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農業分野のスマート農機:
RTK自動操舵で実現する精密農業

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2025年3月4日 掲載
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現代の農業はテクノロジーの力で大きく変わろうとしています。中でも注目されるのが、RTK(Real Time Kinematic)による高精度測位技術とスマート農機の融合です。RTKを活用した自動操舵トラクターによって、これまで人の勘と経験に頼っていた作業が飛躍的に精密化し、効率アップとコスト削減を実現しています。

本記事では、精密農業の概要からRTK技術の基本、導入メリット、具体的事例、導入手順までを詳しく解説します。農業DX時代の新常識ともいえるRTK自動操舵の世界を見ていきましょう。

精密農業とは?RTKとスマート農機の関係

精密農業(プレシジョン・アグリカルチャー)とは、圃場ごとの土壌や生育状況データを活用し、播種・施肥・収穫などの農作業を必要最小限の投入で最大限の効果が出るよう最適化する農業手法です。従来の経験則に頼る農業と異なり、センサーやGPS、ドローンなどを駆使して「データに基づいた農業」を行う点が特徴です。例えば土壌養分のばらつきに応じて施肥量を変えたり、作物の生育マップをもとに収穫時期を判断したりと、きめ細かな管理で収量・品質の向上とコスト削減を両立します。

その中でRTK技術は精密農業を支える重要なピースとなっています。通常のGNSS(GPS)による測位は誤差が数メートル生じますが、RTK方式では基地局と移動局の2点で同時に衛星信号を受信し相対位置を補正するため、誤差を±2~3cm程度まで縮小できます​。

このセンチメートル級の位置精度を生かして自動操舵可能にしたのがスマート農機です。代表例が自動操舵トラクターで、車体上部のGNSSアンテナで高精度な現在位置を取得しつつ、ハンドルやステアリングを自動制御することで、まっすぐ正確な走行や作業機の制御を人手を介さず行います。人が運転席に乗って監視する有人自動運転から、将来的には無人運転まで視野に入れた技術であり、農業の省力化・自動化に直結するものです。

 

基地局(左下)と移動局(右下のトラクター)で同時にGNSS衛星信号を受信し、移動局の位置を補正することでセンチメートル精度を実現するRTKの概念図​。RTKにより従来のGPS測位誤差(数メートル)を約±2~3cmまで低減できるため、自動操舵トラクターは極めて精密な直進走行が可能になる​。

精密農業におけるRTK活用は、単に「GPSが良くなった」以上の意義があります。高精度な位置情報が得られることで、作業の自動化や省力化が一気に現実味を帯びるからです。広大なほ場でもズレの少ない直進ラインを引けるため、ムラや無駄のない均一な農作業が誰にでもできるようになります​。

また、後述するようにRTK自動操舵によって作業データが蓄積・「見える化」されることで、さらなる営農改善に役立てることも可能です。つまりRTKとスマート農機の組み合わせは、精密農業の実践を支える土台と言えるでしょう。

RTK技術が農業を変える理由

RTK-GNSS測位の基本:RTKとは、日本語で「リアルタイムキネマティック(リアルタイムの動的測位)」と呼ばれる手法です​。具体的には、既知の座標を持つ固定局(基地局)と農機側の移動局にそれぞれGNSS受信機を設置し、両者が受信した衛星信号の差分をリアルタイムに計算することで移動局の位置を高精度に補正します。固定局からは無線あるいはインターネット経由で補正情報が送信され、移動局(トラクター)はそれを受け取って自車位置を補正します​。補正の方式には、基地局と移動局を直接無線通信するデジタル無線型(到達範囲5km程度)と、携帯ネット回線を使い基地局情報を配信するインターネット型(Ntrip)(カバー範囲20km程度)があり、通信手段に応じて利用可能エリアが異なります​。

いずれにせよ、RTKを導入することでGPS単独では数メートルあった測位誤差が数センチに劇的に向上します。これが農業に与えるインパクトは非常に大きいのです。

精密農業におけるRTK導入のメリット:最大のメリットは作業精度の飛躍的向上と重複作業の削減です。自動操舵トラクターであれば常に一定の間隔で走行できるため、播種や施肥においてムラなく均一に作業できます​。

例えば、従来はベテランでも多少の重複やズレが生じていた作業でも、RTKガイダンスにより重複やスキップが最小化され、無駄な重複散布を減らして資材コストを削減できます​。また「正確に条間を走行するので、必要以上に作物を傷めず、収量減少を防ぎます」と報告されており​、トラクター走行時に隣接する作物を踏んでしまうロスも低減します。重複を減らせる分だけ作業時間の短縮にもつながり、効率アップと省コスト化を同時に実現できます。

実際のデータもその効果を裏付けています。日本農研機構らによるスマート農業技術の実証では、自動運転トラクター等を導入した結果、作業労働時間が平均で約9%削減され、反当たり収量が平均9%向上したとの報告があります​。特に耕うん~田植えにRTK自動操舵技術をセットで導入したケースでは労働時間が約18%も削減されるなど、大きな省力化効果が確認されています​。

また別の事例では、RTKガイダンス導入により「トラクター作業時間が約2割短縮された。自動操舵中は作業機の調整に集中でき、疲労が軽減した」という声もあり​、肉体的負担の軽減や作業品質の安定にも寄与しています。さらに、夜間や霧の発生時でも高精度な直進が可能になるため、日没や天候に左右されず作業を継続できる点も見逃せません​。

総じてRTK自動操舵の導入は、収量アップ(収穫量の安定・向上)とコスト削減(燃料・資材の節約、労働時間短縮)を両立させ、農業経営の効率化に大きく貢献します。

【導入事例】RTK自動操舵で成功した農業ICT事例

では、実際にRTK対応の自動操舵システムを導入した農場ではどのような成果が出ているのでしょうか。ここでは稲作の大規模経営、露地野菜農家、果樹園の3つの事例を紹介します。

  • 事例①: 大規模稲作農場でのRTK自動操舵トラクター活用

東北地方のある大規模水田経営(経営面積200ha超)では、人手不足と作業の効率化を解決すべくRTK対応の自動操舵トラクターを導入しました。従来はベテラン作業者でも田植機でまっすぐ植えるのに神経を使い、どうしてもムラが出ていたところ、RTKガイダンス搭載の田植機を使うことで誰でもまっすぐ正確に植え付けが可能となりました。基準となる直進ライン(ABライン)さえ登録すれば、広い圃場でもズレなく等間隔で機械が動いてくれるため、リカバリーの手直しや重複作業が激減しました。その結果、作業時間がおよそ20%短縮し、人件費削減につながったほか​、条間や株間が揃うことで収量・品質も安定向上しています。また、トラクター運転中の疲労感が大幅に減り、オペレーターが機械任せにできる時間が増えたことで、並行して作業機の調整や周囲の安全確認に集中できるようになりました​。この農場では省力化により生まれた余力で新たな圃場開拓にも取り組み、経営規模拡大を実現しています。

  • 事例②: 露地野菜農家でのRTKによる区画管理と作業精度向上

北海道のある畑作農家では、ジャガイモ・ビート・小麦など複数作目を輪作していますが、RTK自動操舵の導入によって大きな効果を得ました。それまではトラクターで畝立て作業を行う際、計算上の畝数と実際にできる畝の本数が合わないことがあり、微妙なズレが積み重なってほ場末端で余ったり足りなかったりする問題が生じていました。また長い畝をまっすぐ引くのも熟練を要する作業でした。そこで後付けのRTKガイダンスシステムと自動操舵装置をトラクターに搭載したところ、畝数が常に計画通りとなり、真っ直ぐな畝を誰でも作れるようになりました​。畝の乱れや曲がりがなくなったことで作業効率は格段に向上し​、傾斜地でも安定して直進できるため畑の端まで無駄なく耕せるようになりました。その結果、種イモや肥料のロスが減ってコストが削減できただけでなく、発芽や生育のムラが解消され高品質な収穫物が得られています。さらに、タブレット画面上に作業跡が色分け表示され中断・再開も容易になったため、ベテランでなくとも均一で再現性の高い作業が可能となりました。今では畝立て以外にも小麦の播種やビートの植付けなどあらゆる作業にフル活用しており、「もはやRTKなしには考えられない」という状態です。

  • 事例③: 果樹園でのRTKガイダンスによる散布効率化

果樹園でもRTK技術が活用されています。起伏がある地形に点在する果樹園では、従来トラクターで農薬散布を行う際に散布ムラや重複散布が課題でした。そこで園地マップ上に走行ルートを設定し、自動操舵トラクターで誘引線に沿って走行するガイダンス散布を導入しました。RTKガイダンスにより樹列間を正確にトラクターが走行するため、人手で目見当で走るときと比べて重複や撒き残しが大幅に減少しました。結果として農薬使用量の削減(約10%減)と作業時間短縮を実現し、作業後半に発生しがちな散布漏れによる病害リスクも低減しています。さらに、自動操舵によって運転手はハンドル操作から解放されるため、散布ノズルの目詰まりや薬液残量など後方の機械の状況確認に集中でき、安全かつ適切な速度で走行調整しやすくなりました​。加えて、以前は一定間隔で設置していた防除用の目印ポール立て作業が不要になったため​、前準備と後片付けの手間も省けています。この果樹園では、RTKによる見える化機能で各区画の散布履歴をデータ管理し、防除計画の精度向上にも役立てています。精密農業の考え方は果樹の世界でも有効に機能し始めている好例と言えるでしょう。

RTKスマート農機導入のための具体的なステップ

高精度なRTK自動操舵を自分の農場に導入するには、どのような準備が必要でしょうか。ここでは必要な機材、測位データの管理・活用方法、そして導入時の注意点について具体的に説明します。

● 必要な機材とコスト:RTK自動操舵を実現するには大きく分けて以下の機材が必要です。

(1) RTK対応GNSS受信機(移動局用)…トラクターやコンバインなど農機に搭載します。既存の農機に後付けするステアリングキットには、アンテナ・受信機・モニターがセットになっているものもあります。

(2) 基地局…高精度化のための基準点となる受信機です。自前で設置する場合は既知点に据え付け、移動局に無線で補正情報を送信するための無線機等も必要です。近年は各地に基地局ネットワーク(例えば国や民間のVRS方式補正サービス)が整備されており、インターネット経由で基地局情報を利用(Ntrip方式)することで自前に基地局を置かなくてもRTK測位を行える場合もあります​。その場合は移動局側で通信端末(スマホやLTEモデム)を用意し、補正サービスに契約して通信料を支払います​。

(3) 自動操舵用コントローラ…トラクターのハンドル操作を自動化する装置です。メーカー純正の搭載モデルでは油圧制御によるものもありますが、一般的にはハンドルに取り付ける電動モーター式や、交換ステアリング式の後付けユニットが普及しています​。加えて、実際に操作するためのモニター画面(ディスプレイ)や、各機器を繋ぐ配線・マウント類も必要です。

導入コストは選択するシステムによって大きく異なります。例えば、現在国内メーカーから発売されている自動操舵対応トラクターは車両価格が数百万円から場合によっては2000万円以上するものもあります​(高出力大型機や無人トラクター含む)。

一方、既存トラクターに後付けするガイダンス+自動操舵キットの場合、システム一式で概ね200~300万円台から導入可能です(補正信号の受信方法や機能によって価格変動あり)。例えば国産メーカーのRTK対応ガイダンス+自動操舵補助装置の組み合わせでは約250万円程度が一つの目安とされており​、ここに基地局や通信端末の費用が加わる形です。最近では手持ちのAndroidタブレットと安価なGNSS受信機を組み合わせて数十万円で始められる簡易ガイダンスシステムも登場しており、経営規模や求める精度に応じて選択肢が増えてきています。

● 測位データの管理と活用方法:RTK対応のガイダンスシステムを導入すると、各圃場ごとに基準ライン(ABライン)や作業履歴データが蓄積されていきます。例えば一度圃場の直進基準線を登録しておけば、そのデータは翌年以降も呼び出して再利用できます​。毎回同じラインで播種・植付けを行うことで、年次間での走行ずれがなくなり整然としたほ場管理が可能になります。またタブレットのモニター上に作業済みエリアが色分け表示される機能もあり、途中で休憩や補給で中断しても再開時にどこまで作業したか一目で確認できるのでミスや二重処理を防げます​。

さらにクラウド対応のシステムでは、蓄積された走行ラインや作業軌跡データをPC上で管理したり、他の従業員と共有することも容易です​。

これらのデータを活用してほ場ごとの作業計画を最適化したり、営農日誌を自動生成したりと、経営管理の高度化にもつながります。将来的にはトラクターの自動操舵データとドローン空撮による生育データなどをマッチングさせ、区画ごとの生育ムラに応じた可変施肥を行うといった展開も期待されています​。RTKで得られる高精度位置情報は、農場のあらゆる情報を「地理座標」にひも付ける鍵となり、農業DXの基盤データとして活用できるのです。

● RTK導入時の注意点:導入にあたっては幾つか留意すべきポイントもあります。

(1) 電波環境の整備:RTK測位は衛星信号のほか基地局からの補正電波を受信する必要があります。山間部など電波が届きにくい地域ではインターネット型補正サービスが使えない場合もあるため、そうした場合は無線式の基地局を自設置するか、衛星補強信号(みちびきのCLASやSBAS等)に対応した機器を検討する必要があります。また基地局を自前設置する際は見通しの良い場所に据え、正確な既知座標を設定することが重要です。

(2) 初期設定・研修:自動操舵システムは高度な機械ですが、設定自体は比較的シンプルです。ただし最初に車両の特性(車幅やタイヤ幅、アンテナ高など)を正確に入力・キャリブレーションしないと期待通りの精度が出ません。メーカーや販売店のサポートを受けながら初期調整を行いましょう。またオペレーターへの使い方指導も不可欠です。誰でも扱えるとはいえ、緊急時の手動介入方法やシステムの制約事項(例えば自動操舵は直進のみで旋回は手動など​)について予め周知しておく必要があります。

(3) 安全対策:現行の自動操舵型トラクターは有人監視が前提です。公道走行はできないこと、圃場内でも万が一に備え即座に手動に切り替えられるよう常に運転席に人がいることが求められます。ISOの安全基準に則り非常停止ボタンの設置や、人や障害物を検知するセンサーの装備された機種もありますが、あくまでオペレーターの監視下で使う補助システムである点を踏まえ、安全第一で運用してください。

(4) 費用対効果の検討:導入コストに見合う効果が得られるか事前に試算することも大切です。作業面積や作業回数が少ない農家では高額なRTKシステムの投資回収に時間がかかる可能性があります。そのような場合は近隣農家と共同で基地局を設置・システムをシェアする、補助事業を活用する、中古市場や安価な簡易ガイダンス機器から導入して段階的に精度を高める、といった工夫も検討しましょう。

LRTKの紹介

RTK技術をより手軽に使いたい分野として、建設測量やインフラ点検も挙げられます。ここで登場するのがレフィクシア株式会社の開発した小型高精度GNSS受信機「LRTK」です。LRTKは小型・軽量・高精度を実現した画期的なデバイスで、例えばスマートフォン一体型モデル「LRTK Phone」では受信機本体がわずか125g、厚さ13mmというポケットサイズに収まっています​。アンテナ・GNSS受信機・バッテリー・通信モジュールが一体化されたオールインワン設計で、この1台だけでセンチメートル級測位が可能になる万能測量機です​。普段お使いのiPhoneやiPadに装着するだけで、スマホが高精度GNSS測位端末に早変わりします。価格も従来の測量機器に比べて非常にリーズナブルで、現場担当者が1人1台持ち歩き、必要なときにすぐ使える手軽さが支持されています​

LRTKの特徴は単にハードウェアの性能だけではありません。スマホ用アプリと連携して使うことで取得した位置データをクラウドに即時アップロード・共有でき、現場とオフィス間でデータをシームレスにやり取りできます。また、みちびき(QZSS)の高精度補強サービスやNtrip補正情報にも対応しており、インターネット圏外の山間部でも利用可能なオフラインRTKモードを備えるなど、実用性にも優れています。建設現場の測量やインフラ点検では、これまで2人1組で行っていたGNSS測量作業がLRTKを使えば1人で完結するといった労務改善の報告もあります。実際の施工現場での導入事例として、あるゼネコンではLRTKを装着したiPadで現況測量と墨出し作業を行ったところ、従来トータルステーションで測り直していた手間が大幅に省け、現場測量の生産性が飛躍的に向上したそうです。小型・安価でありながら高精度を実現するLRTKは、「高精度測位の民主化」とも評され​、建設ICTやインフラDXを推進する強力なツールとなっています。

農業分野でも、例えば圃場の測量や区画割り、排水路の設置箇所の高低差測定などにLRTKを活用すれば、専門業者に委託せず自前で高精度な地形データを取得できるでしょう。将来的にはLRTKのようなモバイルGNSS端末をトラクターに搭載し、手軽にRTK精度での自動ガイダンスを行うといった応用も期待できます。興味のある方はぜひ一度詳細資料をご覧になってみてください。

LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上

LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。

LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。

 

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こちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。ぜひLRTKで、貴社の現場を次のステージへと進化させましょう。

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