競合技術LiDARとの住み分け:
位置座標取得はRTK、形状把握はLiDAR

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2025年3月5日 掲載

RTK(リアルタイムキネマティック)とLiDAR(Light Detection and Ranging)は、建設・測量業界でそれぞれ重要な役割を担う先端技術です。RTKは衛星測位を利用して位置座標をセンチメートル級の高精度で取得できる技術であり、LiDARはレーザ光によって周囲の形状を詳細に計測できる技術です。それぞれ得意分野が異なり、近年の自動化・DXの潮流の中でRTKとLiDARの比較や組み合わせ利用が注目されています。
例えば、土木測量では公共座標に基づく正確な位置出しと、地形や構造物の詳細な3D測定が求められており、RTKとLiDARの双方を活用する背景があります。また、自動運転やドローン測量でも両技術へのニーズが高まっています。本記事では、RTKとLiDARの仕組み・特徴を整理し、それぞれの強み・弱みや使い分け方、新技術LRTKとの関係、そして今後の展望について解説します。
RTKの仕組みと特徴
RTK(リアルタイムキネマティック測位)は、GNSS(全地球測位衛星システム)を用いてリアルタイムに高精度な位置を測定する技術です。具体的には、既知の座標を持つ基地局(基準局)と移動局(ローバー)で同時にGPSなどの衛星信号を受信し、基地局からの誤差補正情報を移動局に適用することで、センチメートル級の精度で移動局の相対位置を算出します。基地局と移動局間の距離が短いほど誤差を効果的に除去でき、高精度測位が可能です。また近年は、国や民間が設置した電子基準点網から補正データを配信するネットワーク型RTKも普及しており、広範囲で手軽に高精度測位を行えるようになっています。例えば日本では、電子基準点+VRS方式による補正サービスを利用することで、現場に基地局を設置せずにRTK測位が可能です。
RTKの強みは何と言っても位置座標の取得精度です。誤差は水平数センチ、鉛直でも数センチ程度に収まり、従来の単独測位(数メートル程度の誤差)とは一線を画します。また得られる測位結果は経緯度や世界測地系座標などの絶対座標で表現されるため、設計図や地図の公共座標系と直接ひも付けができる点も利点です。例えば、基準点測量でRTKを用いれば、その座標はそのまま公共座標として各種図面に利用できます。さらに測定はリアルタイムに行われるため、即時に位置を確認・記録でき、施工機械のガイダンスやリアルタイム測位が必要な作業(無人施工機の自動制御など)にも適しています。
実際に建設業界では、ネットワーク型RTK-GNSSによりICT建機の自動制御や出来形計測が効率化され、人手不足対策にも貢献しています。
加えて、衛星測位は昼夜や天候に関係なく利用できるため(大雨時でも精度が大きくブレにくい)、安定した測位が可能な点も特筆されます。
一方、RTKの弱みは測位環境に対する制約です。GNSS衛星からの電波受信が不可欠なため、周囲に電波を遮るものがある環境では精度が低下したり、そもそも測位ができなくなったりします。
例えば、森林の中や高架下、ビル街の谷間(いわゆる「都市峡谷」)、トンネル内や室内では衛星信号が遮蔽・反射され、RTKの固定解が得られにくくなります。また高精度を得るには基地局との通信も必要になるため、通信が不安定な地域では運用が難しくなる場合があります。ネットワーク型RTKでは通信圏外だと補正データを受け取れず精度が落ちることが課題です。さらに、初期導入には専用の高精度GNSS受信機やデータ通信環境が必要で、従来は機器コストも高価でした(近年は低価格化が進んできていますが)。これらの点から、RTKは「空が開けた屋外」で威力を発揮するが、環境によっては限界がある技術と言えます。
LiDARの仕組みと特徴
LiDAR(ライダー)は、レーザー光による測距を利用して物体までの距離を計測し、周囲の形状を3次元的に把握するリモートセンシング技術です。基本的な仕組みはシンプルで、光源から発せられたレーザーパルスが対象物に当たり反射して戻ってくるまでの時間を計測し、光速から距離を割り出すというものです。この距離計測を毎秒数十万回以上という高頻度で行い、得られた大量の点の集合データを合成することで、対象エリアの詳細な3Dモデル(点群)を生成します。LiDARセンサーは回転機構やスキャナーミラーによって周囲360度または所定範囲を掃引し、建物や地形などの形状を短時間で高精度に測定することが可能です。例えばドローン搭載型のレーザ測量機は、上空から地表の起伏や構造物を点群データとして取得し、高精度な地形図作成に役立っています。
LiDARの強みは、物体や環境の形状を高い解像度で取得できる点にあります。多数の測距点からなる点群データによって、地形地物のミリ単位の凹凸まで把握でき、複雑な構造物の寸法や形状記録にも威力を発揮します。また環境に左右されにくいことも利点の一つです。レーザー光は自ら発光して測定を行うアクティブセンサーであるため、夜間や暗所でも問題なく動作します。実際、LiDARは周囲の光に影響されず24時間365日稼働できるため、夜間の測量や照明のないトンネル内の計測などカメラでは困難な場面でも有効です。GNSSのように空が見通せなくても使用できるので、樹木に覆われた森林内や建物室内でも相対位置の測定・スキャンが可能です。さらに得られる点群データは3次元のため、取得後の解析では任意の断面を切ったり距離や体積を計測したりと、柔軟な後処理ができる点も魅力です。昨今では自動運転車にもLiDARが搭載されており、走行中に車両周囲の環境をリアルタイムに3D検知して障害物回避に用いるなど、その高速・高精度な空間把握能力が活用されています。
LiDARの弱みとして挙げられるのは、機器コストの高さと測位(ポジショニング)への直接利用には不向きな点です。高精度なレーザースキャナは一般に高価であり、ドローン搭載用の小型LiDARでも数百万円程度、地上型の長距離LiDARやモバイルマッピングシステムでは数千万円規模になることも珍しくありません。また、LiDAR単体では取得した点群データに絶対的な位置座標が含まれないため、地図座標上の位置を知るには別途測位データとの合成が必要です。言い換えれば、LiDARは相対的な形状計測は得意ですが、測定結果を地球座標に載せるにはGNSSや既知点など他の基準が不可欠です。
実際、自動運転分野でもLiDAR単独では車両の自己位置推定に限界があり、GNSS/RTKと組み合わせて初めて地図上の絶対位置を把握しています。
さらにLiDARは気象の影響も受けます。レーザ光は雨滴や霧など大気中の微粒子に散乱されるため、濃い霧・降雨時には計測範囲や精度が低下します。
加えて、取得データ量が非常に大きく処理に時間や高度なソフトウェアを要する点にも留意が必要です。このようにLiDARは「形状計測に特化した技術」であり、「位置情報」は他手段と組み合わせて補完するースが多いと言えます。
RTKとLiDARの住み分け
以上のように、RTKとLiDARはそれぞれ得意分野が異なる技術です。RTKは空間上の一点の位置座標を正確に求めるのに優れ、LiDARは面や空間の形状を詳細に捉えるのに優れています。建設・測量の現場では、「位置はRTK、形状はLiDAR」と住み分けて使うのが最適です。
RTKとLiDARは相互に補完的な関係です。RTKはグローバル座標上の位置特定が得意で、LiDARはその場所に存在する物の形状把握が得意です。このため組み合わせ利用することで真価を発揮します。
例えば、自動運転の分野ではRTK-GNSSで車両の現在地を地図上で正確に把握しつつ、LiDARで周囲の障害物や道路形状をリアルタイムにスキャンして安全な経路選択を行います。このように両技術を併用することで、各技術単独では難しい安全で精密なナビゲーションが可能になります。
同様に、ドローン測量や建設測量でもRTKとLiDARの併用事例が増えています。ドローンにRTK-GNSS受信機を搭載すれば空中写真やLiDAR点群に位置座標タグを与えることができ、標定点を設置しなくても高精度なオルソ画像や地形モデルを生成できます。実際、Phantom 4 RTKなどRTK対応ドローンで撮影した写真データから、数cm精度の3D測量成果を得る手法が実用化されています。また、地上の建設現場では、基準点測量や出来形管理にRTKを使い、地形計測や出来形の詳細把握に地上LiDARスキャナやモバイルマッピングを使うケースが一般的です。例えば土量計算では、事前にRTKで既知点の高さを測っておき、その基準にLiDAR点群の高さを合わせて盛土・切土量を精密に算出するといった使い分けがされています。このように「位置のRTK」と「形状のLiDAR」を適材適所で活用することが、効率的かつ高精度な測量には欠かせません。
LRTKとの関連
近年登場したLRTKは、RTK測位の使い勝手を大きく向上させる革新的なデバイス・サービス群です。LRTKは手のひらサイズの一体型RTK-GNSS受信機で、アンテナ・バッテリー・通信モジュールを内蔵し、スマートフォンなどに取り付けて使用できます。従来は三脚やポール上に据えて用いることが多かったRTK機器を、スマホと一体化できるほど小型・軽量化したことで、現場での携行性と機動性が飛躍的に高まりました。例えばLRTK PhoneデバイスはiPhoneに装着して使うタイプで、全ての機器が片手に収まるため、測位作業をしながらもう一方の手で別作業を行うことも可能です。Bluetooth連携により煩雑なケーブル接続も不要で、現場でのセットアップ時間を大幅に短縮できます。
さらに、通信圏外でも使えるCLAS対応モデルも用意されており、日本の準天頂衛星「みちびき」から配信されるセンチメータ級補強サービス(CLAS)を受信することで、携帯電波が届かない山間部や離島の現場でも高精度測位が可能です。これにより「トンネル工事現場で通信圏外のためRTKが使えない」といった課題にも対処でき、ユーザからも非常に安心感が得られるといいます。
実際、2023年の能登半島地震では偶然LRTK圏外対応モデルを持ち合わせていた技術者が被災現場の写真測量に活用し、通信インフラが麻痺した状況下でも精度の高い記録を残すことができています。
このようにLRTKは、RTK測位における弱点であった「携行性」と「通信環境依存」を大きく改善するソリューションです。
LRTKはまた、スマートフォンやクラウドと連携することで、新たな測量手法を可能にしています。専用のLRTKアプリを使えば、スマホのカメラやセンサーと高精度位置情報とを組み合わせた様々な機能が利用できます。
例えば、スマホで撮影した写真に測位情報(経緯度・標高・方位)を自動付加して記録する機能や、スマホ搭載のLiDARスキャナを用いて高精度位置付きの点群データを取得する機能があります。
後者では、iPhoneのLiDARでスキャンした点群に即座にRTKの座標が付与されるため、その場でグローバル座標系の3Dデータが得られます。これにより、これまで地上レーザ測量機や地図と照合して行っていた作業が、スマホ片手で完結してしまいます。また、座標誘導機能では、指定した座標地点までスマホ画面上に矢印で誘導することができ、地上の目印がない測点でも迷わず到達可能です。さらに特筆すべきはAR(拡張現実)機能で、設計の3Dモデルと現地映像を高精度に重ね合わせて表示できます。
従来のARはGPS精度の誤差やデバイスの姿勢推定誤差により実空間とのズレが問題でしたが、RTKによる正確な位置合わせで常にモデルと現実が一致した表示を実現しました。
例えば、樹木に覆われ見通しの悪い場所でも、図面上の設置位置に仮想の構造物モデル(標識や柱など)をその場で表示でき、周囲を歩き回ってもズレなく確認できます。
このようにLRTKとLiDARやAR技術を組み合わせることで、「一人で」「その場で」出来る測量作業の幅が格段に広がりつつあります。従来は複数人がかり・専用機材で行っていた計測が、スマホ+LRTKというシンプルな構成で代替できるようになってきており、現場の生産性向上に大きく寄与しています。
今後の展望
RTKとLiDARの融合による測位技術の進化は、今後さらに加速すると見られます。高精度GNSS受信機やレーザースキャナの小型・低価格化が進めば、現場の至る所にセンサーを配置してリアルタイムにデータを収集し、クラウド上で統合・解析するといったデジタルツイン的な運用も現実味を帯びてきます。実際、現在でも重機や車両にGNSSとLiDARを搭載して施工現場の出来形を逐次スキャンし、クラウド経由で進捗管理を行う試みが始まっています。また、スマートフォンやタブレットがLRTKデバイスと組み合わさることで「一人1台の高精度測位端末」が実現しつつあり、今後は現場作業員全員が自分のデバイスで測量・計測・記録を行う時代になるかもしれません。現場で収集された高精度データは即座にクラウドにアップロードされ、遠隔地から関係者が共有・監督できるため、施工のリモート管理や検査も飛躍的に効率化されるでしょう。
通信技術の進展も、高精度測位の普及を後押しします。特に5Gのような大容量・低遅延通信網が整備されれば、RTKの補正情報配信や点群データのクラウド送信がよりリアルタイムに近い形で行えます。将来的には、5Gの基地局自体がRTK基準局の役割を担い、広域にセンチメートル精度の測位サービスを提供するといった展開も考えられます。また、クラウド上の高性能サーバで重い点群処理やデータ解析を行い、その結果を現場デバイスへフィードバックすることで、現場端末の性能に左右されない高度なリアルタイム解析が可能になるでしょう。こうした通信・クラウドと一体化した高精度測位は、単に測量の効率を上げるだけでなく、将来的には自動運転インフラやスマートシティにおける位置情報基盤として社会全体を支える存在となる可能性があります。RTKとLiDARの融合技術は、建設・測量業界にとどまらず様々な分野で応用が期待され、その発展によって私たちの空間情報の扱い方が大きく変革していくでしょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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