RTK(リアルタイムキネマティック)測位は、建設・測量分野でセンチメートル級の高精度な位置情報を得る技術として日本国内で普及が進んでいます。では、このRTKを海外に導入しようとする場合、日本国内とはどのような環境の違いがあるのでしょうか。海外でRTKを活用する際には、現地の測位環境や制度を把握することが重要です。
本記事では、日本と海外のRTK測位環境の違いを、「補正サービスの提供体制」「基準局(基地局)の整備・維持の難易度」「RTK運用に関わる法制度」の3つの観点から比較し、それぞれが実務に及ぼす影響を解説します。さらに、海外でRTKを導入する際に注意すべきポイントとして、現地パートナーとの連携、無線免許や測量ライセンスの取得、現地の測地系への対応、適切な補正方法の選択などについて述べ、RTK導入のハードルを下げる具体策としてスマートフォンとGNSS小型機器を組み合わせたLRTK(スマホRTK)簡易測量の導入例も紹介します。
RTK補正サービス提供体制の違い(日本 vs. 海外)
日本国内では高精度GNSS補正情報を提供するインフラが充実しています。国土地理院が運用する電子基準点網「GEONET」は全国約1300カ所に基準局(CORS)を配置し、リアルタイムでGNSSデータを配信しています。これにより全国どこでもRTK測位が可能な基盤が整っています。さらに民間では通信キャリア各社が独自の基準点ネットワークを構築し、高精度測位サービスを提供しています。例えばある通信事業者は全国に数千基規模の基準局を整備してセンチメートル級の補正情報を配信しており、移動中でも安定して補正を受けられるのが強みです。このように日本では官民双方で密度の高い補正サービス提供体制が構築され、ユーザーは必要に応じて契約したサービスから容易にRTK補正情報を得ることができます。
一方、海外のRTK補正サービス提供体制は地域によって様々です。欧米の先進国では国ごとにGNSS基準局ネットワーク(CORS網)が整備され、政府機関や測量機器メーカーによる補正サービスが提供されています。例えばドイツにはSAPOS、フランスにはRGPといった国主導の全国RTKネットワークがあり、民間でも国境を越えて利用可能な広域サービスが展開されています(欧州では測量機器メーカー系のサービスが複数国をカバーする例もあります)。米国でも各州のCORSや民間企業のネットワークRTKサービスが利用できます。ただしその提供主体は日本と異なり、通信キャリアよりも測量機器メーカーや政府系機関が中心です。また、日本のように携帯電話会社間で競合する状況は一般的ではなく、ユーザーは機器メーカー系サービスや公的サービスと契約して補正情報を入手するケースが多く見られます。海外では複数国で統一契約できるサービスもあり、日本の一国内に完結する体制とはスケールが異なっています。
補正手段の違いとして、地域拡張衛星による測位補強サービスも挙げられます。日本では準天頂衛星システム(QZSS、「みちびき」)の「センチメータ級測位補強サービス(CLAS)」が提供されており、対応受信機を用いることで衛星から直接補正情報を受信できます。一方、欧州では独自衛星GNSSであるGalileoが稼働し、2023年から高精度測位サービス(HAS)の試験提供が始まっています。いずれも衛星軌道から高精度補正データを配信するもので、通信圏外のエリアでRTK精度を確保する手段として注目されています。このように、日本と海外で補正サービスの提供主体やネットワーク構成は異なりますが、マルチGNSS化や衛星補強の活用といった方向性は共通して進んでいます。
RTK基準局の整備・維持難易度の違い
RTK測位には基準局(固定局)を設置する方法と、既存ネットワーク基準局を利用する方法があります。日本では前述のとおり全国規模の基準局網が整っているため、ユーザー自身が現場ごとに基準局を設営する必要は少なくなっています。ネットワーク型RTK(VRS方式など)を利用すれば移動局側のGNSS受信機だけで測位が可能で、現場に重たい基地局機材を持ち込んだり設置したりする手間が省けます。また携帯通信環境が良好な日本では、インターネット経由で安定して補正データを受信できるため、測位精度を保ちやすいという利点もあります。
海 外ではRTK基準局の整備状況やインフラ環境が国や地域によって大きく異なります。欧州や北米の都市部では日本同様にネットワーク型RTKサービスを利用できるため、基準局を自前で用意せずに済むケースが多いです。
しかし、新興国やインフラ未整備の地域では、高精度ネットワークが存在しない場合もあります。そのような環境では、利用者自身がプロジェクト現場に基準局を設置して運用しなければなりません。例えば長期間の工事現場では、屋外に受信機アンテナを据え付け、安定した電源と通信回線を確保して常時稼働させる必要があります。現地で基準局を維持するには、機器の防塵防水対策や盗難防止、定期的な校正といった手間もかかります。さらに移動局との距離が離れすぎると精度が低下するため、広範囲をカバーするには複数の基準局が必要になる場合もあります。このように、海外では場所によっては日本より基準局運用の負担が大きく、高精度測位の実現に追加の計画とコストが伴うことがあります。
RTK運用に関わる法制度の違い
RTKシステムを運用する上で、電波の利用や測量行為に関する法制度の違いにも注意が必要です。 日本では、RTK基準局から移動局へ無線で補正信号を送信する場合、電波法に基づく無線局の免許が要求されます。特定小電力無線など微弱な電波を用いる場合を除き、1WクラスのUHF帯送信機で通信する一般的なRTK無線機は事前に総務省への免許申請が必要です。一方、Ntripなどインターネット経由で補正情報を受信する方式であれば無線送信を伴わないため免許は不要です。また、測量法の観点では、公共測量や地図作成の業務を行うには測量士資格や測量業者登録が必要となります。日本国内でRTKを用いて公式な測量成果を作成する場合、必ず有資格者の管理下で実施しなければなりません。
海外に目を向けると、無線や測量に関する規制は国ごとに異なります。多くの国でも特定の周波数帯で無線送信を行うには免許や許可が必要です。RTK用の無線モデムを海外に持ち込んで使用する際には、その周波数帯が現地で合法か、免許手続きが必要かを事前に確認しなければなりません。国によっては一定の出力以下であれば免許不要の周波数帯(例:欧州の433MHz帯、北米の902-928MHz帯など)が用意されている場合もあります。現地の法制度に合わせて、必要なら事前に免許を取得するか、免許不要の通信方式(インターネット経由や衛星通信など)を選択することが重要です。
測 量業務に関しても各国で資格制度が存在します。例えばアメリカでは州ごとに測量士(Professional Land Surveyor)のライセンスが必要であり、境界測量など公共性の高い業務は有資格者しか行えません。欧州諸国やアジアの多くの国でも、国家資格を持つ測量技術者や測量士の監督下でないと公式な測量成果を提出できないと定められています。日本企業が海外で測量・計測を行う場合、現地のライセンス保持者と協働したり、成果を公式に利用する際は現地の認定手続きを踏むなどの対応が不可欠です。また、各国ごとに測地系(基準座標系)が異なるため、測位結果を現地の座標系に変換する作業も必要になります。日本で得られたWGS84系やJGD2011系の座標値をそのまま海外の図面に適用すると誤差が生じるため、現地の基準点に合わせた変換や補正を実施し、法的にも技術的にも整合した座標を用いるようにしましょう。
海外でRTKを導入する際の注意点と対応策
• 現地パートナーとの連携: 海外でRTK技術を導入する際は、現地の事情に詳しいパートナー企業や技術者と連携することが重要です。現地企業との協働により、言語や文化の壁を乗り越えられるだけでなく、ローカルな補正サービスの入手や各種申請手続きのサポートも受けやすくなります。特に測量分野では、現地の測量士資格を持つ技術者がプロジェクトに参加していると、測量成果の信頼性や公式承認の面で安心です。
• 必要な免許・許認可の確認: RTK機器を持ち込んで使用する前に、現地で必要となる無線局免許や作業許可を確認しましょう。上記のように、国によってはRTK用無線に免許が必要だったり、出力制限が異なったりします。事前に関連当局の規定を調査し、必要であれば免許申請を行います。また測量作業自体に許可や登録が必要な場合(特に公共測量や地図作成業務)は、契約段階でそれらを取得する段取りを組んでおきます。
• 測地系・座標系の対応: 測位データを現地で活用するには、現地の測地系や座標系への変換が不可欠です。あらかじめ対象国の公式測地基準や地図投影法を調べ、必要に応じて変換パラメータを入手します。プロジェクト開始時に既知点(現地基準点)で校正測量を行い、自分たちのRTK測位結果が現地座標に合致するよう補正する方法も有効です。高さ方向についても、国ごとのジオイドモデルを適用して標高を現地基準に合わせる配慮が求められます。
• 補正サービス・測位方式の選択: 現地で利用可能な補正情報や測位方式を 見極め、最適な方法を選択します。既存のネットワークRTKサービスがあればそれを契約して利用するのが効率的です。一方、ネット環境が不安定な地域では、ローカルに基準局を設置して電波で補正を送る従来方式や、衛星通信を使ったPPP(精密単独測位)サービスの活用も検討します。国によって利用できる衛星測位補強(SBASやQZSSのCLAS等)の種類も異なるため、現地で最も安定し精度の出る手段を事前にテストしておくと良いでしょう。
• 簡易RTKソリューションの活用: 大掛かりな測量機器を持ち込まなくても、高精度測位を実現できるソリューションを検討することもポイントです。例えばスマートフォンと小型GNSS受信機を組み合わせたRTKシステム(例:LRTKのようなスマホ型RTK)であれば、現地に基準局インフラがなくてもインターネット経由や衛星補強信号でセンチメートル級測位が可能です。専用機器に比べ手軽で運用コストも低いため、海外における試験導入や現地スタッフ向けトレーニング用にも適しています。
スマートフォンとGNSS小型機器を組み合わせたLRTK簡易測量の導入例
記事の最後に、スマートフォンと小型GNSS受信機を活用したLRTK(スマホRTK) による簡易測量の例をご紹介します。LRTKは「手のひらに収まるRTK測量機」をコンセプトに開発されたソリューションで、スマホに取り付ける超小型GNSSデバイスと専用アプリによってセンチメートル級測位を実現します。従来は三脚に据える基準局や大掛かりな専用機器が必要だった高精度測量が、スマートフォン1台とポケットサイズの受信機だけで完結するのが大きな特徴です。現場に到着してから複雑な機器設定をする必要もなく、アプリを起動して数十秒程度で高精度測位が開始できます。操作もガイダンスに沿って進めるだけなので、専門的な測量経験が浅い技術者でも容易に扱える利点があります。
実際の導入事例としては、LRTKデバイスを専用ホルダーで測量用ポール(一脚)に装着し、1人で杭打ち位置の測定や出来形確認を行うといった使われ方が報告されています。従来はトータルステーションで数名がかりだった杭打ち作業も、LRTKを用いれば1人でスマホ画面の誘導に従って目標座標に素早く到達し、その場で位置を記録できます。また、取得した点群データや測量結果はクラウド経由で即座に共有できるため、現場とオフィス間でデータ連携をスムーズに行えるメリットもあります。これにより、海外の現場でも煩雑な測量機器の運搬やセッティングを最小限に抑えながら、高精度な位置情報を用いた施工管理や測量が可能になります。
LRTKのような簡易高精度測位ツールを活用することで、初期投資や人材要件のハードルを下げつつ、海外プロジェクトにおいてもRTKの恩恵を十分に享受できるでしょう。従来の枠組みにとらわれず新しい技術を取り入れることで、国境を越えた建設・測量の現場でも生産性と精度の向上を図ることができます。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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