現場で杭の逆打ち(測設)を行う際、設計通りの正確な位置にポイントを出す精度が何より重要です。ほんの数センチのズレでも構造物の位置や高さに影響し、後戻りの手直しや重大なトラブルに繋がりかねません。しかし、こうした高精度の杭打ち(墨出し)作業を従来の方法で実現するのは容易ではありません。
そこで今注目されているのが、スマートフォンと最新GNSS技術を組み合わせたLRTK座標誘導です。これにより、熟練した測量技術者でなくとも、スマホを片手にセンチメートル級の測位で杭の逆打ち精度を確保できる時代が到来しました。本記事では、逆打ち作業の課題とLRTKによる解決策を解説し、スマホ操作で誰でもできる座標誘導やAR表示、クラウド同期の実力をご紹介します。
逆打ち作業に求められる精度と従来の課題
建設現場での杭打ち測設(墨出し)では、設計図に示された通りの位置・高さに印をつけ、杭や構造物の据付位置を確定させる必要があります。この「逆打ち」と呼ばれる作業では、ミリ単位の精度が要求されることも珍しくありません。基礎の杭位置が数センチでもずれれば、上部構造との取り合いで不整合が生じ、最悪の場合は支持力不足や施工やり直しにつながる可能性があります。つまり、逆打ち精度の確保は品質管理と安全施工の要なのです。
しかし、逆打ち作業でセンチメートル精度を実現するのは、従来技術では大きな負担が伴いました。例えばトータルステーションなどの光学測量機器を使う場合、据え付けや後方交会のために熟練者を含む2人1組の作業が必要となります。機材も大型・重量で持ち運びに手間がかかり、現場のたびに据え直す非効率さがありました。また汎用のハンディGPS受信機では測位誤差が5~10m程度もあり、とても杭打ちに求められる数センチの精度には及びません。このため高精度を 求める場合、従来は高額なRTK-GNSS受信機と基地局を用意し、専門知識を持つ測量技術者がリアルタイム補正情報を使って測位する必要があったのです。
人手不足や技術者の高齢化が進む建設業界では、このような手間とコストのかかる測設手法を維持することが難しくなってきています。限られた人員と予算でも精度を妥協せずに杭打ち作業を行うためには、より手軽で高精度な新技術が求められていました。
LRTKで実現するRTK級の測位精度
こうした課題を解決するソリューションとして登場したのがLRTKです。LRTKは小型の高精度GNSS受信機デバイスとスマホ用アプリからなるシステムで、スマートフォンに装着して使用します。東京工業大学発のスタートアップ企業が開発したこのLRTKデバイスをiPhoneやiPadに取り付ければ、ポケットに入るスマホがそのままセンチメートル級測位が可能な測量機器へと早変わりします。
また、既存の光学測量機や測量用GNSS装置を揃える場合と比べて、LRTKは必要な機器がスマホと小型デバイスのみのため導入コストを大幅に削減できます。高額な専用機材を人数分用意する負担が減り、日常の施工管理業務にも気軽に取り入れやすいという利点があります。
LRTKはRTK-GNSS(リアルタイムキネマティック)方式に対応しており、専用機器に匹敵する測位精度を実現します。複数周波数対応の高性能アンテナと、日本の準天頂衛星みちびきが配信するセンチメートル級補強サービス(CLAS信号)やインターネット経由のネットワーク型RTK(Ntrip方式)を利用することで、どこにいても誤差数センチ以内の位置座標を取得可能です。開けた場所で電源を入れて数十秒程度で測位がFIX(フィックス解)状態に収束し、水平位置で±2cm・高さ方向で±4cm以内という驚異的な精度を現場で手軽に得られます。これは従来の光学測量や高額GNSS機器に匹敵する精度であり、杭打ち測量に必要な精度要件を十分に満たすものです。日本の平面直角座標系にも標準対応しており、測定と同時にジオイド高(高さの補正値)も自動計算されます。取得した座標値はそのまま設計図やCADソフトに利用でき、煩雑な座標変換を意識する必要もありません。
スマホと一体化できるほど小型・軽量でありながら、LRTKは内蔵バッテリーで約6時間の連続測位が可能です。現場で半日以上にわたり使用しても電池切れの心配がなく、必要に応じてモバイルバッテリーから充電しながらの運用もできます。この携帯性と持続力により、常に作業員が腰袋にLRTKを忍ばせておき、必要なときにすぐ取り出して測位・測設に使えるという“一人1台の測量ツール”を現実のものにしています。
さらに、LRTKはデバイス・アプリ・クラウドが連携する統合システムとなっている点も特筆すべきでしょう。小型デバイスが高精度測位を担い、スマホアプリが直感的な操作UIとカメラ・LiDARセンサー連動機能を提供し、クラウドサービスがデータ管理と共有を支えます。例えば取得した測位結果や点群データは、アプリからその場でクラウドに保存・同期でき、オフィスにいながら進捗を確認するといった使い方も可能です。ハード・ソフト・クラウドが一体化したLRTKなら、現場で必要な測量業務をオールインワンでこなせるのです。
スマホで座標誘導:誰でも迷わない杭打ち作業
LRTKシステムの強みの一つが、スマホ上で直感的に利用できる座標誘導(ナビゲーション)機能です。事前に基準点や杭打ち位置の目標座標をアプリに入力しておけば、現地でその地点に近づいた際にスマートフォンの画面上に矢印と距離が表示され、ユーザーを誘導してくれます。まさにカーナビの測量版とも言える仕組みで、指示通りに進むだけで誰でも迷わず正確なポイントに到達可能です。これなら測量の専門知識がない施工管理担当者であっても、指示された座標へ自力で辿り着き、そこに杭やマーキングを施すといった作業を一人でこなせます。
従来は測量士がトータルステーションで方向と距離を指示し、補助員がその指示に従って杭を打つという二人作業が当たり前でした。LRTKの座標誘導を使えば、このような杭打ち測設もワンタッチ操作のスマホ一台で完結します。デバイスを一脚やポールに取り付けて気泡管で水平をとれば、スマホを持って移動するだけでセンチメートル単位

