RTKと無人建機が変える道路工事の現場:
ICT施工による効率化

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2025年3月7日 掲載

近年、建設業界ではデジタル技術の活用による生産性向上が大きなテーマとなっています。特に人手不足や熟練オペレーターの高齢化が深刻化する中、ICT(情報通信技術)を駆使した施工の推進が求められています。
道路工事の現場でも、従来の人海戦術に代わりRTKによる高精度測位や無人建機(遠隔・自動制御建設機械)を導入することで、作業の効率化と安全性向上が実現しつつあります。
本記事では、建設業界で進むICT施工の概要と、鍵となるRTK-GNSS測位と無人建機の関係、さらには道路工事にもたらすメリットや課題、そしてそれらを解決する「LRTK」という最適解について解説します。
ICT施工とは?建設業界で進むデジタル変革
ICT施工とは、測位・通信など情報通信技術を建設生産プロセスに取り入れた施工手法のことです。具体的には、ドローン(UAV)や3Dレーザースキャナーを用いた測量、3次元設計データの作成、RTK-GNSSを使ったマシンガイダンス/マシンコントロール(建機の自動・半自動制御)など、調査・設計から施工・検査まで一貫してデジタル技術を活用します。
国土交通省も2016年からi-Constructionの一環として「ICTの全面的な活用」を推進しており、建設現場の大幅な生産性向上と魅力ある現場づくりを目指しています。
ICT施工を導入することで、従来工法に比べて様々な効果が報告されています。
例えば、ある実証ではICT土工の活用により「①必要作業人員の削減、②施工日数の短縮、③施工精度の向上」といった成果が得られたとされています。デジタル化により人手に頼る作業や手戻りが減り、経験や勘に依存しない高精度な施工が可能になるためです。従来は職人の経験に頼っていた道路工事の現場も、デジタル変革によって誰もが効率的かつ高品質な施工を行える時代へと変わりつつあります。
RTK-GNSS測位と無人建機の関係
ICT施工の中核技術となるのが、高精度衛星測位技術であるRTK-GNSS(リアルタイムキネマティックGNSS)です。RTKとは基準局(基地局)と移動局(ローバー)で観測したGNSS信号の差分をリアルタイムに適用し、センチメートル級の測位精度を実現する方式を指します。具体的な精度は通常、水平位置で約2~3cm、鉛直方向で約3~4cm程度とされ、単独測位(一般的なGPS測位)の誤差数mと比較して格段に高精度です。
この高精度RTK測位により、道路工事現場の測量や重機の位置決めが飛躍的に正確かつ効率的になります。
一方、無人建機とはオペレーターが搭乗せずに遠隔操作や自動制御で動く建設機械の総称です。ブルドーザーやバックホウ(ショベル)などにGNSS受信機や姿勢センサーを搭載し、3次元設計データ上の目標と現在位置を常に比較しながら動作します。RTK-GNSSによる高精度な現在位置情報があることで、建機は人手を介さずともブレード(排土板)やバケットの位置を自動で調整できます。例えば、最新のGNSS制御ブルドーザーでは、設定した設計面の高さに合わせてブレードが自動制御されるため、オペレーターは前進後退の操作に専念するだけで精密な敷均し作業が可能です。従来のように職員が高さを示す「丁張り」を設置したり、それを見ながら微調整したりする必要がなく、熟練オペレーターでなくても均一な仕上がり品質を実現できます。
このように、RTK-GNSSの高精度測位と無人建機の自動制御技術はセットで活用されます。RTKによって重機の位置をリアルタイムに把握・制御できるため、遠隔操作や自律走行が現実のものとなっています。道路工事の現場では、ダンプトラックによる運搬や細かな人力作業を除き、測量から施工までをデジタルデータと無人建機で完結させることも可能になりつつあります。こうした流れは、危険が伴う作業の安全確保だけでなく、品質のばらつき低減や作業スピード向上にもつながっています。
無人建機を活用した道路工事のメリット
RTK-GNSSと無人建機を組み合わせたICT施工を導入することで、道路工事には多くのメリットがもたらされます。その主なポイントを以下に整理します。
従来は丁張り設置や何度も測量して施工面を確認・修正する手間がありましたが、ICT施工ではそれらが不要となり、オペレーターは重機の走行操作に集中できます。下段の概念図に示すように、人工衛星や基地局(GPSまたはTS※)から補正情報を受信し、デジタル設計データ上の目標面と現在のブレード位置との差分に基づいて重機のブレードを自動制御します。これにより人手による微調整なしに高精度な敷均しが可能となります。(※TS: トータルステーション。GNSSが受信できない環境では光波測距による位置計測に切り替えて対応することも可能)
では、無人建機やRTKを活用したICT施工により具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。以下にメリットをまとめます。
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施工前測量や丁張作業の省力化・迅速化: ドローン測量やマシンガイダンスにより、現況の測量や出来形(仕上がり)の検測作業が効率化されます。人力で多数の丁張りを設置・管理する必要がなくなるため大幅な手間削減につながります。実際、ある事例では初期の起工測量に要する日数が従来平均17.7日からICT施工では2.7日へと短縮され、約73.7%の時間削減という結果が得られました。これだけ測量が迅速化すれば、その分だけ工事全体の着工も早まり、生産性向上に直結します。
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施工日数の短縮・生産性向上: 重機オペレーターの負担軽減や中間検測の削減により、施工スピードが上がります。例えば、国交省の大規模土工の検証では、従来63日かかっていたある工事がICT施工の導入で52日で完了し、11日間の工期短縮(約17%短縮)を達成しています。また、丁張り確認のために重機を何度も停止する必要がなくなることで作業効率が上がり、1日あたりの施工量が向上したという報告もあります(約3割の生産性向上との結果も)。このように工期全体を圧縮できれば、人件費や間接費の削減にもつながります。
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施工精度・品質の向上: 重機の位置や作業高さが常にデジタルな設計値と照合されるため、勘や経験に頼った作業でも狂いが生じにくくなります。マシンコントロールによってブレードやバケットの動きをリアルタイムに自動調整でき、常に設計通りの精度で施工を進めることが可能です。丁張りの省略により基準からのズレも起きにくく、検測でも出来形の精度が高いことが確認されています。熟練度に左右されない均一な品質の確保ができる点は、道路の平坦性や仕上がり高さの精度確保に大きく寄与します。
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オペレーター技能要件の緩和: 重機の自動制御・操作支援により、オペレーターの熟練技能に依存する度合いが低くなります。例えば、従来はベテランのオペレーターでなければ難しかった法面整形作業も、マシンガイダンスの支援により比較的経験の浅いオペレーターでも精度良く施工できます。これは人手不足が課題の現場で、技能継承や人材育成の時間を補う効果もあります。将来的には、若手オペレーターがICT建機を駆使してベテランと遜色ない成果を上げることで、人材不足と技術力維持の両面に好影響を与えると期待されています。
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安全性の向上: 無人建機の活用は現場の安全面にも大きなメリットをもたらします。遠隔操作や自動制御により、作業員が危険な重機の稼働範囲に立ち入る必要が減ります。従来は法面(斜面)の施工時に作業員が重機近くで合図を送ったり丁張りを設置したりするため、滑落事故や重機との接触リスクが常に伴っていましたが、ICT施工ではそうしたリスクを大幅に低減できます。また、災害復旧現場や崩落の危険がある現場では、人が重機に乗らず遠隔から操作できること自体が安全確保につながります。結果的に労働災害の防止と安全意識の向上にも寄与し、安心して作業できる現場環境づくりに役立ちます。
以上のように、RTKと無人建機を活用したICT施工は、効率・品質・安全のあらゆる面で従来工法を上回る成果を生み出しています。特に道路工事は作業範囲が広く人手も多く必要な分野ですが、ICT技術の導入によって少人数で迅速に高品質な施工を行えるようになりつつあります。
RTK活用時の課題とその解決策
メリットの多いICT施工・RTK活用ですが、現場への導入・運用にあたってはいくつかの課題も指摘されています。ここでは主な課題と、その解決に向けた方策について考えてみます。
通信環境の制約と対策
RTK-GNSSをリアルタイムで運用するには、通常、基準局から移動局へ補正情報を送る通信手段(無線やインターネット)が不可欠です。また、無人建機を遠隔操作する場合も、現場からの映像伝送や制御通信に安定したネットワークが必要になります。しかし道路工事の現場は山間部など携帯電話や通信ネットワークが不安定・圏外となる場所も多く、通信環境がボトルネックとなり得ます。実際、土木・建設の現場では「携帯電波が圏外になる場面が多い」ため、高精度測位の安定運用に課題がありました。
この問題への一つの対策は、GNSS補正情報の取得手段を多重化することです。例えば、携帯通信に依存しない衛星通信型の補強サービスを利用すれば圏外エリアでも補正情報を受信できます。日本では準天頂衛星みちびき(QZSS)の提供する「CLAS(センチメータ級測位補強サービス)」がこれに当たります。CLAS対応の受信機を使えば、補正情報が衛星から直接届くため山間部などでもRTK相当の高精度測位が可能です。実際、後述するLRTKなどの製品ではこのCLASを活用することで、通信圏外の現場でも安定したセンチメートル測位を実現し、利用者に大きな安心感を与えることに成功しています。
また他にも、現場にローカルな中継局(移動体通信局や無線LAN)を設置して通信エリアを拡張したり、UHFデジタル無線などの専用無線で補正情報を送信する方法も取られています。要は、複数の通信手段を組み合わせて冗長化し、どんな現場環境でもRTKを途切れさせない工夫が重要です。
3次元データ作成と運用体制の課題
ICT施工では、施工前に設計図面から3次元設計データ(3Dモデル)を作成し、それを建機に取り込んで施工します。この3Dデータ作成には専門ソフトとノウハウが必要であり、従来からの施工業者にとって新たな負担となる場合があります。特に自社で対応できず外注に頼る場合、データ出来上がりを待つ期間が発生して全体の工程に影響することもあります。実際にICT施工を試行した現場からは、「施工の新しい段取り(3次元データ作成など)に不安を感じた」「外注したデータ待ち時間が発生し作業が中断した」といった声も上がっています。
この課題への解決策としては、社内で3次元データを作成・運用できる体制の整備が挙げられます。初めは外注に頼ったとしても、回数を重ねるごとに自社スタッフでのデータ作成に挑戦することでスキルが蓄積され、効率も向上していきます。幸い現在は3Dモデル作成用のソフトウェアや支援サービスも充実してきており、2D図面から半自動的に3D化するツールなども登場しています。また、発注者(道路工事の場合は行政や元請け)があらかじめ3次元設計データを用意して提供する動きも始まっています。
国や自治体でも3次元設計データの標準化が進められており、将来的には施工業者が自前でデータ作成しなくても良い環境が整備される可能性があります。さらに、現場座標系への変換(ローカライゼーション)作業なども簡便化する測量機器が登場しており、データ作成から運用までのハードルは徐々に下がっていくと考えられます。重要なのは、自社内にデジタル人材を育成してノウハウを蓄積することと、必要に応じて外部の力(ソフト提供会社や発注者の支援)も活用しながら円滑に3Dデータ運用できる体制を作ることです。
導入時のコストと技術習得の課題
新技術の導入に際しては、コスト面と人材育成面の課題も無視できません。ICT施工対応の建機は従来機に比べて高価であり、RTK-GNSS測量機器や通信装置の導入にも初期投資が必要です。中小規模の土木業者にとって、一度にこれらを揃える負担は小さくありません。また、新しいシステムへの現場スタッフの習熟にも時間とトレーニングが必要です。ベテランの中にはデジタル機器に苦手意識を持つ方もおり、「従来になかった作業が増えることへの戸惑い」や「現場でうまく使いこなせるか」という不安の声もあります。
これらの課題への対応策として、まず段階的な導入が考えられます。初期コストが負担であれば、レンタル機器やリースを活用して必要な時期・工区から順次導入する方法があります。また、国土交通省の補助事業や評価加点制度(ICT施工を行うと入札での加点が得られるなど)を活用し、費用対効果を高める工夫も有効です。技術習得に関しては、メーカーや専門団体による講習会・研修を活用したり、実際のプロジェクトで試行的にICT施工を取り入れて社内に経験者を増やすことが重要です。幸いICT施工に必要な技術は、一度慣れてしまえば「便利でもう元には戻れない」と言われるほど現場の負担を減らします。
ベテランも若手も巻き込んだ社内勉強会を開く、他現場の成功事例を共有する、といった取り組みで抵抗感を薄めていくことも大切でしょう。さらに最近では、高額だったGNSS機器も小型化・低価格化が進み、スマートフォンやタブレットと連携した廉価なRTK受信端末も登場しています。このような手軽で安価なツールを活用することで初期導入コストを抑えることも可能になっています。
LRTKによるRTK活用
上記の課題を踏まえ、弊社ではRTK-GNSSをより手軽かつ安定的に現場で活用するためのソリューション「LRTK」を提供しています。LRTKは、スマートフォンと連携可能なコンパクト高精度GNSS受信デバイスを中心としたシステムで、高価な専用機器がなくてもセンチメートル級測位を実現できるのが特長です。例えば弊社の LRTK Phone シリーズはアンテナ・バッテリー一体型の小型デバイスで、iPhoneなどに装着するだけでRTK測位が可能になります。
Bluetoothによる無線接続のため煩雑なケーブルも不要で、手持ちで歩き回りながらの測量はもちろん、ポールや三脚に取り付けて据置測位を行うこともできます。
従来は据え置き型のGNSS受信機や大掛かりな基地局セットが必要だったRTK測量を「1人1台のRTK端末」で実現し、現場管理者から職人の方まで誰もが好きなときに高精度位置情報を得られるよう設計されています。
さらにLRTKは、日本版GPSであるみちびきのCLAS補強信号に対応しているため、携帯電波の届かない山間部や地下構造物の近傍でも安定して測位が可能です。前述の通信環境の課題に対して、LRTKなら通信圏外でも衛星から補正情報を直接取得し続けられるため、測位が中断したり精度が劣化したりしません。
また、クラウド型のデータ管理にも対応しており、現場で取得した点群データや写真に正確な位置情報を付与して即座に共有するといったことも容易に行えます。これにより、無人建機で造成した箇所の出来形チェックや出来高管理をその場で行い、本社や発注者とリアルタイムに情報共有するといった活用も可能です。LRTKは「現場の誰もが使えるRTK」をコンセプトに開発されており、特別な技能や煩雑な準備なしにICT施工の精度管理を強力に支援します。
私たちと一緒に、最新技術を活用した安全で効率的な道路工事の現場づくりを実現していきましょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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