はじめに
建設業界では近年、慢性的な人手不足や長時間労働といった課題から、デジタル技術による生産性向上が急務となっています。その切り札として注目されている取り組みの一つがCIM(Construction Information Modeling、コンストラクション・インフォメーション・モデリング)です。CIMとは、3次元モデルを活用して設計から施工、維持管理までの情報を一元管理する手法で、国土交通省も2023年度から公共事業への原則適用を開始するなど、急速に普及が進みつつあります。しかし、CIMの導入・運用には新たな技術や社内体制の整備が求められ、何から手を付ければ良いか悩む方も多いでしょう。そこで本記事では、発注者・設計会社・ゼネコン・自治体・測量会社など建設業界全般の方々を対象に、CIM運用を成功させるためのベストプラクティス10項目を【保存版】としてご紹介します。初心者にも分かりやすいよう具体例を交えながら解説しますので、CIM活用のヒントとしてぜひお役立てください。
1. CIM導入の目的と効果を明確にする
まず最初に、CIMを導入する目的を明確化しましょう。ただ闇雲にCIMを導入しても効果が実感できない可能性があります。自社やプロジェクトにおいてCIMで何を達成したいのか、導入前にしっかり定めることが重要です。例えばCIMの導入によって次のような効果が期待できます。
• 業務効率化(手戻り削減や作業時間短縮)
• コスト削減(ミス防止や最適化による無駄排除)
• 品質向上(設計の精度向上や施工ミス低減)
• リスク管理(事前シミュレーションによるトラブル回避)
• 情報共有の迅速化(関係者間で常に最新情報を共有)
• 維持管理の効率化(竣工後の点検・改修にモデル活用)
• 公共工事入札への対応(発注条件への適合や提案加点)
どのメリットを重視するかによって、運用の仕方や注力ポイントも変わってきます。例えば、現場の生産性向上が狙いなら施工管理へのモデル活用を重点的に計画する必要がありますし、維持管理を重視するのであれば将来の更新時に役立つ情報をモデルに残す工夫が求められます。最終的に「CIMを導入して自社は何を改善したいのか」を経営層から現場まで共有し、導入後もその目標を指標で測定しながら進めることが成功への第一歩です。
2. 組織体制とトップのコミットメントを確立する
新しい技術を定 着させるには、組織としての体制づくりと経営層の強力な後押しが欠かせません。トップマネジメントがCIMの有用性を理解し、明確に導入推進を宣言することで、現場にも前向きに取り組む雰囲気が生まれます。予算や人員の確保にも経営層のコミットメントが必要です。また、社内にCIM推進の責任者や専門チームを設け、各部署(設計・施工・情報システム部門など)横断で協力できる体制を整えましょう。例えば、情報共有のルール作りや運用支援は専門部署が中心となり、現場からのフィードバックを受けて改善する循環を作ることが重要です。トップダウンの号令とボトムアップの現場知見の融合が、CIMを社内文化に根付かせる原動力となります。
3. 社内標準・ガイドラインを整備する
CIMを効果的に運用するには、社内で統一されたルール作りが重要です。各担当者がバラバラのやり方でモデルを作成していては、データが統合できず混乱を招きます。そこで、CIMに関する社内標準やガイドラインを事前に整備しましょう。具体的には、モデルの座標系やスケールの統一、レイヤーや属性情報の命名規則、部材の分類方法、モデルの詳細度(LOD)の基準、ファイル命名ルール、更新履歴の管理方法などを定めます。国土交通省が公開している「BIM/CIM導入ガイドライン」や業界標準のデータ形式(例えばIFCなど)も参考に、自社の業務に合ったルールを策定 すると良いでしょう。
標準化されたルールがあることで、複数のプロジェクトや社外パートナーとの間でもデータ互換性が保たれ、CIMを円滑に活用できます。また、このガイドラインは社内に周知徹底し、定期的に見直すことで常に現場に合った実効性のあるものにしていくことが大切です。
4. 共通データ環境(CDE)を構築して情報共有を円滑に
CIM運用では、関係者全員が最新のデータにアクセスできる共通の情報基盤を用意することが成功のカギとなります。これを「共通データ環境(CDE:Common Data Environment)」と呼びますが、要はプロジェクト関係者がモデルデータや図面、書類類を一元的に共有・管理できるクラウドプラットフォームを構築するということです。メールでファイルをやり取りしたり各社が別々にデータを保存したりしていては、バージョン違いによるミスや情報漏えいが発生しかねません。
CDE上で常に最新のモデルや関連資料を共有することで、発注者・設計者・施工者・協力会社など誰もが同じ情 報を見ながら業務を進められます。例えば設計変更があればモデルを更新してCDEにアップロードし、現場担当者はそれを即座にタブレットで閲覧して施工に反映するといった流れが理想です。権限設定を行えば必要な情報だけを適切に共有できるため、機密管理もしやすくなります。プロジェクトの「単一の信頼できる情報源(Single Source of Truth)」としてCDEを整備し、情報共有のインフラを固めておきましょう。
5. 自社に適したツールと技術を選定する
CIMに用いるソフトウェアやハードウェアの選定も重要なステップです。現在、BIM/CIM対応の設計ソフトや点群処理ツール、クラウドサービスなど様々な製品がありますが、自社のニーズと予算に合ったものを見極めて導入しましょう。高機能でも操作が複雑すぎるツールを選んで現場が使いこなせなければ本末転倒ですし、逆に簡易すぎて必要な機能が不足していても効果が出ません。検討にあたっては、以下の点を考慮すると良いでしょう。
• 目的への適合: ツールが自社のCIM導入目的(設計支援、施工管理、維持管理など)に適した機能を持っているか確認する
• 操作性と習熟難易度: 現場担当者が直感的に扱えるUIか、研修コストに見合うか評価する
• データ互換性: 他社や他システムとデータ交換する際に標準フォーマットに対応しているか(IFC形式のエクスポート等)
• 導入コスト: ライセンス費用やハード機器購入費だけでなく、運用にかかるクラウド費用や保守費用も含めて予算に収まるか
• 拡張性: 将来的に利用範囲を広げる際に追加モジュールやカスタマイズが可能か、ベンダーのサポート体制は十分か
例えば中小規模の企業であれば、初期投資を抑えて始められるクラウド型のCIMサービスを利用し、効果を見極めてから本格導入するという選択肢もあります。自社の技術力や人材状況も踏まえ、無理なく長く使える道具を選びましょう。
6. 小規模プロジェクトからスモールスタートする
CIMの導入は、いきなり全社で全面展開しようとせず、小さな範囲から始めて徐々に拡大するのが賢明です。まずは試行的に1つのプロジェクトや部署でCIMを導入し、成功体験を積みましょう。小規模な案件であればリスクも限定的で、トラブルが起きても影響を最小限に抑えられます。パイロットプロジェクトで得られた教訓をもとに運用ルールやツール設定を改善し、段階的に適用範囲を広げていくとスムーズに社内展開できます。
例えば初めは設計部門内だけで3Dモデル活用を始め、次に施工現場との連携を図り、最後に維持管理にも展開するといったステップが考えられます。また、小さな成功事例ができれば社内の他メンバーにも効果を示しやすく、導入への抵抗感も和らぐでしょう。国や業界団体の実証事業や補助金制度を活用してトライアルを行うのも一つの手です。無理のないスモールスタートで確実に成果を積み重ね、CIMを社内に根付かせていきましょう。
7. 人材育成とデジタルスキルの向上に取り組む
CIMを使いこなすには、人材の育成にも力を入れる必要があります。従来2D図面が中心だった現場では、3DモデリングやICTに習熟した人材が不足しがちです。まずは既存社員への教育研修を計画しましょう。ソフトウェアの操作トレーニングや外部セミナー受講、ベンダーによる講習会開催などを通じて、担当者のスキルアップを支援します。また、即戦力となる人材を新規採用したり、必要に応じてBIM/CIMに詳しいコンサルタントの力を借りることも検討しましょう。
社内では若手社員がデジタルツールに慣れているケースも多いので、彼らを中心にプロジェクトを進めたり、デジタルが得意な社員を各部署のキーパーソンに任命したりすると効果的です。同時に、選ぶツールはなるべくユーザーフレンドリーなものを心がけ、専門知識がなくても直感的に操作できる環境を整えることも大切です。社員が「使ってみたい」「覚えれば業務が楽になる」と前向きに取り組めるような教育と仕組みづくりで、人材面の不安を解消しましょう。
8. 関係者全体で協力し合う体制を築く
CIMの効果を最大化するには、自社内だけでなくプロジェクトに関わる 全ての関係者との協力体制を築くことが欠かせません。発注者、設計会社、施工会社、下請け業者、さらには将来の維持管理担当者まで、皆がCIMモデルを共通のプラットフォームとして活用し、情報を共有できるようにしましょう。例えば発注者の立場であれば、プロジェクトの初期段階から設計者や施工者に対してCIM活用の方針や納品物の形式を明示し、期待する成果を共有します。施工会社であれば、設計段階からモデルを提供してもらい施工計画に活かす、あるいは協力会社にもモデルの一部を共有して施工順序を擦り合わせる、といった取り組みが考えられます。
定期的な合同ミーティングで3Dモデルを一緒に見ながら協議するのも効果的です。CIMは「共通言語」として関係者間のコミュニケーションを円滑にしてくれるツールです。立場の異なる関係者同士も、モデル上で具体的に完成イメージや課題を共有することで、認識のズレを減らし一体感を持ってプロジェクトを進められるでしょう。
9. 現場でのモデル活用で真の効果を引き出す
CIMモデルはオフィス内での検討だけでなく、実際の現場で活用してこそ真価を発揮します。現場の施工管理や検測(出来形確認)にモデルを役立てることで、さらに効率化と品質向上が可能です。例えば、施工中にタブレット端末で常に最新の3Dモデルを参照すれば、紙の図面では気付きにくい設計とのズレをその場で発見し、すぐに是正できます。また、完成後の出来形検査では、計測した点群データを設計モデルと重ね合わせて色分け表示することで、施工誤差を一目で把握できます。従来はベテランの職人技に頼っていた現場での寸法出しや位置出しも、モデルと連携したデジタルツールによって誰でも正確に行えるようになります。
近年ではAR技術を使って、スマホやタブレットのカメラ映像にモデルを重ねて表示し、地下埋設物の位置を視覚的に確認したり、設計どおりに構造物が設置できているかその場でチェックしたりすることも可能です。さらに、GNSS(衛星測位)と3Dスキャン技術を組み合わせれば、現地の地形測量からモデルへの反映までを短時間で完了できます。こうした形で現場とデジタルモデルをリアルタイムに結びつけることで、CIMは単なる設計ツールに留まらず、現場の生産性革命にも寄与します。
10. 効果測定とPDCAで継続的に改善する
CIM運用は導入して終わりではなく、効果を検証しながら継続的 に改善していく姿勢が大切です。導入時に設定した目的・目標に対して、実際にどの程度達成できたのかを定量的・定性的に評価しましょう。例えば、「図面修正の手戻りが何%減った」「現場の出来形検査にかかる時間が○割短縮できた」など、可能な範囲で数値目標を検証します。また、現場の担当者から使い勝手についてヒアリングし、どの機能が役立ったか、どんな課題が残っているかといったフィードバックを集めましょう。
それらの結果を踏まえて、社内のガイドラインや運用フローをアップデートし、必要ならツールの追加導入や別の使い方の検討も行います。このようにPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Act)を回しながら、CIM運用の質を高めていくことで、長期的な定着とさらなる効果創出につなげられます。技術の進歩も早いため、業界動向や新しいソリューションの情報にもアンテナを張り、随時自社のCIM活用に取り入れていく柔軟性も持ち合わせましょう。
おわりに
以上、CIM運用を成功させるための10のベストプラクティスをご紹介しました。CIMは建設業のDXを支える強力な武器ですが、その真価を発揮するには単なるツール導入に留まらない総合的な取り組みが必要で す。目的設定から始まり、組織の体制構築、ルール整備、人材育成、そして現場での活用まで、一つひとつ着実に進めることでCIM導入の効果は最大化されます。
なお、国によるBIM/CIM原則適用といった政策的な後押しも追い風となり、今まさにCIMに取り組む絶好のタイミングと言えるでしょう。
特に、CIMの基盤となる現場での3次元データ取得(測量)は欠かせません。しかし高額な測量機材や専門スキルがハードルとなる場合もあります。近年登場した[LRTKによる簡易測量](https://www.lrtk.lefixea.com/)のようなソリューションを活用すれば、スマートフォンを使って誰でも手軽に高精度の測量が行えるようになります。ポケットサイズのデバイスをスマホに装着し、ボタン一つで地盤の高さや構造物の位置をセンチメートル単位で計測でき、そのデータは即座にクラウドで共有可能です。こうした新技術を取り入れることで、現場とCIMモデルの連携がより円滑になり、さらなる効率化が期待できます。
ぜひ本記事の内容を参考に、自社やプロジェクトでのCIM導入・運用にお役立てください。CIMの活用を通 じて、建設業界全体の生産性向上と働き方改革が一層進むことを期待しています。
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