都市インフラ点検でRTK活用:
下水道・道路維持管理への応用

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2025年3月4日 掲載

都市インフラ点検の重要性と課題
都市部のインフラ維持管理(下水道・道路・橋梁など)は、安全・安心な社会を支える重要な業務です。老朽化したインフラの事故(例:トンネル天井板崩落や水道橋崩落)を防ぐためにも、計画的な点検と補修が欠かせません。日本でも2014年以降、橋梁やトンネル等の定期点検(5年に1度の近接目視点検)が義務化され、全国の自治体や道路管理者が対応しています。
しかし、従来のインフラ点検手法には多くの課題があります。点検作業は人力に頼る部分が大きく、地上測量や目視点検、紙ベースの記録では以下のような非効率が生じがちです。
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人手と時間の負担が大きい: 例えば道路や橋の詳細な目視点検には多くの技術者を要し、場合によっては交通規制も必要になるため、作業コストが増大します。
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データ管理が煩雑: 点検結果を紙の台帳や図面で管理すると、情報の検索や共有に時間がかかり、経年変化の分析も困難です。
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精度や客観性の限界: 従来手法ではインフラの劣化位置を正確な座標で記録できず、勘や経験に頼った評価になりがちです。またベテラン技術者のノウハウが属人化し、技術継承も課題です。
こうした課題を解決し、インフラ点検を効率化・高度化するために、近年RTK測位をはじめとしたデジタル技術の活用が注目されています。RTKによる高精度な位置情報を取り入れることで、点検業務の精度向上と効率化が期待できます。次章ではRTK技術の基本と、その都市インフラ管理への有用性を解説します。
RTK測位の基本と都市インフラ点検での活用
RTK(Real Time Kinematic)測位とは、基地局(基準局)と移動局の2台のGNSS受信機を使い、衛星測位の誤差をリアルタイム補正することでセンチメートル級の精度を実現する測位技術です。通常のGPSやGNSS単独測位が数メートル~十数メートルの誤差に留まるのに対し、RTK測位では誤差数センチ程度まで位置を特定できます。これは、基準局で観測した衛星誤差情報を移動局に送り、両局の観測データの差分から高精度な相対位置を算出することで可能になります。
RTK測位を都市インフラ点検に利用することで、位置情報の精度向上と業務効率化が可能となります。例えば、下水道マップや道路台帳において、マンホールや道路附属物の位置を数センチの精度で記録できれば、点検箇所の特定や維持管理計画の策定が格段に容易になります。またRTKはリアルタイムに高精度座標を取得できるため、現場で測ったデータを即座にGISなどに反映し、紙への転記や後処理を省略できます。その結果、迅速な点検とデータ更新が可能となり、意思決定のスピードも上がります。
都市部でRTKを利用する理由: ビルが立ち並ぶ都市部では衛星信号が遮られたりマルチパス(反射)により測位精度が低下しやすいですが、近年はGPSだけでなくGLONASSやみちびき(QZSS)等の複数衛星を使う高性能GNSS受信機や、全国の電子基準点網を利用したネットワーク型RTKサービスが普及し、都市部でも安定してcm級測位が得られる環境が整いつつあります。RTKを使えば、これまで測量が困難だった場所でも効率よく正確な位置を取得でき、インフラ点検のDX(デジタルトランスフォーメーション)に繋がります。
精度向上・効率化の具体例:
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広域測量の効率化: 従来、数百ヘクタールにおよぶ都市域の高低差測量は水準測量や地形図の解析に時間を要しました。ある下水道計画業務では、ネットワーク型RTKにより約1,200haのエリアを短期間で3次元計測し、従来より効率良く作業できたと報告されています。RTK導入により広範囲なインフラ調査を短期間でこなせるようになります。
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リアルタイムでの現場判断: RTK測位なら測ったその場で正確な座標が得られるため、現地でデータを確認しながら追加調査や補正が可能です。例えば道路陥没の兆候を調べる際、現場で高さデータをRTKで取得して即座に地盤沈下量を解析できれば、その場で危険度を判断し緊急対応を取ることもできます。
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デジタル記録の精度向上: インフラ点検結果をデジタル地図上にプロットする際、RTKによる高精度データなら位置ずれが少なく、過去データとの正確な比較が可能です。ひび割れや変位の位置をピンポイントで把握できるため、補修計画の優先度判断も的確になります。
このようにRTK測位は、都市インフラ管理における測量精度向上と業務効率アップの切り札となり得ます。次章では、実際にRTKを活用してインフラ点検を行った具体的な事例を見てみましょう。
【導入事例】RTKを活用した都市インフラ点検の成功事例
ここでは、RTK技術を現場導入した成功事例を3つ紹介します。下水道のマンホール測量、道路陥没調査、インフラの3Dマッピングというそれぞれ異なる分野で、RTKがどのように活用され効果を上げているかを見てみましょう。
事例①: 下水道マンホールの正確な位置測定と管理
ある自治体では老朽化した下水道管路の維持管理を強化するため、マンホールの位置情報を高精度化するプロジェクトを実施しました。従来は1/500地形図からのオフセット法や航空写真測量によりマンホール位置を推定していましたが、精度は概ね±25cm程度で、GISでの活用には不十分でした。そこでVRS-RTK測量を導入し、市内全マンホールの座標をセンチメートル精度で再測定したのです。
RTK導入の結果、マンホール座標は即時にデジタル記録され、事後のデータ編集作業が大幅に削減されました。従来は現場測量後に事務所で図面補正やデータ入力を行っていたため時間と人件費がかかっていましたが、RTKでは現地で直接座標を取得・出力できるため、トータルの人件費が約1/3に削減できたと報告されています。
また位置精度も飛躍的に向上したため、新しく構築した下水道GIS台帳上でマンホールと配管の関係を正確に把握でき、維持管理計画の精度も上がりました。
この事例から、RTK測位を下水道測量に応用することで測量精度の向上と業務効率化が両立できることが分かります。正確な資産情報に基づき、補修や更新の優先度付けが的確に行えるようになった点でも大きな成果と言えるでしょう。
事例②: 道路陥没調査でのRTK活用と地盤リスク解析
都市部では老朽化した下水管の破損などに起因する道路の陥没事故がしばしば問題となります。ある道路管理者は、陥没事故発生時の迅速な対応と、未然防止のための地盤リスク把握にRTK技術を取り入れました。
陥没事故が発生すると、まず現地で穴の位置・大きさ・周辺地形を正確に測量する必要があります。従来はトータルステーションや手作業測量で対応していましたが、RTK搭載GNSS受信機を用いることで、単独の測量担当者が短時間で崩落箇所の三次元測量を完了できます。取得した高精度データは即座にクラウドの地理情報システム(GIS)にアップロードされ、関係部署とリアルタイムで共有されます。その結果、応急措置や復旧工事の計画立案がスピーディーになりました。
さらに、この管理者は予防保全にもRTKを活用しています。道路上の微細な沈下や隆起を定期的にRTK計測し、その高低変化データを蓄積・解析することで、地下空洞の兆候を早期に捉えようという試みです。RTKの高さ精度は約±2~3cm程度ですが、広範囲にわたって同一基準で測定できるため、わずかな路面変状も面的に把握できます。これにより「このエリアは沈下傾向があるので地下埋設物を要調査」などの判断がデータに基づいて可能になり、将来的な陥没リスクの低減につながっています。
道路点検へのRTK導入は、事故対応のみならず予防的なインフラ管理にも有効です。高精度な地形変化データに基づき、地下構造物の状態把握やメンテナンス計画を科学的に支援できる点が評価されています。
事例③: インフラ3DマッピングでのRTK-GNSS利用
近年、インフラ点検分野ではドローン空撮やモバイルマッピングシステム(MMS)、地上LiDARなどを用いた3Dマッピングが盛んに行われています。こうした手法でも、精密な位置合わせにはRTK-GNSSが重要な役割を果たしています。
例えば高速道路の橋梁点検で、ドローンによる高精細写真測量を行うケースでは、RTK搭載のドローンを使えば写真に高精度な位置座標タグを付与できます。これにより得られる3次元モデル(点群データやオルソ画像)は、地図座標系にぴったり合致したものとなり、ひび割れ箇所などを図面上で正確に示すことが可能です。従来はターゲット設置や後処理で位置合わせしていた作業が簡略化され、精度も安定します。
また別の事例では、道路管理車両に360度カメラとRTK-GNSS受信機を搭載し、走行しながら路面や周辺構造物の映像と位置情報を同時取得するモバイルマッピングを実施しました。RTKにより各画像フレームにcm級の位置データが付くため、後でオフィスにいながらでも「劣化が見られる地点の正確な位置」を地図上で割り出すことができました。これにより点検員が現場で逐一手書き記録していた作業が省力化され、短時間で広範囲のインフラ状況をデジタルアーカイブ化できています。
このように、最新のインフラ3Dマッピング技術とRTK測位は相性が良く、デジタルとリアルを結ぶ架け橋となっています。RTK-GNSSによる高精度な位置基盤があることで、ドローンやセンサーで取得したデータを正確に統合でき、インフラのデジタルツイン(仮想複製)を構築して高度な分析や予測に活用することも可能になります。
RTKを都市インフラ管理に導入する方法
実際にRTK測位をインフラ点検・管理に導入するには、機材の調達や運用体制の整備が必要です。ここでは、必要な機材とコスト、データ活用方法、導入時の注意点について解説します。
● 必要な機材とコスト: RTK測位には基本的にGNSS受信機が2台必要です。1台は既知点に設置する基準局(ベース局)、もう1台は測位対象を巡回する移動局(ローバー)です。基準局から移動局へ補正情報を送るための通信手段も用意します。通信方式は無線機(特定小電力無線やUHF帯など)や携帯回線を利用したインターネット接続(Ntrip方式)などがあります。
機材構成例と概算コストは以下のとおりです:
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GNSS受信機(ローバー) – RTK対応の高精度GNSS受信機。近年は安価な受信機でもRTKに対応したものが登場しており、価格は数十万円程度から。現場の数に応じ複数台用意。
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GNSS受信機(基準局) – 基準点に設置。移動局と同じ機種で可。固定用三脚やバッテリー、通信装置を含めて数十万円程度。既設の電子基準点や公共基準局サービスを利用する場合は自前で用意不要なケースも。
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通信機材/サービス – 基準局→移動局間のデータリンク。無線機を用いるなら免許や装置コストが発生(数万円~十数万円)。携帯ネット網を使う場合はSIM契約やRTK補正情報サービスの利用料(月額数千円~)が必要。
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計測用端末 – 移動局を持ち歩く人が測位結果を確認・記録するための端末(コントローラ)。一般的なフィールド用タブレットやノートPCのほか、近年はスマートフォンをコントローラとして利用できるRTKシステムもあります。端末用アプリやソフトウェアの費用も考慮します。
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● 測量データの活用とGIS管理: RTKで取得した高精度データは、是非ともGIS(地理情報システム)や管理システムに取り込んで活用しましょう。下水道や道路の維持管理では、各設備の属性情報と空間情報を結びつけた地図台帳を作成することで、点検・補修の計画立案が効率化します。
RTK導入によって得られた座標データは、日本測地系(JGD2000/2011)など統一座標系で記録されるため、他の地図情報と容易に重ね合わせ可能です。例えば、RTKで測定したマンホールの位置をGISに登録し、管路の劣化情報や舗装の損傷情報とリンクさせれば、「どの地点でどの程度の損傷があるか」を空間的に俯瞰できます。またクラウド型GISを使えば、現場で入力した点検データが即座に社内で共有され、迅速な意思決定につながります。
● RTK導入時の注意点: 導入にあたってはいくつか留意すべきポイントもあります。
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測位環境の確保: 都市部ではビル陰や樹木によりGNSS信号が受信できない場所もあります。現場でアンテナをできるだけ見通しの良い位置に据える、延長ポールで高く掲げる、あるいはみちびき(QZSS)のような天頂衛星を活用して補完するなど、測位環境の工夫が必要です。
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精度検証の実施: RTKの公称精度は数cmですが、実運用前に既知点での受信テストやベースライン長による誤差変動のチェックを行い、想定精度が得られているか確認しましょう。必要に応じて既設の水準点を利用し高程の補正を行うなど、精度担保の手順を組み込みます。
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運用者のトレーニング: 新技術導入にあたっては、現場担当者への教育も重要です。RTK受信機の操作方法(衛星捕捉から測位開始、FIX解の判断基準、通信トラブル対応など)や、得られた座標データの扱い方(座標系の理解や変換方法)について研修を実施しましょう。
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コストと効果のバランス: RTK機材やサービス利用には初期投資やランニングコストがかかります。導入に際しては、自社業務のどの部分で効率化・高度化が図れるかを洗い出し、費用対効果を明確にしておくことが大切です。幸い近年は低価格な機器や月額課金サービスも登場しており、中小の土木業者でも手が届きやすくなっています。
以上の点に注意しつつ、適切にRTKを導入すれば、都市インフラ管理におけるDXが大きく前進します。次章では、小型高性能なRTK機器である「LRTK」を紹介し、現場での活用例と資料請求方法をご案内します。
LRTKの紹介
最後に、先進的なRTKソリューションの一つであるLRTKについて紹介します。LRTKはレフィクシア株式会社が提供するRTK-GNSS測位製品シリーズで、「小型・軽量・高精度」を兼ね備え、現場での使い勝手を追求した設計が特徴です。従来は据え置き型や大型の機材が主流だったRTK測量を、より手軽に、よりスマートに実現できるよう開発されています。
現場向けの小型RTK測量機「LRTK Pro2」。アンテナ・受信機・バッテリー・無線機が一体化された堅牢設計で、建設現場の過酷な環境下でも安定したセンチメートル級測位が可能。傾斜補正機能を備え、ポールを傾けても先端の座標を正確に記録できる。
LRTKの主な特徴:
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小型・軽量: 携行性に優れたコンパクトデザインで、現場への持ち運びや設置が容易です。例えば「LRTK Pro2」は直径20cm程度のアンテナ一体型端末で、測量ポールの先端に装着しても作業の邪魔になりません。
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高精度測位: マルチGNSS対応で、RTKはもちろん日本の準天頂衛星「みちびき」が提供するセンチメータ級補強サービス(CLAS)にも対応。ネット接続が難しい山間部などでも衛星からの補強信号だけでcm級測位が可能です。実測でも静止状態で数cm以下の精度、移動体測位でも安定した精度を実現しています。
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即時利用と連携: スマートフォン用の専用アプリ「LRTKアプリ」とBluetooth接続し、電源を入れて短時間で測位を開始できます。測位データはスマホ経由でクラウド送信したり、その場で地図にプロットすることも可能。面倒な初期設定を簡略化し、現場で誰でも扱いやすいUIを備えています。
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さらにユニークな展開として、スマートフォン一体型の「LRTK Phone」や、ヘルメット装着型の「LRTKヘルメット」など、用途に応じたバリエーションもあります。LRTK Phoneはスマホに装着するアタッチメント型のRTK端末で、スマホで撮影した写真にcm精度の位置タグを付与することができます。ひび割れなどの不具合箇所を写真記録する際、その位置を高精度に記録できるため、点検報告の信頼性が飛躍的に高まります。LRTKヘルメットは作業員のヘルメットに薄型アンテナを取り付けて、歩きながら測量ができる画期的なデバイスです。両手が塞がっていても頭上で測位できるため、点検しながらの測量や、長時間の巡回測定で負担を軽減することができます。
スマートフォン装着型の「LRTK Phone」。手持ちのスマホにセットするだけでRTK測位が可能になり、スマホで撮影した写真データとcm級の位置情報をひも付けてクラウドに保存できる。災害現場の状況記録や構造物のひび割れチェックなどに威力を発揮。
施工現場での導入事例: LRTKシリーズは既に建設・土木の現場で活用が始まっています。例えばある舗装工事現場ではLRTK Pro2を用いて出来形管理(施工後の仕上がり測定)を行い、従来比50%以上の時間短縮を実現しました。また点検業務では、道路橋の定期点検にLRTK Phoneを導入し、点検員が撮影する損傷写真に自動で座標を付与することで、報告書作成の効率化と精度向上に役立てています。ヘルメット型は広大な敷地を有するプラント施設の巡視点検に採用され、作業員の位置履歴を正確に記録して点検漏れ防止や安全管理に活かすなど、新たな応用も生まれています。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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