目次
• 法面工事で樹木の根を伐採前に確認する理由
• 影響1 根が担っていた表層土の安定性が変わる
• 影響2 抜根によって空洞と雨水の通り道が生じる
• 影響3 施工方法と品質管理の条件が変わる
• 影響4 周辺環境と近隣への負担が変わる
• 影響5 完成後の維持管理と再生リスクが変わる
• 伐採前の現地調査で確認したい項目
• 伐採・抜根・根株残置の判断を分ける考え方
• 工事中に注意したい安全管理と排水管理
• 完成後の点検で見逃したくない変化
• まとめ
法面工事で樹木の根を伐採前に確認する理由
法面工事を計画している現場では、樹木の幹や枝だけでなく、地中に広がる根が施工の支障になることがあります。掘削機械が根に引っ掛かる、整形したい位置に太い根株がある、排水施設や補強材の設置位置と根が重なるなど、工程上の問題は少なくありません。そのため、着工前に樹木を伐採し、根まで取り除けば作業しやすくなると考えられがちです。
しかし、法面に生えている樹木の根は、単なる障害物とは限りません。細い根が表層土をつなぎ、表面侵食や小規模な表層崩壊を抑える方向に働く場合があります。一方で、根の分布より深い位置で起こるすべりに対しては効果が限定され、樹木の存在だけで法面全体の安全性を判断することはできません。根の働きは、樹種、樹齢、根系の広がり、土質、勾配、地質、地下水、周辺地形などによって変わります。林野庁の資料でも、根系の発達は表層崩壊防止機能に関係する一方、その効果は立地条件や林齢によって異なると整理されています。([りんや][1])
樹木を伐採しても、地中の根は直ちに消えるわけではありま せん。残根の強度は樹種や環境条件に応じて経年的に低下し、腐朽が進めば根が占めていた部分に空隙が生じる可能性があります。反対に、施工時に根株を強く引き抜けば、周囲の土まで大きく乱し、法面を一時的に不安定にするおそれがあります。林野庁の調査でも、伐採後の経過とともに根の引抜き抵抗が低下した例が示されています。([りんや][2])
法面工事における樹木処理は、伐採作業だけで完結するものではありません。法面の安定、排水、施工品質、周辺環境、完成後の維持管理までを一体として考えることが重要です。国土交通省の検討資料でも、樹木の伐採・抜根によって土砂崩壊や流出を抑える効果が失われ、斜面が不安定化する場合があるため、表面保護や排水などの対策を組み合わせる必要性が示されています。
見た目では同じような樹木でも、根が浅く横方向に広がっている場合と、地中深くまで伸びている場合では、撤去による影響が変わります。現地で根の状態を確認しないまま一律に伐採や抜根を進めると、想定していなかった緩み、沈下、侵食につながる可能性があります。ここでは、法面工事で樹木の根が施工の支障になっているとき、伐採前に確認したい5つの影響を解説します。
影響1 根が担っていた表層土の安定性が変わる
樹木の根は、土の中を複雑に広がりながら周囲の土をつなぎ、表層土の移動に抵抗することがあります。特に、細い根が密に分布する表層では、根と草本類の被覆が組み合わさることで、降雨時の表土流出や小規模な侵食を抑える方向に働く場合があります。ただし、その効果は根の量や深さ、地質、含水状態などに左右され、すべての法面で同じように得られるわけではありません。([りんや][3])
法面工事の準備として樹木と根を一度に除去すると、表層土を支えていた状態が変化します。伐採直後は根が地中に残っているため、大きな変化が外観に表れないこともあります。しかし、根の活力が失われて腐朽が進むと、根による補強作用は徐々に低下します。変化が現れる時期は樹種や土壌条件によって異なるため、施工直後の外観だけで長期的な安全性を判断しないことが重要です。([りんや][4])
ただし、樹木がある法面は必ず安定しているという意味ではありません。根が浅い範囲にしか広がっていない場合、根より深い位置で発生するすべりを止める効果は限定的です。大きな樹木では、風による荷重が根元へ伝わり、根返りによって地表が乱れることもあります。したがって、樹木の有無だけではなく、法面の地形、地質、湧水、亀裂、過去の変状などを合わせて確認する必要があります。
斜面上の樹木が傾いている、根元の土が盛り上がっている、幹の下部が傾き上部が鉛直方向へ伸び直しているといった状態は、過去の地盤移動を疑う手掛かりになる場合があります。ただし、日当たり、風向き、積雪、周囲の樹木との競合でも幹は曲がるため、樹形だけで法面の安定性を断定してはいけません。地表の亀裂、段差、はらみ、沈下、湧水、排水の濁りなどと組み合わせて評価します。
伐採前には、樹木を除去した後に表層土をどのように保護するかを決めておくことが大切です。裸地のまま降雨期を迎えると、雨滴や表面流水によって土が流出しやすくなる可能性があります。法面整形、表面保護、植生回復、排水処理などを連続した工程として計画し、伐採から保護工までの期間を必要以上に空けないようにします。
また、残す樹木がある場合は、工事中にその根を切断する影響も確認しなければなりません。幹の片側を深く掘削し、支持に関係する根を広範囲に切断すると、完成後に樹木が不安定になるおそれがあります。法面の安定だけでなく、残置木の倒木リスクや生育への影響も含め、必要に応じて樹木管理の専門家と協議します。
影響2 抜根によって空洞と雨水の通り道が生じる
法面工事で根株を除去すると、根があった場所に複雑な形状の掘削跡が残ります。太い根だけを引き抜いたつもりでも、周囲の細根や土が一緒に動き、想定より広い範囲が緩むことがあります。抜根跡を表面から土で覆うだけでは、奥に空隙が残り、後から沈下や陥没が発生する可能性があります。国土交通省の資料でも、根の存置による雨水浸透や腐朽後の空洞化が堤防の弱体化につながる懸念として示されています。

