法面工事を計画するとき、「斜面を補修するだけなら許可は不要ではないか」「民有地内の小規模な工事なら自由に施工できるのではないか」と考えることがあります。しかし、法面工事に許可や届出が必要かどうかは、工事の名称や請負金額だけでは判断できません。
同じ法面工事でも、既存の表面保護を 部分補修する工事と、切土や盛土によって斜面の形状を変える工事では、関係する法令や行政手続が異なります。森林で立木を伐採する場合、道路上に足場などを設置する場合、砂防関係の指定区域で掘削する場合なども、工事内容に応じて別の許可、届出、協議が必要になる可能性があります。
そのため、実務では「法面工事だから許可が必要」「小規模だから許可は不要」と一括りにせず、土地の位置、区域指定、工事規模、施工内容、周辺施設への影響を確認することが重要です。
本記事では、着工前に確認すべき資料を「土地・区域確認書類」「許可・届出関係書類」「設計・施工・安全管理書類」の3つに整理します。この3つは全国共通の法定書類名ではなく、許可漏れや条件違反を防ぐための実務上の分類です。実際に必要となる書類名、提出先、期限は、工事場所と計画内容を示したうえで所管する行政窓口へ確認してください。
目次
• 法面工事に許可が必要かは何で決まるか
• 着工前に確認する書類1:土地・区域確認書類
• 着工前に確認する書類2:許可・届出関係書類
• 着工前に確認する書類3:設計・施工・安全管理書類
• 法面工事で関係しやすい主な許可と届出
• 許可不要と判断するときに残すべき記録
• 着工前の確認を進める実務フロー
• 書類の不一致で起こりやすいトラブル
• 発注者・設計者・施工者の役割分担
• まとめ
法面工事に許可が必要かは何で決まるか
法面工事の許可要否は、主に工事場所、土地利用、区域指定、施工規模、工事内容の組み合わせで決まります。草刈りや既存施設の軽微な補修は、土地の形質を大きく変える工事に当たらないことがあります。一方、切土、盛土、擁壁の設置、排水経路の変更、立木の伐採、土石の仮置きなどを伴う場合は、複数の制度が関係する可能性があります。
法面の高さや勾配だけで許可要否を判断することはできません。施工面積が小さくても、規制区域内で一定規模の盛土や切土を行えば手続の対象になる場合があります。反対に、法令上の公共施設用地に該当する工事や、災害発生のおそれがないものとして法令上許可不要とされる工事など、一般の工事と扱いが異なる場合もあります。適用除外や許可不要の判断は、工事名ではなく法令上の要件に照らして行う必要があります。
盛土や切土を行う場合は、盛土規制法に基づく規制区域の指定状況を確認します。宅地造成等工事規制区域または特定盛土等規制区域で一定規模以上の盛土、切土、土石の堆積を行うときは、許可や届出などの対象になる可能性があります。同法は宅地だけを対象とする制度ではなく、農地や森林なども含め、土地の用途にかかわらず危険な盛土等を規制する仕組みです。規制区域、基準、窓口は自治体ごとに確認しなければなりません。
山林や雑木林に見える土地が、森林法上の地域森林計画の対象民有林に含まれていることもあります。対象森林で一定規模を超える土地の形質変更を行う場合は林地開発許可を、立木を伐採する場合は伐採及び伐採後の造林に関する届出を検討します。林地開発許可と伐採関係の届出は別の制度であり、工事規模や森林の区分によって必要な手続が異なります。登記上の地目や現況だけで決めず、森林担当窓口で対象森林か確認することが大切です。
砂防指定地、地すべり防止区域、急傾斜地崩壊危険区域などでは、掘削、切土、盛土、工作物の設置、立木の伐採などが制限される場合があります。法面を安全にする目的の工事であっても、指定区域内の行為に該当すれば、着工前の許可や協議が必要 になる可能性があります。なお、土砂災害警戒区域と、これらの行為制限を伴う指定区域は制度上の目的や扱いが異なるため、名称を混同しないように確認します。
最初に整理すべきなのは、「どの土地で、何を、どの範囲まで変更するのか」です。工法が確定する前でも、位置、施工範囲、切土・盛土の有無、伐採範囲、排水先、仮設計画を図面や写真にまとめれば、行政との事前相談を進めやすくなります。
着工前に確認する書類1:土地・区域確認書類
1つ目は、工事対象地と規制区域を特定するための土地・区域確認書類です。許可要否の判断を誤る原因の一つに、現場で見えている斜面と、法令上の対象地や所有範囲が一致していないことがあります。
まず、工事場所の所在地、地番、土地所有者、敷地境界を確認します。資料としては、登記事項を確認できる書類、公図、地積測量図、境界確認資料、現況測量 図などが考えられます。すべての現場で同じ資料が必要になるわけではありませんが、工事範囲がどの土地に含まれ、誰が所有または管理しているのかを説明できる状態にしておく必要があります。
法面は、平面的な境界だけでなく、法肩、法尻、地下部分、上空部分の位置関係にも注意が必要です。法面上部と下部で所有者が異なる場合や、法尻付近に道路、水路、隣接地との境界がある場合は、施工範囲が第三者の土地や管理施設へ及ばないか確認します。吹付材、アンカー、排水管、基礎、仮設足場などが境界を越える計画になっていないか、平面図と断面図の両方で確認することが重要です。
次に、都市計画、盛土規制、森林、砂防、河川、道路、農地、文化財などの区域指定を確認します。行政が公開している地図や閲覧資料は有効な手掛かりですが、公開図だけで最終判断できるとは限りません。区域境界付近の土地、古い告示に基づく指定、縮尺の粗い図面などでは、所管部署への照会が必要です。
土地・区域確認書類には、行 政との事前相談記録も含めて管理すると実務が安定します。相談日、相談先、説明した工事内容、回答内容、追加提出を求められた資料などを記録しておけば、計画変更時の再確認に役立ちます。
ただし、口頭で「許可は不要と思われる」と回答されたことだけを根拠に着工するのは避けたほうが安全です。行政側が確認した計画と実際の施工範囲が異なれば、当初の回答をそのまま適用できない可能性があります。相談時に使用した位置図、平面図、断面図、写真を保存し、どの計画を前提とした回答なのか分かるようにします。
土地所有者の同意や使用権原に関する書類も確認します。発注者が土地所有者とは限らず、管理者、借地人、施設運営者などが工事を発注している場合があります。土地所有者の承諾、隣接地への立入り承諾、仮設物を設置する権限などを着工前に整理します。
所有者の承諾と行政上の許可は別の問題です。行政上の許可を受けていても第三者の土地を当然に使用できるわけではなく、土地所有者が了承していて も法令上必要な許可や届出が免除されるわけではありません。両者を分けて確認することがトラブル防止につながります。
着工前に確認する書類2:許可・届出関係書類
2つ目は、工事に関係する許可・届出関係書類です。ここで重要なのは、申請書や届出書を提出したことと、対象工事へ着手できることを同じ意味で扱わないことです。
許可対象となる行為は、法令上の例外を除き、必要な許可を受けてから着手するのが基本です。申請書の受付印や提出控えがあっても、許可通知前には着工できない制度があります。一方、届出は、着手前の一定期間までに提出するもの、工事後に報告するものなど制度ごとに扱いが異なります。提出したという事実だけでなく、手続の種類と効力を確認しなければなりません。
現場担当者は、その手続が許可、承認、届出、協議、確認などのどれに該当するのかを把握します。「役所 へ提出済み」という説明だけで判断せず、提出日、受理状況、許可日、許可番号、着手できる時期、付された条件を確認します。
許可通知書や協議結果には、工事期間、施工範囲、工法、排水施設、土量、施工順序などに関する条件が付されることがあります。現場へ渡された図面が、許可または協議の前提となった最終版と一致しているかも確認します。
設計変更が繰り返された現場では、申請時の図面、修正中の図面、施工用図面が混在しやすくなります。施工班が最新だと思っている図面が、行政手続前の案であることも考えられます。許可書類と承認図面を管理番号でひも付け、現場で使用できる版を明確にします。
許可後に法面勾配、切土高、盛土高、擁壁構造、排水経路、施工範囲などを変更すると、変更許可、変更届、再協議などが必要になる可能性があります。岩盤や湧水など設計時と異なる条件が見つかっても、施工者の判断だけで許可内容を変更できるとは限りません。
変更の程度によっては軽微な変更として扱われる場合がありますが、その範囲は制度や行政庁の運用によって異なります。現場だけで処理せず、設計者と発注者へ報告し、必要に応じて所管部署へ確認する手順を決めておくことが重要です。
工事によっては、許可後に着手届、中間検査、定期報告、完了検査、完了届などが必要になります。盛土規制法に基づく許可工事でも、規模や内容に応じて標識掲示、定期報告、中間検査、完了検査が関係する場合があります。許可取得を手続の終点と考えず、着工後と完了後の義務まで工程へ組み込みます。
森林内の工事では、林地開発許可や伐採関係の届出だけでなく、砂防、盛土、道路、河川など別制度の手続が残っていないか確認します。自治体の申請要領によっては、他法令の手続状況を示す資料の提出を求められることもあります。一つの許可を取得しただけで、関係するすべての手続が完了したと判断しないことが大切です。
許可・届出関係書類は、現場からすぐに確認できる状態にします。原本を現場へ置けない場合でも、許可条件、承認図面、届出内容を確認できる写しや電子データを用意し、変更が生じたときの連絡先を明確にしておきます。
着工前に確認する書類3:設計・施工・安全管理書類
3つ目は、許可内容と設計条件を実際の施工へ反映するための設計・施工・安全管理書類です。行政上の手続が完了していても、許可条件を守れる施工計画になっていなければ、適切に工事を進めることはできません。
基本となるのは、位置図、現況平面図、計画平面図、縦断図、横断図、法面断面図、構造図、排水計画図などです。法面の高さ、勾配、地盤条件、切土と盛土の範囲、既設構造物との位置関係、法肩と法尻の納まりが読み取れる状態にします。
法面工事では、排水計画が安全性に大きく関係します。表面を保護しても、法面上部から流入する雨水や地下水を適切に処理できなければ、侵食、洗掘、湧水、材料の剥離、地盤の軟弱化などが起こる可能性があります。
法肩排水、縦排水、法尻排水、集水ます、水抜き、既設側溝との接続などを一体的に確認します。排水先については、単に下流へ流す計画では不十分です。既設水路の管理者、接続方法、流下状況、土砂流出防止措置、施工中の仮排水まで検討します。流下能力の評価や構造検討が必要な場合は、設計者や管理者と協議します。
地盤条件に応じて、地質調査資料、土質試験結果、地下水位、湧水状況、安定計算書なども確認します。小規模な補修で詳細調査を行わない場合でも、現地確認や既存資料など、工法選定の根拠を説明できるようにしておくことが望まれます。
既存法面にひび割れ、はらみ、段差、局所的な崩落、湧水、傾いた立木などがある場合は、表面の劣化だけでなく斜面内部の変状が進んでいる可 能性があります。表面保護だけで対応できるか、抑止や抑制、排水などの対策が必要かは、専門的な調査と設計を踏まえて判断します。
施工計画書では、掘削順序、切土方法、残土搬出、資材搬入、仮置き、重機配置、作業員の動線、降雨時の対応、周辺への飛散防止などを具体化します。法面は施工中に一時的に不安定になることがあるため、完成後だけでなく施工途中の状態を安全に保てる計画が必要です。
長い法面を一度に掘削せず施工区間を分ける、上部からの雨水を仮排水へ導く、掘削後の裸地を必要以上に長く残さないなど、施工順序によってリスクを抑えられる場合があります。具体的な施工順序は、地盤条件、工法、気象条件を踏まえて決めます。
安全管理書類には、墜落・転落防止、落石防止、重機との接触防止、上下作業の調整、立入区域、誘導方法、保護具、緊急時の退避方法などを反映します。ロープを使用する作業、足場上の作業、高所作業車を使用する作業などでは、採用する作業方法に応じて、必要な作業 計画、教育、資格、点検を確認します。
周辺に道路、住宅、鉄道、学校、河川、農地、設備などがある場合は、第三者災害を防ぐ措置も重要です。落石、資材の飛散、泥水の流出、騒音、振動、粉じん、工事車両の出入りなどが周辺へ与える影響を整理します。
設計・施工書類と許可書類の内容が一致していることも確認します。許可申請では切土としていた箇所を施工計画で盛土へ変えるなど、土地の形質変更の内容が変われば、許可要否や審査条件に影響する可能性があります。
着工前会議では、許可条件を読み上げるだけでなく、現場のどの作業に関係する条件なのかを具体的に確認します。立木の保存、排水施設の先行施工、土石の仮置き範囲など、作業員が行動へ反映できる形で共有することが重要です。
法面工事で関係しやすい主な許可と届出
法面工事で最初に検討したい制度の一つが、盛土規制法に基づく手続です。規制区域内で一定規模以上の盛土、切土、土石の堆積などを行う場合、許可や届出の対象になる可能性があります。
規模の判断では、完成後の法面だけでなく、工事に伴う盛土や切土の高さ、面積、土量、崖の発生状況などを確認します。残土や購入土を一時的に置く計画も、土石の堆積として規制対象になる可能性があるため、工事本体と分けて確認します。
都市計画法上の開発許可を受ける計画では、盛土規制法との手続関係が整理される場合があります。ただし、一つの許可によって森林、砂防、道路、河川、農地などの手続まで自動的に完了するわけではありません。関係法令ごとに確認が必要です。
森林内の法面工事では、林地開発許可と伐採及び伐採後の造林に関する届出を区別します。地域森林計画の対象民有 林で一定規模を超える開発行為を行う場合は、林地開発許可の対象になり得ます。開発規模が許可基準に達しない場合でも、立木を伐採するときは伐採関係の届出が必要になることがあります。自治体独自の小規模開発に関する届出制度が設けられている場合もあるため、地域の制度を確認します。
保安林では、一般の地域森林計画対象民有林とは異なる規制や手続が関係します。現況が雑木林であっても保安林指定が残っている場合があるため、所有者からの聞き取りだけで判断せず、行政資料で確認します。
砂防指定地では、土地の掘削、盛土、工作物の設置、立木の伐採などが制限される場合があります。地すべり防止区域や急傾斜地崩壊危険区域でも、斜面の安定へ影響する一定の行為が許可対象になることがあります。災害防止を目的とする工事であっても、区域内行為の手続が当然に不要になるとは限りません。
河川に近い法面では、河川区域、河川保全区域、河川管理施設、占用地、水路管理区域などを確認します。法尻の 排水を河川や水路へ接続する場合、護岸に手を加える場合、工事用通路を設ける場合などは、河川管理者や水路管理者との協議、許可、承認などが必要になる可能性があります。
公道に接する法面では、道路占用許可と道路使用許可を区別します。道路に足場、仮囲いなどの物件を設け、道路空間を継続的に使用する場合は、道路管理者による道路占用許可の対象になり得ます。一方、道路上で工事や作業を行い、交通へ影響を与える場合は、所轄警察署長による道路使用許可が必要になることがあります。工事内容によっては両方が必要になるため、道路管理者と警察のそれぞれへ確認します。
作業車を道路上に置く、通行規制を行う、資材の荷下ろしで交通へ影響を与えるといった計画は、主に道路使用の観点から確認します。足場や仮囲いを道路上空または路面に設ける計画は、道路占用の観点も含めて確認します。民有地内の工事でも、作業が道路交通や道路施設へ影響すれば手続が必要になる可能性があります。
擁壁を新設また は改築する工事では、盛土や開発に関する手続に加え、建築基準法上の工作物に関する確認手続が必要にならないか検討します。対象となる構造や規模、他制度との手続関係には例外があるため、計画地を所管する建築担当窓口へ確認します。
農地を資材置場や工事用通路として使用する場合や、工事後に農地以外の用途へ変える場合は、農地転用に関する許可や届出が問題になることがあります。一時的な利用でも手続が必要になる場合があるため、工事後に元へ戻す予定だけを理由に不要と判断せず、農業委員会などの窓口へ確認します。
自治体独自の条例や要綱も確認します。土砂の搬入、残土処分、景観、自然環境、地下水、開発行為、近隣説明などについて、国の法律とは別の届出や協議が設けられている地域があります。国法上の許可対象外でも、条例上の手続が必要になる可能性があります。
許可不要と判断するときに残すべき記録
許可が不要と判断した工事でも、確認作業が不要になるわけではありません。実務では、どの計画を前提に、どの制度を確認し、なぜ許可や届出の対象外と判断したのかを残すことが重要です。
まず、工事場所を特定できる位置図と地番、施工範囲を示す平面図、現況と計画を比較できる断面図を保存します。切土、盛土、土石の堆積、立木伐採、排水変更、工作物設置の有無も記録します。
次に、確認した規制区域と担当窓口を整理します。盛土規制区域に含まれているが工事規模が基準未満だったのか、規制区域外だったのかでは、判断根拠が異なります。同様に、森林法の対象森林ではないのか、対象森林だが伐採を行わないのかを区別します。
行政へ相談した場合は、相談に使用した図面、相談日、担当部署、回答内容を保存します。電子メールなど書面の回答が得られた場合はその記録を保管し、電話や窓口での相談も社内記録として残します。
許可不要の判断後に工事範囲や工法が変わった場合は、改めて確認します。当初は既設排水溝の清掃だけだった計画が、法面の切り直しや擁壁の新設へ変われば、判断の前提も変わります。
現場では、「少し掘削するだけ」「短期間の仮置きだから問題ない」といった表現で変更が見過ごされることがあります。感覚的な大小ではなく、法令上の行為に該当するか、区域や規模の基準へ影響するかで判断します。
全国共通の許可不要確認書が用意されているわけではありませんが、社内確認票を作成すると認識をそろえやすくなります。工事名称、所在地、地番、区域指定、切土・盛土の規模、施工面積、伐採範囲、仮設物、排水先、確認先、確認日などを記録します。
ただし、社内確認票を作成しただけで法的判断が確定するわけではありません。判断が難しい土地、区域境界付近、複数制度 が重なる工事では、行政担当部署や必要に応じて専門家へ確認します。
着工前の確認を進める実務フロー
着工前確認は、工事範囲と行為の内容を仮決定するところから始めます。施工範囲が曖昧なまま行政へ相談すると、一般的な制度説明にとどまり、個別の許可要否を判断しにくくなります。
最初の図面は詳細設計ほど精密でなくても、工事位置、対象法面、切土・盛土範囲、施工面積、法面高、排水先、伐採範囲、仮設ヤードを示します。現況写真を添付すると、工事内容を伝えやすくなります。
次に、土地の地番、所有者、境界を確認します。公道や水路に接している場合は、境界資料だけでなく施設管理者も確認します。見た目では敷地内に見える通路が道路区域に含まれていたり、側溝が別の管理者の施設だったりすることがあるためです。
土地を特定した後、関係しそうな行政部署を整理します。盛土、都市計画、森林、砂防、河川、道路、農地、建築、文化財など、複数部署への確認が必要になる場合があります。
行政相談では、「法面工事をしたい」とだけ伝えるのではなく、行為の内容を具体的に説明します。既存法面の表面を補修するのか、地山を掘削するのか、盛土で成形するのか、擁壁を設置するのか、土石を仮置きするのかによって、確認すべき制度が変わります。
必要な許可や届出が判明したら、申請に必要な図面、計算、調査、同意書などを整理します。排水計画や斜面安定に関する検討が必要になることもあるため、施工直前ではなく余裕を持って手続を進めます。審査期間は制度、自治体、補正の有無によって異なるため、一律の日数で見込まないことが重要です。
許可や協議が完了した後は、付された条件と承認図面 を施工計画へ反映します。この段階で、設計者が想定した施工方法と施工者の計画に違いがないかを確認します。
着工前会議では、許可番号の確認だけでなく、現場で守る条件、変更時の連絡手順、検査時期、写真管理、標識掲示、完成後の提出資料などを共有します。
工事開始後は、現地条件が設計と異なる場合の対応を明確にします。無理に設計どおり施工することも、現場判断で大きく変更することも避け、作業を安全な状態で中断して設計者と発注者へ報告できる体制を整えます。
書類の不一致で起こりやすいトラブル
法面工事では、書類がそろっていても、内容が一致していなければ問題が起こります。特に注意したいのが、位置図と実際の施工場所のずれです。
同じ住所に複数の法面がある現場では、許可対象として示した斜面と、実際に補修する斜面を取り違える可能性があります。地番だけでなく、座標、周辺構造物、法面の形状、写真などを組み合わせて施工箇所を特定します。
次に注意したいのが、申請図と施工図の不一致です。申請後の設計変更が許可図面へ反映されないまま施工用図面だけが更新されると、行政手続の前提と異なる工事を進めるおそれがあります。
法面勾配や法面高の小さな変更に見えても、構造の安全性、排水計画、土量、許可対象規模へ影響する可能性があります。図面を差し替えるときは変更箇所を明示し、変更手続の要否を確認します。
土地・区域確認書類と現況が一致しないこともあります。境界標が見つからない、隣接地との境界が確定していない、公開図上の区域境界が不鮮明といった状態で着工すると、越境や手続漏れにつながる可能性があります。
排水計画の不一致にも注意が必要です。設計図では既設側溝へ接続する計画でも、現場で側溝が閉塞していたり、流下先が確認できなかったりする場合があります。接続先や排水方法を変えるときは、施設管理者や土地所有者との調整、許可変更の要否を確認します。
許可条件と工程の不一致も見落とされやすい点です。防災施設や排水施設の先行施工が条件になっているのに造成を先に進めれば、許可条件に適合しない可能性があります。完成形だけでなく施工順序に関する条件も工程へ反映します。
工事区域外への土石の仮置きにも注意が必要です。施工ヤードが不足して隣接地や道路際へ土石を置くと、許可区域外の行為や別の規制対象になる可能性があります。仮置き場所は施工計画の段階で確保し、排水、崩壊、流出の防止まで確認します。
許可書に記載された工事主、土地所有者 、施工者などと実際の契約関係が変わった場合は、名義や届出事項の変更手続が必要にならないか確認します。必要な対応は制度ごとに異なるため、所管部署へ照会します。
発注者・設計者・施工者の役割分担
許可手続の漏れを防ぐには、「誰かが確認しているはず」という状態をなくす必要があります。発注者、設計者、施工者で役割を明確にし、確認結果を共有します。
発注者は、土地所有者、事業主体、工事目的、契約範囲を明確にし、必要な許認可や届出を誰が進めるのか決めます。行政手続を設計者や施工者へ委任する場合でも、法令上の申請者、工事主、届出者が誰になるのかを確認します。
設計者は、土地条件と法令条件を踏まえ、行政手続と整合する設計図書を作成します。斜面安定、排水、擁壁、法面保護などを検討し、現場条件が変わった場合は変更内容が安全性と手続へ与える影響を確 認します。
施工者は、許可条件と承認図面を確認したうえで施工計画を作成し、現場へ周知します。工事中に設計と異なる地盤、湧水、境界、既設構造物などを確認した場合は、作業を継続する前に報告します。
元請と協力会社の間でも許可条件を共有します。現場責任者だけが内容を把握していても、実際に掘削や資材搬入を行う作業員へ伝わっていなければ、条件違反や越境を防げません。
発注者が「許可取得済み」と説明している場合でも、施工者は自らが施工する範囲に関する許可書と承認図面を確認します。施工者が行政相談を行った場合は、その結果を発注者と設計者へ共有します。
書類の管理責任者も決めます。行政へ提出した版、許可を受けた版、現場で使用する版を区別し、変更履歴を残します。古い図面には使用停止の表示を行い、誤って施工に使用されないようにします。
工事完了後は、完成図、施工写真、検査記録、使用材料、排水施設の位置などを整理します。法面工事は完成直後だけでなく、降雨後や経年後の点検も重要になるため、将来の維持管理へ引き継げる記録を残します。
まとめ
法面工事に許可や届出が必要かどうかは、工事名だけでは判断できません。土地の位置、区域指定、切土や盛土の規模、立木伐採、擁壁、排水、道路への影響などを個別に確認する必要があります。
着工前に確認する資料は、土地と規制区域を特定する土地・区域確認書類、行政手続の状況を示す許可・届出関係書類、許可内容を現場へ反映する設計・施工・安全管理書類の3つに整理できます。ただし、これは実務上の分類であり、法令で定められた全国共通の3書類を意味するものではありません。
最初に土地と施工範囲を特定し、関係する行政窓口へ事前相談を行います。その後、必要な許可、届出、協議などを完了させ、行政手続の前提となった図面と施工計画が一致していることを確認してから着工します。
許可不要と判断した場合も、判断に使用した位置図、区域確認、工事規模、行政相談記録を保存します。工事範囲や工法が変わったときは、当初の判断をそのまま流用せず、改めて手続の要否を確認することが重要です。
法面の許可確認では、現場の位置、境界、法面高、勾配、排水施設、変状箇所などを正確に共有できる資料が役立ちます。着工前の写真、測量結果、位置情報を図面や協議記録とひも付ければ、発注者、設計者、施工者、行政の間で施工範囲を共有しやすくなります。書類確認と現地記録を一体化し、許可漏れと施工範囲の認識違いを防ぐことが、安全な法面工事の第一歩です。
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