近年、GNSSを用いたリアルタイムの高精度測位としてRTK(Real Time Kinematic)が広く注目されています。RTK測位が順調に機能しているときは、基地局からの補正情報を受信する移動局(ローバー)が数センチの誤差にまで位置を特定できるFix解(固定解)を得られます。しかし現場では「測位がFloat解(フロート解)のままでFixに入らない」という問題もしばしば発生します。Float解とはRTKの途中段階で、衛星信号の整数誤差(アンビギュイティ)が未解決の状態です。この段階では位置の誤差が数十センチに及び、測 位値も不安定で漂うように変動します。つまりFloat解のままではRTK本来の精度が得られず、実用上大きな支障が生じてしまいます。
RTKがFloat止まりになってFix解が得られない原因には、いくつかの典型的な要因があります。本記事では、現場でRTKがなかなかFix状態にならない代表的な5つの原因を取り上げ、それぞれについて詳しく解説します。併せて、Fixに入らない場合の対処法についても具体的に紹介します。測位環境の問題や機器設定ミスなど、よくある原因を網羅していますので、RTK測量に携わる方はぜひ参考にしてください。記事の最後では、こうした課題を一挙に解決できる新しい高精度測位ソリューションLRTK(エルアールティーケー)についても紹介します。
目次
• 衛星受信環境が悪い
• 補正情報が受信できていない
• 基準点や座標設定のミス
• GNSS機器の設定不良や不具合
• 基線距離や大気誤差による影響
• LRTKによる簡易測量のすすめ
1. 衛星受信環境が悪い
RTK測位では、複数のGNSS衛星からの電波を安定的に受信できることがFix解取得の前提になります。しかし観測場所の衛星受信環境が悪いと、受信可能な衛星数が不足したり測位データの品質が低下して、いつまで経ってもFloat解からFix解へと収束しないことがあります。例えば周囲を高い建物に囲まれた都市部や森の中では、空が遮られてしまい利用できる衛星の数が大幅に減少しがちです。またコンクリート壁や金属面、水面などで衛星信号が反射してしまうマルチパス(多重経路)も深刻な問題です。反射による誤差が観測データに混入すると、RTKエンジンが整数アンビギュイティを正しく解決できず、Fix解が得られにくくなります。
さらに、周囲に強力な電波ノイズ源がある場合も注意が必要です。高圧送電線の直下やレーダー施設の近くなどではGNSS信号に干渉ノイズが乗りやすく、測位精度が著しく低下してフロート解から改善しなくなるケースがあります。また豪雨や雷雨などの悪天候時には電離圏の乱れや電波減衰が大きくなり、RTKが不安定になることも知られています。このように衛星受信環境が悪条件下にあると、RTKは固定解に至らずフロート解のまま留まってしまうリスクが高まります。
対策: 測位を行う際は可能な限り空が広く開けた場所を選び、上空の視界を確保することが第一です。基地局アンテナは360°見通しの良い高所に設置し、ローバー側も測点付近の邪魔な障害物は事前に撤去できるなら取り除きます。また大きな建物の壁面や車両など反射物が近くにある環境での観測は避けるのが無難です。困難な場合にはアンテナに金属板のグランドプレーンを装着して地面反射を低減したり、高性能なチョークリングアンテナを用いてマルチパス波の影響を抑える工夫も効果的です。
さらに最近では、マルチGNSS(複数衛星システム)やデュアル周波数(複数 周波数帯)に対応した受信機が普及しています。こうした高性能GNSS機器を活用すれば、視界が多少悪い現場でも利用できる衛星数を増やし、電離圏誤差の影響も打ち消しやすくなるため、FloatからFixへの収束率向上が期待できます。それでも環境要因でRTKが安定しない場合は、無理をせず衛星配置の良い時間帯に測量する(事前にGNSS可視衛星予測サービス等でDOP値の良好な時間を確認する)ことも検討しましょう。どうしても条件が整わない場合には、RTKに固執せずトータルステーションなど別の測位手法で補完する柔軟さも大切です。
2. 補正情報が受信できていない
RTK測位では、基地局(基準点)から送信される誤差補正データをリアルタイムに受信し続けることで初めてセンチメートル級の精度が得られます。したがって、補正情報の通信が途絶えている状況では、いくら待ってもFix解を得ることはできません。補正データを受け取れていない間はRTKが機能せず、測位解は単独測位(シングル測位)やコード差分(DGPS)レベルの精度に逆戻りしてしまい、表示もフロート解のままとなります。
補正情報が受 信できなくなる原因としては、通信環境や機器設定のトラブルが考えられます。自前の無線を使ったRTKの場合、基地局側とローバー側の無線機設定(送信周波数やグループID)が一致していなかったり、基地局と移動局の間に遮蔽物があって電波が届かなくなると、補正データが途絶してしまいます。特定小電力無線やUHF無線を使用するケースでは、電波の有効到達距離が数キロ程度と限られるため、広範囲の現場ではローバーが通信圏外に出てしまうことがあります。また、トンネル内やビル陰など電波遮蔽環境では基地局電波が届かないため、通信が切断されて補正が停止してしまいます。一方、インターネット経由で補正を配信するネットワーク型RTK(NTRIP方式など)の場合は、測位現場が携帯電話の圏外でモバイル通信が不安定だったり、基地局サービス側で障害が発生してデータ配信が止まるケースも考えられます。
対策: まず基地局とローバーの通信設定を事前によく確認しましょう。無線を利用する場合は両局で送受信の周波数やチャンネルが正しく一致しているか、アンテナ接続に緩みや断線がないかを点検します。基地局アンテナはできるだけ高所に据えて見通し距離を確保し、必要に応じて中継アンテナを設置することで通信エリアを拡大できます。ネット回線を使う場合は、現地で複数の携帯キャリアのSIMカードを用意して電波状態の良い回線を選択したり、外付けの高感度アンテナやモバイルWi-Fiルーターを活用して受信状況を改善する工夫が有効です。また長時間の測量では、基地局・移動局ともバッテリー切れで通信が途絶するケースが多い点にも注意が必要です。事前に両方の機器を満充電しておき、測量中もバッテリー残量を定期的にチェックしましょう。補正データの受信状況はローバー機の画面上で常に監視し、Age of Differential(差分データの遅延時間)や受信メッセージ数などの指標を確認しておくと安心です。万一データ欠損が発生したら接続先を再設定したり、基地局・受信機を一度リセットして再接続することで復旧を試みます。
3. 基準点や座標設定のミス
RTK測量では、使用する基準点の正確な座標値を機器に設定することと、測地系・座標系の指定を正しく行うことが大前提です。これらを誤ると、たとえRTKがFixしていたとしても算出される座標値が実際とは合わなくなり、位置に大きなズレが生じてしまいます。例えば、基地局に設定する既知点座標の値を一桁誤って入力したり、日本の平面直角座標系でゾーン番号(系番号)を間違えると、測位結果が実際の位置から数十メートルもずれてしまうことがあります。実際に「基準点の数値を一桁ミスして入力し、後で成果が合わず青ざめた」といった失敗談も現場では聞かれます。座標設定のミスは決して笑えない重大な問題です。
また、日本とは異なる測地系・測量座標系を用いる現場では特に注意が必要です。現在の日本の公式測地系は世界測地系(JGD2011やJGD2022)ですが、古い東京測地系で座標が与えられている既知点を使う場合や、独自のローカル座標系で測量を行う場合は、適切な座標変換を行わない限り結果の座標は現地の基準値と一致しません。高さ方向でもジオイド高の補正を忘れると、得られた高さが現場の水準基準と大きく乖離してしまいます。
対策: 測量を開始する前に、使用する基準点の座標値と採用する測地系・座標系の指定を必ず確認しましょう。発注図や既知点票を参照し、正しい基準系(例: JGD2011の○○系や◯◯県◯区座標など)を機器に設定します。基地局を据える際は、入力した既知点座標が誤っていないかダブルチェックすることが重要です。可能であれば作業前に現地の既知点を1つ観測し、機器設定どおりの座標が得られるか検証しておくと安心です。ローカルな独自座標系で測る場合は、複数の既知点を用いてサイトキャリブレーション(現地校正)を実施し、GNSS測位座標を現地の基準に合わせ込むことが必要になります。万一設定ミスに気付いた場合でも、あとから記録済みデータに正しいパラメータを適用して座 標変換することで復元できる可能性があります。しかし変換作業には手間や高度な知識を要します。やはり初めから設定ミスを起こさないよう慎重に確認し、防止することが肝心です。
4. GNSS機器の設定不良や不具合
システムや機器の設定ミス・不調も、RTKがFixに入らない原因となり得ます。基本的な例では、基地局とローバーのモード設定が誤っているケースが挙げられます。本来基地局として動作させるべき受信機をローバーモードのまま運用していたり、その逆に移動局を固定モード(基地局モード)にしてしまうと、正しく補正データが生成・適用されず測位が成立しません。またネットワーク型RTKサービスを利用する場合、提供元が配信するマウントポイント(仮想基準点データ)の選択を誤ると、対応しないデータ形式を受信して解が得られなくなることがあります。例えばシングル周波数の受信機なのにマルチ周波数用の補正データを指定していた、といった設定ミスには注意が必要です。
機器固有のトラブルでは、GNSSアンテナやケーブル類の不良も見逃せません。アンテナ線のコネクタが緩んでいたり、長いケーブルが断線しかけていると、そもそも衛星信号や補正データを正常に受信できずRTKはFixに至りません。また現場でタブレット端末やノートPC上のソフトウェアを使って測位を制御する場合は、アプリ側の設定不備やフリーズにも気を付けましょう。出力座標系などの設定を間違えていれば前述のとおり成果ズレの原因となりますし、アプリが強制終了して補正受信が止まっていた、ということも起こり得ます。特にスマートフォンやタブレットとBluetooth接続して使うタイプのGNSS受信機では、アプリがバックグラウンドで停止していつの間にかFloat解に戻っていたという例もあります。
対策: 機器トラブルを防ぐためには、現場に入る前の入念な事前チェックが欠かせません。GNSS受信機本体やアンテナ、無線機器の接続状態を確認し、電源が入るか・バッテリー残量は十分かを含めて動作テストを行います。新しい現場や新規導入機材で作業する際は、測位ソフトウェアやアプリの設定(測地系・投影座標系、アンテナ高、通信ポート等)が正しく構成されているか、シミュレーションで一通り点検しておきましょう。メーカーから提供されている受信機ファームウェアやアプリケーションは最新の安定版にアップデートし、不具合修正情報も事前に確認しておくと安心です。測位中に機器の挙動に違和感を覚えたら、焦らず一旦作業を中断して機器を再起動する、別の既知点で動作検証するなどして、早めに原因を切り分けることが大切です。また基本的なポイントですが、測量ポールの気泡管でアンテナが垂直か確認する、アンテナ高の入力ミスをしない、などヒューマンエラーを防ぐこともあわせて徹底しましょう。
なお、RTKの測位開始直後にまだFloat解のうちに移動を開始してしまうと、その後なかなかFix解に移行できない場合があります。安定した固定解を得るためにも、電源投入後や再起動後は数十秒程度はその場で静止し、最初のFixを確実に取得してから測点の移動や観測を行うようにしましょう。一度Fixを得られれば、その後は衛星受信状態が極端に悪化しない限り移動しながらでもセンチ級精度を維持できますが、万一Fixを失った場合は再度立ち止まって解が再収束するのを待つほうが安全です。
5. 基線距離や大気誤差による影響
RTK測位特有の制約として、基地局とローバー間の距離(基線長)や電離圏・対流圏などの大気誤差の影響も考慮しなければなりません。一般に基線距離が離れるほど両局で受信する衛星信号の誤差要因が大きく異なり、補正で打ち消せない残差が増えるため、固定解の取得 が難しくなります。高精度GNSS機の仕様表に「水平精度: 8 mm ± 1 ppm」などと記載されている場合、これは距離1 kmあたり約1 mmの誤差増加を意味します。そのためローバーが基地局から数十kmも離れていると、整数アンビギュイティの解決に必要な観測精度を確保できず、解が不安定になってしまうのです。特にL1シングル周波数のみ対応の受信機では電離圏誤差を十分に相殺できないため、基線長が長い現場ではFloat解からFix解に至るまで非常に時間がかかったり、最悪いつまで経ってもFixしないケースもあります。
また、太陽フレアによる電離圏擾乱が発生している日や、衛星配置(ジオメトリ)の悪い時間帯も、RTKの固定率低下を招く要因となります。周囲に遮る物がない平坦な現場であっても、上空に見えている衛星の配置がたまたま偏ってPDOP値が高くなっている場合には、RTKの初期化に通常より時間を要することがあります。逆にマルチGNSS対応機で常時10個以上の衛星を同時受信できる状況を確保できれば、多少の大気誤差が残っていても安定してFix解を得られる可能性が高まります。
対策: 基地局とローバーの距離はできる限り短く保つのが鉄則です。自前で基地局を設置できる場合は作業エリアの近くに据えるか、難しい場合 は国土地理院の電子基準点網やVRS方式などのネットワーク基準局サービスを活用して、実質的に基線長を短縮しましょう。また測量に入る前にGNSSの稼働衛星や配置を調べ、衛星数が少なくジオメトリの悪い時間帯を避ける計画も有効です。例えば国土地理院の「GNSS衛星可視予測サービス」では、任意の場所・日時における衛星数やDOP値を事前に確認できます。こうしたツールを活用し、できるだけ条件の良いタイミングでRTK測位を行うようにしましょう。さらに太陽活動が活発で電離圏の乱れが大きい日には、リアルタイムのRTK測位自体を控える判断も時には必要です。無理に続行せず、その場では観測データだけ記録しておき後日PPK(Post-Processing Kinematic)やPPP(Precise Point Positioning)などの手法で精密処理を行うといった対応策も検討しましょう。
LRTKによる簡易測量のすすめ
ここまで、RTKがFloat止まりになってしまう典型的な原因とその対処法を見てきました。高精度なRTK測位を安定して成功させるには、衛星可視環境の確保から機器の細かな設定確認まで、現場で気を配るポイントが多く専門知識や経験も求められます。こうした課題を一挙に解決し、誰でも簡単にセンチメートル精度の測位を実現できるソリューションとして注目されているのが、当社が提供するLRTK(エルアールティーケー) です。
LRTKはスマートフォンと専用の小型GNSSデバイスを組み合わせて使用する新しい高精度測位システムで、「難しいRTK測量を誰でも手軽に行えるようにする」ことをコンセプトに開発されました。iPhoneなどスマホに装着できる受信端末を用い、複数の衛星測位技術とクラウドサービスを駆使して、従来のRTK運用に付きまとっていた煩雑さを排除しています。例えば、これまで必要だった基地局の設置や通信回線の確保、座標系の調整といった作業を意識せずとも、LRTKなら現場で端末をセットしてスマホアプリ上でボタンを押すだけで、自動的にミリメートルオーダーの高精度測位が開始されます。実際の運用では日本の準天頂衛星システム(みちびき:QZSS)が提供するサブメータ級補強信号も活用しており、携帯電波の届かない山間部などでも安定した測位が可能です。
従来の専門機器に匹敵する高精度と安定性も、LRTKの大きな特徴です。条件が良ければ平面位置で約±1~2 cm、高さ方向で±3 cm程度の精度を実現しており、一脚(モノポッド)を使った単独作業でも高い再現性の測位が行えます。さらに同一点を複数回観測して平均を取る機能により、短時間で測定を繰り返して平均値を算出すれば誤差を数ミリ程度まで縮小するこ とも可能です。それほどの精度を備えながら操作は極めて簡単で、専用アプリの画面で測位開始ボタンをタップするだけで誰でも扱えます。取得した測位データはクラウド上に自動保存されるため、万一現場で端末にトラブルがあっても結果が失われる心配がない点も安心です。
このようにLRTKを導入すれば、RTK測量でありがちな「いつまでもFixしない」「設定が難しく精度が出ない」といった悩みから解放されるでしょう。最先端のテクノロジーによってRTK測量のハードルを下げ、現場作業の効率と精度を飛躍的に向上させるLRTKは、建設・土木から測量・点検業務まで幅広い分野で活用が期待されています。興味のある方はぜひLRTKの公式情報もチェックしてみてください。資料請求や製品に関するお問い合わせも受け付けていますので、次世代の高精度測位ツールとしてLRTKの活用をご検討いただければ幸いです。
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LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
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