クラウド型RTKサービス比較:
国内主要3サービスの違い

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2025年3月4日 掲載

クラウド型RTKサービスとは?
クラウド型RTKサービスとは、複数のGNSS基準局(固定局)で取得した測位データをクラウド上で統合し、移動局(ローバー)にリアルタイムで補正情報を配信するサービスです。従来のRTK測位ではユーザー自身が現地に基地局(固定局)を設置し、その近傍でのみセンチメートル級の測位を行う必要がありました。しかしクラウド型RTKでは、サービス提供事業者が運用する広域の基準点ネットワークから補正情報が提供されるため、ユーザーは自前の基地局なしで単独のGNSS受信機だけで高精度測位が可能になります。
これにより、建設現場や測量作業で基地局を設置せずに作業できるメリットが生まれ、準備作業の簡略化や人件費削減に繋がります。また、複数基準局のネットワーク補正により、10~20km以上離れた基準局との測位でも精度劣化が抑えられるという利点もあります。
クラウド経由で補正データを取得する方式は一般に「ネットワーク型RTK」とも呼ばれ、1990年代末から研究・実用化が進められてきました。
現在では日本全国をカバーする商用サービスが登場し、ゼネコンや測量会社のみならず、中小の土木・建設事業者でも手軽にセンチメートル級の測位が利用できる環境が整っています。
本記事では、国内主要のクラウド型RTKサービスである SoftBankの「ichimill(イチミル)」、NTTドコモのGNSS補正情報サービス、そして民間提供のVRSサービス(例:ALESやTrimble VRS Nowなど) について、それぞれの特徴と違いを比較します。測位精度や方式、料金プラン、対応エリア、通信方法、運用のしやすさといった観点から【比較表】で整理し、さらに後半では当社のLRTK製品と組み合わせて活用する方法について解説します。クラウド型RTKサービスの導入を検討している建設業界関係者の方々に、最適なサービス選びのポイントを提供できれば幸いです。
クラウド型RTKサービスとは?
冒頭でも触れたように、クラウド型RTKサービスはインターネット経由でGNSS測位の補正情報を受け取る仕組みです。RTK(Real Time Kinematic)測位では、本来ペアとなる基準局と移動局の2台の受信機間でデータをやり取りし、基地局からの誤差情報を使って移動局の位置をリアルタイムにセンチメートル級まで高精度化します。
クラウド型RTKサービスでは、この基準局の役割をクラウド上のサービス提供事業者が担っています。サービス提供者は全国各地に固定基準局のネットワークを構築しており、それらが受信したGNSS信号をもとに補正データを生成します。ユーザー(移動局側)はインターネット(主に携帯電話回線)を通じてその補正情報をリアルタイムに受信し、自身のGNSS測位に適用します。
こうした仕組みにより、利用者は自前で基地局を用意する必要がなくなるのが大きなメリットです。例えば、従来は測量現場で三脚に据え付けた基地局から半径数km~十数kmの範囲でしかRTK測位できませんでしたが、クラウドRTKなら現場に基地局を置かずともサービスエリア内であればどこでも高精度測位できます。基地局設置・撤収の手間や時間を省けるため、作業効率が飛躍的に向上します。また、不特定多数の移動局が同時に利用できるため、複数台の重機やドローンを使った施工管理・観測でも、各々が同じネットワーク補正情報を共有して位置ズレなく動作させることができます。
クラウド型RTKサービスでは、補正情報の配信にNtrip(Networked Transport of RTCM via Internet Protocol)と呼ばれる通信プロトコルが主に使われます。ユーザーはサービス契約後に発行されるNtrip用のID・パスワードを、自身のGNSS受信機や測位アプリに設定して利用します。一部サービスでは専用の通信端末やアプリを用意していますが、基本的な仕組みは共通です。多くのサービスは携帯電話網(3G/LTE/5G)を利用したモバイル通信で補正データを受け取りますが、インターネット接続さえ確保できればWi-Fi経由でも使用可能です。逆に、ユーザー独自の基地局を使う場合によく用いられるUHF無線による補正情報配信は、クラウド型サービスでは不要になります。
国内主要クラウド型RTKサービスの紹介
現在、日本国内で利用できる主なクラウド型RTKサービスとしては、SoftBankの「ichimill(イチミル)」、NTTドコモのGNSS補正情報サービス、そして民間企業が提供するVRSサービスの3つのカテゴリが挙げられます。それぞれ提供主体やサービス形態が異なりますが、共通してGNSSの補正データをクラウド経由でリアルタイム配信し、誤差数センチの測位を可能にするサービスです。
以下では各サービスの概要を順に紹介します。
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ichimill(イチミル) – SoftBank:
ソフトバンク株式会社が提供するクラウド型RTKサービスです。ソフトバンクは全国の自社携帯電話基地局の場所を活用して独自のGNSS基準点を3,300か所以上設置しており、それらから得た信号を「測位コアシステム」にて統合・補正情報生成しています。ユーザーはソフトバンクのインターネット網を通じてこの補正情報(RTCM形式)を受信し、RTK測位を行います。携帯電話エリア内であれば広域で安定した測位が可能で、農機・建機の自動運転、ドローンの航行、測量機器による観測など様々な用途で利用されています。特徴として、基準点が非常に高密度であるため移動しながらの連続測位でもハンドオーバー(補正元基準局の切替)がスムーズで、長距離移動時も精度を維持しやすい点が挙げられます。サポートはFAQや問い合わせフォームで提供され、測位に必要なNtrip ID/パスワードが発行されるので、対応受信機やアプリに設定するだけで利用可能です。 -
NTTドコモの高精度GNSS補正サービス:
NTTドコモ(およびグループ会社のNTTコミュニケーションズ)が提供するクラウド型RTKサービスで、正式名称は「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」と言います。国土地理院の電子基準点(約1,300局)に加え、ドコモが独自に設置したGNSS基準点を組み合わせて全国をカバーしているのが特徴です。電子基準点ではカバーしきれない密度の低い地域にドコモ独自局を追加し、日本全国で安定してセンチメートル級測位が可能となっています。移動局が移動する際には、その時点で最も近い基準局からの補正情報に自動切替する仕組みを採用しており、広域移動時も継続して高精度な測位を維持できます。利用方法はichimill同様にNtrip方式で、契約後に発行されるIDをGNSS受信機に設定して使います。申し込みはWeb上のドコモビジネスオンラインショップから可能で、法人向けサービスとして提供されています。サポート体制も充実しており、ビジネス向けのコンシェルジュ窓口や問い合わせフォーム、利用マニュアルが整備されています。NTTドコモの通信網を利用したサービスですが、補正情報自体は他社SIMやWi-Fi経由でも受信可能なため、通信キャリアを問わず利用できる柔軟性があります。 -
民間提供のVRSサービス(ALES VRS、Trimble VRS Now など):
上記通信キャリア系のサービス以外にも、民間企業や測量機器メーカーが提供するクラウドRTKサービスがあります。その代表例がALES株式会社のセンチメートル級測位サービスや、Trimble社が海外展開しているVRS Nowです。
ALES(エイルイーズ) VRS: ALES社はソフトバンクと提携し、ソフトバンクの独自基準点観測データを用いて補正情報を生成・配信するサービスを展開しています。個人向けに提供されており、基本的な技術仕様はichimillと同様にRTK補正情報をNtrip方式で配信するものです。測位方式はネットワーク型RTKの中でもRRS(Real Reference Station)方式に分類され、ユーザー近傍の実際の基準局データを配信するタイプですが、独自の地殻変動補正技術なども組み込み高精度(水平1~5cm程度)の測位を実現しています。個人ユーザーでも契約しやすいようWebフォームから申し込みが可能で、問い合わせもオンラインで受け付けています。法人向けには提供していないため、大口利用の場合はソフトバンクのichimillを案内する形を取っています。
Trimble VRS Now: 測量機器大手のTrimble社が世界各国で提供しているクラウドRTKサービスです。日本国内でも一部で利用可能なケースがありますが、主にTrimble製GNSS受信機との組み合わせで提供される場合が多いです。Trimble VRS Nowは名前の通りVRS(Virtual Reference Station)方式を採用しており、常設された多数の基準局ネットワークからユーザー付近に仮想的な基地局データを生成して配信します。安定したRTK補正を即時に利用できるサービスで、海外では農業分野や測量分野で広く使われています。日本での提供エリアや料金は限定的ですが、機器購入時に一定期間利用権が付属するケースや、代理店経由での年間契約等があります。Trimble社以外にも、Leica社やTopcon社など測量機メーカー各社が独自のネットワークRTKサービスやソリューションを持っており、ユーザーの使用機器や地域に応じて選択肢となります。
以上が国内主要なクラウド型RTKサービスの概要です。それでは次に、それぞれの補正方式の違いや料金、サービスエリアなどを比較してみましょう。
クラウド型RTKサービスの違い
日本の主要サービスではVRS方式が主流ですが、ユーザー側からは意識せずとも利用可能になっています。
上記の比較から、通信キャリア系のichimillやドコモサービスは低コストで全国どこでも使える標準的なクラウドRTKであるのに対し、民間VRSサービスは用途や機器に合わせて選択肢が多様という違いがあります。特に既存の測量機器メーカーのサービスは、自社機器との親和性や海外含めた広域展開を特徴としています。一方で料金面では通信キャリア系サービスの登場により全体的に安価な水準に引き下げられつつあり、従来月額数万円かかっていたネットワークRTKが月数千円程度で使えるようになった点は特筆すべきでしょう。ユーザーにとっては選択肢が増えた分、自分の利用スタイルに合ったサービスを見極めることが重要になっています。
LRTKとの組み合わせ
最後に、当社が提供するLRTKデバイスとクラウド型RTKサービスを組み合わせて活用する方法についてご紹介します。LRTK(高精度RTK-GNSSスマートデバイス)は、スマートフォンやタブレットに取り付ける小型のRTK対応GNSS受信機で、現場で手軽にセンチメートル級測位や3D計測が行える製品です。LRTK自体が高性能な受信機・アンテナを内蔵しており、単独でも測位衛星からの信号を受信して測位が可能ですが、更に高精度を得るには補正情報の活用が鍵となります。
クラウド型RTKサービスの活用方法: LRTKはインターネット通信機能を備えたスマホと連携して使用するため、前述のクラウドRTKサービスを容易に利用できます。例えば、LRTK装着スマホ上のアプリでNtripの設定を行い、ichimillやドコモの補正情報サーバに接続すれば、LRTKが取得したGNSSデータにリアルタイム補正が適用されます。これにより、単独測位では達成できないセンチメートル級の精度で測位結果を得ることができます。LRTKアプリは外部補正情報の入力に対応しており、サービス契約後に付与されるID/パスワードを入力するだけで接続可能です(詳しい設定手順は各サービス提供元のマニュアルも参照してください)。現場ではスマホの通信(4G/5G)を介して自動的に補正データを取得・適用するため、従来型の据え置き受信機と同等の測位精度をポケットサイズのLRTKで実現できます。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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