目次
• 法面工事に一律の保証期間があるとは限らない
• 保証と契約不適合責任を区別して考える
• 契約前に聞く項目1|保証期間の起算日と終了日
• 契約前に聞く項目2|保証の対象となる工事と不具合
• 契約前に聞く項目3|保証対象外となる条件
• 契約前に聞く項目4|不具合発見後の連絡と対応手順
• 契約前に聞く項目5|引渡し資料と点検記録の扱い
• 保証トラブルを減らす契約書と設計図書の確認
• 引渡し前に確認したい法面工事の状態
• 施工後の維持管理が保証判断に影響する理由
• 保証期間が切れた後に備える記録方法
• まとめ|保証年数だけでなく対応条件 まで確認する
法面工事に一律の保証期間があるとは限らない
法面工事を発注するとき、「工事には何年の保証が付くのか」と確認したくなる実務担当者は少なくありません。斜面は、雨水、地下水、地質、植生、周辺土地利用、地震、凍結融解などの影響を受けます。施工直後には問題が見えなくても、時間の経過や豪雨の後に変状が現れることがあるため、契約前に責任期間と対応条件を把握しておくことは重要です。
ただし、法面工事であれば全国一律に同じ保証年数が自動的に付く、と考えるのは適切ではありません。実際の期間と対応範囲は、工事請負契約書、採用した約款、設計図書、仕様書、見積条件、質問回答書、保証書、変更契約などによって変わります。発注者と施工者の契約関係、設計と施工の分担、公共工事か民間工事か、引渡しの方法などによっても確認すべき条項は異なります。
建設工事 の標準的な約款には、引渡し後の一定期間内に契約不適合を理由とする請求を行う仕組みが示されているものがあります。しかし、標準約款は、個別の契約へ当然に適用される法律上の保証書ではありません。契約書でどの約款を採用したのか、条文を変更する特約があるのか、設計図書や見積条件との間に矛盾がないのかを確認する必要があります。
また、「保証」という言葉が、施工会社独自の無償補修や点検サービスを指す場合もあれば、契約内容に適合しない工事目的物についての責任を広く指す場合もあります。営業担当者が口頭で「保証します」と説明していても、期間、対象部位、対象となる不具合、免責条件、調査費用、補修費用、再発時の扱いまで書面化されていなければ、施工後の認識違いにつながります。
契約前に確認すべきなのは、単に「何年間ですか」という数字だけではありません。いつから期間が始まり、何を対象とし、どのような原因なら対象外となり、異常を発見した後に誰が何をするのかまで確認する必要があります。本記事では、その内容を5項目に分けて整理します。なお、法的な請求の可否は契約内容と事実関係によって異なるため、紛争のおそれがある案件では、契約書類をそろえたうえ で専門家へ確認することが安全です。
保証と契約不適合責任を区別して考える
法面工事の契約を確認するときは、「保証」と「契約不適合責任」を同じものとして扱わないことが大切です。一般に保証は、施工会社が契約や保証書の条件に基づき、一定期間の補修、点検、部材交換などを約束する仕組みとして使われます。一方、契約不適合責任は、完成した工事目的物が種類、品質、数量などの点で契約内容に適合していない場合に問題となる責任です。
請負の目的物が契約内容に適合しない場合には、事案に応じて、履行の追完、報酬の減額、損害賠償、契約解除などが問題になります。また、民法には、注文者が不適合を知った後の通知に関する規定があります。ただし、建設工事の約款では、独自の責任期間や請求方法を定め、民法上の通知規定との関係を調整している場合があります。したがって、「民法では何年か」だけで判断せず、採用した約款と特約を含む個別契約を確認しなければなりません。
国が公表する民間建設工事向けの標準約款の一例では、工事目的物の契約不適合について、原則として引渡しを受けた日から2年以内に請求等を行う仕組みが示されています。また、一定の設備機器、仕上げ、植栽などについて別の扱いが定められています。ただし、この年数や区分があらゆる法面工事へそのまま適用されるわけではありません。契約で採用していなければ自動的な保証期間にはならず、工種の区分や特約によっても結論は変わります。
たとえば、吹付け表面に細いひび割れが生じた場合でも、直ちに契約不適合と判断できるわけではありません。設計上や材料特性上の変化なのか、施工厚、配合、養生、付着状態などに問題があるのか、背面からの湧水や地山の変位が原因なのかによって評価が異なります。見た目の症状が同じでも、発生原因が異なれば、責任の所在や補修方法も変わります。
反対に、表面上は小さな変状でも、排水施設の閉塞、法肩の亀裂、法尻のはらみ出し、濁った湧水、地山からの土砂流出などと組み合わさっていれば、斜面全体の安定性に関わる可能性があります。保証対象かどうかを電話だ けで決めるのではなく、設計条件、施工記録、完成時の状態、維持管理状況、降雨や地震の履歴、現地の変状を整理したうえで判断することが重要です。
発注者側では、契約書に「保証期間」とだけ書かれている場合、その言葉が何を意味するのかを確認します。無償補修を受けられる期間なのか、現地調査を申し込める期間なのか、材料だけが対象なのか、施工全体の契約不適合に関する請求期間なのかを明確にします。曖昧な用語は契約前に質問し、回答を契約書、特記仕様書、質問回答書などへ反映させることが安全です。
契約前に聞く項目1|保証期間の起算日と終了日
最初に確認したいのは、保証期間がいつ始まり、いつ終わるかです。「完成後2年」「施工後1年」などと書かれていても、完成日、完成検査日、引渡し日、供用開始日、保証書発行日のどれを起算日とするかによって、実際の満了日は変わります。法面工事では、本体施工後に植生の確認、残土処理、清掃、追加是正などが行われる場合もあり、工事の実質的な終了日と引渡し日が一致するとは限りません。
契約書には、起算日を具体的に記載することが望まれます。たとえば、完成検査に合格し、発注者が工事目的物の引渡しを受けた日を基準にするのか、保証書に記載した日を基準にするのかをそろえます。部分引渡しがある場合は、区画ごとに期間が始まるのか、全体の最終引渡し日から一括して始まるのかも確認します。広い斜面を複数工区に分ける案件では、この違いが後の判断に影響します。
保証期間の末日についても、年月日で管理できる状態にしておきます。「2年間」とだけ把握するのではなく、引渡し日と満了予定日を工事台帳や施設管理台帳へ登録します。年度末や担当変更をまたぐ案件では、保証満了日が引き継がれず、異常を発見しても連絡が遅れることがあるためです。
さらに、期間内に異常を通知すれば足りるのか、具体的な請求まで行う必要があるのか、現地確認や補修工事の完了まで求められるのかを確認します。約款によっては、期間内の通知と、その後の請求手続を分けて定めている場合があります。単なる相談や状況報告だけでは、契約 上必要な請求として扱われない可能性もあるため、連絡文書には、発見箇所、不具合の内容、発見日、写真、契約上の対応を求める意思を明確に記載します。
通知した事実を残すため、口頭連絡だけで終わらせないことも重要です。電話で緊急連絡を行った場合でも、同日または速やかに、連絡日時、担当者名、場所、症状、写真、応急措置の有無を電子メールや書面で共有します。施工会社側から受領確認を得ておけば、後から通知時期を確認しやすくなります。
補修後の期間も確認対象です。補修した部位について、補修完了日から新たな保証期間が始まるのか、当初の保証満了日までなのか、補修部だけが対象なのかで扱いが変わります。全面的な再施工と部分補修でも条件が異なる可能性があります。契約前に「補修後の扱い」「対象範囲」「起算日」「再発時の連絡方法」を確認しておくと、再度変状が生じたときの協議がしやすくなります。
契約前に聞く項目2|保証の対象となる工事と不具合
二つ目は、保証の対象範囲です。法面工事には、切土や盛土の整形、吹付け、法枠、植生、排水、落石対策、補強材、擁壁との取り合いなど、複数の工種が含まれることがあります。契約全体に保証が付くのか、施工会社が担当した範囲だけなのか、材料、施工、設計のどこまで責任を負うのかを分けて確認します。
特に注意したいのは、調査、設計、施工の担当者が異なる案件です。施工会社が支給された設計図書に基づいて施工する契約では、設計条件に起因する問題と、施工品質に起因する問題を区別する必要があります。一方、調査、設計、施工を一括して依頼する場合は、地質調査の範囲、安定性検討の前提、排水計画、工法選定、施工管理まで含めて責任範囲を確認します。
保証対象となる不具合は、可能な範囲で具体化します。吹付け面の剥離、法枠の欠損、排水溝の勾配や接続の不良、固定部の緩み、設計図書と異なる施工厚、植生基盤材の広範囲な流出など、工種ごとに想定される事象を整理します。ただし、症状名だけで保証対象を決めるのではなく、契約内容に適合しているか、施工者に帰すべき原因があるか、外力や管理状況がどの程度影響したかを確認する必要があります。
植生工は、一般的な構造物とは異なり、植物の発芽や生育が、施工時期、気温、降雨、日照、土壌、水分、動物被害などの影響を受けます。そのため、「常に全面が緑になる」といった結果を無条件に保証するのか、成立状態の判定基準と判定時期を設けるのかを明確にします。再施工の条件、散水や除草を誰が行うか、渇水や豪雨などの異常気象があった場合の扱いも契約前に確認します。
排水施設については、施工精度だけでなく、引渡し後の維持管理が関係します。完成時の勾配不足、接続不良、流末処理の不備は施工上の問題となり得ます。一方、引渡し後に落ち葉、土砂、枝などが堆積し、清掃されないまま閉塞した場合は、管理状況も判断材料になります。施工者が保証するのは排水能力そのものなのか、設計図書どおりの形状と施工品質なのか、維持管理を条件とした機能なのかを確認します。
既設構造物や別工事との境界も曖昧にしないことが重要です。上部斜面、 隣接地、既設側溝、道路、擁壁、配管などから水が流入し、施工範囲内で変状が生じることがあります。契約図面上の施工範囲、集水範囲、流末、既設との接続部を確認し、「工事一式」という表現だけで責任範囲を決めないようにします。
契約前に聞く項目3|保証対象外となる条件
三つ目は、保証対象外となる条件、いわゆる免責条件です。保証書や約款には、地震、台風、豪雨、洪水、火災、第三者による損傷、発注者による改変、維持管理不足などが記載されることがあります。しかし、「自然災害はすべて対象外」といった広い表現だけでは、施工上の問題と外力の影響が重なった場合の判断が難しくなります。
たとえば、大雨の後に法面表面が流出した場合、降雨だけが原因とは限りません。排水溝の断面、流入経路、締固め、表面保護、法肩からの水の集中、流末処理、施工後の閉塞など複数の条件が関係します。豪雨が免責事由として書かれていても、契約で求められた設計条件や施工品質を満たしていたかどうかは、別途確認する必要があります。
反対に、設計時の想定を大きく超える外力、引渡し後の地形改変、上部造成、隣接地からの排水変更、配管漏水、第三者工事による掘削などが原因であれば、施工会社だけに責任を求めることが難しい場合があります。発注者は、保証対象外の条件を読むときに、「この事象が起きたら即座に対象外になるか」だけでなく、「原因調査をどのように行い、資料を誰が集め、最終的に誰が判断するか」を確認します。
維持管理不足の定義も重要です。「適切に維持管理すること」とだけ書かれていても、点検頻度や作業内容が不明では、後から判断が分かれます。排水溝の清掃、繁茂した植生の管理、落石防護施設の目視、固定部や金網の状態確認、豪雨や地震後の臨時確認など、発注者が行うべき管理内容を維持管理要領へ記載してもらいます。
第三者工事の扱いも確認します。保証期間中に電気設備、配管、柵、道路付属物などの工事を行い、法面へ穴を開けたり、排水経路を変更したりすると、保証条件に影響することがあります。別工事を予定している場合は、既存の完成図 を示し、施工会社や設計者へ事前に相談したうえで、保証を維持する条件を書面で確認します。
免責条件は、発注者に不利な文言を削除するためだけの項目ではありません。施工者が管理できないリスクと、発注者が管理すべき範囲を整理する役割もあります。重要なのは、現場で起こり得る事象に照らして、責任分担と調査手順を具体化することです。意味が不明な条文や、原因にかかわらず一律に責任を免れるように読める条文がある場合は、契約締結前に技術担当者や法務担当者へ確認します。
契約前に聞く項目4|不具合発見後の連絡と対応手順
四つ目は、不具合を見つけた後の連絡方法と対応手順です。保証期間が明記されていても、受付窓口、必要書類、現地確認までの流れ、応急対応の役割が決まっていなければ、緊急時に動けません。法面の異常は、人や車両、建物、道路などへの危険が差し迫る場合があるため、通常の補修依頼と緊急連絡を分けておきます。
契約前に、平常時と緊急時の連絡先を確認します。担当者個人の連絡先だけでは、異動や退職で連絡できなくなるおそれがあります。会社の受付部署、工事責任者、現場代理人、設計担当者、休日や夜間の連絡方法など、複数の経路を引渡し書類へ記載してもらいます。
発注者側の初動も決めておきます。亀裂、段差、はらみ出し、湧水、濁水、土砂流出、排水施設の閉塞、吹付け面の浮きや剥離、金網や固定部の緩みなどを見つけた場合は、斜面へ不用意に近づかず、立入防止や通行規制の必要性を判断します。落石や崩落のおそれがある場所へ近づいて寸法を測ることは避け、安全な位置から全景、位置関係、周辺排水、法肩、法尻の状態を記録します。
連絡時には、発見日時、発見者、場所、天候、直前の降雨や地震の有無、変状の大きさ、進行の有無、周辺への影響、応急措置の内容を伝えます。写真だけでは場所が分かりにくいため、平面図や現場図へ変状番号を付け、写真番号と対応させる方法が有効です。
施工会社が現地を確認した後、原因調査、保証判定、応急措置、本補修の設計、施工時期をどのように進めるかも聞いておきます。保証対象かどうかの判断に時間がかかる場合でも、危険が差し迫っていれば応急対策を先行させる必要があります。その際の指示権限、事前承認、費用の仮負担、後日の精算方法を契約上整理しておくと、対応の遅れを減らせます。
補修方法の決定手順も確認します。施工会社が単独で決めるのか、設計者や地質に詳しい技術者を交えて協議するのか、発注者の承認を必要とするのかで手続きが変わります。法面は表面だけを補修しても、地下水や地山変位の原因が残れば再発する可能性があります。見た目を戻すことだけでなく、原因に応じた調査と対策になっているかを確認します。
契約前に聞く項目5|引渡し資料と点検記録の扱い
五つ目は、引渡し資料と点検記録です。保証を適切に利用するには、完成時の状態と契約内容を後から確認できる資料が必要です。担当者の記憶だけに頼ると、数年後に施工範囲や完成形、変更理由を説明できなくなることがあります。
引渡し時には、契約書、約款、設計図書、変更図面、完成図、施工計画、材料関係書類、施工写真、出来形記録、検査記録、協議記録、保証書、維持管理要領、緊急連絡先などを整理します。すべての案件で同じ書類が必要とは限りませんが、少なくとも、何を造り、どこまでが施工範囲で、完成時にどのような状態だったかを確認できる資料を残します。
法面工事では、完成後に植生、吹付け材、覆土などで見えなくなる部分があります。補強材の位置、長さ、間隔、削孔状況、注入状況、金網の重ねや固定、吹付け厚、排水管の位置など、不可視部分の施工記録は特に重要です。施工中の写真は全景だけでなく、測点、区画番号、撮影日、撮影方向を付け、完成図上の位置と対応させます。
完成時の三次元形状や座標を記録する方法も有効です。斜面全体の形状、法肩、法尻、排水施設、構造物の位置を記録しておけば、後年の計測結果と比較しやすくなります。ただし、計測データだけを保存し ても、使用した座標系、計測日、精度の目安、欠測範囲、処理方法が不明では活用しにくいため、データの説明書も残します。
点検記録の保存期間も決めます。保証期間が終わったからといって直ちに記録を廃棄すると、長期的な変化を追えなくなります。道路土工構造物の公的な点検要領では、対象施設について点検、診断、措置の結果を記録し、供用中は保存する考え方が示されています。ただし、この要領が民間敷地内のすべての法面へ直接適用されるわけではありません。民間案件でも、長期管理の参考として、施設を管理する期間に応じた記録保存方針を決めることが望まれます。
保証期間内の定期点検を施工会社が行う場合は、回数、時期、点検範囲、報告書の有無、費用負担を確認します。発注者が点検する場合は、確認項目と異常時の連絡基準を引渡し時に説明してもらいます。点検担当者が変わっても同じ視点で確認できるよう、写真付きの維持管理要領や定点撮影位置を用意しておくと実務で使いやすくなります。
保証トラブルを減らす契約書と設計図書の確認
保証に関するトラブルは、施工後の対応だけでなく、契約前の書類整理によって減らせます。まず、契約書、約款、見積書、仕様書、設計図、現場説明書、質問回答書の内容が矛盾していないかを確認します。ある書類には保証期間が書かれ、別の書類には異なる免責条件が書かれている場合、どの文書を優先するかが問題になります。
書類の優先順位は契約条項で定めます。設計変更や追加工事が発生した場合は、変更内容だけでなく、保証対象と期間への影響も協議記録へ残します。たとえば、発注者の要望で排水施設の形状や範囲を変更した場合は、その変更理由、施工者の意見、残るリスク、維持管理条件を明確にします。
仕様書では、完成形だけでなく、性能や判定基準を確認します。「良好に仕上げる」「十分に固定する」といった抽象的な表現だけでは、完成検査や保証判定が難しくなります。施工厚、配置、勾配、材料条件、出来形の確認方法、試験方法、写真管理など、現場で確認できる基準へ落とし込みます。
地質や地下水に不確実性がある場合は、その扱いも重要です。事前調査で把握する範囲、施工中に異常が見つかった場合の報告手順、追加調査の判断者、設計変更の手続、工期や費用の扱いを定めます。想定と異なる地山が現れたのに、工期を優先して記録せず進めると、施工後の変状原因を特定しにくくなります。
契約書の確認は、保証を長くするためだけの作業ではありません。発注者と施工者が同じ完成状態を想定し、施工後の管理を含めた責任分担を共有するための作業です。保証期間が長くても、対象が狭く、通知条件が不明確で、完成時の記録が残っていなければ、実務上利用しにくくなります。反対に、期間、対象範囲、免責、連絡方法、調査手順、補修方法が具体的であれば、問題発生時に落ち着いて対応できます。
引渡し前に確認したい法面工事の状態
保証は引渡し後の備えですが、まず重要なのは、不具合を残したま ま引渡しを受けないことです。完成検査では、設計図書どおりに施工されているかを確認し、気になる点は検査記録へ残します。保証があるから後で直せばよいと考えると、初期状態の証拠が曖昧になり、原因判断が難しくなります。
目視では、法肩、法面中央、法尻、排水施設、既設構造物との取り合いを一連で確認します。亀裂、段差、局部的な沈下、表面の侵食、湧水、濁水、土砂のこぼれ出し、材料の浮き、剥離、欠損、固定部の緩みなどがないかを見ます。高所や急斜面へ無理に近づかず、安全な場所から確認し、必要に応じて適切な機材や専門技術者を用います。
排水施設は、入口から流末まで連続して確認します。側溝や縦排水溝が形として完成していても、上部から水が適切に流入しない、途中で漏れる、流末で法尻を洗掘する状態では十分ではありません。水が集中する箇所、落ち葉や土砂がたまりやすい箇所、清掃しにくい箇所も把握します。
施工写真や出来形記録と現地を照合することも大切です。記録上は施工済 みでも、現場の区画番号や測点が不明確では、後から位置を特定できません。完成図へ写真位置を示し、主要工種ごとに代表写真と不可視部分の記録を関連付けます。
検査で指摘した事項は、是正前と是正後を同じ位置から記録します。補修した部分については、使用材料、施工方法、施工日、完了確認日、再確認結果、保証期間への影響を残します。小さな指摘でも、後年の変状と関連する可能性があるため、口頭だけで済ませないことが重要です。
施工後の維持管理が保証判断に影響する理由
法面工事は、完成した時点で管理が終わるわけではありません。斜面は自然環境の中にあり、降雨、地下水、風化、植生、動物、人為的な改変の影響を受け続けます。保証期間中であっても、必要な維持管理が行われていなければ、施工原因と管理原因の区別が難しくなります。
特に排水施設は、土砂、落ち葉、枝 、草などで閉塞することがあります。排水機能が低下すると、水が法面へあふれ、表面侵食や地山への浸透を促すおそれがあります。公的な道路土工構造物の点検資料でも、排水溝の閉塞、亀裂、破損、周辺の侵食、溢水の痕跡、土砂や流木、落ち葉の堆積などが確認項目として示されています。法面の維持では、排水機能を保つことと、亀裂、湧水、洗掘、はらみ出しなどの変状を早期に見つけることが重要です。
点検時期は、通常時だけでなく、まとまった降雨、台風、地震、融雪、周辺工事の後も検討します。毎回専門的な詳細調査を行う必要があるとは限りませんが、平常時と異なる変化がないかを安全な範囲で確認し、異常があれば専門技術者へつなげます。
発注者が行った維持管理は記録します。清掃日、除草日、点検日、担当者、異常の有無、写真、補修内容を残しておけば、施工会社へ相談するときに状況を説明しやすくなります。記録がないと、いつから変状していたのか、閉塞はいつ発生したのか、以前から進行していたのかが分かりません。
また、維持管理作業そのものが法面を傷めないよう注意します。重機を法肩へ不用意に近づける、排水溝の一部を埋める、植生管理で表面保護材を傷つける、構造物へ無断で穴を開けるといった作業は、安定性や保証条件に影響する可能性があります。工事範囲で別作業を行う前に、完成図と維持管理要領を確認し、必要に応じて施工会社や設計者へ相談します。
保証期間が切れた後に備える記録方法
保証期間が終了しても、法面の管理や安全確認が不要になるわけではありません。また、保証書に定めた無償対応期間が終わったことだけで、あらゆる法的な権利が直ちに失われるとは限りません。契約不適合責任の期間、通知や請求の有無、消滅時効、当事者の故意や重過失など、契約と法律上の条件を個別に確認する必要があります。
満了前には、保証終了前の確認を計画すると効果的です。契約上必須でなくても、発注者側で現地を確認し、気になる変状を整理しておけば、期間内に施工会社へ相談できます。点検時は安全を優先し、落石や崩落のおそれがある斜面へ立ち入らないようにします。排水状況を把握するため降雨後の状態を確認する場合も、増水や地盤の緩みに注意し、安全な観察方法を選びます。
長期管理では、同じ位置、同じ方向から写真を撮る定点記録が役立ちます。法肩、法尻、排水流末、湧水箇所、過去に補修した箇所へ管理番号を付け、写真台帳と図面を関連付けます。安全に設置できる範囲でスケールや目印を写し込めば、亀裂幅や侵食範囲の変化を比較しやすくなります。
三次元計測を行う場合は、毎回同じ基準で比較できるようにします。座標基準、基準点、計測範囲、データ密度、欠測範囲、処理方法を記録し、単純な見た目の差だけで地山の変位と断定しないようにします。草木の成長、濡れた表面、計測位置、機器や処理条件の違いでもデータに差が出るため、比較条件をそろえることが重要です。
保証期間内外を問わず、危険性が疑われる変状を見つけた場合は、保証対象かどうかを先に考えるのではなく、安全確保を優先します。立入規制、通行規制、監視、応急排 水などが必要な場合は、施設管理者と専門技術者が状況を確認します。責任や費用の協議は重要ですが、人や周辺施設への被害を防ぐ初動を遅らせないことが大切です。
まとめ|保証年数だけでなく対応条件まで確認する
法面工事の保証期間は、工事の種類だけで全国一律に決まるものではありません。個別の契約書、採用した約款、設計図書、仕様書、保証書を確認し、起算日と終了日、対象工種と対象不具合、免責条件、連絡方法と対応手順、引渡し資料と点検記録の5項目を具体的に整理する必要があります。
契約前に「何年保証ですか」と聞くだけでは、施工後の実務には足りません。「いつまでに何を通知し、どのような請求を行うのか」「どの原因なら対象になるのか」「自然災害や維持管理不足をどう判断するのか」「現地調査と応急措置は誰が行うのか」「補修後の期間はどう扱うのか」まで書面で確認することが重要です。
さらに、保証があっても日常点検と維持管理は欠かせません。排水施設の閉塞、亀裂、湧水、侵食、はらみ出しなどを早期に把握し、完成時の記録と比較できる状態を整えておくことで、原因調査と対応判断がしやすくなります。
現場記録は担当者の記憶だけに頼らず、位置情報、写真、図面、施工記録、点検履歴として継続的に残します。法面全体の状態を安全な場所から確認し、変状箇所をその場で整理できる運用を整えることで、保証期間中の相談だけでなく、期間満了後の長期的な維持管理にもつなげられます。
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