位置情報付き写真で現場記録革新:
iPhoneのRTK活用術

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2025年3月14日 掲載

建設業界における測量技術は、近年大きく進化しています。従来はトランシットや光波測距儀、GPSなどを用いた測量が主流でしたが、ICT化・DX推進に伴いRTK測量やドローン測量などが現場に浸透しつつあります。特にRTK建設分野での活用は注目度が高く、ミリ単位の精度を持つリアルタイムキネマティック(RTK)技術が施工管理や出来形測定に活かされています。さらに近年、このRTKとAR技術(拡張現実)を組み合わせた新たな手法が登場し、スマートフォンひとつで高精度な建設測量が可能になる時代が到来しました。現場スタッフが手にするスマホが、高精度GNSS受信機を装着することで“万能測量機”に変身し、点群や基準点座標までセンチメートル級で計測できる画期的な例も報告されています。
本記事では、このARとRTKの融合による次世代の建設測量について、その基本技術と活用シーン、具体的な活用例を紹介します。スマホで測量が可能になるメリットや、弊社が提供する「LRTK」の活用方法についても解説し、建設業界の皆様が最新技術を現場に活かすヒントをお届けします。
ARとRTKの基本技術
AR(拡張現実)とは?
ARとは、スマートフォンやタブレット、スマートグラスなどを通じて現実世界の映像にデジタル情報を重ねて表示する技術です。
現実の風景に3DCGモデルやテキスト情報などをリアルタイムに合成することで、目の前の世界を仮想的に拡張します。建設業界でもAR技術の導入が進んでおり、例えば完成予定の建物モデルを現地の映像に重ねて表示したり、図面上の配管経路を実際の躯体に投影して確認したりすることが可能です。実際、清水建設はBIMデータと現実映像を重ね合わせて設備配管や構造体の施工管理を支援する「Shimz AR Eye」というシステムを開発し、仕上げ前で見えない配管をAR表示で確認したり次工程の計画を表示して情報共有する取り組みを行っています。このようにAR技術は施工現場での視覚的な情報共有や完成イメージの共有に役立ち、業務効率化やミス防止に貢献しています。
RTK測量の仕組みと精度
RTK(Real Time Kinematic)測量は、GPSをはじめとしたGNSS(全球測位衛星システム)の測位精度を飛躍的に高める技術です。既知点に設置した基準局と移動局(ローバー)で同時にGNSS観測を行い、基準局の誤差情報をリアルタイムに移動局へ送り補正することで、数センチメートルの誤差範囲で高精度な位置を測定できます。国土地理院によれば、従来の単独測位や簡易な補正(DGPS)では数メートルの誤差がありますが、RTK-GNSS方式では誤差が数センチまで低減されるとされています。
このセンチ級精度を実現するため、移動局側では高性能なGNSSアンテナと受信機を用い、基地局からの補正データ(電波やネット経由で取得)を組み合わせて位置演算を行います。近年ではネットワーク型RTK(VRS方式など)や、日本の準天頂衛星みちびきが提供するCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を利用することで、基地局を設置しなくても高精度測位が可能な環境も整ってきました。RTK測量は測量士や技術者がインフラ計測・機械施工の精度管理に活用しており、今や土木・建設現場に欠かせない技術となりつつあります。
AR技術とRTK測量の融合で実現する新たな可能性
ARとRTKを組み合わせることで、従来は難しかった「絶対座標に基づくAR表示」が可能になります。通常のARアプリでは、現地とCGモデルの位置合わせにマーカー設置や平面認識を使った初期キャリブレーションが必要で、ユーザーが移動するとモデルが現実とずれてしまう位置ズレ(ドリフト)の課題がありました。
しかしRTK-GNSSの高精度な自己位置座標を用いることで、ARの仮想モデルを地球座標系に直結して配置でき、ユーザーが現場内を移動してもモデルがずれることなく安定して表示されます。
言い換えれば、測量座標と連動したAR=「座標合わせ不要のAR」が実現できるのです。これにより最初の位置合わせ作業も不要となり、現場に設置したい構造物の3Dモデル等を即座に正確な場所に重ねて表示できます。例えば、周囲が草木に覆われ見通しの悪い道路脇に標識を設置するケースでも、AR上で標識モデルをピンポイントに表示できるため、どこに立てるべきか一目で把握できます。またRTKによりユーザーの向き(方位)も高精度に捉えられるため、周囲を歩き回って様々な角度から見てもARモデルの位置や向きが狂いません。
ARとRTKを融合することで、スマートフォン画面上に設計データを正確な位置に表示可能です。例えば下図は、RTK対応デバイス「LRTK」を装着したiPhone上で、自由の女神像の3Dモデルを東京タワー前の屋外空間に重ねて表示した例です。通常のGPSでは位置精度が低くこのような正確な重ね合わせは困難ですが、RTK-GNSSのセンチ級測位(画面上部に「Fix」状態と表示)によって仮想モデルが現実の座標にピタリと一致しています。ARアプリ内での表示座標は公共座標系(世界測地系)に基づいており、測量図やBIMモデルから取得した設計位置にそのまま仮想物体を配置できるため、現場での直感的な確認や指示出しが飛躍的に効率化します。
次世代建設測量の活用シーン
高精度AR測量(AR+RTK)は、建設現場の様々なシーンで活用が期待されています。その代表的な活用シーンをいくつか見てみましょう。
設計データの現場への重ね合わせ
図面やBIMの設計データを現場映像に重ね合わせて表示できることは、AR×RTK技術の最大のメリットです。例えば、造成工事の敷地で設計地盤面のモデルをAR表示すれば、どの箇所をどれだけ掘削・盛土すべきか一目で分かります。構造物の建て方検討でも、柱や梁の位置モデルを現地に投影することで、仮囲いや周辺環境との取り合いを事前に確認できます。従来は図面上で行っていた合せこみ作業を現地で直観的に可視化できるため、設計者と施工者間の認識共有がスムーズになります。実際の建築工事では、前述の清水建設「AR Eye」のように施工中の配管や設備をBIMモデルと照合し、ミスや手戻りを防ぐ試みも始まっています。RTKによる高精度な位置合わせがあれば、こうしたARによる設計データの現場投影が誤差数センチ以内で行えるため、施工管理の精度と効率が飛躍的に向上します。
出来形管理の効率化
出来形管理とは、施工完了後の構造物が設計通りの形状・寸法になっているかを検測・記録する業務です。AR+RTKを活用すれば、この出来形管理も効率化できます。例えば、施工後の地盤や構造物をスマホのLiDARスキャナでスキャンし、その点群データを設計3DモデルとAR上で重ね合わせて比較することが可能です。RTKによって取得した点群は世界座標系に位置付けられているため、別々に計測した点群同士や設計データとも自動で位置が揃います。
これにより、これまで手間だった測定データと設計図との照合作業がリアルタイムかつ直感的に行え、出来形の誤差や不足をその場で把握できます。例えば高速道路の補修工事では、補修後の路面形状をその場で計測して設計プロファイルとAR比較することで、平坦性や排水勾配が基準内に収まっているか即座にチェックできます。また鉄道のレール交換作業でも、交換後の軌道位置を事前の計画線とARで突き合わせ、数センチの狂いも見逃さずに調整するといった使い方が考えられます。これらにより、出来形検査の迅速化と手戻り防止に繋がり、品質確保と効率化の両立が期待できます。
測量作業の自動化と精度向上
AR+RTKは測量そのものの進め方も変革します。従来、現場の測量は専門の測量技術者がトータルステーションやレベルを使い、複数人で丁張を設置したり、測点を観測したりする必要がありました。ところが、高精度な位置情報を持つスマホがあれば一人で簡単に測量作業がこなせるケースも増えてきます。例えば、大林組は土工事の盛土量や掘削量を現場で誰でも計測できる「スマホdeサーベイ® AR版」というiPhone/iPadアプリをリリースしており、指定した範囲の土量をその場で算出して省力化する取り組みを行っています。このようなスマホAR測量では、センサーとカメラで取得した現地情報を自動で解析し、必要な寸法・面積・体積を計算できるため、人力による巻尺での測定や手計算が不要になります。RTKを組み合わせれば測位座標に誤差がほとんど生じないため、測設(位置出し)作業の自動化も可能です。例えば、事前に設定した設置位置に近づくとスマホ画面に「ここが基準点」と表示されるようにすれば、作業員は画面の指示通りに杭打ちやマーキングを行うだけで高精度な丁張設置が行えます。これはGNSSガイダンス付きの重機施工に近い発想ですが、専用重機が不要な分、小規模現場でも活用しやすいでしょう。総じて、AR+RTKの活用により測量作業の省力化・省人化が実現し、熟練測量技術者の不足を補う効果も期待できます。
LRTKの実際の活用例
それでは、実際にAR×RTKを現場で活用している例や、弊社の提供する「LRTK」のユースケースを見てみましょう。
土木・建設現場での事例
LRTKはレフィクシア株式会社が開発した超小型RTK-GNSS受信機とスマホ用アプリからなるシステムで、2022年の発売以来、現場関係者の間で静かなブームになっています。iPhoneなどスマートフォンにアンテナ一体型の受信機を装着し、ネットワーク型RTKやみちびきのCLASから補正情報を取得することで、スマホをセンチメートル精度の測量機器として利用できます。例えばある土木施工現場では、LRTKを取り付けたスマホで基準点測量を行い、そのまま出来形部の点群スキャンとARによる設計モデルの重ね合わせチェックを実施しました。従来はトータルステーションとレーザースキャナとパソコンを使って数日かけていた工程が、スマホひとつで即日完了したといった声もあります。
また別の建設現場では、掘削予定範囲を示すCADデータをLRTK対応アプリに読み込み、現地でAR表示しながら掘削作業を進めています。作業員はスマホ画面に映る仮想の掘削ガイドラインに沿って重機を誘導できるため、丁張を省略しても正確な掘削形状が得られたとのことです。このように、土木・建築工事の様々な局面でLRTKを活用した現場DXが進み始めています。
高速道路や鉄道メンテナンスでのケース
インフラの維持管理分野でも、高精度測位とARの組み合わせは大きな力を発揮します。高速道路の点検では、事前にGISに登録された補修箇所や埋設物の位置情報を現地でAR表示することで、作業員が補修対象を見落とさず正確に特定できます。LRTKであればトンネル内や山間部など携帯電波が届かない場所でも、みちびきからの補強信号(CLAS)を受信してセンチ級測位を継続できるモデルが提供されており、圏外の現場でも安心して利用できます。
例えば鉄道の線路保守では、夜間の作業時に次回交換予定の部品やケーブル経路をARマーカーで表示し、作業員が暗所でも迷わず作業できるよう支援するといった応用が可能です。JRの保守担当者がタブレットをかざすと、次に締め直すボルトの位置に印が浮かび上がる――そんな未来も現実味を帯びています。さらに、橋梁やトンネルの変位計測にも応用できます。複数地点の変位をLRTK付きスマホで定期的に観測し、その結果をクラウド上で3Dモデルに集約してAR表示すれば、インフラ構造物の健全度を立体的かつ定量的に把握できます。高速道路や鉄道といった広域インフラのメンテナンス業務においても、LRTKによる高精度な位置情報とAR可視化は、効率化と安全性向上の両面で貢献するでしょう。
測量業務における具体的な活用フロー
LRTKを用いた次世代測量の流れを、簡単なステップで示します。
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事前準備(データセットアップ): 設計図やBIMモデルなど、現場で表示・測定したいデータをLRTKアプリに取り込んでおきます。また、基準座標系の設定やRTK補正情報(ネットワーク接続またはCLAS受信)の準備を行います。必要に応じて既知点でのチェックも実施します。
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スマホ+LRTKのセッティング: スマートフォンにLRTK受信機を装着し、専用アプリを起動します。Bluetooth接続で受信機とスマホを連携し、衛星からの測位を開始します。衛星補足状況が良好であれば数十秒程度で「Fix解(固定解)」が得られ、画面上に現在位置がセンチ精度で表示されます。
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AR測量モードで現場へ: 測位が安定したら、アプリのARモードに切り替えます。カメラをかざすと、現実の映像に対して事前に用意した設計データが重ね表示されます。例えば測量したい点があれば、その点に対応する仮想マーカーが地面上に見える状態です。
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測量・検測の実施: AR表示を確認しながら、必要な点の計測やマーキングを行います。任意の地点で画面上のボタンをタップすれば、その地点の3次元座標値を保存可能です。写真撮影機能を使えば、高精度な位置座標付きの現場写真をクラウドに記録できます。傾斜補正機能付きのLRTKなら、ポールを傾けた状態でも先端の位置を自動補正して計測できるため、障害物越しの測量も容易です。
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データ共有・活用: 測定した点群データや写真データはクラウド上にアップロードし、事務所のPCで即座に確認できます。離れた現場同士でも、グローバル座標系でデータが一元化されるため、複数箇所の計測結果を重ね合わせて解析することも可能です。日報作成や出来形図面の作成にも測定データを直接活用でき、後処理の手間を削減します。
以上のようなフローにより、LRTKを用いれば測量から設計照合、記録までの一連のプロセスをスマホで完結できます。現場で得たデータはその場で可視化・共有されるため、リアルタイムな意思決定とフィードバックが可能となり、施工PDCAサイクルのスピードアップにも繋がります。
特にスマホで手軽に運用できる点とリアルタイムに設計・測量情報を突き合わせられる点は、従来にはない大きな強みです。一方で、完全に従来手法を置き換えられるわけではなく、電波環境が極端に悪い場所での測位やミリ単位の精度が要求される基準点測量などでは、引き続き従来の光学測量機との併用も検討すべきです。しかしながら、施工管理や日常的な測量作業においてはAR+RTK技術が従来手法を強力に補完し、現場の生産性を底上げしてくれるはずです。
LRTKのご案内
次世代の測量ソリューションとして注目されるLRTKを導入することで、以上述べたようなメリットを現場で享受できます。もし本記事をお読みの皆様が少しでも興味を持たれましたら、ぜひ一度LRTKの詳細情報をチェックしてみてください。LRTKの無料資料請求も受け付けておりますので、導入事例や技術仕様をまとめた資料をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。また、公式サイトでは製品のスペックや価格、活用動画などを公開しています。
他社製のRTK機器やトータルステーション等と比較検討される際にも、携帯性やAR連携といった観点で差別化ポイントをご確認いただけるでしょう。
業務効率化・DXが求められる現代の建設業界において、ARとRTKの融合技術は測量・施工管理の新たなスタンダードになりつつあります。LRTKをはじめとするスマホ測量ツールを活用し、ぜひ貴社の現場にも最先端の測量スタイルを取り入れてみてください。建設測量の未来は既に始まっています。この機会に次世代のソリューションへの一歩を踏み出し、精度と効率が両立したスマートな現場運用を実現しましょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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