建設業界では近年、3次元モデルを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)が急速に進んでいます。その中でも注目されるキーワードが CIM(シム) です。CIM とは何か、BIMとの違いや導入するメリット、具体的な活用方法や導入ステップまで、基礎からわかりやすく解説します。2025年現在、国土交通省が推進する *i-Construction* の一環としてCIMの普及が進んでおり、業界として無視できない存在となっています。本記事を通じて、CIMの基礎知識と導入のポイントをしっかり押さえていきましょう。
CIMとは?
CIM(Construction Information Modeling / Management、コンストラクション・インフォメーション・モデリング/マネジメント)とは、建設・土木工事において 3次元のデジタルモデル と 関連情報 を結びつけて活用する手法です。コンピューター上に構築した3Dモデルに、設計情報・コスト・資材・工程・維持管理データなど様々な属性情報を紐付け、調査・設計から施工・維持管理に至る あらゆる工程で情報共有・活用する ことで、プロジェクト全体の効率化と品質向上を目指します。
言い換えると、CIMは 「情報を持った3Dモデル」を中心に業務を進めるアプローチ です。従来は2次元の図面を用いて施工や設計が行われてきましたが、平面図だけで完成形を正確にイメージするには経験が必要で、情報共有にも手間がかかりました。CIMを導入すれば、3Dモデル上で直感的に完成イメージを共有でき、関連情報も一元管理できるため、設計変更の伝達や数量計算などがスムーズになります。その結果、関係者間の認識齟齬が減り、無駄なやり直しの削減や生産性向上につながります。
CIM誕生の背景
CIMが生まれた背景には、他分野のデジタル化の成功があります。例えば製造業や自動車産業では、3Dデータの活用によって生産性向上を実現してきた歴史があります。建築分野でも BIM(ビム) と呼ばれる3Dモデル活用手法が海外を中心に広く普及してきました。BIMは *Building Information Modeling* の略で、主に建築物(ビルや住宅)の設計・施工で用いられる手法です。
こうした流れを受け、日本の国土交通省は2012年(平成24年)に 土木分野向けのBIM としてCIMの導入を提唱しました。当初CIMは *Construction Information Modeling*(建設情報モデリング)という定義でしたが、後にマネジメントも含めた概念へと発展しています。海外では土木分野でも包括的に「BIM」という用語が使われることが多く、必ずしも「CIM」という表現は一般的ではありません。しかし日本では、建築のBIMと区別して土木インフラ分野の3D活用をCIMと称し、BIM/CIM と並記する形で普及が進められています。実際、国土交通省も2020年頃から公式な文書で「BIM/CIM」という統一表現を用い、建築・土木の枠を越えた3Dモデル活用を推進しています。
BIMとCIMの違い
では BIM と CIM は具体的に何が異なるのでしょうか。基本的な考え方は似ていますが、対象とする領域の違いから特徴にも違いが生まれます。
• 対象物の違い:BIMが主に建築物(ビル、住宅、商業施設など)を対象とするのに対し、CIMは主に土木構造物(道路、橋梁、ダム、トンネルなど)を対象とします。建築は建物内部の設計が中心なのに対し、土木は地形や地質と深く関わる広範囲の屋外作業が伴います。
• プロジェクト特性の違い:建築分野では柱や梁、壁など比較的定型化された部材が多く標準化が進めやすいですが、土木分野では現場ごとの地形条件が大きく異なり、構造物も一品生産的で規模も様々です。そのためCIMでは各現場に応じた柔軟な対応が求められ、状況に応じて異なる条件への適応力が重要になります。また作業環境も屋外が中心となるため、天候や地形の影響を強く受ける点も特徴です。
• 呼称と普及状況:前述の通り、海外では土木分野でも「BIM」の用語が一般的で、CIMという言葉自体は日本独自の位置づけです。ただし近年は技術や手法の共通点も多いため、国内でも「BIM/CIM」というセットで語られることが増えています。両者とも3Dモデル活用による効率化を目指す点では共通しており、建築・土木問わずデジタル技術を積極的に取り入れる潮流ができてきました。
CIMモデルの基本構成
CIMの中核となる CIMモデル は、大きく分けて2つの要素から構成されています。
• 3次元モデル(形状データ):対象となる構造物や地形を立体的に再現したデジタルモデルです。設計図や測量データを元に作成され、実際の地形形状や構造物の寸法・形状が正確に表現されます。
• 属性情報(各種データ):3Dモデルの各部材・部品に紐付けられた情報です。部材の名称、寸法、数量、材質、強度、メーカー、コスト、工事スケジュール、点検履歴など、プロジェクト管理に必要なあらゆるデータを付加できます。
この 3D形状 と 属性データ を組み合わせることで、単なる立体モデルではなく 情報の詰まった3Dモデル が出来上ります。例えば橋梁のCIMモデルであれば、橋の形状だけでなく使用部材の仕様や数量、工事費、完成後の維持管理計画まで紐付いているイメージです。CIMモデルはプロジェクトのライフサイクル全体で活用され、関係者は共通のモデルを見ながら必要な情報を取得できます。これによりデータが一元管理され、部門間のコミュニケーションロスが削減されるほか、設計変更時の迅速な情報共有が可能となります。
CIM導入のメリット
CIMを導入することで、インフラ整備や建設プロジェクトの生産性向上に大きな効果が期待できます。特に フロントローディング と コンカレントエンジニアリング と呼ばれる手法を取り入れることで、従来のやり方に比べて飛躍的な効率化が可能となります。
フロントローディングによるメリット
フロントローディング とは、プロジェクトの初期段階(計画・設計段階)に作業や検討を集中的に行い、後工程の手戻りや非効率を減らす手法です。CIMを活用すると、このフロントローディングによって次のような効果が得られます。
• 設計ミスの防止:3Dモデルで完成イメージを視覚的に確認できるため、設計段階で干渉や不整合を発見しやすくなります。図面だけでは見落としがちなミスを事前に洗い出し、施工段階での手戻りを最小限に抑えることができます。
• 仮設計画の最適化:工事時に必要な仮設構造物や工法の検討も、3D上でシミュレーションできます。例えば足場やクレーンの配置をモデル上で検証し、安全かつ効率的な施工計画を立てることが可能です。
• 施工手順の事前検証:施工プロセスをあらかじめ3Dモデル上でシミュレーションし、手順や工程の問題点を洗い出せます。設計段階で適切な施工手順を検討しておけば、現場での段取りミスや調整作業を減らせます。
• 手戻りの削減:以上の取り組みにより、設計の不備による現場でのやり直しや変更が減少します。初期段階での綿密な検討が、結果的に全体工期の短縮やコスト削減につながります。
コンカレントエンジニアリングによるメリット
コンカレントエンジニアリング とは、異なる工程を可能な限り並行して進める手法です。CIMをプラットフォームにすることで、設計・施工・発注者など複数の関係者が同時並行的にプロジェクトに関与しやすくなり、次のようなメリットが生まれます。
• 施工者の意見反映:設計段階から施工担当者や現場の声 をフィードバックしやすくなります。CIMモデルを共有しながら意見交換することで、机上の設計だけでなく実際の施工現場目線でプランを調整できます。その結果、施工しやすい計画となり品質向上にも寄与します。
• 品質・安全性の向上:現場の知見を早期に取り入れることで、施工段階での品質確保に繋がります。また、安全上の懸念点も事前に洗い出して対策を講じやすくなるため、労働安全性の向上にも効果があります。
• 情報共有の迅速化:クラウド上のCIMモデルなどを介して関係者全員が最新情報にアクセスできるため、図面修正や設計変更の情報共有がスピーディーになります。各工程間の連絡ロスが減り、意思疎通が円滑になります。
• 意思決定のスピードアップ:情報共有が早く、かつ施工現場の実情を踏まえた検討が進むことで、経営層や発注者の意思決定も迅速化します。問題発生時の対応や追加対策の判断も早くなり、結果的に工期短縮やコスト抑制に繋がります。
CIM の活用シーン
CIMはプロジェクトの あらゆる段階 で活用できます。設計・施工・維持管理、それぞれのフェーズでCIMが具体的にどのように役立つのかを見てみましょう。
設計段階での活用
設計フェーズでCIMを活用すると、以下のようなメリットがあります。
• 合意形成の迅速化:計画中の構造物を3Dモデルで示すことで、発注者や関係者との認識合わせがスムーズになります。図面だけでは伝わりにくい空間的なイメージも共有でき、説明や協議がスピーディーに進みます。
• 数量算出の自動化:地形も含めてモデル化することで、例えば道路工事における切土・盛土量などを自動算出可能です。手計算や図面からの拾い出し作業を減らし、積算業務の効率が上がります。
• 材料費の正確な見積:CIMモデルには使用部材の数量や規格がすべて含まれるため、材料ごとの必要数量を早期に把握できます。それにより、概算段階から精度の高いコスト見積りが可能となり、予算管理に役立ちます。
• 住民説明の効率化:完成イメージを誰にでもわかる3Dで示せるため、専門知識がない地域住民への事業説明にも威力を発揮します。完成後の姿を立体的に見せることで、理解を得やすく合意形成にも寄与します。
施工段階での活用
施工フェーズにCIMを導入すると、次のような効果を得られます。
• 施工手順の可視化:設計時に作成した3Dモデルを施工計画にも活用し、工程全体を可視化できます。現場スタッフが直感的に作業手順や進捗を把握でき、段取り良く施工が進みます。
• 変更情報の即時共有:工事中に設計変更や条件変更が発生しても、CIMモデル上で変更点をすぐに共有できます。紙の図面の差し替えに比べて速やかに全員が最新情報を得られるため、対応の遅れが生じません。
• 資材・機材調達の最適化:工程や設計の変更に伴う資材・重機の手配も、モデル上で先読みしながら早めに適切な調達計画へ反映できます。在庫の無駄やレンタル機材の手配漏れを防ぎ、コスト管理にも有効です。
• 安全管理の強化:施工手順を3Dで検討することで、危険箇所やリスク要因を事前に洗い出せます。危険な作業の発生位置や重機の動きをシミュレーションしておけば、現場での注意喚起や安全設備の準備に役立ちます。
• 出来形管理の効率化:完成した構造物の出来形(できあがり具合)をチェックする際にもCIMが活躍します。施工後に3Dスキャナーやドローン測量で取得した点群データをCIMモデルと比較することで、出来形の差異を効率的に検証できます。
• ICT建機との連携:CIMモデルのデータを対応する建設機械(ショベルやブルドーザー等)の制御システムに取り込めば、マシンコントロールによる自動施工が可能です。現場の熟練オペレーター不足を補い、均一で高精度な施工品質を実現できます。
維持管理段階での活用
完成後の維持管理フェーズでも、CIMは様々な形で活用できます。
• データの一元管理:施工時に整備したCIMモデルを、そのまま維持管理用の台帳として活用できます。点検履歴や補修記録、各種センサー計測データなどをモデルに集約し、関係者間で共有可能です。情報が散逸せず、担当者が変わっても一貫した資産管理が行えます。
• 直感的な情報検索:3Dモデルを通じて構造物の情報を視覚的に検索できます。図面や書類をめくらなくても、知りたい部位をモデル上でクリックすれば関連データを呼び出せるため、現場での確認作業が効率化します。
• 点検記録の効率化:橋梁やトンネルなど定期点検が必要な構造物でも、点検結果をCIMモデルに紐付けて記録できます。ひび割れの場所や補修履歴をモデル上にマッピングして蓄積でき、時間経過による変化も追跡しやすくなります。次回点検や補修計画の立案にも役立つでしょう。
• 災害時の迅速対応:地震や豪雨など災害発生時には、被害箇所の特定や復旧計画策定にスピードが求められます。平常時から整備されたCIMモデルがあれば、被災構造物の現況情報をすぐに把握できます。災害直後の状況をモデルに反映させることで、被害範囲の評価や必要資材の算出も迅速に行え、早期復旧に繋がります。
CIMがもたらす未来
CIMの普及が進むことで、建設業界には次のような大きな変化が期待されます。
• 生産性の飛躍的向上:3Dモデルによる効率化で工期短縮や作業時間削減が進み、現場の生産性が大幅に改善されます。結果として長時間労働の是正や給与アップなど働き方改革にも良い影響を及ぼすでしょう。
• 建設プロセスの変革:従来の紙図面ベースの手続きが見直され、発注・契約・施工・検査といったプロセスがデジタルデータで連携するようになります。情報が可視化されることで無駄な工程が削減され、品質管理やコスト管理の方法も大きく変わっていきます。
• 新技術導入の加速:CIMによって3Dデータの活用基盤が整うことで、ロボット施工やAIによる自動解析、新素材の活用など最新技術を現場に導入しやすくなります。業界全体の技術革新のスピードが上がり、生産プロセスがさらに高度化していきます。
• 新たな産業の創出:デジタル化された建設現場を支える周辺サービス産業が発展します。例えば、ドローン点検サービスやXR(AR/VR)を使った遠隔施工支援、データ分析による予防保全サービスなど、新たなビジネスや雇用機会が生まれるでしょう。CIMは建設業のビジネスモデル自体にも変革をもたらす可能性があります。
CIM導入のステップ
国土交通省はCIM導入に向けたガイドラインを策定し、段階的な導入を推奨しています。初めてCIMに取り組む場合でも、以下のステップを順に実行することで、スムーズに導入できます。
• 現状分析と目標設定:自社の業務課題を洗い出し、CIM導入で達成したい目標を明確に定めましょう。
• 人材育成:CIMを扱えるデジタル人材(3D CADやCIMソフトの操作、点群データ処理など)を社内で育てましょう。
• 環境整備:高性能PCや3Dモデリングソフト、クラウドサービスなど、CIMに必要なハードウェア・ソフトウェアを導入して業務環境を整えましょう。
• 小規模プロジェクトで試行:社内に十分なノウハウがないうちは、小規模な案件で試験的にCIMを導入し、経験を積みましょう。
• 効果検証と改善:試行プロジェクトの結果を検証し、うまくいった点は水平展開、課題があれば対策して改善しましょう。
• 全社的な本格導入:CIMを社内ルールや業務フローに組み込み、組織全体で本格導入しましょう。
まとめ
CIMは建設・土木業界におけるDX推進の要となる技術です。3次元モデルに豊富な情報を持たせて利活用することで、設計・施工・維持管理のあらゆる場面で生産性と品質の向上が期待できます。特に フロントローディング と コンカレントエンジニアリング を取り入れた業務改革は、従来のプロセスを大きく効率化し、無駄な手戻りを削減します。また、設計段階での迅速な合意形成、施工段階での進捗の見える化、維持管理段階でのデータ一元管理など、具体的な効果も数多く確認されています。
国もCIM 導入を強力に後押ししており、今後さらに普及が進めば業界全体の働き方改革や生産性向上につながるでしょう。建設に携わる企業にとって、CIMは今や競争力を左右する重要な要素となりつつあります。導入が遅れるとデジタル化の波に乗り遅れてしまうため、早めの検討が肝心です。
さて、CIMを始めるにあたって 現場の正確な測量データ を用意することは欠かせません。しかし従来の測量は専門機器や人手を要するため、ハードルが高い面もありました。そこで役立つのが LRTKによる簡易測量 です。LRTK はスマートフォンと連携し、センチメートル級の高精度測位を実現する最新の測量ソリューションです。これを使えば一人でも効率的に現地の3次元測量が行え、特別な機材や高度な操作も必要ありません。普段使い慣れたスマホ上でポイント測定からデータ共有まで直感的に行えるため、CIMに不可欠な現況データの取得作業を大幅に簡素化できます。こうした最新ツールも積極的に活用しつつ、効率的にCIM導入の準備を進めてみてはいかがでしょうか。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
製品に関するご質問やお見積り、導入検討に関するご相談は、
こちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。ぜひLRTKで、貴社の現場を次のステージへと進化させましょう。

