CIM活用チェックリスト：最短で成果を出すLRTKの実践手順

CIMとは？建設業界におけるデジタル改革の鍵

CIM（シム）とは *Construction Information Modeling/Management* の略で、建設プロジェクトに3次元モデルとデータ管理を取り入れる手法です。建築分野のBIM（Building Information Modeling）を土木・インフラ分野にも応用した概念で、国土交通省が2012年に提唱しました。当初は「3Dモデルによる施工プロセスの効率化」が目的でしたが、現在では計画・設計から施工、維持管理に至る 建設ライフサイクル全体でデータを一貫活用する取り組み と位置付けられています。

CIMを導入すると、図面や書類では把握しづらかった現場情報を3Dで「見える化」でき、関係者全員が共通のモデルを共有しながら検討を進められます。例えば設計段階で3Dモデルを使えば、構造物の干渉チェックや出来形のイメージ共有が容易になり、設計ミス・施工ミスのリスク低減につながります。また施工段階では、重機オペレーターから現場監督、発注者まで誰もが同じ完成イメージを視覚的に確認でき、コミュニケーションロスが減ります。完成後も、そのモデルに部材情報や点検履歴を蓄積していけば、維持管理で迅速に必要情報を引き出せます。こうしたメリットから、CIMは 業務効率化・生産性向上の切り札 として期待されています。

近年、政府主導で建設業界のデジタル化「i-Construction」が推進され、CIMの活用が急速に広がっています。2023年度からは国土交通省直轄の多くの工事・業務でBIM/CIMの原則適用（事実上の必須化）が始まり、自治体発注や民間プロジェクトへも拡大しつつあります。この流れに乗り遅れないよう、ゼネコンから自治体、中小建設企業まであらゆる関係者がCIMに取り組み始めています。「でも何から手を付ければいいのか？」と戸惑う向きも多いでしょう。本記事では、CIM導入をスムーズに進めて最短で成果を上げるためのチェックリストを、各段階ごとに解説します。新技術 *LRTK* を活用した効率化ポイントにも触れながら、初心者にもわかる実践手順を紹介します。

CIM導入の準備：体制整備と計画策定

CIMを成功させるには、現場の具体的なツール導入以前に事前準備と体制づくりが重要です。以下のポイントを押さえて、スムーズなスタートを切りましょう。

• 導入目的とゴールの明確化: まずCIMをなぜ導入するのか、目指す成果は何かを明確にします。例えば「設計ミス削減」「施工期間短縮」「維持管理コスト削減」など社内で共通認識を持ちましょう。目的が明確だと、導入計画やツール選定も的確になります。

• 経営層・プロジェクト関係者の合意形成: CIM導入には従来の業務プロセス変更が伴います。経営者や発注者の理解とサポートを得て、現場含む関係者全員が前向きに取り組める体制を整えます。トップダウンの推進役（CIM推進リーダー）を指名し、全体を牽引してもらうと効果的です。

• 必要なリソース・ツールの準備: 3Dモデルを扱うためのソフトウェアや高性能PC、タブレットなどICT機器を用意します。社内に詳しい人材がいなければ外部のサポートや研修を活用し、スタッフのスキル習得も図ります。小規模な企業でも、最近はクラウドサービスや簡易測量ツール（後述のLRTKなど）により初期コストを抑えて導入可能です。

• データ標準と運用ルール策定: 複数の業者や部署が関わる場合、CIMモデルのフォーマットや命名規則、版管理ルールを事前に取り決めます。国交省の「CIM導入ガイドライン」や業界標準（IFC形式など）を参考に、誰でも扱いやすいデータ環境を整備しましょう。属性情報の入力範囲や更新手順なども決めておくと、後工程で役立ちます。

• パイロットプロジェクトで試行: いきなり全案件に展開するのではなく、まずは規模の小さい案件や社内テストでCIMの流れを体験します。小さく始めて得られた教訓をもとに、段階的に本格導入へ移行することで、現場の抵抗感を減らしスムーズに浸透できます。

以上の準備を経て、いよいよ各プロセスで具体的なCIM活用に取り組んでいきます。次章からは、設計・施工・維持管理それぞれの段階に分けてチェックリスト形式でポイントを解説します。

設計段階のCIM活用チェックリスト

設計フェーズでは、CIMの基盤となる3Dモデルの作成と情報付加が中心です。従来の2次元図面中心の設計業務を見直し、以下のチェックポイントを意識してCIMを活用しましょう。

• 現況データの収集とモデル化: 計画対象となる現場の地形・構造物など現況を正確に把握することが出発点です。既存資料だけでなく、必要に応じてドローン写真測量や地上レーザースキャン等で点群データを取得し、現況地形や既存構造物の3Dモデルを作成します。これにより設計モデルを実際の地形に合致させ、後工程での食い違いを防げます。

• 3Dモデル中心の設計: 土木CADやBIM対応ソフトを用いて、構造物や土工作業の3Dモデルを詳細に作成します。平面図・断面図だけでなく、3次元上で設計要素を検討・配置することで、立体交差や周辺との取り合いも直感的に把握できます。モデルには材質・寸法・数量など属性情報も付与し、後の積算や施工計画に活用できるようにします。

• モデルのレビューと品質チェック: 設計モデルが完成したら、関係者でレビューを行いましょう。構造物同士や周辺地形との干渉チェック（クラッシュチェック）をソフト上で実施し、設計ミスを未然に防ぎます。また、基準や発注者要求を満たしているか、モデルに必要な属性が漏れなく入っているかといった照合も重要です。国交省提供の「設計照査シート」などを活用するとチェック漏れを防げます。

• 関係者とのモデル共有: 設計段階から発注者や他部門とモデルを共有し、フィードバックを得る仕組みを作ります。打合せでは可能な限り図面ではなく3Dモデルを提示し、全員が同じ空間イメージを持てるようにします。早い段階で施工者の意見を取り入れることで、「施工してみたら設計どおりに作れない」といった手戻りを防止できます。モデル共有には専用ビューアやクラウドサービスを利用すると円滑です。

• 数量積算やシミュレーションへの活用: 完成したCIMモデルは積算・数量計算にも役立ちます。モデルから土量や部材数量を自動算出して従来の手作業を省力化できるほか、必要に応じて施工シミュレーション（4Dモデル：3D＋時間）を行い、仮設計画や工程計画の妥当性を検証します。これらの活用により、設計段階からCIMの効果（効率化・精度向上）を実感できるでしょう。

施工段階のCIM活用チェックリスト

施工フェーズでは、設計モデルを現場で最大限活用し、生産性向上と品質確保につなげます。以下のチェックリストを参考に、デジタル施工ならではの新しいやり方に取り組んでみましょう。

• デジタル測量と出来形管理: 着工前の丁張り・墨出し（位置出し）作業や、中間検測・出来形確認にはICTを活用します。具体的には、トータルステーションやGNSS測量機を用いてモデル上の座標を現地に正確に出力したり、逆に出来形を計測してモデルと照合したりします。広い範囲の盛土・切土作業では、従来のレベル測量ではなくGNSSによる高さ測量を組み合わせることで、1人でも効率良く地盤高を確認可能です。近年はドローンや地上LiDARで施工途中の土量や形状を点群計測し、設計モデルとの差を可視化する取り組みも一般化しています。

• マシンガイダンス・マシンコントロールの活用: ブルドーザやショベルなど施工機械に3D設計データを連携し、オペレーターが座標情報を頼りに作業できるシステムを活用します。重機の運転席モニターに設計地盤や構造物モデルを表示すれば、熟練者でなくとも勘に頼らず正確に掘削・盛土が行えます。マシンコントロール機能付きの最新重機であれば、設定した設計面のとおりに自動制御で掘削・整地が進むため、作業効率と精度が飛躍的に向上します。

• ARによる施工支援: タブレットやスマートグラスのAR機能で、現場に設計モデルを重ね表示して活用します。例えば構造物の据付位置をARで可視化すれば、測量技術者がいなくても正確な墨出し・設置が可能です。鉄筋配置では、AR上に配置図どおりの位置に仮想の鉄筋モデルを表示し、実物とのズレがないか即座に検証できます。埋設物工事でも、埋め戻す前にARで完成図を確認することで、ミスや漏れの早期発見ができます。AR施工支援により、「設計図どおり」に現場を作り上げる精度が大幅向上し、手直し工事や材料ロスの削減につながります。

• 進捗・品質管理のデジタル可視化: 現場で日々得られる出来高データや品質検査結果をCIMモデルに統合し、リアルタイムで進捗管理に役立てます。例えば出来形の点群データをモデルに重ねて施工進捗を色分け表示したり、検査結果をモデル上の部位に紐付けて記録する仕組みを作ります。これにより、現場事務所でも本社でも3D上で直感的に工事状況を把握でき、工程の遅れや品質問題に早期に対応できます。発注者への報告や社内共有もモデルを見せるだけで理解してもらいやすくなり、情報伝達がスムーズです。

• 関係者間の情報共有強化: 施工段階では現場代理人・職長から設計者・発注者まで多様な関係者がいますが、CIMモデルを共通言語として使うことでコミュニケーションロスを防ぎます。タブレット端末に最新モデルを常に同期しておき、現場打合せで活用しましょう。遠隔地の関係者とは、モデルを使ったオンライン会議やリモート臨場を行うことで、距離を超えて現場状況を共有できます。また近隣住民向けには、ARで完成イメージを現地に投影して説明会を行うと理解と協力を得やすくなるでしょう。CIMのデータは現場とオフィス、発注者と受注者をつなぐ共通プラットフォームとなり、円滑な意思決定を支えます。

維持管理段階のCIM活用チェックリスト

施設引き渡し後の維持管理にも、CIMの成果を活かすことでライフサイクルを通じた効率化が実現します。完成した構造物の長寿命化やメンテナンスコスト削減に向けて、以下のポイントをチェックしてみましょう。

• 完成モデルの引き渡しと情報引継ぎ: 施工時に更新された最新の3Dモデルと付随情報を、維持管理部門や発注者へ確実に引き継ぎます。図面や書類だけでなく、CIMモデル自体を納品物とすることで、完成した構造物のデジタルツインとして活用できます。モデルには竣工図や検査成績、品質記録なども紐付けておき、後から見返せるようにします。

• 点検計画への活用: 構造物の点検や補修計画立案に、CIMモデル上のデータを役立てます。モデルに登録された部材情報（材質・規格・耐用年数など）を参照すれば、劣化しやすい部位や更新時期の把握が容易です。例えば「橋梁のケーブル張力は何年後に点検・交換すべきか」等がデータから算出できます。また、過去の変状履歴をモデルに重ねて記録しておけば、次回点検時に前回との変化を3Dで比較でき、劣化進行の把握に役立ちます。

• 維持管理時の点群計測と変位モニタリング: 供用後も定期的に構造物の現況を点群スキャンすることで、微細な変形や損傷を検出できます。トンネルや法面では、定期点検時に3Dスキャンした点群を過去データと比較し、変位量を可視化するといった活用が始まっています。CIMモデルと実際の状態を突き合わせてモニタリングすることで、異常の兆候を早期に発見し、予防保全に繋げられます。近年ではドローンや簡易GNSS搭載デバイスを使って、誰でも迅速に点群取得できるようになりつつあります。

• ARによる維持管理支援: 点検や補修の現場でもAR技術が有効です。スマートデバイスをかざして構造物内部の配置を透視的に表示すれば、例えば埋設管や鋼材の配置を事前に把握した上で掘削や穿孔作業ができます。また、点検箇所をARマーカーで表示して巡視すれば、見落とし防止や効率的な点検が可能です。CIMモデルに蓄積した知見を現場作業者が直感的に参照できるため、ベテランの経験がない要員でも質の高い維持管理を行えるようになります。

• データの一元管理と活用: 維持管理では、点検結果や補修履歴など膨大な情報を扱いますが、CIMモデルを アセットマネジメントのプラットフォーム として位置づけて一元管理すると便利です。点検写真や報告書PDFをモデル内の該当部位にリンク付けして蓄積したり、劣化予測シミュレーションをモデルに反映したりと、デジタルデータを有機的に結びつけましょう。こうした情報活用により、従来は属人的だった維持管理業務がデータ駆動型に変わり、計画的かつ効率的なインフラ管理が実現します。

点群データ活用のポイント

CIMと切っても切れないのが点群データの活用です。点群（レーザースキャナや写真測量で得た多数の点の集まりからなる3Dデータ）は、現況の形状を詳細に記録し、モデルと実景を結びつける役割を果たします。各段階での点群活用ポイントを押さえておきましょう。

• 設計段階: 計画地周辺の地形や既存物を点群で取得し、設計のベースに活用します。広範囲の地形測量はドローン写真測量で効率化し、出来上がった点群から等高線や地表面モデルを作成すれば、精度の高い地形モデル上で設計が可能です。橋梁や河川などでは、レーザースキャナで周囲環境をスキャンし、周辺構造物とのクリアランス検討や景観シミュレーションにも役立てます。

• 施工段階: 工事中は出来形管理や進捗確認に点群を活用します。たとえばトンネル工事では、掘削ごとに内空断面をレーザースキャンして設計形状と比較し、掘り過ぎ・掘り残しを即チェックできます。舗装工事でも、敷設前後の路面を点群測定して平坦性を評価するなど、品質管理に3Dデータを取り入れるケースが増えています。また、完成した構造物の形状をドローンで丸ごと点群取得し、発注者に提出することで出来形の客観的なエビデンスとする試みも進んでいます。

• 維持管理段階: 前述のとおり、点群は定期点検や災害調査でも威力を発揮します。地震・台風など災害後に構造物をスキャンすれば、被災箇所の変形量を定量化して記録できます。点群データは年月を超えて比較可能な資産となるため、維持管理では時系列データとしての価値も大きいです。近年はモバイルLiDAR搭載のタブレットや、スマホのカメラで簡易3Dスキャンする技術も発達しており、点群取得のハードルが下がっています。

• データ管理と活用方法: 取得した点群はファイル容量が大きく扱いが難しい面もあります。用途に応じて地物ごとのメッシュモデルに変換したり、ポイント数を間引いて軽量化するなど工夫しましょう。またCIMモデルとの位置合わせ（ジオリファレンス）も重要です。座標系を統一し、モデルと点群を重ねて比較できる環境を整えることで、「仮想施工」による検証や出来形の自動評価といった高度な活用が可能になります。

GNSS測量とAR施工支援による効率化

CIMの成果を最短で引き出すには、最新テクノロジーを現場で活用することが鍵です。特に注目したいのが GNSS測量 と AR（拡張現実）による施工支援 の組み合わせです。これらを駆使することで、熟練者でなくとも高精度な測量・施工が可能となり、結果的にCIM導入のハードルを大きく下げてくれます。

GNSS測量とは、GPSなどの衛星測位システムを使った測量手法で、基地局と移動局のデータをリアルタイムに比較するRTK（Real-Time Kinematic）技術により数センチの精度で現在位置を測定できます。従来、高精度測量には専門の測量士とトータルステーション機器が必要でしたが、近年は高性能な小型GNSS受信機とスマートフォンを組み合わせた安価なシステムが登場しています。例えば *LRTK*（スマホ装着型のRTK-GNSSソリューション）を使えば、アンテナ付きスマホを現場に持ち込んでボタンを押すだけで、誰でも測点の緯度・経度・高さを取得できます。広い造成地での高さ確認や構造物の位置出しも1人で迅速に行えるため、測量待ちで工事が停滞することが減るでしょう。

一方のAR施工支援は、タブレットやスマホの画面越しに現実の風景に3Dモデルを重ねて表示する技術です。先述のように、施工現場でARを活用すると図面では見えにくい完成形をその場で直感的に把握できるため、ミスの低減とコミュニケーション向上に非常に効果的です。ただし一般的なARアプリでは、現地でのモデル位置合わせ（キャリブレーション）に手間がかかる課題がありました。毎回基準となる目印と仮想モデルを調整しないと正しい位置に重ねられないため、使いこなしには熟練が必要だったのです。

この課題を解決するのが、GNSSとARを組み合わせたソリューションです。LRTK（エルアールティーケー） はまさにその代表例で、スマホに取り付けたRTK-GNSS受信機から得た正確な座標をもとに、3Dモデルを実世界の正しい位置・スケールで自動的に表示できます。面倒な位置合わせ作業をせずに済むため、現場に着いたらすぐにスマホ画面上で構造物モデルや設計ラインがその場に浮かび上がります。例えば、造成工事で地面に完成地形モデルを重畳表示し、オペレーターが目で見ながら削る高さを調整したり、橋脚の据付位置に実寸大モデルを投影してクレーン作業を誘導したりと、応用範囲は多岐にわたります。

GNSS測量とAR施工支援を組み合わせたこれらの技術は、大手建設会社のみならず中小の現場でも徐々に採用が進んでいます。1人1台スマホを持てば誰でも測量からAR確認までこなせる手軽さは、深刻な人手不足に悩む建設業界にとって追い風です。LRTKのようなシステムはクラウド連携にも対応しており、現場で取得した座標データや点群をそのままクラウドに保存して事務所と共有する、といった使い方も可能です。これにより、CIMモデルと現場実測データの統合がリアルタイムで進み、より精度の高い施工管理をスピーディーに実現できます。

まとめ：LRTKで最短のCIM成果を実現しよう

CIM活用チェックリストとして、設計・施工・維持管理の各段階で押さえるべきポイントを見てきました。最初はハードルが高く感じられるCIM導入も、段階ごとにやるべきことを整理し、適切なツールを使えば着実に成果を上げることができます。特に GNSS測量やARといった技術を積極的に取り入れること が、CIMの効果を最短で引き出す鍵となります。

今や、スマートフォンと小型デバイスを組み合わせたLRTKのような手軽なソリューションが登場し、CIMの現場適用はかつてないほど身近になりました。LRTKを活用すれば、熟練の測量技術者が不足していても自社スタッフだけで高精度な出来形計測やARによる施工検証が可能となり、小規模な企業や地方の現場でもデジタル施工の恩恵を享受できます。国土交通省の推進するi-Constructionにも適合した最新ツールを使いこなすことで、従来に比べ大幅な工期短縮・コスト削減を実現した事例も生まれています。

重要なのは、テクノロジーを単に導入するだけでなく、それを業務フローに組み込み活用していくことです。本記事のチェックリストを参考に、自社のプロジェクトに合ったCIM活用計画を策定し、まずは出来ることから始めてみてください。CIMとLRTKを味方につけて、設計から維持管理まで一貫したデジタル施工に踏み出せば、きっと驚くほどの効率化と品質向上を実感できるはずです。あなたの現場でも、最新技術を武器に最短で成果を出し、建設DXの波に乗りましょう！