衛星数が少ないとどうなる?
RTK測位の限界と成功率向上策

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2025年3月3日 掲載

RTK測位とは?
RTK(リアルタイムキネマティック)測位とは、GNSS(全球測位衛星システム)を利用してリアルタイムにセンチメートル級の精度で位置を測定する技術です。通常のGPS単独測位では誤差が数メートル程度発生しますが、RTKでは基準局(ベース)と移動局(ローバー)という2台のGNSS受信機を同時に使い、両者の観測データの差分を利用して誤差要因を打ち消すことで、高精度な測位を実現します。基準局は既知の正確な座標に設置された受信機で、自身が受信した衛星信号と実際の位置との差から補正情報を生成し、無線やインターネットを通じて移動局に送信します。移動局は補正情報を受け取り、自分が受信している衛星信号にその補正を適用することで、リアルタイムに高精度な位置座標を求めることができます。こうしたRTK測位により、従来のGPSでは難しかった数センチの精密測位が可能となり、土木測量やドローン航行、建設機械のマシンガイダンスなど幅広い分野で活用が進んでいます。
GPS測位との違い: RTK測位と通常のGPS測位(単独測位)の大きな違いは、その精度と仕組みにあります。GPS単独測位は1台の受信機で複数の衛星からの信号を受信し、自分の位置を計算しますが、電波の伝搬による遅延や衛星軌道・時計誤差などの影響で数mの誤差が生じます。一方RTKでは上記のように相対測位(差分測位)を行うため、共通の誤差要因(衛星の軌道誤差、時計誤差、電離層・対流圏による遅延など)を相殺でき、結果として数cm以内の誤差に抑えられます。つまり、RTKは2台の受信機と通信による補正情報のやり取りによってGPS測位の精度を飛躍的に高めている点が特徴です。
衛星数が少ないとRTK測位に何が起こるのか?
RTK測位を成功させるには、十分な数のGNSS衛星からの信号を安定して受信し続ける必要があります。しかし都市部や山間部では、建物や地形によって空が遮られ、受信できる衛星の数が少なくなることがあります。衛星数が不足したり観測条件が悪化すると、RTK測位には次のような問題が生じます。
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都市部での衛星視野の制限: 高層ビルが立ち並ぶ都市の谷間(いわゆる「ビル谷間」)では、空の一部しか見通せずGPS衛星が十分に捉えられません。GNSS測位には最低4機の衛星が必要ですが、安定した高精度測位のためには8機以上の衛星を同時に捕捉することが望ましいとされています。視界が狭まると必要最低限の4機すら受信できない場合もあり、その場合はRTKどころか通常の位置測定も困難になります。また4機ギリギリでは観測幾何が悪く(後述)、RTKの固定解(Fix解)が得られにくくなります。一般にRTK測位でセンチ級精度を得るには、測位に使える衛星が5~6機以上必要で、少ないと解が不安定になったり浮遊解(Float解)止まりになるリスクが高まります。
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マルチパス現象による誤差: 都市部ではビルの壁面やガラスに衛星信号が反射して受信機に届くマルチパス(多重経路)現象が頻発します。これは衛星からの電波が直接届く経路の他に、周囲の構造物で反射して迂回して届く経路が生じる現象で、受信機では本来1つの衛星からの信号が複数の経路で届くために測距に誤差が生じます。反射波は遠回りして到達する分だけ遅延が大きく、直接波と合成されることで擬似距離の測定値をずらしてしまいます。その結果、RTKの解にも誤差が混入し、最悪の場合は衛星からの直接信号が遮られて反射波しか受信できないNLOS(非直視)状態となり、位置が大きく狂ったり測位自体ができなくなることもあります。高層ビル街ではこのマルチパスやNLOSがRTK測位精度を低下させる大きな要因です。
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衛星幾何(ジオメトリ)の影響: 受信できる衛星の配置(空での位置関係)もRTK精度に影響します。たとえ衛星の数自体は十分でも、空の一方向に偏って配置されていたり、高度の低い衛星ばかりだと測位の幾何強度が悪化します。一般に衛星が空全体にバランスよく分布しているほど測位精度は良く、逆に衛星が集中しているとDOP(精度劣化因子)値が大きくなり位置誤差が増大します。都市部では視界の限られた範囲に見える数少ない衛星に頼るため、この衛星配置が偏りやすく、特に高さ方向の精度が悪くなる傾向があります(全ての衛星が地平線より上にあるため、垂直精度は水平より約1.5倍劣るとも言われます)。衛星数の不足と幾何の悪さが重なると、RTKの解は安定せず大きな誤差を含む可能性が高まります。
以上のように、衛星の視認数が少ない状況ではRTK測位の成功率(Fix解を得られる率)が著しく低下します。ビル街などでは時間帯や場所によってはFix解を得られず精度が落ちることもしばしばで、RTKの限界として認識しておくべきポイントです。
3. RTK測位の成功率を上げるための解決策
衛星数の不足や都市環境特有の誤差要因によりRTK測位が不安定になる場合でも、いくつかの工夫や対策によって成功率を向上させることが可能です。ここでは、現場でRTK測位の精度・信頼性を高めるための代表的な解決策を紹介します。
追加アンテナの配置方法
まずはアンテナの設置環境を改善することが基本です。周囲に高い建物や樹木がある現場では、受信アンテナの位置を工夫してできるだけひらけた空が見通せる場所に移動するようにします。
例えば、建物に囲まれた路上で測位する場合でも、交差点付近やビルの谷間が開けたポイントにアンテナを移せば見通せる衛星数が増える可能性があります。またアンテナポールを延長して高所に設置するのも有効です。障害物からアンテナを離すことでマルチパスや遮蔽の影響を減らし、安定した信号受信が期待できます。
必要であれば現場に簡易の基準局アンテナを追加で設置し、中継局やローバーとの距離を短く保つ工夫も考えられます(狭いエリアなら高所に置いた基準局1台で複数の移動局をカバーできます)。ポイントは、「空が見える範囲」を最大化することです。アンテナ周囲360度、仰角マスク(後述)以上の空間にできるだけ遮るものがないよう配置することで、受信衛星数と信号の質が向上し、RTKのFix取得率アップにつながります。
仰角マスク設定とは?
仰角マスクとは、地平線に対する衛星の高さ角度(仰角)が一定未満のものを測位に使わないようにする設定です。低仰角の衛星は大気圏を長い距離通過するため信号が劣化しやすく、また建物や地表面での反射も受けやすいため誤差の原因になりがちです。そこで一般的に測量用GNSS受信機では、例えば仰角15度以下の衛星は除外する、といったマスク角度を設けます。
これにより質の悪い信号を排除し、残った高仰角の衛星だけで安定した測位計算を行います。仰角マスクを適切に設定すると、マルチパスによる誤差やノイズの影響を低減できるため、結果的にRTKの精度向上とFix率アップに寄与します。ただしマスクを上げすぎると利用衛星数自体が減ってしまうため注意が必要です。現場環境に応じて最適なマスク角(一般には10~15°程度が推奨)を設定しましょう。
ネットワークRTK(VRS)の活用
ネットワーク型RTK(補正サービス)を利用するのも有効な手段です。ネットワークRTKとは、国や民間事業者が整備した複数の基準局ネットワークから生成される補正情報サービスをインターネット経由で利用し、移動局単独で高精度測位を行う方式です。
簡単に言えば、自前で基準局を設置しなくても、周辺にある既設の基準局群のデータを元にした補正情報(VRS=仮想基準点方式など)を受け取ることでRTK測位が可能になります
。都市部では無線で手元の基準局から補正送信するよりも、携帯回線でネット経由の補正を受けた方が電波遮蔽のリスクが低く安定します。またネットワーク型は複数の基準点データを組み合わせているため、長距離でも精度が維持しやすい利点があります。
日本でも国土地理院の電子基準点網や民間の補正サービス(NTTドコモのGNSS補強サービス、ソフトバンクの「ichimill」等)が提供されており、都市部の現場でも手軽に利用できます。ネットワークRTKを活用することで、現場ごとに基準局機材を設置・運搬する手間を省きつつ、常に適切な補正情報を得て測位成功率を向上させることができます。
※ネットワークRTKでは、複数基準局データを使うことで電離層誤差などの広域誤差補正精度が向上し、基準局との距離が離れても精度低下を抑制できます。
【業界別活用事例】都市部の測量・インフラ管理でのRTKの導入事例
RTK測位の技術は、建設・インフラ業界でも実務に応用が広がっています。ここではゼネコンや土木会社、鉄道・道路などインフラ維持管理の現場でのRTK導入事例を紹介し、その効果に触れます。
ゼネコン・中小土木の施工現場でのRTK活用
建設業界では、従来はトータルステーションやレベルといった光学測量機器で行っていた作業の一部をRTK-GNSSに置き換える動きがあります。例えば、土木施工現場での出来形管理(完成した構造物が設計通りか測定する作業)では、広範囲の高さや位置を短時間で測れるRTK測量が威力を発揮します。測量員がローバー受信機を持って現場を歩き回り、各点の座標を即座に取得していけば、従来の水準測量より大幅に効率化できます。また、基準局1台に対し複数の作業員が各自ローバーを持って同時並行で測量を進めることも可能なので、大規模な造成現場でも作業時間の短縮につながります。
中小規模の土木業者でも、近年は安価で手軽なRTK機器が出てきたことで導入が進んでおり、丁張りの設置や杭打ち(墨出し)などでRTKを用いて迅速に基準出しを行うケースが増えています。さらに、掘削量や盛土量をリアルタイムで把握するために重機にGNSSローバーを搭載するマシンガイダンス・マシンコントロールも一般化しつつあり、現場の生産性向上に寄与しています。都市部の建設現場では高層ビルや高架の影響でGNSSが使いにくい場合もありますが、上記の対策(アンテナ設置場所の工夫やネットワークRTK活用)により克服し、着実にRTKの活用範囲が広がっています。
鉄道・高速道路インフラメンテナンスでの事例
鉄道や高速道路など線状インフラの維持管理業務でもRTK測位の導入が進んでいます。例えば鉄道会社では、定期的な軌道検測においてRTKを搭載した移動型の計測システムを導入し、路線の歪みや沈下を高精度にモニタリングする試みがあります。従来は長い路線上の基準点測量に多大な手間がかかっていましたが、RTK-GNSSを使えば走行しながらでも連続的に地上高や位置を記録でき、効率的に異常個所を発見できます。また高速道路のメンテナンスでは、橋梁やトンネルの変位計測にRTKが利用されています。橋の上下変動や路面の沈下量を定点に設置したRTK受信機で測り、経年変化をセンチ単位で追跡することで、早期の補修計画に役立てています。
さらに、道路附属物(標識柱や照明塔など)のGISデータベース構築でも、RTKを用いて正確な座標で資産情報を登録する事例があります。都市インフラ管理では地点数が膨大ですが、ネットワーク型RTKサービスを活用したハンディGNSS端末で担当者が巡回しながら即座に測位・記録することで、従来の測量班を動員する手間を省きつつデータ精度を確保できます。これら鉄道・道路分野の現場でも、GPS受信環境には課題がありますが、準天頂衛星みちびき(高仰角衛星)やGLONASSの併用により衛星可視数を増やす工夫をすることで、都市部でも安定したRTK測位運用が実現されています。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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