鉄道の信号機や架線柱、ケーブル類などの鉄道設備を設置・施工する現場では、正確な位置出し作業が不可欠です。しかし現在、この位置出し作業は人手不足や夜間作業による制約、熟練技術者への依存など様々な課題に直面しています。本記事では、こうした課題を解決するためのソリューションとして高精度GNSS(RTK)とAR(拡張現実)による施工支援に注目します。スマートフォンと小型GNSS端末を組み合わせた最新技術を活用し、現場での位置出しを効率化・高精度化する取り組みを、具体例や導入事例を交えて解説します。
鉄道設備施工現場の位置出し作業における課題
鉄道設備の施工現場では、信号機や電柱の設置位置を決める「墨出し」「位置出し」作業に高度な精度が要求されます。数センチの誤差でも列車の安全や設備機能に影響を与えるため、慎重な測量・墨出しが欠かせません。ところが、従来の測量手法にはいくつかの課題がありました。
• 人手不足と熟練者依存: 従来の墨出しは2人1組でトータルステーションや巻尺を使って行うのが一般的で、経験豊富な技術者に頼る場面が多々ありました。しかし鉄道業界でも高齢化と若手不足による人材難が深刻化しており、現場では必要な人員確保が難しくなっています。ある保線会社では10年間で作業員が23%減少し、若手が定着しない例も報告されています。一方で現場を監督する社員の4分の1が55歳以上という年齢構成の歪みもあり、不慣れな若手が現場を率いざるを得ない状況も生じています。このように熟練者の技術に依存した体制では、人材不足の中で技術継承や品質確保に不安が残ります。
• 夜間作業と時間制約: 鉄道設備の工事は列車の運行停止中の夜間に行われることが多く、終電後から始発前までの限られた数時間で作業を完了させねばなりません。例えばとある現場では「21時資材搬入、22時工事開始、翌3時30分に測量・位置確認、5時30分までに完全復旧」というタイトな工程で施工が進められています。この短時間で正確な位置出しを行うには相当の準備と段取りが必要で、暗闇での作業は視認性が低く墨出しひとつとっても困難が伴います。夜間の照明下で微細な墨線や杭を正確に確認するのは難しく、ミスややり直しのリスクも高まります。
• 測量作業の負担とヒューマンエラー: 従来の手作業測量では、トータルステーションの据え直しや巻尺での距離測定など手間と時間がかかりました。広い構内で測点が多い場合は機材を何度も移動・再設置する必要があり、作業員の肉体的負担も大きくなります。また、人力による位置出しではヒューマンエラーも避けられません。読み違いや書き間違いで基準から数 センチずれた位置に墨出ししてしまうと、構造物全体の位置ズレにつながり、後で手戻り工事が発生する恐れがあります。例えば高さ基準の墨が消えて再測定になったり、図面上5m03cmのところを5m08cmと書き間違えれば、完成後に修正工事が必要になるかもしれません。このような施工ミスや手戻りが発生すれば、限られた夜間作業時間内ではリカバリーが難しく、ダイヤへの影響も懸念されます。
以上のように、鉄道設備の位置出し作業は人手不足・時間制約・精度要求の三重苦に直面しています。熟練者の勘と経験に頼ったやり方では限界があり、効率化と品質確保を両立する新たな手法が求められているのです。
高精度GNSS(RTK)とARによる施工支援の仕組み
こうした課題を解決する鍵として注目されているのが、高精度GNSS測位(RTK)とAR(拡張現実)を組み合わせた施工支援技術です。RTKとはReal Time Kinematicの略で、基準局と移動局の2台のGNSS受信機を用いて衛星測位の誤差をリアルタイム補正し、数センチの誤差にまで測位精度を高める技術です。通常のGPS測位が数メートルの誤差を伴うのに対し、RTKでは誤差を桁違いに低減できるため、トータルステーション並みの精度を広範囲で実現できます。
RTKによるセンチメートル級の測位が可能になると、位置出し作業は大きく様変わりします。従来必要だった多数の杭や水糸といった目印を使わずとも、GNSS受信機を持って所定の座標まで歩くだけで位置を特定できるからです。例えばタブレットやスマホの画面に設計座標を表示させ、現在位置とのズレがゼロになるポイントを探してその場に杭打ちする、といった具合に一人で完結できる測設も可能になります。視通しの妨げとなる障害物があっても衛星電波さえ受信できれば測位できるため、山間部や市街地など従来測りにくかった環境でも効率的です。また夜間の暗い中でもGNSSは問題なく機能するため、日没後の測量作業にも威力を発揮します。実際、ある駅の改良工事では駅舎屋上にRTK基準局を設置し、終電後の短時間でホーム延伸部や新設信号機の位置出しを完了させています。RTKのおかげで限られた間合いの中でも測設精度を確保しつつ作業効率を上げることができた好例です。
さらに、RTKによる正確な位置情報と組み合わせて活用されるのがAR技術です。AR(Augmented Reality)はスマートフォンやタブレットのカメラ映像に、設計図上のモデルや目標位置を重ねて表示する技術です。高精度な位置座標を持つARシステムでは、現実空間上に設計上のポイントやモデルをズレなく可視化できます。従来の単独ARは位置合わせに多少の誤差が生じる懸念がありましたが、ここにRTKの精度が融合することでデジタル情報と現場実際のズレを解消し、AR表示をより信頼できるものにします。
具体的な仕組みとしては、まず設計図に基づく設備の設置位置データ(座標やモデル)を事前に準備します。現場ではスマートフォンに小型のRTK-GNSS受信機(アンテナ)を取り付け、専用のアプリを起動します。スマホがリアルタイムに高精度な現在座標を取得すると、アプリ上で目標地点までのナビゲーションやARによる位置表示が行われます。画面上には目的の座標方向を示す矢印やガイドが表示され、作業員はそれに従って移動するだけで正しい位置に誘導されます。さらにカメ ラをかざせば、現地の映像の中に「ここに設置せよ」というマーカーやモデルが浮かび上がり、直感的に設置ポイントを特定できます。例えば信号柱の基礎位置であれば地面上に目印がAR表示され、その位置に杭を打てば墨出し完了となります。ケーブル配管のルートであれば、地表に沿って仮想のラインが表示され、掘削すべき経路をそのまま描くことができます。GNSSによる正確な測位とARによる視覚的ガイドの融合により、勘や経験に頼らずとも誰もが迷わず所定の位置にマーキングできるのです。
スマホ+小型GNSS端末による現地誘導の実例(信号柱、電力柱、ケーブルルート)
それでは、実際にスマートフォンと小型RTK-GNSS端末を活用したAR現地誘導が鉄道設備の施工現場でどのように行われるか、具体的な例を見てみましょう。
• 信号柱の新設: 信号機(信号柱)は列車からの視認性や他設備との離隔を考慮した正確な設置が求められます。従来は軌道中心線からのオフセット距離を測り出して位置を決めていましたが、AR誘導を使えば設計図どおりの位置にその場でマーカーを表示できます。例えば線路脇の所定位置にスマホを向けると、地面上に信号柱基礎の輪郭モデルや中心点が投影されます。作業員はそのAR表示位置に合わせて印をつけるだけで、設計通りの墨出しが完了します。視認が難しい夜間でも画面上に表示されるマーカーを頼りにできるため、暗所での測定精度向上に寄与します。またAR上に仮想の信号機モデルを表示し、既存の周辺設備や建築限界との位置関係をその場で確認することで、障害物との干渉や視界の遮りがないかチェックすることもできます。ある駅改良工事では、RTKを活用してホーム延伸部や信号機の設置墨出しを迅速に実施し、終電後の短時間で精度要求の厳しい設置を完了できたと報告されています。AR誘導を組み合わせれば、こうしたRTK測量の成果を現場作業員全員で共有し、より確実な施工につなげられるでしょう。
• 架線柱・電柱の設置: 架線柱(電車線を支える電柱)や変電設備用のポールなども、正確な位置と垂直度で建てる必要があります。AR誘導では、基礎位置の中心を地面に表示できるのはもちろん、柱の 高さ方向の情報も活用できます。例えばスマホ画面に架線柱の設計高さが示されていれば、柱建て後にその高さをARで確認して設計値通りか検証することも可能です(スマホのAR機能である程度の高さ測定や、設計モデルとの比較ができます)。まずは地上で基礎中心をAR表示して位置決めを行い、掘削・基礎設置を行った後、建てた柱の頂部を点群スキャンして高さを計測するといった使い方も考えられます。架線柱は設置箇所が高所になるため従来は測量機での確認も手間でしたが、スマホをかざすだけで所定位置かどうかその場でわかるので、高所作業における位置確認も効率化します。RTK対応の小型GNSS受信機は軽量で持ち運びやすく、高所に上った状態でも邪魔にならずに測位できるため、狭い架台上での柱位置確認にも活用されています。
• ケーブルルートの敷設: 信号ケーブルや通信線、給電ケーブルなどを埋設する作業では、地中に掘削するルートの位置出しと深さの管理が重要です。AR現地誘導を用いることで、設計されたルートを地表面にそのまま表示し、仮想的なスプレーで地面に線を描く感覚でマーキングできます。作業員はスマホの画面に映る地面上のガイドラインに沿って、チョークやスプレーで印をつけていくだけで、複雑な曲線や決められたオフセット距離を正確に地面上へトレースでき ます。従来は職人の勘に頼っていた曲線経路の描画も、ARのガイドラインがあれば経験が浅いスタッフでも正確に再現可能です。さらに、ケーブル埋設後にはスマホ内蔵のLiDARなどで埋設箇所を点群スキャンし、地中管の位置と深さを記録しておくことができます。例えば、埋戻し前にスマホで掘削溝や配管をスキャンしてクラウドにアップロードすれば、管の3Dモデルが自動生成され、将来その場でスマホをかざすだけで地中の配管を「透視」できるようになります。実際にLRTKというシステムでは、この機能により埋設管工事の記録と共有が劇的に簡略化されています。後日の維持管理で現場を掘り起こす際にも、過去の埋設位置をAR表示で誰でも分かるので、生産性向上や掘削時のミスによる事故防止などに大いに役立つと期待されています。
これらの例からも分かるように、スマホ+RTK-GNSS+ARによる現地誘導は、鉄道設備の多岐にわたる施工シーンで有効に機能します。信号・電力といった地上設備から地中ケーブルまで、あらゆる場面で正確な位置出しを直感的に行え、作業の省力化と安全性向上に繋がっています。
AR誘導の現場効果(位置出し精度、作業時間短縮、属人化の解消)
AR誘導技術を導入することで、鉄道設備工事の現場にはどのような効果がもたらされるのでしょうか。大きく3つの観点で整理します。
• 位置出し精度の向上: RTK-GNSSによるセンチ精度測位とAR表示の組み合わせにより、設計図どおりの位置出しが実現します。従来は巻尺や目測による墨出しで避けられなかった数センチのズレも、AR上のマーカーに従えば限りなくゼロに近づけることが可能です。特に高さ方向や角度など、人間の感覚では把握しにくい要素もデジタルに示されるため、勾配や水平度といった条件を満たす配置が容易になります。AR誘導はヒューマンエラーの低減にも直結します。作業員それぞれが頭の中で図面を解釈して測る必要がなく、皆が同じARの指示を見て動くので勘違いや伝達ミスが起こりません。結果として「墨出し位置がずれて構造物が数cmずれた」「基準高さを誤り配管の傾きが不良になった」といった施工ミスを事前に防ぐ効果が期待できます。RTK精度で測位されたARマーカーは鉄道分野の厳しい基準にも応える再現性を持ち、実際その精度は据え置き型の測量機器に匹敵する センチ単位を達成しています。
• 作業時間の短縮: AR誘導は現場の作業効率を飛躍的に向上させます。測点を求めて機器を据え直したり、何度も測り直しを必要としなくなり、短時間で広範囲の位置出しが可能になるためです。例えば従来は半日がかりだった多数の杭打ち墨出しが、AR誘導なら一人で連続してポイントを確認・マーキングできるため大幅な時間短縮につながります。実際にGNSS測位を導入した測設では、重機オペレーターを待たせずに一人ですぐに次々と測点を示せるため、重機稼働時間も有効に使えるようになったという報告があります。鉄道工事特有の夜間の短時間施工においても、AR誘導は真価を発揮します。終電後わずかな間に測量・確認まで済ませる必要がある状況で、迅速かつ正確に位置出しできれば、施工時間を確保しつつ始発までの完全復旧に余裕を持たせることができます。また複数人で分担していた作業が省力化されることで、一人ひとりの待ち時間や段取り替えのロスも減り、トータルの作業時間圧縮につながります。こうした効率化により生まれた余裕は、安全確認や品質チェックといった本来注力すべき工程に振り向けることができ、結果として施工全体の安定性も高まります。
• 属人化の解消・技能継承の促進: AR誘導は特別な技能がなくても扱いやすいのが大きな利点です。直感的な画面表示に従うだけで位置出しができるため、ベテラン測量技術者でなくとも現場スタッフが自ら測設をこなせます。実際、ある現場では最先端のAR+点群機能を作業員が事前研修なしで使いこなしているとの報告もあります。これは従来、長年の経験に頼っていた測量・墨出し作業が属人化から脱却し、組織全体で平準化できることを示しています。AR誘導を導入すれば、経験の浅い若手でも即戦力として精度の高い位置出し作業に貢献できるようになります。ベテランしかできなかった難しい墨出しが誰にでも可能となれば、人材不足の現場でも「誰もが測量者」として活躍できる環境が整います。これは裏を返せば、若手への技能継承がスムーズに進むことも意味します。ARシステム自体がノウハウを内包しているため、現場で使いながら最新の測量手法に習熟でき、結果として組織全体の技術水準底上げにも寄与します。また特定のベテランに頼らない仕組みは、将来的な退職や人員異動による技術喪失のリスクを減らす効果もあります。以上のように、AR誘導は精度・効率だけでなく人材面でも現場運営を支える重要なソリューションとなり得るのです。
出来形記録と点群スキャンの連携による品質確保と将来点検活用
AR誘導によって正確に施工が完了した後も、デジタル技術のメリットは続きます。出来形記録と点群スキャンを組み合わせることで、施工品質の確保と将来の設備点検への活用につなげることが可能です。
施工後の出来形記録とは、完成した構造物や設備が設計図どおりに設置されたことを証明・検査するプロセスです。従来は巻尺や水準器で主要寸法を計測し、紙の図面に記入して確認していましたが、点群スキャン技術を使えば現場をまるごとデジタル記録して検証に利用できます。例えばスマホのLiDARを用いて新設した信号柱や架線柱周辺をスキャンすれば、3次元の点群データとしてその位置・高さ・傾きなど詳細な形状を取得できます。取得した点群は高精度な座標付きデータですので、設計時の3Dモデルや図面データと重ね合わせて比較することができます。点群と設計データを重ねて色分け表示すれば、どの部分が設 計通りでどこにズレがあるか一目瞭然となり、出来形検査が効率化します。国土交通省も推奨する3次元出来形管理手法に合致したツールを使えば、こうした点群による品質検査が現実の施工管理に組み込まれ始めています。これにより、ミスの見落とし防止や手直し箇所の早期発見が可能となり、施工品質の一層の向上につながります。鉄道設備の設置においても、完成後に位置や高さを再測するだけでなく周辺含めた3Dデータで検証すれば、例えば信号機の視認範囲や架線と樹木との離隔などもオフィスで詳細にチェックできます。AR誘導で初期施工精度を高め、点群出来形で検査プロセスを高度化することで、品質確保が二重の体制で担保されるわけです。
また、取得した高精度の点群データや座標データは、施工後の維持管理(メンテナンス)にも大いに役立ちます。鉄道設備は時間の経過や列車荷重によって変位・劣化が生じるため、定期的な点検・モニタリングが欠かせません。施工時に記録した座標を基準に、一定期間後に再び同じ箇所を測定すれば、信号柱や架線柱の傾き・沈下量をミリ単位で検知することも可能です。従来は一部の点しか測れなかった歪み計測も、GNSSなら多数の点を短時間で測れるため、広範囲の変状把握が容易になります。例えば軌道狂いの検査では、事前に軌道上の要点座標を記録しておき定期測定で差分を見る、といった方法が既に始まっています。同様に、設備機器の位置変化や傾斜を点群比較で捉えれば、異常の早期発見につながります。さらに、点群データはインフラ点検への応用も期待されています。橋梁やトンネルなどでは、構造物全体の点群を基準として経年変化を追跡できます。例えば橋脚を丸ごとスキャンしておけば、後年の再スキャン時にひび割れやたわみが生じていないか、過去データとの差分で定量的に評価できます。人の目視や紙図面で行っていた損傷記録も、点群空間上にマーキングして保存すれば精密な維持管理台帳となります。このように、施工時に取得したデジタルデータはライフサイクル全体で資産となり、将来の設備更新・点検計画にわたって現場管理の高度化に寄与します。
また、点群や写真データをクラウドで共有することで現場とオフィスがシームレスに繋がる効果も見逃せません。例えばLRTKシステムでは、現場で測位・撮影した点群データや座標付き写真が即座にクラウド保存され、オフィス側でリアルタイムに確認できる仕組みを備えています。これ により、現地で作業が終わる頃には出来形図や報告書のベースが自動生成されている、といった効率化も実現しています。点群データ上で寸法を測ったり、埋戻し土量を計算したりといった解析もクラウド上で行えるため、現場代理人や管理者は安全確保に専念しつつデータ処理を遠隔で済ませることができます。鉄道設備工事は関係部署も多岐にわたりますが、クラウドを介して情報を一元管理・即時共有できれば、社内外の関係者間で認識を揃えやすくなり、ミスコミュニケーションの減少や協働の円滑化にもつながるでしょう。
LRTKが実現するスマホRTK+AR+点群活用のワークフロー
以上見てきた技術を実際の現場でワンストップに提供するソリューションの一つに、LRTK(エルアールティーケー)と呼ばれるシステムがあります。LRTKは東京工業大学発のベンチャー企業が開発したスマホ用のRTK測位システムで、スマートフォンに装着可能なポケットサイズの高精度GNSS受信機と、専用の測量・ARアプリ、そしてクラウドサービスで構成されています。この一式を導入することで、現場のスマホがそのまま高精度測量機兼3Dスキャナ兼ARグラスとして機能し、位置出 しから点群計測・出来形記録・AR活用までをシームレスに行えるようになります。
それではLRTKを用いた鉄道設備施工の一連の流れを、導入事例風に追ってみましょう。
①準備(設計データの登録): まず工事担当者は、設置する信号柱や架線柱、ケーブルルートなどの設計座標データや3DモデルをLRTKのクラウドにアップロードします。例えば基準座標系は公共座標系(JGD2011)で統一し、図面上の計画値をそのまま登録しておきます。これにより、現場ではスマホ上であらかじめ目標となる設備位置のリストが用意された状態になります。
②現場での測位開始: 現地に着いた作業員は、スマートフォンにGNSSアンテナを取り付け、LRTKアプリを起動します。アンテナは小型でヘルメットの上や伸縮ポール先端に装着でき、邪魔になりません。スマホは携帯回線を通じて基準局からRTK補正情報を受信し始め、直ちにセンチメートル精度の現在位置を測定し始めます。基準局は国土地理院の電子基準点ネットワークや、専用基地局を事前に現場付近に設置しておくことで対応可能です。作業員は特別な機器設定をする必要はなく、スマホ画面に「RTK フィックス」(高精度受信の確立)と表示されれば測位準備OKです。
③ARによる位置誘導: 次に、スマホアプリ上で誘導したい設備を選択します。例えば「○○信号機 基礎中心」といった目標名をタップすると、画面にそのターゲットまでの方向と距離が表示されます。矢印ナビや音声ガイダンスに従って進むと、残り距離がどんどん縮まっていき、目的地点に近づくと「到着」「ここです!」といった表示が出ます。スマホのカメラ越しに周囲を見回すと、現実の風景の中に設置位置を示すARマーカー(ピンや旗のようなCG)が立っているのが確認できます。作業員はその場所を中心に杭やスプレーでマーキングし、信号柱の基礎位置とします。同様に他のポイントも順番に誘導すれば、短時間で複数の墨出し作業が完了します。一人がスマホを操作しつつマーカー役となり、他の作業員がマーキングするといった連携も可能です。LRTKの画面はシンプルで直感的なため、機械操作が苦手な人でも迷わず使えるよう工夫されています。
④施工作業と随時チェック: 墨出しが終われば、実際の掘削・建て込み等の施工に移ります。施工中も、要所でLRTKを使った確認が行われます。例えば信号柱のアンカーボルト設置時に、再度スマホで基礎中心を測位し直し、ずれがないか確認します。必要に応じてARで設計モデル(例えば柱脚プレートの形状)を映し出し、鉄筋の位置や型枠寸法が合っているかその場で検証できます。従来は施工中の確認に図面とメジャーを用いていましたが、AR表示で常に「正解」を可視化できるため、間違いに気付いたら即修正するといった柔軟な対応も可能です。
⑤出来形の点群スキャン: 施工が完了したら、LRTKを用いて出来形をデジタル記録します。スマホのLiDARやカメラを利用し、例えば信号柱周りやトラフ配管が露出しているうちにぐるっと撮影して点群化します。LRTKアプリではボタン一つでスキャン開始・停止ができ、取得した点群は自動でスケール調整・合成されてクラウドにアップロードされます。ここでRTKによる絶対座標が付与されるため、点群 データには現実の測地座標(緯度経度・高さ)が紐付いています。今回は鉄道用地内の工事なので座標系は○系(平面直角座標系)で統一されており、全データが公共座標で管理されています。クラウド上では点群から自動的に3Dメッシュモデルが生成され、関係者はWebブラウザでそれを閲覧できます。例えば埋設したケーブル管の点群から断面図を切り出して直径を測ったり、埋め戻し前の土量を計算したりといった活用も即座に行えます。
⑥出来形検査と報告書作成: クラウドに上がった点群データと設計データを比較し、出来形検査を実施します。LRTKクラウド上で指定の設計座標を選べば、そこに対応する点群上の点を自動検索し、出来形寸法を算出してくれます。例えば信号柱基礎の出来形では、「設計位置との差=東西方向+2cm・南北方向-1cm、高さ差+0.5cm」などがリスト化されます。全て許容範囲内であることを確認し、問題があれば現場にフィードバックします。問題がなければ写真帳や測量野帳のデータもクラウド上に紐付け、電子出来形成果として一括保存します。現場の作業員が記録用に撮影した写真には自動で測位座標がタグ付けされているため、「〇〇信号柱 基礎中心(X=...,Y=...,H=...)」といった情報がすべて写真データと紐付いて 整理されます。これらは社内の電子納品フォーマットに沿った形で出力可能で、報告書の取りまとめ作業を大幅に省力化します。
⑦維持管理への引き継ぎ: こうして施工時に取得・整理されたデータは、将来的な維持管理業務に引き継がれます。鉄道会社の保守担当者は、LRTKクラウド上の出来形データを参照することで、新設した設備の正確な位置・高さ・構造を把握できます。例えば何年後かに信号柱の傾き点検を行う際、今回取得した点群モデルと比較して傾斜角を測定するといったことも可能です。埋設ケーブルなら、将来付近の掘削工事を行う施工者がLRTKを使って現地で埋設物のAR透視を行い、事前に位置を確認することで損傷事故を未然に防げます。このように、施工から維持管理まで一貫してデータを活用できるのがLRTK導入の強みです。結果として、鉄道設備のライフサイクル全体で安全性・信頼性を高め、将来的な点検効率や更新計画の高度化にも貢献します。
以上のワークフローは一例ですが、すでに現場ではLRTKを用いた様々なDX(デジタルトランスフォーメーション)事例が生まれています。例えば土木工事現場でiPhone+RTK受信機を三脚に据えて基準点測量を行い、短時間で公共座標の基準点を設置した事例や、インフラ点検でスマホ写真に高精度座標を付与して時系列比較を行う試みなどが報告されています。鉄道工事の分野でも、LRTKを使って線路や構造物の位置出しを素早く行い、工事記録写真に正確な座標情報を付加するといった活用が既に始まっています。小型で取り回しが容易なLRTK端末は、夜間や高所での作業でも邪魔にならず必要なときにサッと使える機動性を持ち、現場の測量効率を格段に高めてくれます。
おわりに
鉄道設備施工現場におけるRTK+AR誘導の取り組みは、人と技術の橋渡しとなる画期的な進歩です。熟練者の経験に頼らざるを得なかった測量・墨出し作業をデジタル技術で支援することで、精度と効率の両立が見えてきました。人手不足や夜間作業といった現場の制約を乗り越え、誰もがミリ単位の位置出しを実現できる環境は、安全で強靭な鉄道インフラを維持する上で欠かせません。実務視点で見ても、導入当初こそ慎重な検証が必要ですが、一度その効果を体感すれば「もう昔のやり方には戻れない」と言われるほど大きなメリットがあります。測量精度の向上、作業時間の短縮、ヒューマンエラーの減少、人材育成の促進――高精度測位×ARがもたらす恩恵は、鉄道現場の未来に新たな可能性を開くでしょう。
今後、より多くの鉄道会社や施工現場でこのようなデジタル技術が活用され、「鉄道設備×DX」が進展することが期待されます。安全第一で列車運行を支える現場において、最新技術を現実解として使いこなすことこそが、深刻化する人手不足や高度化する安全基準への解答の一つとなるはずです。鉄道設備施工の効率化・高度化に向け、RTKとARを活用したスマート施工の波は確実に広がりつつあります。その流れを捉え、ぜひ現場のDX推進にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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