学生プロジェクトでRTK導入:
産学協同で橋梁点検を効率化

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2025年3月4日 掲載

産学協同による橋梁点検プロジェクトの背景
日本各地で高度経済成長期に建設された橋梁が供用から50年を迎える時期に差しかかっており、老朽化する橋梁の増加が大きな社会課題となっています。橋梁の安全を確保するには定期的な点検と適切な維持管理が欠かせません。
特に重大事故(例:高速道路のトンネル天井板崩落事故など)を契機に、道路橋は5年に1度の近接目視による定期点検が義務付けられました。しかし全国に数十万ある橋梁をこの頻度で点検することは、自治体にとって財政・人材両面で大きな負担となっているのが現状です。
熟練の技術者が人力で行うため、時間とコストがかかり、人手不足も深刻です。さらに高所作業に伴う安全リスクや、点検車両による交通規制の必要性などの課題もあります。加えて、従来手法では点検結果が紙の記録や2次元図面に留まり、データの共有・蓄積が不十分であることも指摘されています。このような背景から、橋梁点検の効率化・高度化に向けた技術革新が急務となっています。
そこで注目されるのが産学協同による技術開発プロジェクトです。大学などの研究機関と建設会社やインフラ事業者が協力し、最新技術を現場に適用する試みが各地で進んでいます。学生プロジェクトとして大学の研究室が橋梁点検の課題解決に挑み、企業側は現場提供やノウハウ共有を行うことで、実践的な技術開発と人材育成を両立します。国もこうした新技術の導入を後押ししており、2019年には道路橋定期点検要領が改定され、有資格者の判断のもとで近接目視に代えてドローンやセンサー等の「点検支援技術」を活用した点検が可能となりました。つまり、産学協同で生まれた革新的技術を実運用に乗せる環境が整いつつあるのです。
RTK測位とAR技術を活用した橋梁点検
橋梁点検の効率化・高度化を実現する鍵となる技術がRTK測位とAR(拡張現実)の融合です。まずRTK測位とは何かを説明します。RTK(Real-Time Kinematic)とは、衛星測位システム(GNSS)の高精度測位手法の一つです。通常のGPS単独測位では誤差が数メートル生じますが、RTKでは基準局からの補正情報を用いることで誤差を数センチメートル以内に抑えることが可能です。
言い換えれば、従来のGPSに比べ飛躍的な測量精度向上を実現する技術です。例えば、GPSでは位置がズレてしまうような場面でも、RTKならほぼズレなく正確な現在位置を測位できます。この仕組みでは、既知の座標を持つ基地局(固定局)と移動局の双方が衛星信号を受信し、基地局が算出した誤差補正値を移動局へリアルタイム通信することで、移動局の位置をセンチメートル単位まで高精度に補正します。
基準局は自身の正確な位置と受信した衛星データを用いて誤差を算出し、黄色の破線のように補正情報を移動局へ送信します。移動局ではこの補正を適用することで、単独では数メートルあった位置誤差が数センチ以下にまで縮小されます。このようにRTK測位を使えば、橋梁点検の現場でもミリ~センチ精度で位置を把握でき、点検データを正確な座標付きで記録することが可能となります。
では、なぜ橋梁点検にRTKが必要なのでしょうか。その理由の一つに点検データの精密な位置特定があります。従来は点検員の目視による記録では「橋の○○部から何メートル地点にひび割れ」といった大まかな位置情報しか得られませんでした。RTKを活用すれば、ひび割れや剥離といった損傷個所を地図座標上で正確に記録でき、次回点検時に同じ場所を素早く特定したり、補修工事の計画を立てたりしやすくなります。また橋梁の変位計測(沈下量や傾きなど)にもRTKの高精度測位は有効で、経年変化の定量評価を可能にします。
さらに、RTKの真価はAR技術との組み合わせによって発揮されます。AR(拡張現実)技術を使うと、タブレットやスマートグラスの画面越しに現実の構造物上へデジタル情報を重ねて表示できます。しかし通常のGPSでは位置精度が低く、AR表示が実物からずれてしまい実用に耐えません。そこでRTKによる高精度な位置情報が役立ちます。橋梁点検でRTK×ARを活用することで、これまで紙の図面や記録簿で確認していた情報を現地の構造物上に正確に重ね合わせて表示できるようになります。
例えば、過去の設計図面や点検記録に基づく劣化箇所をARで現物の橋梁に投影し、補修すべき部位を直感的に特定することが可能です。点検員はタブレットをかざすだけで、そこに映る橋梁映像にひび割れの履歴や内部構造図が重ねて表示されるため、経年変化の把握や劣化箇所の見落とし防止に大きな効果を発揮します。また、現場で得られた高精度な点検データをその場でクラウド共有すれば、遠隔地の専門家がAR越しに指示・助言することもでき、点検作業の効率化と高度化につながります。
このようにRTK測位とAR技術の融合は、橋梁点検における作業精度と効率を飛躍的に向上させるポテンシャルがあります。産学協同の学生プロジェクトでも、この最新技術を用いた橋梁点検手法の開発が進められています。次章では、その具体的な導入事例を見てみましょう。
【導入事例】大学と建設会社の協業による橋梁点検の成功事例
ここでは、産学協同でRTKとARを橋梁点検に活用したプロジェクトの事例を3つ紹介します。いずれも大学の学生チームと企業が連携し、現場で実証実験を行ったものです。
事例①: RTKとARを活用した老朽橋の点検プロジェクト
ある地方自治体で、築50年を超える老朽橋の点検に大学の学生プロジェクトチームと建設会社が挑みました。学生たちはRTK-GNSS受信機とタブレット型端末を携行し、橋梁の各部を巡回しながら点検を実施しました。現場ではタブレットのカメラ越しに橋の画像を映し出し、そこへ過去の点検履歴や設計図面がAR表示されます。RTKによるセンチメートル精度の位置特定のおかげで、ひび割れマップなどが実物の橋にピタリと重なり、前回点検から新たに発生・進行した損傷を一目で把握できました。例えば前回は長さ10cmだった亀裂が今回は30cmに伸びていれば、その差分がその場で確認でき、緊急補修が必要か迅速に判断できます。結果として、このプロジェクトでは従来比30%短い時間で点検を完了し、異常の見落としゼロを達成するという成果を収めました。学生たちは最新技術を駆使した実地訓練を積むことで成長し、企業側も効率的な点検手法の有用性を実証できました。
事例②: 学生と企業の連携による橋梁維持管理のデジタル化
別の大学では、土木工学科の学生チームがインターンシップの一環で橋梁維持管理システムの開発プロジェクトに参加しました。協業する中小建設会社が管理する橋を対象に、点検データのデジタル化と一元管理を目指した取り組みです。学生たちは橋の3次元モデル(デジタルツイン)を作成し、RTK-GNSSで得られる高精度座標とドローン空撮画像・LiDAR計測データを組み合わせて、橋梁の詳細なデジタル記録を構築しました。
さらにその3Dモデル上でAR技術により点検結果を可視化できるシステムを開発し、タブレット端末でモデルと実橋梁の双方を見比べながら点検できる仕組みを提案しました。現場実証では、学生と企業技術者がチームを組み実際に橋を点検し、損傷個所をその場でデジタルマップにプロットしていきました。従来は紙の点検票に手書きしていた内容が自動的に電子データ化され、クラウド上の橋梁管理システムに即時反映されます。その結果、報告書作成の手間を大幅に削減でき、離れた事務所からでもリアルタイムに点検状況を把握可能となりました。学生たちの柔軟な発想とITスキルによって、企業の橋梁点検業務にデジタルトランスフォーメーションの波を起こした好例と言えるでしょう。
事例③: データ駆動型インフラ管理の実現
三つ目の事例は、蓄積したデータを活用して予防保全型のインフラ管理を実現したプロジェクトです。大学の研究室と高速道路会社が協働し、複数年にわたり橋梁点検データをRTK精度で収集・分析しました。学生たちは毎年同じ橋をRTK対応デバイスで測量・点検し、ひび割れの進展や部材の変位を精密に記録しました。そのビッグデータをAIや統計モデルで解析し、劣化の進行予測や危険度評価を行うシステムを開発しました。例えば、ある橋脚の傾斜が年々僅かずつ増加している傾向を検知し、将来何年で補強が必要になるかを予測するといった具合です。このシステムにより、従来は事後対応になりがちだった維持管理をデータ駆動型の予防保全にシフトすることができました。実際に、このプロジェクトの成果を受けてインフラ管理者は補修計画を前倒し、重大な劣化が顕在化する前に手を打つことが可能となりました。また、データに基づく客観的な判断材料を示せるため、限られた予算の中で優先順位をつけた修繕計画の立案にも役立っています。学生たちは論文執筆や学会発表も行い、産学双方にとって意義のある成果となりました。
以上の事例から、RTKとARの導入は単なる効率化に留まらず、維持管理のあり方自体を変革し得ることが分かります。産学協同プロジェクトを通じて、次世代の技術者が現場で活躍しながら新技術を磨き、インフラ保全に貢献している点も見逃せません。
RTK橋梁点検の導入方法
革新的なRTK×ARによる橋梁点検を実現するには、具体的にどのような準備が必要でしょうか。ここでは、必要な機材・システム、導入にあたってのポイントについて解説します。
必要な機材とコスト
RTKを用いた橋梁点検には、以下の機材が必要になります。
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RTK-GNSS受信機(ローバー機): センチメートル級測位が可能なGNSS受信機を用意します。現場に固定する基準局と、点検員が持ち歩く移動局(ローバー)をセットで使用するか、通信インフラ経由で補正情報を受け取るネットワーク型RTK(VRS方式など)を利用します。近年は小型軽量で安価な受信機も登場しており、初期導入費用は数十万円程度から可能です。基地局を設置せずに済む電子基準点ネットワークサービス(例:国土地理院の電子基準点や民間の補正サービス)を利用すれば、移動局のみの準備で運用できます。
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AR表示端末: 現場でAR表示を行うためのデバイスが必要です。一般的なのはタブレット端末や大型スマートフォンで、専用のARアプリケーションをインストールして使用します。防塵防水性能を備えた現場向けタブレットが望ましいでしょう。将来的にはHoloLensなどのARグラスを使ってハンズフリーで作業することも考えられますが、現時点ではタブレット方式が現実的です。
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通信環境(無線機器): RTK補正情報をリアルタイムでやり取りするための通信が不可欠です。基地局とローバー間を無線機で直接通信する場合や、携帯回線を通じてインターネット経由で補正データ配信サービスに接続する場合があります。山間部など通信圏外では、簡易無線やローカル基地局の設置を検討します。また、クラウドに点検データを保存・共有する場合もモバイル通信環境が必要となります。
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機材コストについては、従来の大掛かりな計測機器に比べると低価格化が進んでいます。例えば、一般的なRTK対応GNSS受信機は数十万円~百万円程度ですが、レンタルやリースも可能です。タブレット端末も市販のもので代用できます。システム開発費用(ARアプリやデータ連携部分)は必要に応じて発生しますが、一度構築すれば他の橋梁にも展開できるため、投資に見合った効果が期待できます。
測量データの活用と橋梁管理システムへの統合
RTK×AR点検を導入した際には、取得した測位データや点検結果を有効活用し、既存の橋梁管理システムに統合することが重要です。高精度な位置情報付きで記録された損傷箇所データや写真は、橋梁台帳や維持管理システムのデータベースに取り込んで蓄積します。これにより、次回点検時に前回データとの比較が容易になるだけでなく、複数の橋梁を俯瞰して劣化傾向を分析することも可能となります。
自治体や高速道路会社では既に橋梁管理のためのデジタル台帳システムが導入されている場合があります。そのような場合には、RTK×ARで取得したデータ形式を既存システムと互換性のある形(例:座標つきCAD図面やGISデータ、点検履歴表など)に変換・出力できるようにしておきます。幸い国土交通省も点検支援技術の活用を推進しており、データの標準化や交換フォーマットの整備が進みつつあります。現場で収集した情報が孤立せず、一元管理されたインフラデータベースに蓄えられることで、長期的なインフラマネジメントに役立つ「資産」となるのです。
RTK導入時の注意点
最後に、RTKを橋梁点検に導入する際の注意点や留意事項をまとめます。
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GNSS測位環境の確保: 橋梁周辺の測位環境によってRTKの精度は左右されます。高架下や山間部、都市部高層ビルの谷間など衛星視野の確保が難しい場所では、補正情報があっても精度が出にくい場合があります。必要に応じて基準局を近くに設置したり、衛星測位を補助する慣性計測装置との併用を検討します。また、日本の準天頂衛星システム(みちびき: QZSS)を活用できる受信機であれば衛星視野が狭い環境下でも精度維持に有利です。
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機器の取扱いと校正: RTK-GNSS受信機は精密機器ですので、現場での取り扱いに注意が必要です。アンテナ位置のズレや傾きは誤差につながるため、据置型の場合は安定した三脚に設置し、携行型の場合はポール先端に取り付ける際の気泡水準器で垂直を保ちます。最新の機種には傾斜補正機能を備えたものもあり、多少傾いて持っても自動補正されますが、定期的な校正と精度確認は怠らないようにします。
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電源・通信のバックアップ: 長時間の点検作業では、GNSS受信機やタブレット、通信機器のバッテリー切れに注意しましょう。予備バッテリーを携行する、車両で充電できる体制を整える等の準備が必要です。通信に関しても、山間部などでは予め電波状況を調査し、不安定な場合はローカルRTK(短距離無線)に切り替えるなど柔軟に対応できるようにします。
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人材育成と運用ルール: 新技術導入に際しては、現場で使う技術者への教育訓練が不可欠です。RTKやARの操作方法だけでなく、通常の目視点検との併用方法、データの解釈の仕方などについてマニュアル整備し、チーム内で共有します。また、点検結果の評価は最終的に有資格の点検技術者の判断に委ねられるため、技術者の経験とデジタル技術を融合させる運用ルールを策定することも重要です。新技術はあくまで支援ツールであり、人間の判断を置き換えるものではない点にも留意しましょう。
以上の点に注意しつつ導入を進めれば、RTK×ARによる橋梁点検はスムーズに立ち上がるでしょう。小規模な橋で試行導入し、成果と課題を検証しながら徐々に対象を拡大していく方法がおすすめです。
LRTKの紹介
最後に、実際の現場導入が進んでいるRTK測位システム製品「LRTK」をご紹介します。LRTK(エルアールティーケー)はレフィクシア社が提供する小型高精度GNSSデバイスで、スマートフォンやタブレットと連携してセンチメートル級の測位を実現する製品です
。橋梁点検を含む土木分野のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支えることを目的に開発されており、現場で手軽に扱える設計になっています。
LRTKの特徴と施工現場での導入事例
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小型・軽量: LRTK受信機本体は手のひらに乗るコンパクトサイズで、重量も数百グラム程度と軽量です。測量用ポールやヘルメットなどに取り付けても負担にならず、持ち運びも容易なので橋梁点検のような高所作業時にも取り回しが楽になります。直径10cm強・重さ280g程度のモデルもあり、機材一式をリュックに収めて現場を歩き回れる機動性があります。
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高精度測位: GNSSのマルチバンド受信に対応し、ネットワーク型RTKや日本の準天頂衛星みちびきが配信するCLAS補正情報にも対応しています。これにより、都市部から山間部まで全国どこでもセンチメートル級の精度で位置測定が可能です。実測でも誤差2〜3cm以内の安定した測位が各種現場で確認されています。高い測位精度を活かし、橋梁点検のみならず重機の施工位置誘導や出来形管理、ドローン測量など幅広い用途で活用されています。
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即時連携と使いやすさ: LRTKはBluetoothやWi-Fiでスマートフォン/タブレットと接続し、専用アプリ経由で補正情報の受信や位置記録を行います。スマホの画面上で現在の測位精度や衛星捕捉状況を確認でき、ワンタッチで測位開始できます。複雑な操作は不要で、測量の専門知識がない技術者でも短時間の講習で扱えるユーザーフレンドリーな設計です。現場の作業プロセスに組み込みやすく、他の測量機器との併用も柔軟に行えます。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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