逆打ち工法×スマート技術―LRTKが拓く次世代施工管理

建設現場のデジタル化が加速する中、伝統的な施工手法もスマート技術との融合によって新たな価値を生み出しています。その代表例が、地下工事で用いられる「逆打ち工法」と最新の測量技術の組み合わせです。逆打ち工法とは、地下階を持つ建物の施工で一般的な順序をあえて逆転させ、地上部分と地下部分を並行して造り上げる工法で、工期短縮や軟弱地盤での安定施工といったメリットから多くの大型プロジェクトで採用されています。しかし、その複雑さゆえ精密な施工管理と測量が求められる難易度の高い工法でもあります。

一方で近年、RTK（リアルタイムキネマティック）測位やAR（拡張現実）、クラウド連携といったスマート技術を活用した次世代の測量ソリューションが登場しています。その中でも注目を集めているのが LRTK です。スマートフォンと小型高精度GNSS受信機、専用アプリから構成されるLRTKは、センチメートル級のRTK測位精度、スマホで扱える手軽さ、直感的なAR座標誘導、そしてクラウド同期によるデータ共有といった特長を併せ持つ測量DXサービスです。現場の施工管理者や測量士が1人1台のスマホで扱えるこの手軽さも相まって、逆打ち工法のような高度な施工現場において威力を発揮しています。

本記事では、ゼネコンの施工管理者や測量士の方々を主な対象に、「逆打ち工法×スマート技術」の融合が施工管理にもたらす変革について解説します。逆打ち工法の概要と従来の課題を整理し、LRTKをはじめとするスマート測量技術がそれらの課題をどう克服するか具体的に見ていきましょう。併せて、現場業務の効率化や精度向上、さらには将来を見据えた施工管理DX（デジタルトランスフォーメーション）の可能性についても考察します。

逆打ち工法とは？メリットと施工管理上の課題

まずは「逆打ち工法」の基本を整理しましょう。逆打ち工法は、地下階を持つ建造物で採用される特殊な施工方法で、通常とは逆の順序で地下構造物を構築する点に特徴があります。一般的な地下工事（順打ち工法）では、敷地を掘削して地盤面より下の全ての地下部分を作り終えてから、地上部分の建築に移ります。これに対し逆打ち工法では、先に地上部分の構造（特に1階床スラブ）を施工し、その構造体を支えとして地下の掘削と躯体構築を並行して進めます。例えば、1階床を打設後、その床で周囲の山留め壁を支持しながら地下1階を掘削・構築し、続いて地下2階へ…という具合に、上から下へ順次地下階を造り下げていくのです。

この工法にはいくつかのメリットがあります。

• 工期短縮: 地上工事と地下工事を同時並行で進められるため、全体工期を大幅に圧縮できます。特に都市部の大型プロジェクトでは、工期短縮による早期開業やコスト削減の効果が大きくなります。

• 安定した地下施工: 掘削と同時に上部構造で土留め壁を支持できるため、地下空間の安定性が向上します。従来工法に比べて地盤の緩みや周辺地盤の沈下を抑制でき、軟弱地盤でも安全に深い掘削が可能です。

• 仮設コストの削減: 上部構造（床スラブ等）が山留め壁の支保工の役割を兼ねるため、従来必要だった大量の切梁や支保工材を一部省略できます。これにより仮設工事の費用や作業量を減らせる場合があります。

一方で、逆打ち工法には施工管理上の課題や注意点も存在します。

• 施工空間の制約: 地下階の工事は上部の床下という限られた空間で行われるため、作業環境が手狭になります。重機の搬入経路や資材の取り回しが制限され、測量機器の設置スペース確保にも苦労するケースがあります。

• 高精度な測量・位置出し: 地上と地下の構造物を後から精密に接合する必要があるため、柱や壁の位置出し（墨出し）には通常以上の精度が要求されます。施工中に基準点を上下階に伝達する作業も増え、わずかな測量ミスが後工程のズレや手戻りにつながるリスクがあります。

• 複雑な工程管理: 地上・地下の並行作業に加え、構造物同士が相互に支え合う工程になるため、施工計画の立案と現場管理は高度な判断力を要します。作業間の連絡ミスや設計図との認識違いがあると重大なトラブルにつながりかねません。

• 高度な施工技術の要求: 上部構造を支えにしながら地下構造を構築していくため、コンクリートの打継ぎ部分の処理や仮設支保工の計画など、通常工法とは異なる高度な施工技術も必要とされます。現場では入念な施工計画と技術検討が要求され、作業員への周知徹底も重要です。

以上のように、逆打ち工法はメリットが大きい反面、緻密な管理と技術力が求められる工法です。特に測量・墨出し作業の重要性が高く、施工管理者と測量士にとって腕の見せ所となる場面が多々あります。では、こうした逆打ち工法の現場において、スマート技術はどのように活躍できるのでしょうか。次章では、LRTKを例にスマート測量技術がもたらす解決策を見ていきます。

スマート測量技術LRTKがもたらす現場変革

では、逆打ち工法の複雑な現場に対し、スマート測量ツールのLRTKが具体的にどんなソリューションを提供してくれるのかを見ていきましょう。LRTKは高精度GNSSとスマホアプリを組み合わせた測量システムで、以下に紹介するような特長により施工管理を強力に支援します。

RTK測位精度で施工精度を底上げ

LRTK最大の強みの一つが、RTK測位によるセンチメートル級の高精度測位です。専用の小型GNSS受信機をスマホに装着し、リアルタイムキネマティック技術で衛星測位データを補正することで、通常は数メートル単位のGPS誤差がわずか数センチ以下にまで縮小されます。水平位置はもちろん、標高（高さ）方向も高精度に測位できるため、地下階のスラブ高さ管理や構造物の据付位置の確認など、逆打ち現場で重要となるあらゆる三次元座標の管理に威力を発揮します。

従来、ミリ単位の精度確認にはトータルステーションによる細かな測定や水準器による丁寧な高さ確認が欠かせませんでした。しかしLRTKを用いれば、現場スタッフがスマホ片手に即座に現在位置の座標値を把握し、設計図上の計画値と比較できます。例えば、地下柱の位置出しではLRTKで算出した全球座標（世界測地系）を使って、地上階と地下階で柱芯のズレがないか即時に確認可能です。わずかな位置の狂いも早期に検知できるため、後戻り施工の防止や構造精度の向上につながります。

さらに、LRTKは日本の「みちびき」衛星による高精度測位サービス（CLAS）にも対応しており、都市部で電波環境が不安定な状況や地下躯体で一時的に天空が遮られる場面でも安定した測位が可能です。逆打ち工法でありがちな地下での測量困難箇所においても、LRTKなら切れ目なく正確な測位を継続でき、測量データの信頼性を損ないません。高精度な位置情報が常に得られる安心感は、施工管理者にとって非常に心強い武器となるでしょう。

スマホ運用の手軽さで誰でも即測量

LRTKはスマートフォンで操作できるため、その手軽さが現場に大きな恩恵をもたらします。専用端末（約165g程度の小型GNSSユニット）をスマホに装着し、アプリを起動するだけで高精度測量の準備が整います。煩雑な据え付けや高度な機器の設定は不要で、現場に出向いてすぐに測り始めることができます。これは、限られた時間内で段取り良く進める必要がある逆打ち工法の現場でも大いに役立ちます。

従来は測量士がトータルステーションを運搬・設置し、チームで位置出し作業を行う場面も多く見られました。しかしLRTKであれば、施工管理者や若手スタッフでも1人でサッと測量が可能です。軽量でポケットに入るほどの端末ゆえ、常に携行して必要なときにすぐ取り出せます。たとえば「急遽ある箇所の高さを確認したい」「図面と現場の位置関係をその場でチェックしたい」といった際も、LRTKなら測量の専門担当を待つことなく自分たちで対応できます。現場の誰もが測量データを取得できる環境が整うことで、待ち時間の減少や意思決定のスピードアップにつながり、逆打ち工法のようなタイトな工程管理にも余裕が生まれるでしょう。

また、操作インターフェースがスマホアプリで統一されている点も習得を容易にしています。直感的なUIデザインとわかりやすいワークフローによって、ITや測量機器の専門知識が深くない方でも短時間で使いこなせます。ベテランに頼らざるを得なかった測量作業をチーム全員で分担できるようになれば、人材不足の現場でも効率を維持しやすくなるでしょう。LRTKの普及によって「一人一台」の測量DXが実現すれば、現場全体の生産性底上げに直結します。

AR座標誘導で直感的な施工チェックと位置出し

LRTKが提供するAR（拡張現実）機能は、現場での位置出し作業や施工確認のやり方を一変させます。従来、平面図と巻尺・測量機で行っていた墨出しや位置確認を、スマホの画面越しに直感的に誘導してくれるのが特徴です。例えば、LRTKアプリのカメラ映像上に設計上の基準点や構造物の端部位置がマーカーとして表示されるため、作業者は実際の景色の中で「どこに杭を打つべきか」「次に壁を構築する位置はどこか」が一目で分かります。逆打ち工法の地下階施工では、上階から直接視認できない場所への墨出しが課題となりますが、AR座標誘導を使えば視界上に仮想の墨出し線や杭を投影できるため、狭小空間でもスムーズな位置決めが可能です。

さらに、LRTKのAR機能は単点の誘導に留まらず、3Dモデルを用いた施工イメージの重畳表示も実現しています。クラウドにアップロードしたBIM/CIMなどの設計3次元データを、現場座標系に合わせてスマホ上にAR表示することで、設計モデルと現況をその場で比較検討できます。例えば、地下階のコンクリート打設前に、完成形の3Dモデルを現地に重ねて投影し、構造躯体や開口部の位置関係を事前に確認するといった活用が可能です。紙の図面では掴みにくかった完成後の姿を現場で共有できるため、認識齟齬による手戻りリスクを低減します。発注者や関係者との打合せでも、ARで具体的な完成イメージを示すことで合意形成が容易になり、説明に費やす時間も短縮されるでしょう。

このように、AR座標誘導によって現場と設計のギャップを埋めることが、逆打ち工法の複雑な施工を円滑に進めるポイントとなります。勘や経験に頼っていた部分をデジタルデータで見える化することで、施工管理者の負担が軽減され、品質確保も確実になります。LRTKのAR機能は、未来のスマート施工を先取りした心強いサポート役と言えるでしょう。

クラウド同期で情報共有と記録をシームレス化

LRTKは現場で取得したあらゆるデータをクラウドに即時同期できる仕組みを備えています。測位した座標値、撮影した写真、点群データ、メモなどをスマホからワンタップでアップロードできるため、現場で測ったその瞬間からオフィスや別拠点にいるチームメンバーが最新情報を閲覧可能です。逆打ち工法の現場では、地上班と地下班、あるいは施工担当と設計担当など、複数の関係者がリアルタイムに進捗を把握することが重要です。クラウド同期により、現場とオフィスの情報格差を埋め、全員が同じデータを共有しながら意思決定できる環境が整います。

例えば、地下1階の柱位置を測定してすぐにクラウドへ同期すれば、設計者はオフィスからその座標を確認し、計画との誤差を即座にチェックできます。問題があればすぐフィードバックを受け取れるため、その場で修正対応が可能です。また、LRTKクラウド上では蓄積した測位点や点群を地図や図面上で一覧できるため、出来形（完成物）の確認や報告資料の作成も効率化されます。従来は現場監督が終業後に手作業でまとめていた測量記録も、自動でデジタル蓄積されるため記録漏れ防止や書類作成の負担軽減にもつながります。

さらに、LRTKクラウドは外部関係者とのデータ共有もシンプルです。特定の測定データや点群モデルを協力会社や発注者に見せたい場合、クラウド上で該当データを選び共有用URLを発行すれば、相手はブラウザからすぐに3Dビューアで確認できます。専用ソフトのインストールや煩雑なやり取りをせずに済むため、プロジェクト全体のコミュニケーションコストも削減されます。このようなクラウド活用によって、逆打ち工法のような複雑工事における情報伝達のタイムラグが解消し、現場とオフィスが一体となったスピーディーな施工管理が実現するのです。

まとめ: 逆打ち工法×LRTKで施工管理は次世代へ

逆打ち工法とスマート測量技術の融合がもたらすメリットについて見てきました。工期短縮や安定施工を実現する逆打ち工法に、LRTKのような先端技術を組み合わせることで、精度・効率・コミュニケーションのすべてにおいて飛躍的な向上が期待できます。従来は職人の勘と経験に頼っていた部分もデータに基づく管理に置き換わり、ミスの低減と業務負担の軽減が図れるでしょう。現場とオフィスがシームレスにつながることで、プロジェクト全体の見える化が進み、関係者全員が一体感を持って施工に臨める点も見逃せません。

実際に、国内外でデジタル施工への移行が進む中で、LRTKのようなスマート測量システムは施工管理の新たなスタンダードになりつつあります。逆打ち工法のような高度な工事に限らず、一般的な土木・建築工事においても、その導入効果が報告されています。「現場DX」や「i-Construction」というキーワードが示すように、建設業界全体がデジタルトランスフォーメーションに舵を切る中で、これらのツールを活用しない手はありません。

もし皆さんの現場で逆打ち工法に取り組む機会があるなら、ぜひLRTKの活用を検討してみてください。スマホで気軽に始められるLRTKなら、初めての方でも導入ハードルは高くありません。小さな一歩からでも現場にスマート技術を取り入れることで、その利便性と効果を実感できるはずです。逆打ち工法×スマート技術が切り拓く次世代の施工管理を、あなたのプロジェクトでも実現してみませんか。