法面緑化は、種子や植生基盤材を施工した時点で完了するものではありません。発芽し、幼植物が生育し、法面に植生が定着するまでの初期管理によって、被覆の均一性や補修の必要性が変わります。なかでも散水は、降雨だけでは必要な水分を確保しにくい条件で、乾燥による発芽の遅れや幼植物のしおれを抑えるために検討される管理項目です。
ただし、散水は多ければ多いほど良いわけではありません。急な法面へ一度に強く水を当てると、植生基盤材の表面流亡、筋状の侵食、種子や細粒分の移動、法尻への堆積を招くおそれがあります。反対に、表面だけを短時間濡らしても、必要な深さまで水が届かない場合があります。排水しにくい場所で湿潤状態が長く続けば、通気不足など別の生育障害につながる可能性もあるため、散水量だけでなく、浸透、排水、法面の状態を合わせて確認することが重要です。
植生工は、使用植物、地形、地質、気象、法面勾配などに応じて工法を選ぶ必要があり、植生基盤の種類や厚さも一律ではありません。したがって、散水についても全国共通の回数や時間をそのまま当てはめるのではなく、設計図書、施工計画、使用材料の施工要領、現地確認を優先して決める必要があります。([Ministry of Land and Transport][1])
この記事では、法面緑化の実務担当者が施工前に整理しておきたい6つの準備を中心に、試験散水、記録、異常の見分け方、季節ごとの注意点まで解説します。散水だけで発芽や定着を保証することはできませんが、乾燥や過剰散水による不具合のリスクを下げるための確認材料として活用して ください。
目次
• 法面緑化で散水計画が重要になる理由
• 準備1 現地条件と乾燥リスクを把握する
• 準備2 植生工と生育段階に応じた水分目標を決める
• 準備3 水源・給水量・水質を確認する
• 準備4 散水設備と搬入動線を計画する
• 準備5 散水時刻・回数・散水強度を設定する
• 準備6 天候変化と異常時の対応基準を決める
• 施工前に行う試験 散水と調整
• 施工中の記録と観察で計画を更新する
• 散水不足と過剰散水を見分けるポイント
• 季節別に見直したい管理上の注意
• まとめ
法面緑化で散水計画が重要になる理由
種子を用いる法面緑化では、種子が吸水した後、温度や酸素などの条件が整うことで発芽が進みます。施工後に植生基盤が強く乾燥すると、吸水が進みにくくなったり、発芽した幼植物がしおれたりする可能性があります。法面の一部だけ乾燥が続けば、被覆のむらや裸地が残り、降雨時に水が集中する経路となることもあります。
一方で、散水量や散水圧が過大な場合も注意が必要です。法面は平坦地よりも表面流が生じやすく、植生基盤の浸透能力を上回る勢いで水を与えると、水が斜面下方へ走りやすくなります。法面保護工は、植生や構造物によって侵食や風化を抑えることを目的とするため、散水作業が新たな侵食要因にならないように管理しなければなりません。
また、乾燥の進み方は法面全体で同じではありません。日射を受けやすい部分、風が抜ける法肩、凸部、岩盤が露出する周辺、植生基盤が薄い箇所は、他の場所より早く乾くことがあります。反対に、法尻、凹部、湧水周辺、日陰部は水分が残りやすい場合があります。法面全体へ同じ時間だけ散水しても、水分状態が均一になるとは限りません。
散水計画では、単に作業日と回数を決めるのではなく、どの区画を、どの設備で、どの程度の強さで散水し、何を確認して次回の実施を判断するかまで定めます。散水を独立した水やり作業として扱わず、施工厚さの確認、気象管理、安全管理、写真記録、補修判断と結び付けることが、初期管理の実効性を高めます。
準備1 現地条件と乾燥リスクを把握する
最初の準備は、法面のどこが乾きやすく、どこへ水が集まりやすいかを施工前に把握することです。確認する項目には、方位、勾配、法長、標高、周辺地形、時間帯ごとの日照、風の通り道、地山の性状、湧水、排水施設、既存樹木や構造物による日陰などがあります。現地調査では法面を一枚の面として見るのではなく、条件の異なる管理区画に分けて整理します。
日射を受けやすい法面は、表面温度が上がり、蒸発が進みやすい傾向があります。ただし、実際の乾燥速度は方位だけで決まりません。周囲の地形や建物による影、季節ごとの太陽高度、谷筋の風、基盤材の種類と厚さ、地山からの水分供給などが重なって変化します。方位だけで散水量を決めず、午前と午後の違いも含めて現地で確認します。
法肩は風を受けやすく、法尻は上方からの水が集まりやすい場合があります。凹部は水が集中しやすく、凸部は水が流れ落ちやすいため、形状による差も記録します。岩盤部、土砂部、既設構造物 の周辺、湧水部など、下地条件が変わる場所は別区画として扱うと、散水後の変化を比較しやすくなります。
施工前には、植生基盤の設計厚さと施工管理方法を確認します。植生基盤の種類や造成厚さは、使用植物の発芽特性、法面の土質、勾配などを踏まえて決める考え方が示されており、散水計画も厚さの管理と切り離せません。([Ministry of Land and Transport][1]) 薄付けや密着不足が疑われる箇所は、乾燥しやすいだけでなく、散水時に流亡しやすい可能性があるため、重点確認区画に含めます。
現地条件の把握では、散水作業の安全性も同時に確認します。急勾配部でのホース取り回し、濡れた足元での滑り、法肩からの墜落、法尻での落下物、車両との接触、ホース内圧による振れなどを想定します。散水によって作業床や道路が濡れると、施工前より移動しにくくなる場所もあります。安全な立ち位置、退避方向、ホース経路、立入管理を現地条件図へ反映し、品質管理と安全管理を整合させます。
準備2 植生工と生育段階に応じた水分目標を決める
二つ目の準備は、採用する植生工法と植物の生育段階に合わせて、どのような水分状態を目指すかを決めることです。法面緑化には、種子散布工、客土吹付工、植生基材吹付工、植生シート工、植生マット工、苗木を用いる工法などがあり、材料構成、保水性、地山との密着状態が異なります。工法が違えば、散水が必要となる条件や散水方法も変わります。
種子を用いる場合、施工直後から発芽までの時期は、種子が吸水できる水分を確保しつつ、表面流や基盤流亡を起こさないことが基本です。表面を常に水で光らせる状態を目標にするのではなく、材料の状態と施工要領に応じて、乾き切る前に必要量を補う考え方が適しています。表面が濡れていても内部まで水が届いていない場合があるため、色だけでなく、触感、散水履歴、法面下方への流出、代表箇所の状態を組み合わせて判断します。
発芽後は、幼根がまだ十分に発達していないため、強い乾燥の影響を受けやすい場合があります。一方で、湿潤状態が長く続く場所では、通気や排水の状態も確認しなければなりません。生 育が進んだ後も施工直後と同じ回数を機械的に続けるのではなく、発芽前、発芽後、被覆が進む時期に分けて、観察項目と実施条件を見直します。
植物の種類によって、発芽に適する温度や必要日数、乾燥への反応は異なります。複数種を混播した場合、すべてが同じ時期に発芽するとは限りません。先に発芽した種類だけを見て散水を減らすと、発芽の遅い種類に必要な条件を外す可能性があります。反対に、発芽の遅れをすべて水不足と判断すると、低温、施工時期、種子の状態、施工厚さ、基盤硬度、種子移動など、別の要因を見落とします。
水分目標は、「一日何回」といった回数だけで定めず、基盤表面と代表深さの湿り、表面流の有無、発芽状況、幼植物のしおれ、降雨、日射、風を組み合わせた判断基準として整理します。法面緑化を対象とした研究でも、限られた条件下の散水頻度比較から普遍的な発芽差が確認されたわけではなく、基盤材の物性や環境条件を含めて評価する必要性が示されています。 そのため、一般的な回数を固定値として示すより、設計図書、材料仕様、試験散水、現地観察を優先する方が安全です。
準備3 水源・給水量・水質を確認する
三つ目の準備は、必要な期間に使用できる水源を確保し、給水能力と水質を確認することです。散水計画が整っていても、水源までの距離が長い、補給に時間がかかる、使用時間が限られる、貯水量が不足するといった問題があれば、予定どおりに実施できません。施工面積と管理区画を整理し、給水、運搬、補給、散水に要する時間を現実的に見積もります。
水源には、現場内の給水設備、仮設貯水、運搬給水などが考えられますが、使用の可否は水源管理者、現場条件、関係法令、契約条件によって異なります。河川、水路、ため水などを無断または未確認で利用せず、取水の可否、安全性、濁り、塩分、油分、薬剤混入のおそれを確認します。
水質は、見た目だけで適否を判断できない場合があります。異臭、泡、油膜、著しい濁り、沈殿物がある水や、由来が不明な排水は、そのまま継続使用しない方が安全です。使用材料や導入植物に対する水質条件 が示されている場合は、その仕様を優先します。必要に応じて、現場関係者と検査項目や確認方法を決めます。
給水能力の確認では、散水対象面積だけでなく、ホース延長、高低差、継手、同時使用設備、ポンプの運転条件を考慮します。平坦地で十分な吐出が得られても、法面上部では圧力や流量が変わることがあります。反対に圧力が高過ぎると、ノズル先端の水流が基盤を掘るおそれがあります。必要なのは最大能力ではなく、実際の法面で穏やかな散水を継続できる能力です。
水源が一つしかない場合は、設備故障、渇水、使用制限、道路事情などで散水が止まる可能性を検討します。予備の貯水方法、代替給水先、補給依頼の連絡先、故障時の切替手順を決めておくと、乾燥が進む日に対応が遅れるリスクを下げられます。連休前や高温・強風が予想される時期は、必要になってから手配するのではなく、事前に容量と補給体制を確認します。
準備4 散水設備と搬入動線を計画する
四つ目の準備は、法面を傷めにくく、作業者が安全に扱える散水設備と動線を計画することです。使用設備は、法面の高さ、勾配、法長、施工面積、水源位置、道路幅、作業場所の地耐力、周辺交通などを踏まえて選びます。散水車両、ポンプ、貯水容器、ホース、ノズルを組み合わせる場合は、個々の能力だけでなく、接続した状態で安定して運転できるかを確認します。
ノズルは、植生基盤を一点で掘らないよう、水圧、距離、角度、散水幅を調整します。細かな水滴は基盤への衝撃を抑えやすい一方、風が強い場所では法面へ届く前に流されることがあります。特定の噴霧形状を一律の基本とせず、使用材料の施工要領と試験散水の結果から、法面へ届き、かつ表面流を起こしにくい条件を選びます。
ホース経路は、単に最短距離で決めないことが大切です。法肩の角部で擦れる場所、車両が横断する場所、鋭利な岩や金物がある場所、作業通路と重なる場所は、破損や転倒の原因になります。長いホースは通水時に重量が増し、移動時の負担も大きくなります。固定、保護、継手位置、圧力を抜く手順を定め、無理な姿勢で引っ張らない配置にします。
車両を法尻や法肩付近へ配置する場合は、地盤の安定、路肩からの離隔、法面への影響、ぬかるみ、後退時の視界を確認します。散水で路面が軟らかくなったり、排水が集中したりする場合もあります。給水のたびに車両を頻繁に移動すると、法尻の踏み荒らしや沈下につながることがあるため、停車位置と転回位置をあらかじめ決めます。
作業体制では、ノズル担当、ポンプやバルブの操作担当、周囲監視担当の連絡方法を整理します。急な開閉による圧力変動やホースの振れを避けるため、始動と停止の合図を統一します。高所や急斜面で作業する場合は、現場の安全計画に従い、必要な墜落防止措置と立入管理を行います。散水作業は水で足元が滑りやすくなり、ホースが身体や足元を引っ張るため、通常の巡回より危険が増えることを前提に計画します。
準備5 散水時刻・回数・散水強度を設定する
五つ目の準備は、散水する時刻、回数、一区画あたりの時間、散水の強さを仮設定することです。ここで重要なのは、固定した回数を守ることではなく、乾燥の進み方に応じて変更できる枠組みを作ることです。天候、日射、風、基盤材の保水性、生育段階が変われば、同じ散水条件でも結果は変わります。
高温で日射が強い時間帯は、蒸発と飛散が増えやすく、作業者の暑熱負担も大きくなります。そのため、早朝や気温が上がる前の時間帯は候補になります。ただし、夜間の降雨や結露で基盤が十分湿っている場合は、朝の予定散水をそのまま実施すると過剰になることがあります。実施時刻を固定するだけでなく、散水前の観察で量と対象区画を調整します。
夕方の散水は、日中に乾燥した区画を補う方法として検討できますが、日陰部、凹部、排水しにくい場所では湿潤状態が長く続くことがあります。法面全体へ一律に行わず、必要な区画へ限定します。真昼の散水が常に禁止されるわけではありませんが、強い日射や風の中では効率が低下しやすく、周辺への飛散と暑熱作業にも注意が必要です。
散水強度は、基盤へ水が浸透する速さを上回らないように調整します。表面に水膜ができ、筋状に流れ始めた場合は、同じ場所へ連続して当てず、いったん停止して状態を確認します。短時間の散水と浸透待ちを組み合わせる方法が適する場合もありますが、必要な間隔は材料、厚さ、勾配、乾燥状態によって異なるため、試験散水で決めます。
散水回数は、天気予報だけで決めず、実際の基盤状態で補正します。予報が雨でも、降水量が少ない、風で偏る、構造物や樹冠で遮られるなどの理由で、対象区画まで十分に届かない場合があります。反対に、まとまった雨の後は予定を機械的に実施せず、表面流、過湿、基盤の軟化、排水施設の状態を先に確認します。計画書には、通常時だけでなく、高温、強風、降雨前後、曇天時の変更ルールを記載します。
準備6 天候変化と異常時の対応基準を決める
六つ目の準備は、天候が急変した場合や散水中に異常が見つかった場合の中止、変更、連絡、補修の基 準を決めることです。法面緑化の初期管理では、晴天続きの乾燥だけでなく、散水後の強雨、突風、急な気温上昇、凍結、設備故障なども品質と安全に影響します。通常時の予定だけでなく、予定を変更する条件を先に共有します。
強い雨が予想される場合、現在の湿り、降雨予測、排水施設の状態を確認し、直前の散水を減らすか見送るかを判断します。ただし、予報だけを理由に長く散水を止めると、雨が降らなかった場合に乾燥が進みます。予報と現地確認を組み合わせ、必要なら対象区画を絞った短時間の補助散水へ変更します。
強風時は、水が目的区画へ届かず、周辺道路、民地、構造物、通行者へ飛散するおそれがあります。ノズルを近づけるだけで対応すると、水流が局所的に強くなり、基盤を傷める可能性があります。風向きと風の強さを確認し、安全に散水できない場合は中止または時間変更とします。飛散先に電気設備がある場合や、低温時に凍結のおそれがある場合は、周辺への影響も含めて判断します。
散水中に表面 流、濁水、基盤材の剥離、種子や繊維の移動、法尻への堆積が見られた場合は、その区画をいったん停止します。ノズル距離、角度、圧力、散水時間、基盤の施工状態を確認し、写真と位置を記録します。流亡や剥離は散水を追加しても回復しないため、施工管理者と補修の要否を検討します。
設備異常への対応も必要です。ポンプの異音、圧力の急変、継手からの漏れ、ホースの膨らみや損傷、ノズル詰まりが見られた場合は、所定の停止手順に従い、安全に圧力を抜いてから点検します。通水中のホースや継手へ無理に触れると、外れや振れによる事故につながるおそれがあります。電源遮断、圧力開放、予備部品、連絡先を作業前に確認します。
休日や担当者不在時に乾燥が進む場合も想定し、観察担当と判断権限を明確にします。誰が現地を確認し、どの状態なら追加散水を手配し、どの異常なら施工管理者へ連絡するかを決めます。写真と簡潔な判定基準で引き継げるようにすると、担当者の経験だけに依存する状態を減らせます。
施工前に行う試験散水と調整
散水計画は、机上だけで完成させず、本施工前または施工初期の代表区画で試験散水を行い、現場条件に合わせて調整します。試験では、使用予定の水源、ポンプ、ホース、ノズルを実際の高低差と延長条件で接続し、吐出状態を確認します。平坦地での設備確認だけでは、法面上部まで水が届くか、圧力が安定するか、ホースを安全に扱えるかを十分に判断できません。
代表区画は、標準的な場所だけでなく、乾きやすい法肩、風を受ける部分、法長の長い部分、凹部、急勾配部、下地が変わる境界などから選びます。散水開始から表面が湿るまでの時間、水膜や筋状の流れが生じるか、散水停止後にどのように浸透するかを観察します。法尻へ濁水や細粒分が出ていないかも確認します。
試験散水では、見た目の均一さだけでなく、散水ムラを確認します。ノズルを振る速度が速過ぎると端部まで十分に届かず、同じ場所で止めると局所的な過剰散水になることがあります。作業者ごとの差を小さくするため、ノズル距離、角度、振り幅、移動速度、一区 画の範囲を現場で合わせます。
散水後は、直後だけでなく時間を置いて再確認します。直後には均一に濡れて見えても、凸部や薄付け部だけ早く乾く場合があります。反対に、表面が乾いたように見えても内部に水分が残っている場合があります。施工材料を傷めない確認方法を選び、表面色だけに依存しない判断方法を決めます。
試験結果は、区画名、時刻、天候、使用設備、散水時間、異常の有無、写真とともに記録します。その結果を基に、標準区画と重点管理区画の条件を分けます。試験散水で流亡や剥離が生じた場合は、散水条件だけでなく、基盤材の厚さ、密着、下地処理、施工後の安定状態も確認し、散水だけで解決しようとしないことが重要です。
施工中の記録と観察で計画を更新する
散水計画は、施工開始時に作成した内容を最後まで固定するものではありません。施工中の気象、発芽状況、法面の乾き方、設備の運用状況を記録し、必要に応じて更新します。施工面積が大きい現場では、施工日の違いによって生育段階が異なるため、全区画を同じ条件で管理すると過不足が生じやすくなります。
記録には、日付、散水開始と終了時刻、対象区画、天候、気温の傾向、風、直前の降雨、散水方法、作業者、散水前後の状態を残します。数値だけでなく、乾燥が目立つ場所、表面流が出た場所、発芽が遅い場所、しおれが見られた場所を位置と写真で示すことが重要です。後から同じ場所を比較できるよう、撮影位置と向きをそろえます。
観察時には、法面全体の遠景と代表区画の近景を組み合わせます。遠景では被覆のむらや裸地の広がりを把握し、近景では基盤表面、発芽、幼植物の状態、侵食筋、浮き、ひび割れ、材料の移動を確認します。濡れた直後だけを撮影すると乾燥傾向が分かりにくいため、散水前、散水直後、一定時間後など、比較の目的を決めて記録します。
発芽の遅れが見られた場合は、散水回数 を増やす前に原因を切り分けます。水分不足のほか、低温または高温、播種時期、種子の偏り、施工厚さ不足、基盤硬度、雨による種子移動、鳥類による影響などが考えられます。水分が十分な区画へ散水を追加すると、表面流や過湿を招くだけになる場合があります。
散水担当者の所感も記録に含めます。ホースが届きにくい、風で散水が偏る、法肩の確認が難しい、給水待ちで予定時間を超えるといった運用上の問題は、計画の実効性に直結します。記録を区画単位や期間単位で振り返り、散水順序、設備配置、担当人数、確認時刻を見直します。記録は報告のためだけでなく、次回の判断を改善するために使います。
散水不足と過剰散水を見分けるポイント
散水不足と過剰散水は、どちらも発芽不良や生育むらにつながる可能性がありますが、見え方だけでは判別しにくい場合があります。葉が弱っているから水不足と決め付けず、基盤の水分、排水、散水履歴、降雨、法面位置、植物の状態を組み合わせて判断します。
散水不足が疑われる兆候には、基盤表面の急速な乾燥、乾燥に伴う細かなひび、幼植物のしおれ、葉先の乾き、日当たりの強い区画に偏った生育遅れなどがあります。ただし、表面が乾いていても内部に水分が残る場合があります。表面色だけで追加散水を繰り返さず、同じ区画の経時変化と周辺区画との差を確認します。
過剰散水が疑われる兆候には、表面の水膜が長く残る、法面下方へ水が走る、法尻に濁水や細粒分がたまる、基盤表面が軟らかく崩れやすい、局所的に材料がずれるといった状態があります。日陰や凹部だけ湿った状態が続く場合は、散水区画を分ける必要があります。湧水がある場所では、散水による水分と地山からの供給を分けて考えます。
表面が硬く、水が浸透しにくい場合にも注意が必要です。ただし、その原因を乾湿の繰り返しだけに限定することはできません。基盤材の配合、結合材、施工厚さ、締まり、降雨、経過時間など複数の要因が関係します。基盤材の硬度が発芽や根系の侵入に影響し得ることは法面緑化の研究でも指摘されていますが、特定の数値や原因を すべての工法へ一律に適用すべきではありません。 硬化や浸透不良が疑われる場合は、散水量だけを増やさず、施工管理者と原因確認や補修の要否を検討します。
不足と過剰を早期に見分けるには、正常な代表区画を決めて比較する方法が有効です。同じ施工日、同じ工法、近い勾配の区画を基準にし、乾燥色、発芽時期、被覆、流出の有無を比べます。判断が難しい場合は、独断で条件を大きく変更せず、施工責任者や材料仕様を確認できる関係者と情報を共有します。
季節別に見直したい管理上の注意
散水計画は季節によって重点が変わります。春は比較的穏やかな日でも、晴天と強風が重なると法肩や凸部が早く乾くことがあります。低温期は発芽がゆっくり進む植物もあるため、発芽の遅れをすぐに水不足と決め付けないことが重要です。基盤が十分湿っている場合は、散水を増やすより、気温、施工時期、種子条件を確認します。
夏は高温、強い日射、風によって乾燥が進みやすく、施工直後や発芽直後の確認頻度を高める必要があります。早朝の確認を候補としつつ、午後に乾燥が進む重点区画も観察します。作業者の暑熱負担も大きいため、散水品質だけでなく、休憩、交代、飲水、作業時間帯を安全計画へ組み込みます。長いホースを急斜面で扱う作業は負担が大きいため、無理な作業量を設定しないことが大切です。
秋は気温が下がる一方、乾いた風が続くと表面水分が失われることがあります。日照時間が短くなり、日陰部と日当たりの良い部分で水分差が大きくなる場合があります。法面全体を一律管理せず、区画ごとの乾き方を見ます。また、施工時期が遅いと発芽や生育に使える期間が限られることがあるため、散水だけで補えると考えず、導入植物と施工時期の適合を確認します。
冬は低温による発芽の遅れ、法面や通路の凍結、設備内の残水に注意します。凍結のおそれがある時間帯に散水すると、通路や道路が滑りやすくなり、安全上の問題が生じます。低温期に散水する場合は、気温の推移、日当たり、排水、作業後の凍結リスクを確認します。使用後は設備内の排水と保管方法を定めます。
梅雨や長雨の時期は、乾燥よりも過湿、表面流、流亡への警戒が中心になります。降雨が続いていても、張り出し部、構造物の陰、樹冠下など雨が届きにくい場所が部分的に乾くことがあります。反対に、凹部や法尻は水が集まりやすくなります。降雨の有無だけで判断せず、法面のどこにどの程度雨が当たったかを確認し、その年の天候と現場の反応に合わせて計画を見直します。
まとめ
法面緑化の散水計画では、乾燥を防ぐことだけに注目すると、過剰散水による植生基盤の流亡や種子の移動を見落としやすくなります。重要なのは、必要な水分を必要な区画へ、法面を傷めにくい強さで届け、散水後の浸透、流出、乾燥の変化まで確認することです。
施工前には、現地の乾燥リスクを区画ごとに把握し、工法と生育段階に応じた水分目標を決めます。続いて、水源、給水能力、水質、設備、 ホース経路、車両位置、作業体制を確認し、散水時刻と強度を仮設定します。さらに、降雨、強風、高温、凍結、設備故障、基盤流亡などが起きた場合の変更基準を共有しておくことで、担当者が変わっても判断のばらつきを抑えやすくなります。
実際の法面では、同じ散水をしても、日射、風、勾配、法面形状、基盤厚さによって乾き方が変わります。そのため代表区画で試験散水を行い、表面流が生じないか、必要な範囲へ水が届くか、作業者が安全に扱えるかを確認します。施工後は、散水履歴、天候、発芽、しおれ、流出、補修箇所を継続して記録し、計画を更新します。
散水記録、定点写真、異常箇所の位置情報をスマートフォンや現場の情報共有システムへ整理しておけば、確認結果を関係者へ共有しやすくなり、追加散水や補修の判断にも役立ちます。法面緑化の初期品質を安定させるために、散水を単なる水やりではなく、観察、記録、安全管理を伴う施工管理として運用していきましょう。
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