地震や豪雨などの大規模災害が発生すると、通信インフラの途絶や電源喪失により、位置情報の把握が困難になるケースがあります。しかし、被災状況の正確な把握や迅速な復旧計画の立案には、現地の高精度な位置記録が欠かせません。そこで注目されるのが、日本の準天頂衛星システム(みちびき)です。準天頂衛星は、通信が途絶した状況下でも測位を維持し、センチメー トル級の精度で位置を記録できる強力な手段を提供します。本記事では、準天頂衛星とは何か、災害時にどのように役立つのか、その仕組みや現場活用方法について詳しく解説します。自治体職員や測量士、防災担当者の方々に向けて、災害対応の現場で活きる高精度測位の最新事情と、平時から活用できるポイントをご紹介します。
準天頂衛星とは何か?災害時になぜ強いのか
準天頂衛星システム(英語名: QZSS、愛称: みちびき)は、日本が独自に運用する衛星測位システムです。その最大の特徴は、「準天頂」と呼ばれる特殊な軌道を採用している点にあります。衛星が日本のほぼ真上(天頂付近)に長時間留まるよう設計されており、山間部やビル街でも天頂に近い高い仰角で電波を捉えやすくなります。そのため、従来のGPSだけでは衛星を捕捉しにくかった場所でも、みちびきが上空に存在することで安定して測位できる環境が整います。現在は4機体制で日本全国をカバーしており、将来的には7機体制へ拡充される予定です(2025年前後にみちびき単独での測位も可能になる見込み)。GPSを補完・強化するこの仕組みにより、通常は数メートルあった測位誤差が飛躍的に改善され、条件次第では数センチまで精度を高めることもできます。このように常に日本のほぼ真上に衛星を確保できる準天頂衛星システムは、災害時にも威力を発揮します。たとえば地震で地形が変化した直後でも、みちびきが上空にいることで必要な衛星数が確保され、余震で周辺環境が変わっても測位が途切れにくくなります。日本専用に設計されたみちびきは、非常時における測位の可用性を飛躍的に高める土台となっているのです。
通信遮断下でも高精度測位を可能にする衛星補正の仕組み(CLAS)
通常、数センチの精度で位置を測定するためには、近傍に基準局を置いてGNSSの誤差を補正するRTK測位が用いられます。しかしRTKでは常に基地局から補正情報を送り続ける必要があり、基地局が使えない環境では高精度測位が成立しません。従来は、現地に無線で送信する自前の基地局を設置するか、インターネット経由で国や民間の基準局ネットワーク(電子基準点やVRSサービス)から補正データを取得する方法に頼ってきました。ところが、大規模災害でこれら通信インフラが寸断された場合、リアルタイムの精密測位は諦めざるを得ないのが実情でした。
この課題を解決するため登場したのが、みちびきの提供するセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)です。CLASは日本全国を対象に準天頂衛星から配信される高精度補正情報で、ユーザーは対応受信機で衛星から直接この補正信号(L6波)を受信し、自身の測位に適用することでリアルタイムにセンチメートル級の精度を得ることができます。平たく言えば「衛星経由のRTK補正情報放送」であり、国が整備する電子基準点網のデータを上空から届ける仕組みです。この画期的なサービスにより、ユーザーは自前の基地局を用意する必要がなく、さらに補正情報取得のための通信回線も不要となりました。上空のみちびき衛星から補正データが直接降ってくるイメージで、たとえ携帯電話の電波が圏外でも高精度測位を継続できます。実際、2023年の能登半島地震では被災地域で携帯通信が遮断される中、CLAS対応の測位端末が現地測量に大きな威力を発揮しました。みちびきCLASは非常時のバックアップとして、どこでも・誰でも使える高精度測位インフラを提供しているのです。
なお、CLASを利用するには対応したGNSS受信機が必要 で、一般的なスマートフォン内蔵のGPSチップではL6信号を受信できません。しかし近年、スマホと連携できる小型のCLAS対応受信機が各社から登場しており、高価な据置型の機材を用意しなくても手軽にセンチメートル級測位を現場に導入できるようになっています。
従来RTKとの比較: 自己完結型測位の強み
従来の通信依存型RTK(基地局や携帯網を必要とする方式)と、準天頂衛星CLASを用いた自己完結型測位の主な違いは次の通りです:
• 通信インフラへの依存度: 従来RTKはインターネット接続や無線通信が不可欠なのに対し、CLAS利用では衛星から直接補正情報を受信するため通信回線が不要です。山間部や通信途絶時でも測位が可能になります。
• 基地局の要否: 従来RTKではユーザー自身が基準局を設置するか、外部の基準局サービスを利用する必要があります。一 方、CLASではユーザー側で基地局を用意する必要がなく、受信機単体で完結します。
• 測位可能範囲: ローカルRTKは基地局から離れると精度が低下する制約がありますが、CLASは日本全国でほぼ均一の精度を提供します。離島や沖合でも同様に高精度が得られます。
• コスト: ネットワーク型RTKを利用する場合、民間サービス利用料など月額費用が発生しますが、CLASは公的サービスとして無料提供されており、利用料金はかかりません。高額な機材購入やランニングコストを抑えられるため、小規模な自治体や企業でも導入しやすい仕組みです。
• 災害時の強靱性: 大規模災害で基地局が故障したり通信が遮断された場合、従来RTKは機能不全に陥ります。これに対し、CLAS対応機器であれば衛星さえ見通せれば単独で補正信号を受信できるため、被災直後から継続してcm級測位を維持できます。この自己完結性こそが、災害時に測位を「途切れさせない」最大の強みです。
被災現場で求められる位置記録: 「どこで・いつ・どれだけ」を把握
大規模災害の対応では、「どこで何が起きたか」を正確に記録することが最初の課題です。道路の寸断箇所、崖崩れの発生地点、浸水範囲など、被害の場所を正しく特定できなければ、救助や復旧の優先順位を立てることも困難になります。また、「いつ発生し、どれだけの規模か」という情報も重要です。同じ崖崩れでも、発災直後なのかその後の雨で拡大したのか、どの程度の土砂が崩れたのかによって、取るべき対策や必要な資材が変わります。これらを現地で把握するには、位置と時間、規模のデータをセットで確実に残すことが欠かせません。
従来、現場では紙の地図に被害箇所をマーキングしたり、写真に手書きで位置をメモする方法が取られてきました。しかし情報が錯綜する状況では記録漏れや場所の取り違えが起こりがちで、後の集約作業に混乱を招く恐れがあります。高精度な位置記録をデジタルデータとして残しておけば、こうしたヒューマンエラーを大幅に減らし、確かな情報に基づいて意思決定できるようになります。
さらに、災害対応では複数の班や機関が同時に動きます。「誰がどこにいたか」という位置の履歴を残しておけば、どのエリアを誰が調査済みか一目で分かり、対応漏れや二重調査を防げます。被災直後の混乱時でも、各担当者が高精度な位置記録を残して共有することで、全員が共通の地図を頼りに状況を把握できるようになります。位置情報の記録は、単なるメモではなく、災害対応の現場で意思決定を支える基本データなのです。
避難所・緊急拠点・被害現場での高精度測位活用
高精度測位は、被災地のあらゆる場所で役立ちます。たとえば避難所や臨時の緊急拠点が開設された場合、その正確な位置を測定して記録しておけば、地図上で避難者支援のルートや物資輸送計画を立てる際に確実な拠り所となります。住所標識や道路標示が被災で失われていても、衛星測位による座標が分かれば、救援部隊や他地域からの応援チームにも場所を正確に伝えられます。災害対応では「勘頼み」や伝聞ではなく、客観的な位置データに基づいて行動することが求められるため、避難所や指揮所の位置情報を正しく共有することは非常に重要で す。
また、被害を受けた現場では高精度測位が状況把握と情報共有に威力を発揮します。倒壊した建物の位置、寸断された道路の区間、崩落した斜面の範囲などをCLAS対応機器で測定すれば、その場で正確な座標付きの記録が得られます。測定結果は写真やメモとともにデジタルデータとして保存できるため、後から見返しても「どの地点のデータか」が明確です。このデータを関係者と共有すれば、離れた本部にいながら被害状況を地図上で直感的に把握できます。例えば、被災現場で撮影した写真に高精度な緯度経度とカメラの向きがタグ付けされていれば、本部では「どこを向いた写真か」を正確に理解でき、報告漏れや誤解を防げます。複数の被害地点をチームが分担して調査した場合でも、全地点の測位データが地図上に統合されれば、被害の全体像や分布を迅速に掴むことが可能です。現場で測ってすぐ共有することで、災害対応のスピードと精度は格段に向上します。仮に被災現場で通信手段が確保できない場合でも、記録したデータは後ほど電波が通じる地点から一括共有できます。衛星測位で蓄積した情報は時間が経っても精度が損なわれないため、現地離脱後に落ち着いてデータを整理・発信できるという安心感も得られます。
LRTKで誰でもできる簡易測位・記録・AR・共有
LRTK(エルアールティーケー)は、スマートフォンやタブレットに装着して利用できる小型の高精度GNSS受信機です。これをスマホの背面に取り付けて専用アプリを起動すれば、現場ですぐにセンチメートル級測位が始められます。特別な設定や専門知識は不要で、直感的な操作で誰でも扱えるよう設計されています。LRTKは前述のCLASに対応しているため、携帯圏外でも単独で高精度測位が可能です。わずか数百グラムの小型端末をポケットに入れて持ち運べ、手軽にスマホ測量が実現できます。
このようなスマホ+準天頂衛星測位の組み合わせにより、従来は熟練の測量員に頼らざるを得なかった作業も現場の誰もがこなせるようになります。例えば、専用の伸縮式モノポッド(一脚)にスマホを取り付ければ、一人で地面の高さを測ったり、離れた場所の座標を安全な位置から測定することも簡単です。危険な被災現場に大人数が立ち入る必要がなくなり、一人でも安全・迅速に測量と記録が行えます。また、LRTKアプリにはAR(拡張現実)表示の機能も備わっており、設計図や事前に用意した3Dモデル を現場の風景に重ねて表示できます。例えば、崩落した護岸の復旧工事で設計形状のモデルをARで投影し、現況とのズレを現地で確認するといったことも可能です。復旧作業中に「本来あるべき位置」と「現在の位置」をその場で視覚的に比較できるため、ミスの防止や品質管理にも役立ちます。
さらに、LRTKシステムはクラウド連携により測位データや写真の即時共有ができます。測ったポイントや撮影した高精度写真は、そのままクラウドにアップロードしてチーム全員で閲覧可能です。これにより、現地と本部が常に最新の情報を同期しながら、効率的に連携できます。以上のようにLRTKを活用すれば、災害現場で「測る」「記録する」「伝える」といった一連のプロセスを誰もが簡単に実行できるようになり、初動対応から復旧作業までを強力に支援します。
災害対応フェーズ別の活用例(初動~復旧まで)
• 災害発生直後(初動対応): 発災から間もない段階では、人命救助と被害状況の把握が最優先です。LRTKを用いれば、余震や悪天候 で危険な現場にも最小限の人数で立ち入り、高精度に被害箇所を測定できます。崩壊した斜面の規模を点群スキャンで即座に把握して必要な重機の台数を見積もったり、寸断された道路の長さや位置を測って応急ルートの候補を検討したりと、刻一刻を争う初動期において貴重な判断材料を素早く集められます。通信インフラが無くても測位データを記録できるため、山間部や孤立集落でも確実に現地情報を持ち帰ることができます。
• 応急復旧の段階: 次に、一時的な補修や復旧作業が始まる段階では、被害を抑えるための仮設工事や二次災害防止措置が行われます。高精度測位は、仮設の道路や橋梁を敷設する際にも威力を発揮します。例えば、迂回路となる仮設道路の敷設では、LRTKで現地の地形を測りながら最適なルートを策定できます。また、崩れた護岸に土嚢や応急的な補強を施す場合も、所定の高さや厚みを確保できているかその場で測定して確認できます。作業の合間に測ったデータをクラウドで共有すれば、本部で専門家がアドバイスすることも可能になり、限られた人員でも質の高い応急対応が行えます。
• 本復旧・再建フェーズ: 最後に、本格的な復旧工事や再建が行われる段階です。被災前の状態にインフラや建造物を戻すには、精密な測量と 設計へのフィードバックが欠かせません。LRTKを使えば、失われた基準点の再測や新たな設計用の測量を迅速に実施できます。工事中も、出来形(完成した形状)の計測を随時行って設計図とのずれを確認したり、ARで現場に設計モデルを重ねて施工精度をその場でチェックしたりと、品質管理に役立ちます。こうしたデータは全て時系列で保存されるため、復旧後の検証や報告書作成にも威力を発揮します。復興の最終段階まで、高精度測位ツールが現場を支えていきます。
平時からの活用と備え
災害時に威力を発揮する高精度測位ツールですが、真の効果を得るには平時からの活用が鍵となります。日頃からスマホ測量やCLAS対応機器を使いこなしておけば、いざという時にも戸惑うことなく現場で運用できるでしょう。幸い、こうした高精度測位技術は災害対応だけでなく日常の測量・点検業務でも大いに役立ちます。たとえば道路や河川の定期点検で寸法や変位を記録したり、小規模な工事での出来形確認にスマホ測量を活用したりすることで、普段から作業の効率化とデジタル化を進めることができます。そうした取り組み自体が、防災DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として注目されています。
さらに、平時に重要インフラや地形を高精度に測定・記録しておけば、災害発生後にビフォー・アフターを比較することで被害の程度を定量的に把握できます。例えば堤防や橋脚の高さを事前に点検測量しておけば、地震や洪水の後にどれだけ沈下・変形したかを即座に割り出せます。このように事前のデータ蓄積は、被災箇所の見落とし防止や迅速な復旧計画立案にも役立ちます。
実際に、福井市など先進的な自治体では、スマートフォンを活用した高精度測位システムを防災分野に導入し、初動対応の迅速化や測量コスト削減に成果を上げています。平常時の維持管理業務にもLRTKを取り入れ、職員が日頃から高精度測位に親しんでいるケースもあります。また、国の防災関係機関もスマホを用いた測位技術に注目しており、総務省や国土交通省の事例集で災害現場での活用成果が紹介されつつあります。こうした流れを受けて、平時から「誰でも測れる」体制を整えておくことが、組織の備えとして重要になってきています。高精度測位ツールは特別なものではなく、普段の業務の延長線上にある道具として定着させておくことが、いざという時の強みになるのです。
おわりに
準天頂衛星「みちびき」がもたらす高精度測位インフラと、それを現場で活かすLRTKのような技術によって、災害時の情報収集と復旧が大きく前進しつつあります。「測位が途切れない」環境を手にすることは、被災状況の把握から復旧工事の品質管理まで、あらゆるフェーズでの意思決定を支える基盤となります。さらに、みちびきは今後7機体制への増強やCLASサービスの高度化が予定されており、測位精度と信頼性は一層向上していく見込みです。技術の進歩により、将来的にはより広範な場面で「測位が決して途切れない」安心感を得られるでしょう。
平常時からこれらの技術を活用し、人材育成や体制整備を進めておけば、非常時にも落ち着いて対応できるはずです。ぜひこの機会に、準天頂衛星を活用したスマート測位の導入を検討してみてください。それが、未来の災害に備える一歩となるはずです。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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