなっています。第二に、効率の向上です。従来は測量班を呼んで位置出しをしていた作業も、スマホ一つで作業員自身がこなせます。クラウド連携により設計座標データを事前に共有しておけば、現場でボタンを押すだけで目標地点まで誘導してくれる仕組みも実現しています 。さらに、測位結果や施工データはリアルタイムでクラウドにアップロード・共有できるため、事務所に戻ってからの報告作業も簡素化されます 。要するに、スマホ測量の導入によって**「誰でも・すぐに・正確に」杭打ち位置を特定できる**ようになり、現場の生産性と杭施工精度向上が期待できるのです。

 

施工現場での活用事例 

 

では、実際の施工現場ではこの技術がどのように活用されているのでしょうか。具体的な事例として、橋脚基礎工事の杭打ち作業を考えてみます。従来は測量技師が橋脚の設計位置に基準点を設置し、その周囲を矩形に測って杭位置をマーキングしていました。ある建設現場では、スマホ測量とRTK誘導を導入した結果、作業手順が大きく簡素化されました。事前にクラウド上に登録した杭位置の設計座標を、作業員が現場でスマホアプリから呼び出します。そしてスマホ画面の案内に従って移動すると、狙った位置に到達します。あとはその場所に印を付け、杭打ち機で杭を施工するだけです。従来法では半日かかっていた杭位置出しが、わずか1時間程度で完了するケースも報告されています。実際に比較実験では、最新のGNSS×ARによる杭出しは最も時間のかかった従来光学法の約1/6の時間で完了したという結果もあります 。これは驚くべき効率化です。 

さらに、地形条件が厳しい現場での活用も進んでいます。たとえば急な法面や足場の悪い場所では、これまで測点の設置自体が困難でしたが、スマホ測量なら安全な場所から目標地点まで誘導できます。スマホ画面に表示されるAR(拡張現実)による杭位置マーカーを使えば、物理的に杭を打てない場所でも仮想的に「ここに杭あり」と表示して確認できます 。実際、斜面地の補強工事でAR杭打ち機能を使い、離れた場所から仮想杭を設置して位置を特定し、その真下を掘削して杭を打つというスマートな手順が取られた例もあります。加えて、災害復旧現場でもスマホ測量が威力を発揮しました。通信インフラが寸断された被災地で、大型機材を持ち込めない状況下でも、小型のスマホRTK受信機なら現場調査に投入できます。実際、2023年の能登半島地震の際にはLRTKデバイスが活躍し、基地局がダウンした環境でも日本の準天頂衛星「みちびき」から配信されるセンチメータ級補正情報(CLAS)を受信して高精度測位を可能にし、被災現場の測量に貢献しました 。このように、スマホRTK測量と杭打ち誘導は様々な現場で具体的な成果を上げ始めています。

 

LRTKを活用した高精度杭打ち誘導の

詳細とメリット 

 

上記で触れたLRTK(※)は、スマホ測量の代表的なシステムの一つです。ここではLRTKを例に、最新の杭打ち誘導技術の仕組みとメリット・デメリットを詳しく見てみましょう。 

※LRTKとは:「Local RTK」などの略称ではなく製品名ですが、要するにスマートフォンを用いたRTK測位システムです。東京工業大学発のスタートアップ企業が開発し、iPhone/Androidと超小型GNSS受信機を組み合わせて利用します 。 

技術の詳細: LRTKはセンチメートル精度のGNSS受信機をスマホに装着し、専用アプリとクラウドサービスで動作します。測位精度は水平±2cm、鉛直±3cm程度と報告されており 、従来の据置型GPS測量機に匹敵する高精度です。このシステムは国土地理院の電子基準点ネットワークや、準天頂衛星みちびき(QZSS)のCLAS信号から補正情報を取得し、リアルタイムに位置補正を行います。そのため移動基地局がなくても通信圏内であれば全国どこでも高精度測位が可能で、通信が難しい場所でもみちびきの信号受信によって測位継続が可能です 。スマホアプリ上では、事前に登録した目標座標までの方向・距離を示す座標ナビゲーション機能が利用できます 。目標に近づくと画面上に十字ターゲットのような表示で「あと数センチ」を調整できるようになり、まさに杭打ち位置にピンポイントで誘導してくれます 。さらにカメラを使ったAR表示機能により、スマホ越しの実景に仮想の杭や設計モデルを重ねて表示できます 。例えば、地面に杭を打たずとも「ここに杭あり」と仮想杭を立てて示したり、設計図の3Dモデルを現場風景にそのまま投影して施工イメージを確認するといった使い方も可能です 。加えて、LRTKは単なる位置測定だけでなく点群計測(3Dスキャン)や写真測量にも対応しており、取得データはすべてクラウド上で一元管理できます 。現場で撮影した写真に自動で高精度な位置座標と方位情報を付与し、履歴として時系列管理する機能も備えており、施工管理や維持管理への応用も期待されています 。 

メリット: 以上のような最新技術を活用することで得られるメリットは大きく分けて以下の通りです。 

  • 施工精度の向上: 常に数cm以内の誤差に収まる高精度測位により、杭の位置ずれを極小化できます。設計座標と実際の杭位置のギャップが小さくなることで、構造物の品質や安全性が向上します。特に多数の杭を打つ基礎工事では、一本一本の誤差蓄積による構造影響を防げるため安心です。 

  • 作業効率の劇的改善: RTKとAR誘導により、杭位置出しに要する時間が大幅に短縮されます。前述のように、新技術を使えば測量作業時間が従来比で1/6になるケースもあります 。一人の作業員でも直感的な画面誘導で位置を特定できるため、人員削減や段取り簡素化にもつながります。次のポイントまでの方向や距離が直感的に分かるAR誘導のおかげで、移動や微調整に無駄がありません 。 

  • コストの削減と普及のしやすさ: 従来数百万円クラスだった高精度GNSS機器に比べ、LRTKのようなスマホ測量機器は非常に安価で提供されています 。安価だからこそ1人1台の配備も現実的で、中小企業や小規模工事でも導入しやすいと言えます。また、既存のスマートフォンを活用するため、新たな操作端末に習熟する必要もほとんどありません。日常使い慣れたスマホ画面で測量ができる手軽さは、現場への浸透を後押しします。 

  • 多用途・DXへの寄与: スマホ測量システムは杭打ち誘導だけでなく、現況測量、出来形管理、維持管理など幅広い用途に使えます 。例えば同じ機器で杭打ち後の出来形を点群スキャンして出来形検査に使ったり、施工中の記録写真を自動で地図上にプロットして共有したりと、**現場業務全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)**につながります。一本の杭打ち作業が、データ連携によって後工程の効率化や将来の保守管理にも役立つわけです。 

 

デメリット・注意点: 一方で、この新技術にも留意すべき点があります。 

  • GNSS測位の制約: 衛星測位は上空の視界が確保されていないと精度が出ません。高架下やトンネル内、周囲を高い建物に囲まれた場所では、RTKでも測位が不安定になります(いわゆる「衛星が見えない」状態)。森林の中なども衛星信号の反射・遮断が起きやすく、精度低下や測位不能に陥る場合があります。そのため、そうした環境下では光波測量との併用や事前の基準点設置などのバックアップ策も必要です。 

  • 機器の取り扱いと耐久性: スマホと小型GNSS受信機とはいえ、精密機器であることに変わりはありません。防水・防塵性能はある程度備えていますが、専用の頑丈な筐体に比べれば現場での破損リスクは高いでしょう。雨天時の運用や高所・重機上での使用時には、落下防止や防水ケースなど配慮が必要です。またバッテリー駆動のため、長時間の連続使用時は予備電源の確保も考えておかねばなりません。  

  • 人的要因: 新しいデジタル技術への抵抗感も現場では考慮すべき点です。高齢のベテラン作業員ほどスマホアプリの操作に戸惑うかもしれません。そのため導入時には十分な教育や、慣れるまでのフォローが欠かせません。しかし直感的な画面表示や日本語での案内機能により、操作自体は比較的容易なので、一度使えば便利さが理解されることが多いようです。 

 

まとめ 

 

杭打ち作業におけるRTK測位技術を活用した最新の施工誘導方法について、現状の課題から最新技術のメリットまで解説しました。従来の方法で課題だった**「精度」「時間」「人手」**の問題は、スマホ測量×RTKという新しいアプローチで大きく改善されつつあります。専門の測量チームに頼らずとも、現場の作業員一人ひとりが高精度の位置情報を扱いこなし、杭施工精度向上と生産性向上を同時に実現できる時代が目前です。 

一方で、衛星測位ならではの制約や機器管理上の注意点もあるため、導入にあたってはデメリットも踏まえた運用ルール整備が必要です。しかし総合的に見れば、RTK測位とスマホを組み合わせた施工誘導は、これからの建設現場におけるスタンダードになっていく可能性があります。精度と効率が要求されるインフラ工事において、この技術は**「杭を正確に素早く打つ」**という当たり前でいて難しい課題を力強く支援してくれるでしょう。最先端のRTK誘導技術を上手に活用し、誰もがミスなく高品質な施工を行える現場作りを進めていきたいものです。 

LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上

LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。

LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。

 

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