建設現場におけるRTKの活用:
重機誘導と出来形管理

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2025年3月4日 掲載

今日の建設業界では、RTK(リアルタイムキネマティック)と呼ばれる高精度測位技術が注目を集めています。従来のGPS測位では誤差が数メートル生じるため、道路や鉄道の線路位置出し、建物の墨出しなどセンチメートル精度が必要な作業には不十分でした。その課題を解決するのがRTKです。基準局からの補 正情報を用いるRTK測位を活用すれば、一般的なGPSでは達成できない数センチ級の高精度で位置を特定でき、施工管理の効率化やインフラ点検の高度化に大きく貢献します。
本記事では「RTKとは何か?」という基礎から、建設現場における重機誘導(マシンガイダンス・マシンコントロール)や出来形管理への活用メリット、手軽にRTKを使い始められるLRTKについて詳しく解説します。
RTKとは?GPSとの違い
RTKとは、「Real Time Kinematic」の略で、リアルタイムに高精度な測位を行うためのGNSS(全球測位衛星システム)技術です。通常のGPS(単独測位)は衛星信号の遅延や乱れによって誤差が数メートル程度発生し、位置精度は限定的です。これに対しRTKでは、既知の正確な位置に設置した基準局(ベース局)と、移動しながら測位する移動局(ローバー)の2台のGNSS受信機を用います。基準局が自分の正確な位置と受信した衛星信号から誤差(補正量)を計算し、その補正情報を移動局へ送信することで、移動局は誤差を打ち消した高精度な現在位置を算出できます。衛星信号の誤差要因(衛星時計誤差、電離層・対流圏の影響など)の多くを相殺できるため、RTK測位では誤差を数センチ以内に抑えることが可能です。つまり、RTKは「基準局からの補正でGPS誤差を数cm以内に抑える技術」と言えます。
RTKが建設現場で必要とされる理由は、その精度と即時性にあります。たとえば道路工事で路面の高さを管理する場合、通常のGPSでは誤差が大きすぎて施工基準を満たしません。RTKならリアルタイムに正確な高さ・位置を取得できるため、施工誤差を最小化し品質を確保できます。また従来は人手に頼っていた墨出し(位置出し)作業も、RTKを使えば迅速かつ高精度に行うことが可能です。実際、国土交通省も「RTKは次世代の建設現場になくてはならない技術」であり、導入により工事全体の生産性向上と品質確保の両立ができるとしています。
建設現場でのRTK活用のメリット
RTKによるセンチメートル級測位がもたらすメリットは、建設現場の様々な場面で発揮されます。ここでは特に重機誘導(マシンガイダンス・マシンコントロール)と出来形管理に注目して、その効果を見てみましょう。
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重機誘導の効率化(マシンガイダンス・マシンコントロール): 近年のICT施工では、ブルドーザやショベルといった建設機械にGNSS受信機とRTK補正を組み合わせたシステムを搭載し、重機の刃先位置をリアルタイムに制御・誘導することが可能です。
例えばブルドーザの排土板にRTK-GNSSを取り付けて設計面どおりに自動で整地したり、バックホウ(油圧ショベル)にGNSSを載せて事前の丁張なしで所定の深さまで掘削したりすることができます。GNSSによるガイダンスで機械の現在高さと設計データとの差分が常時モニタに表示され、熟練オペレーターの勘に頼らずとも正確かつ安全な施工が可能になります。一部のシステムでは機械の制御を自動化するマシンコントロール機能も備え、オペレーターが操作しなくても設計通りの仕上がりになるようブレードを自動調整できます。これにより人為的なばらつきが減少し、常に高品質な施工を実現できます。実際、GPSマシンガイダンス導入により重機の作業精度は2~3cmの公差に収まり、オペレーターの技能に左右されない安定した造成が可能になったとの報告もあります。さらに機械自体が設計面との差異を把握して動くため、従来必要だった丁張設置や確認測量の回数が削減され、測量・手直し作業の大幅な省力化とコスト節減につながります。
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出来形管理の精度向上: 出来形管理とは、施工完了後の構造物や土地の形状・寸法が設計通りか確認する工程(土工では盛土・切土の仕上がり形状の検測など)です。RTKの導入により、この出来形計測が格段に効率化・高度化されています。従来、出来形を測るには現場監督や測量士がトータルステーションやレベルを使い、複数人体制で多数のポイントの高さを一つ一つ計測していました。RTK対応GNSS測量では、受信機を持って現地を歩き回るだけで面的な出来形データを取得できます。例えば盛土の天端を歩行しながら連続測位すれば、面全体の高さ分布を短時間で記録でき、後で設計3Dデータと照合して過不足を確認できます。国交省の実証でも、RTK-GNSS測量機を用いることで人力での点測量が不要になり、出来形管理に要する日数を大幅短縮できたと報告されています。
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また得られた点群データから体積計算や断面図作成も容易に行えるため、従来より綿密で信頼性の高い出来形記録が残せます。さらにRTKを使えば施工中の出来形を随時チェックできるため、やり直しや手直しが発生する前に対処でき、品質の確保にも寄与します。最近では現場監督者がタブレット端末にRTK受信機を搭載し、その場で構造物の出来形を測定・クラウドの施工管理システムにアップロードするといったリアルタイム管理も実現しつつあります。このようにRTK活用によって現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、効率化・省人化と品質向上の両立が可能になってきています。
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省人化と作業時間の短縮: 上記のような重機誘導・出来形計測の自動化により、現場の必要人員や作業時間が大幅に削減できます。重機のマシンコントロールではオペレーター1人で正確な敷均しが行えるため、後工程の測量員が随伴して高さを確認したり、仕上がりをチェックする手間が減ります。測量作業自体も、RTK測位なら1人でGNSSローバーを持ち歩けば済むため、「1人測量」が実現します。実際にRTK導入で従来は3人がかりだった測量が1人で完結した事例もあります。人員削減はそのまま人件費の節約につながり、加えて測量機器や重機の稼働時間短縮による燃料・リース費の低減効果も期待できます。また、少人数で作業できれば現場の密集度が下がり重機周辺の安全性向上にも寄与します。近年は建設業界の人手不足が深刻化していますが、RTKを含むICT施工技術の活用は限られた人員でも生産性を維持・向上する切り札となっています。
以上のように、RTKは「高精度」「リアルタイム」「省力化」という特長をもって建設現場にもたらすメリットが非常に大きいのです。それでは実際にRTKを導入した現場がどのような成果を上げているのか、具体的な事例を見てみましょう。
【導入事例】RTKによる重機誘導・出来形管理の成功例
ここでは、RTK技術を活用して施工の効率化・高度化を実現した3つの事例を紹介します。大規模プロジェクトから中小企業の取り組みまで、幅広いケースでRTKが有効に機能していることがわかります。
事例①: 高速道路工事におけるRTK活用
ある高速道路の新設工事では、大規模な盛土・路盤整形作業にRTKを導入しました。施工会社はブルドーザとモーターグレーダーにGNSSマシンコントロールシステムを搭載し、設計モデルをもとに重機が自動で路面高を調整できるようにしました。その結果、従来は測量班が毎日行っていた丁張設置や出来形確認作業が大幅に削減され、測量作業量は約50%減少しました。また仕上がり精度が飛躍的に向上し、再施工や過剰な盛土の発生が抑えられたため、材料コストの削減にもつながりました。高速道路工事のように延長が長い現場でも、基準局を設置すれば区間内のどこでも安定してセンチ精度が得られるため、複数箇所で同時に作業を進め生産性を上げることができました。発注者である高速道路会社も出来形データを電子的に受け取り品質検査に活用でき、発注者・受注者双方にメリットが生まれた成功例です。
事例②: ゼネコン現場でのRTK導入による生産性向上
国内大手ゼネコンのあるダム建設現場では、山間部の厳しい環境下での測量・施工管理にRTKを活用しました。施工エリアに自前の基準局を設置し、測量チームはタブレット型ローバーで現場を巡回して地形測量や出来形チェックを実施しました。これにより従来2日かかっていた範囲の出来形測定が半日で完了し、測量結果も即日クラウドにアップして関係者間で共有できるようになりました。また重機には3Dマシンガイダンスを導入し、オペレーターはモニターに表示される案内に従って掘削や盛土を進めることで常に設計通りの形状を維持。施工精度のばらつきが減り、盛土の過不足量が約30%減少するとともに、現場監督が重機周辺で高さを指示する必要も減って安全性も向上しました。現場を統括する所長は「RTKを核としたICT施工により、生産性が飛躍的に向上し、予定工期を短縮できた」とコメントしており、大規模プロジェクトでのRTK有用性を示す事例となっています。
事例③: 中小土木企業でのRTK適用事例
地方の中小土木施工業者であるA社は、限られた人員でも精密な測量・施工管理を行うためにRTKシステムを導入しました。専任の測量技術者がいない同社でも扱いやすいよう、オールインワン型の小型RTK受信機LRTKを採用。これを既存のスマートフォンに取り付け、独自に基準局を設置せずに国土地理院の電子基準点ネットワークを利用することで初期投資を抑えました。A社ではLRTKを用いて現場の基準点測設や出来形管理を自社内製化し、以前は外部の測量会社に依頼していた工程を自社スタッフ1~2名でこなせるようになりました。例えば小規模な造成工事では、LRTKローバーで施工前後の地盤高を測量し体積を算出する作業を施工管理担当者自ら実施し、外注コストと日程調整の手間を削減しました。測位誤差数cmのデータをリアルタイムに取得できるため、その場で設計図面と照合して即座に施工の良否を判断でき、手戻りも減少しました。社長のB氏は「経験の浅い社員でもRTK測量で正確に仕事ができるようになり、品質への信頼性が増した。当社規模でも十分に投資する価値があった」と述べており、中小企業にとってもRTKが身近で効果的な技術になっていることを示しています。
RTK導入のための具体的なステップ
RTK技術の導入に興味を持たれた方に向けて、現場でRTK測位を活用するための基本的なステップを説明します。必要な機材の準備から運用上のポイントまで、順を追って確認しましょう。
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GNSS受信機と基地局の準備: まずRTK測位には、<u>基準局</u>と<u>移動局</u>の2台のGNSS受信機が必要です。市販のRTK対応GNSS受信機には様々なタイプがありますが、建設現場で使う場合は耐久性や操作性を考慮して選定します。自社で基準局を設置する場合、基準局用の受信機を据え付け三脚などで固定し、正確な設置座標を設定します(既知点がない場合は長時間観測して平均値を求めるか、公共基準点から測量で求めます)。一方、移動局は測量スタッフが持ち運ぶローバー機や重機搭載用のアンテナとなります。最近ではスマートフォンやタブレットと連携できる小型軽量のRTKデバイス(後述のLRTKなど)も登場しており、専門の測量機器がなくても手軽に基準局・ローバー局を構成可能です。
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通信手段の確保: 基準局が計算した補正情報を移動局に届けるための通信手段を用意します。代表的には無線機を使う方法と、インターネットを介する方法(Ntrip利用など)があります。無線の場合、現場に専用のUHFデジタル無線機を設置し、見通し範囲内の移動局に一斉送信します。複数台のローバーがあっても同じ周波数の電波を受信できれば同時に測位可能で、遅延も極めて小さい利点があります。ただし電波の届く範囲は数km程度で障害物に弱いため、山間部では中継器の設置なども検討します。一方、ネットワーク型RTKでは携帯通信網を利用し、補正データをインターネット経由で配信します。この場合、移動局側はモバイルルーターやスマホのテザリング等でネット接続し、Ntripクライアントとして補正情報を受信します。インフラの整った都市部では手軽な方法ですが、電波が届かない現場ではローカル無線方式の方が確実です。自社で基地局を設置せずに済むVRS方式(仮想基準点)サービスを活用する手もあります。これは地域の電子基準点網から補正データ提供を受けるもので、ソフトバンク「ichimill」のように全国に基地局網を持つサービスも存在します。現場の状況やコストに応じて適切な通信・補正手段を選択しましょう。
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測位システムの設定と検証: 基準局・移動局・通信が揃ったら、実際にRTK測位を開始します。移動局側の機器(コントローラやアプリ)で基準局からの補正を受信する設定を行い、FIX解が得られるか確認します。初めは衛星捕捉やデータ受信に1~2分かかる場合がありますが、一度固定解(Fix)になれば継続的に高精度測位が可能です。既知の点で正しく測位できているか検証し、数cm以内の誤差に収まっていることを確認します。必要に応じて測定値と従来測量との誤差を較正し、システム全体の精度を把握しておきます。また重機に搭載する場合は、車両の振動や姿勢変化による影響を補正するためのジャイロ・傾斜センサーのキャリブレーションも行います。
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運用とデータ活用: RTKシステムの運用中は、常に衛星受信状態と補正情報の受信状態を監視します。トンネルや高架下など衛星が捉えられない場所に入るとRTK測位は途切れますので、そうした場面ではトータルステーションやレベルなど他の測量法に切り替える必要があります。また天候や電離層の影響で一時的に精度が落ちることもあるため、機器の表示する精度指標やFIX/Floatステータスに留意します。得られた座標データは、設計図面やBIM/CIMモデルと照合して活用します。例えば施工中であれば、設計3Dモデル上で現在の出来形点群を確認し、過不足を判断します。施工完了時には測定データを電子納品用の出来形成果としてまとめます。最近はクラウド上で出来形点群データを管理し、発注者と共有して検査を省力化する取り組みも進んでいます。
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導入時の注意点: RTK導入にあたっては、初期コストと運用教育にも配慮しましょう。GNSS受信機や無線機の購入・レンタル費用がかかりますが、先進事例では投資回収以上の効率化効果が報告されています。また高度な機器でも現場の作業員が使いこなせなければ宝の持ち腐れです。最初に導入する際はメーカーや測量会社の協力を仰ぎ、現場スタッフへのトレーニングや試行期間を設けると安心です。基準局の据え付け場所にも注意が必要で、衛星視界が開け電波干渉の少ない安定した場所を選定します。さらに、万一RTKが使えない状況(通信断や装置不調)が発生した場合のバックアップ手段も検討しておきます。例えば重要な基準点はトータルステーションで観測しておき、RTK測位結果とクロスチェックする、あるいはIMU(慣性計測装置)と組み合わせて短時間なら自律航法で測位を維持する等です。これらの対策を講じておけば、RTKの利点を最大限活かしつつリスクを低減して運用できます。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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