法面工事の後に、「以前より草が目立つ」「施工直後は整っていたのに、しばらくすると除草が必要になった」と感じることがあります。ただし、工事そのものが雑草を増やすと一律にいえるわけではありません。伐採や整形によって地表が見えやすくなったこと、日照や水分条件が変わったこと、客土や既存表土に含まれる種子が発芽したことなど、複数の要因が関係します。
また、植生工を採用した法面では、植物が生育すること自体が施工目的の一部です。導入した植物以外の草本や木本が入り込むことはありますが、それだけで施工不良とは判断できません。問題になるのは、点検を妨げるほど繁茂する、排水施設を塞ぐ、隣接地へ張り出す、裸地化や侵食が進むといった状態です。
防草を検討する際は、法面の安定性と排水を先に確認しなければなりません。防草シートやマットは、原則として深いすべりや不安定な地盤を止める工法ではなく、モルタル・コンクリート系の被覆も、防草だけを理由に選ぶものではありません。勾配、地質、湧水、表面水、周辺への影響、点検方法、将来の補修まで含めて、法面保護工と一体で計画する必要があります。
本記事では、法面工事後に雑草が目立つ理由を整理したうえで、代表的な仕上げとして、防草シート、モルタル・コンクリート系被覆、法面保護マット、植生を活用した管理型仕上げの4つを解説します。いずれも万能ではないため、発注前に確認したい条件と、施工後の維持管理上の注意点も紹介します。
目次
• 法面工事後に雑草が増えるのはなぜか
• 法面工事と防草対策を別々に考えてはいけない理由
• 防草仕上げの選択肢1 防草シートによる被覆
• 防草仕上げの選択肢2 モルタル・コンクリート系の被覆
• 防草仕上げの選択肢3 法面保護マットによる仕上げ
• 防草仕上げの選択肢4 植生を活用した管理型仕上げ
• 4つの防草仕上げを選ぶ際の判断基準
• 法面工事前に確認したい現地条件
• 防草効果を長持ちさせる施工上のポイント
• 法面工事後の点検と維持管理
• 発注時に施工会社へ伝えるべき内容
• 法面工事と防草仕上げを一体で計画しよう
法面工事後に雑草が増えるのはなぜか
法面工事後に草が増えたように見える理由は、工事が雑草を直接生み出すからではありません。施工前後で地表面の状態や見え方が変わり、その場所に適応できる植物が定着する場合があるためです。
斜面の整形に伴って伐採、伐根、掘削、盛土、表土の移動などを行うと、施工前に樹木や下草で覆われていた場所へ日光が届きやすくなることがあります。裸地が生じ、周辺から種子が飛来すれば、比較的早い段階で草本類が定着する可能性があります。ただし、発生量や草種は、地域、季節、方位、土質、水分、周辺植生などで大きく変わります。
盛土材、客土、再利用した表土に種子や地下茎が含まれていると、施工時には見えなくても、温度や水分条件が整った後に発芽することがあります。一方、表土を除去した法面でも、風、鳥、動物、車両、人の移動などを通じて種子が運ばれるため、長期間にわたり完全な無植生状態を保てるとは限りません。
雨水や湧水の流れが変化することも、植生の分布に影響します。湿りやすい箇所には湿潤条件に適応する植物が、乾燥しやすい箇所には乾燥に耐える植物が入りやすくなります。ただし、水が多い場所ほど必ず草が増えるわけではなく、強い表面流や洗掘によって植生が定着しない場合もあります。防草だけでなく、水がどこから入り、どこへ抜けるかを確認することが重要です。
植生工を採用した法面では、植物による表面被覆で雨滴の衝撃や表面侵食を抑えることが主な目的 の一つです。導入植物に加えて周辺の植物が侵入することはありますが、植生の根系による効果は主に表層に限られ、深いすべりを止める対策とは区別する必要があります。道路法面に関する公的資料でも、植生工の効果は表層保護を中心に整理され、深いすべりには別の対策が必要とされています。([国土交通省人事院][1])
工事前は樹木や下草が混在して草が目立たなかった場所でも、整形後の均一な法面に植物が生えると、少量でも目につきやすくなります。そのため、「実際に発生量が増えた」のか、「見えやすくなった」のかを、施工前後の写真や管理記録で確認すると判断しやすくなります。
法面の草は美観だけの問題ではありません。背丈の高い草、つる性植物、木本類が繁茂すると、亀裂、はらみ出し、湧水、落石、排水施設の詰まりなどを見つけにくくなる場合があります。刈草や落ち葉が側溝へ入り、通水を妨げることもあるため、防草対策は点検性と排水機能の維持という観点からも検討します。
法面工事と防草対策を別々に考えてはいけない理由
法面工事には、表面侵食を抑える工法、風化や小規模な剥落を抑える工法、すべりや崩壊に抵抗する工法などがあり、目的と負担できる力は同じではありません。一方、防草対策の主な目的は、植物の発芽や生育を抑え、草刈りや除草の負担を減らすことです。両者を混同すると、防草材料に本来ない安定機能を期待したり、排水を妨げたりするおそれがあります。
道路土工構造物の現行技術基準では、地形、地質、気象、水理、維持管理、環境との調和などを考慮し、切土や盛土は必要に応じて法面保護施設を設けるとともに、表面水や地下水を排除する構造とすることが示されています。防草性能だけで工法を決めるのではなく、安全性、耐久性、施工品質、維持管理性を含めて選ぶという考え方が基本です。
たとえば、表層が動いている法面に防草シートを敷いても、地盤の変形に伴って浮き、しわ、破れ、固定具の抜けが生じることがあります。シートや一般的な表面被覆は、地すべりや深い崩壊を止める代替工法にはなりません。亀裂、段差、はらみ出し、新たな湧水、土 砂流出などがある場合は、先に原因を調べ、必要な安定対策を検討します。
反対に、法面保護だけを優先して植生仕上げを採用すると、勾配や立地によっては草刈りが難しくなります。道路沿いや高い法面では、交通規制、足場、ロープ作業などが必要になることもあり、施工後の管理方法まで決めておかなければなりません。
密閉性の高い仕上げを湧水のある法面へ安易に施工すると、背面に水が回り、浮き、ひび割れ、剥離、局部的な侵食につながる可能性があります。透水性のある材料でも、水が安全な排水先へ導かれなければ問題は解決しません。上端排水、縦排水、法尻側溝、地下排水などを含め、法面全体の水の流れを確認します。
また、全面被覆によって地表を直接見られなくなると、小さな変状を発見しにくい場合があります。点検時に何を確認するのか、排水施設へ接近できるのか、部分補修が可能か、異常時にどこへ連絡するのかを計画段階で決めておくことが大切です。
法面工事と防草対策を一体で考えるとは、防草工を法面工事へ追加するだけではありません。安全性と排水を最優先にし、そのうえで防草、景観、点検、補修、更新の条件を整理し、現場に合う仕上げを選ぶことです。
防草仕上げの選択肢1 防草シートによる被覆
防草シートは、法面表面を覆って光を遮り、植物の発芽や生育を抑える方法です。既設法面へ後施工できる場合があり、硬質な被覆を用いずに草刈り負担を減らしたい場所で検討されます。ただし、法面用としての適用勾配、固定方法、耐候性、透水性などは材料ごとに異なるため、製品仕様と設計条件の確認が必要です。
防草シートの利点は、地表を全面的に固めずに遮光できることです。透水性のある材料ではシートを通して水が移動しますが、透水性があることと、法面全体の排水が安全であることは同じではありません。シート下で水が集まる、端部へ水が集中する、法尻が洗掘されるといった状況 も考えられるため、表面水と湧水の処理を別途確認します。
法面では、重力、風、表面流、土砂移動の影響を受けます。固定具の種類、長さ、本数、配置は、勾配、地盤の硬さ、法面の凹凸、風の影響、材料の仕様を踏まえて決めます。平地で使う一般的な施工要領を、そのまま急斜面へ適用するのは避けるべきです。
弱点になりやすいのは、シート同士の重ね部、法肩、法尻、側溝、支柱、基礎、排水管などとの取り合いです。隙間が開くと、地山からの再生だけでなく、上にたまった土砂や有機物を生育基盤として草が生えることがあります。水の流れに逆らわない重ね方とし、端部を確実に納めます。
施工前には、草の地上部、石、枝、廃材などを除去し、シートが大きく浮かないよう不陸を整えます。ただし、根や切株を無理に掘り取ると、安定していた表層を緩める場合があります。地下茎や木本の処理は、法面の状態を確認したうえで、必要な範囲と方法を設計者または施工者と決めます。
シート上へ砕石などを載せる方法は、平場では一般的ですが、法面では滑落や荷重増加に注意が必要です。急勾配で被覆材を載せる場合は、保持方法を含む設計が必要であり、単に上から散布するだけでは安全な仕上げになりません。
防草シートは永久に機能する材料ではありません。紫外線、風雨、飛来物、動物、人の立入り、維持管理機械との接触などで劣化や破損が生じます。点検では、浮き、めくれ、破れ、固定具の抜け、端部の開き、表面の堆積物、排水の滞りを確認します。
採用に向くかどうかは、勾配だけでは判断できません。法面表層が安定しているか、未処理の湧水がないか、固定具が必要な保持力を得られるか、破損時に安全に補修できるかを確認します。不安定な法面では、先に安定対策と排水対策を行い、防草シートは仕上げ材として採用可能かを判断します。
防草仕上げの選択肢2 モルタル・コンクリート系の被覆
モルタル・コンクリート系の被覆は、法面表面を連続的に覆うため、土壌への光や種子の到達を抑えやすく、結果として高い防草性が期待できます。ただし、本来は風化、侵食、表流水の浸透、小規模な剥落などを抑える法面保護工として検討するもので、防草だけを理由に採用するのは適切ではありません。
特に注意したいのは、被覆しただけで斜面全体が安定するとは限らないことです。一般的なモルタル・コンクリート吹付工は、安定した地山の表面保護を目的とする場合があり、地すべりや大きな土圧へ抵抗する工法とは区別されます。地山補強土工、アンカー工、法枠工などが必要かどうかは、地質調査と安定検討に基づいて判断します。
被覆の背面に地下水や湧水がある場合は、水抜きや排水材などで安全に排出する計画が欠かせません。水が滞留すると、背面侵食、浮き、ひび割れ、剥離などにつながる可能性があります。水抜きの位置や数量を一律に決めるのではなく、湧水位置、地質、施工範囲、既設排水との関係を踏まえて設計 します。
施工前には、浮石、脆弱部、土砂、不要な植生などを処理し、必要に応じて金網、補強材、アンカー類を併用します。ただし、必要な仕様は地山の状態によって変わるため、被覆厚さや補強材の本数だけで工法を比較するのは避けます。
施工後は、ひび割れ、はらみ出し、浮き、剥離、端部の侵食、湧水位置と量、ひび割れからの植物の発生などを確認します。国土技術政策総合研究所の点検資料でも、吹付法面の主な着目点として、亀裂、はらみ出し、湧水、浮き・剥離、端部、ひび割れからの雑草が挙げられています。([国土交通省土地総合情報館][2])
表面へ土砂や落ち葉が堆積すれば、その上で植物が発芽することがあります。ひび割れから草が生えた場合も、草だけを抜いて終わりにせず、ひび割れや背面水の原因を確認します。

