太陽光発電の設計や発電量予測を実務で進めるとき、PVSystのLoss Diagramは最もよく見る資料の一つです。けれども、初心者のうちは、どこから見ればよいのか分からず、損失率の大きい項目だけを拾って終わってしまいがちです。実際には、Loss Diagramは単に損失を並べた図ではなく、日射がどのように受光され、どの段階で減り、最終的な出力へつながるかを順番に見せる資料です。PVSyst自身も、Loss Diagramはシステム設計の質を素早く把握するための図であり、主な損失源を特定するためのものだと説明しています 。
また、PVSystのLoss Diagramは年間レポートに必ず表示されるだけでなく、月別にも確認できます。これは、年間の合計値だけでは見えにくい季節差や、特定の損失がどの時期に効いているかを確認するためにとても重要です。さらにPVSystは、Loss Diagramに並ぶ各損失率は前のエネルギー量に対する割合であり、単純に足し算できないと明記しています。ここを理解しないまま図を見ると、損失の重みづけを誤りやすくなります。
実務で本当に役立つ読み方は、図を左から右へただ眺めることではありません。どの順番で見れば原因と対策を整理しやすいかを知っておくことです。具体的には、まず左端の基準となるエネルギーを確認し、次に受光条件の損失、モジュールやアレイ側の損失、そこからEArrMPPまでの到達度、さらにインバータ以降のSystem Loss、最後に月別差へ戻る、という流れで読むと迷いにくくなります。PVSystの公式ドキュメントでも、Array and system losses は図の並び順に整理されており、この順番で見る考え方と相性がよいです。
この記事 では、PVSystのLoss Diagramを初心者でも実務で困らずに読めるように、六つの順番で整理して解説します。画面上の英語項目を暗記するのではなく、どこから見れば原因が見つけやすいか、どの段階で対策を考えるべきかが分かるようにまとめます。最後には、影や配置条件をより正確に詰めるために、現場の位置関係を高精度に押さえる考え方までつなげます。
目次
• Loss Diagramを読む前に知っておきたいこと
• 順番1|左端の基準エネルギーから見る
• 順番2|受光条件に近い損失を先に見る
• 順番3|モジュール・アレイ側の損失を見る
• 順番4|EArrMPPまで到達できているかを見る
• 順番5|インバ ータ以降のSystem Lossを見る
• 順番6|最後に月別Loss Diagramへ戻る
• 初心者がつまずきやすいポイント
• 現地条件の精度がLoss Diagramの納得感を左右する
• まとめ
Loss Diagramを読む前に知っておきたいこと
Loss Diagramは、最終発電量だけを確認するための図ではありません。PVSystでは、アレイ損失とシステム損失の両方を整理し、どこでどれだけエネルギーが減っているかを見せる構造になっています。公式ドキュメントでも、IAM、汚れ、照度、温度、LID、モジュール品質、ミスマッチ、オプティマイザ損失、DC配線損失に続いて、AC配線損失、外部変圧器損失、補機消費、システム停止損失まで、Loss Diagramの順に並べて説明されています。つまり、Loss Diagramは単なる結果の一覧ではなく、発電プロセスそのものを分解した図です 。
ここで最初に押さえたいのは、Loss Diagramの各損失率は「その直前のエネルギー量」に対する割合だということです。PVSystは明確に、各損失は前のエネルギー量に対する百分率であり、詳細損失を合計しても全体率にはならないと説明しています。したがって、初心者がやりがちな「全部の損失率を足して全体損失を出す」読み方は正しくありません。Loss Diagramは、率の大きさよりも、どの段階で効いているかを見るための図として使うべきです。
また、PVSystの結果変数には、EArrRef、EArrNom、EArrMPP、EOutInv など、Loss Diagramと関係する重要な基準点があります。EArrRefはPR計算のための基準エネルギー、EArrNomはLoss Diagram上でのアレイ評価の出発点、EArrMPPはアレイ損失後のMPPエネルギーです。これらを区別せずに読むと、PRの基準とLoss Diagramの基準が混ざり、図全体の理解が不安定になります。
初心者向けに言い換えるなら、Loss Diagramは「どこで減ったかを探す図」であって、「減った率を合計する図」ではありません。だからこそ、読む順番を決め ておくことが大切です。左端から右端へただ眺めるのではなく、意味のかたまりごとに読んでいくと、どの損失が現場条件の問題で、どの損失が機器や構成の問題かを整理しやすくなります。
順番1|左端の基準エネルギーから見る
Loss Diagramを読むときに最初に確認したいのは、左端にある基準エネルギーです。初心者はすぐに損失項目へ目が行きがちですが、どこから損失が始まっているのかを理解していないと、図全体の意味が曖昧になります。PVSystの結果変数では、EArrNom が「Loss Diagramにおけるアレイエネルギー評価の出発点」として定義されており、GlobEff と STC時のPmppをもとにした名目的なアレイエネルギーです。
ここで重要なのは、Loss Diagramが必ずしも「実際の最終出力」から逆算されて始まっているわけではないということです。まずは有効日射とSTCの考え方にもとづく理想的な出発点が置かれ、その後にモジュールやシステムの現実的な損失が積み上がっていきます。したがって、左端の基準を見ずに途中の損失だけを見てしまうと、その損失が何に対して大きいのか、小さいのかが分かりません。
また、ここでEArrRefとEArrNomを混同しないことも大切です。EArrRefはPR計算用の基準であり、EArrNomはLoss Diagram上のアレイエネルギー評価の出発点です。初心者のうちは、この二つを同じような基準だと感じやすいのですが、用途が違うため、Loss Diagramを読むときはEArrNomの側を意識したほうが整理しやすくなります。
実務でこの順番が役立つのは、まず左端の基準を見れば、その案件の損失が「大きいから悪い」のか、「基準自体が大きいから見え方が違う」のかを判断しやすくなるからです。Loss Diagramは、基準エネルギーを見たうえで、その後の各段階がどの程度素直に積み下がっているかを確認する図として読むと、かなり迷いにくくなります。
順番2|受光条件に近い損失を先に見る
左端の基準を確認したら、次に見るべきは受光条件に近い損失です。PVSystの Array and system losses では、Loss Diagramの前半に IAM、汚れ、照度、温度などが並びますが、初心者がまず注目したいのは「日射をどれだけ素直に受けられているか」に関わる損失です。具体的には、入射角の影響、汚れ、近接影や電気影による shading、低照度での効率低下などです。
この順番で見る理由は、ここが発電プロセスのかなり前段だからです。受光条件に近い損失が大きい案件では、その後にいくらモジュール性能やインバータ効率を詰めても、全体改善は限定的になりやすいです。逆に、ここがきれいに整理されている案件なら、後段のシステム損失の見直しが効きやすくなります。実務では、どこから手を付けるかの優先順位を決めるために、この前段の読み方が非常に重要です。
たとえば、ShdElec は shading calculation according to module strings や ModuleLayout による電気的な影損失として定義されており、単なる見た目の影面積ではなく、モジュール接続まで含めた損失です。こうした項目が大きいときは、発電の入り口で日射を取りこぼしているだけでなく、電気的な広がり方まで含めて損失が膨らんでいる可能性があります。初心者がここを見落とすと、「影は少ししかないのに損失が大きい」と感じて混乱しやすくなります。
受光条件に近い損失を先に見ると、案件の性格もつかみやすくなります。立地や配置に由来する損失が大きい案件なのか、それとも設備側の調整で詰められる余地が残っている案件なのかが見えやすくなるからです。Loss Diagramの読み方で迷ったら、まずはこの前段を丁寧に見るだけでも、全体像はかなり整理されます。
順番3|モジュール・アレイ側の損失を見る
受光条件に近い損失を見たら、次はモジュール・アレイ側の損失へ進みます。ここには温度損失、LID、モジュール品質、ミスマッチ、オプティマイザ損失、DC配線損失などが含まれます。PVSystのドキュメントでも、Array and system losses の項目としてこれらが Loss Diagram の順に整理されています。初心者がここで意識したいのは、「発電の入り口は悪くないのに、モジュール側でどれだけ減っているか」を見ることです。
たとえば TempLoss は温度による損失、MisLoss はモジュール配列のミスマッチ損失、OhmLoss はDC配線損失として結果変 数に定義されています。これらは、影や汚れのように外から見えやすい損失とは違い、設備の設計や構成、機器の前提条件によって変わります。つまり、ここが大きいときは、日射条件ではなくモジュール選定や配線、アレイ構成を見直す余地があると読みやすくなります。
また、PVSystは ohmic wiring losses について、MPP運転では配線損失をMPP計算前に適用すると説明しています。これは初心者には少し分かりにくいですが、要するにDC配線損失は単なる後付けの引き算ではなく、アレイ側の動作点にも関わる損失として扱われているということです。したがって、Loss Diagramで OhmLoss が効いているときは、単に「線が長いから減った」と片づけるのではなく、アレイ側の振る舞いの一部として見るほうが実務的です。
実務では、前段の受光条件が整っているのに発電量が思ったほど伸びないとき、このモジュール・アレイ側の読み方が効いてきます。影ではない、日射でもない、では何が減らしているのかというときに、温度、品質、ミスマッチ、配線の順に見ていくと、原因の切り分けがしやすくなります。Loss Diagramは、損失項目を羅列としてではなく、「外部条件の損失の次に、内部のアレイ損失を見る」という順番で読むと分かりや すくなります。
順番4|EArrMPPまで到達できているかを見る
Loss Diagramの前半を読んだら、次に確認したいのが EArrMPP まできちんと到達できているかです。PVSystの結果変数では、EArrMPP は「Loss Diagram上で全アレイ損失後のArray MPP energy」と定義されています。つまり、ここはアレイ側の損失がいったん出そろった後の到達点であり、Loss Diagramの中でも非常に重要な区切りです。
初心者にとってこのポイントが重要なのは、ここで「アレイ側の問題」と「システム側の問題」を分けやすくなるからです。EArrMPPまでの減り方が大きいなら、主な原因は前段からアレイ側にあります。逆に、EArrMPPまでは比較的素直に来ているのに、そこから先で大きく減るなら、システム側の損失を疑うべきです。この区切りが見えるようになると、Loss Diagram全体の読み方が一気に整理されます。
また、PVSystの結果変数には EArray という項目 もあり、これはインバータ動作点のずれを含むアレイ出力で、Loss Diagramには出ていないと明記されています。初心者は EArrMPP と EArray を混同しやすいのですが、Loss Diagramでまず見るべきは EArrMPP のほうです。Loss Diagramを読む段階では、まず「アレイとしてどこまで届いたか」を確認し、その後で必要に応じてインバータとの相互作用を細かく追うほうが分かりやすくなります。
実務では、この区切りを意識することで、議論がかなり明確になります。たとえば、配置や受光条件を見直すべきなのか、インバータ選定やDC/AC比を見直すべきなのかを判断しやすくなるからです。Loss Diagramを読むときに EArrMPP を境目として意識することは、初心者が混乱しやすい「どこからがシステム損失か」を整理するうえでとても有効です。
順番5|インバータ以降のSystem Lossを見る
EArrMPPまで確認したら、次はインバータ以降のSystem Lossを見ます。PVSystの Array and system losses では、DC配線損失の後に AC配線損失、外部変圧器損失、補機消費、システム停止損失が並んでいます。また、Array losses, general considerations では、インバータ入力電圧範囲外や過負荷による未利用エネルギーは通常インバータ損失、つまり system losses 側で扱われると説明されています。
ここでの読み方のコツは、System Lossを一つの塊としてではなく、インバータ、AC配線、変圧器、補機、停止のように性格の違う損失群として見ることです。インバータ関連では、効率そのものに加え、過負荷や電圧窓の外で取りこぼしていないかが重要です。AC側では、配線長やルートの取り方、変圧器の無負荷・負荷損失、補機運転の置き方などが効いてきます。つまり、System Lossは「発電機器の性能」だけではなく、「設備構成と注入点までの設計」の結果として読む必要があります。
また、Loss Diagramの後段は、前段を通過したエネルギーに対して効いている点も重要です。前段で大きく削られている案件と、前段がきれいにまとまっている案件では、同じインバータ条件でも後段損失の見え方が変わります。だからこそ、System Lossだけを独立に見ず、必ずEArrMPPまでの流れとつなげて読む必要があります。初心者がここを飛ばして後段だけ見てしまうと、どこが本当のボトルネックかを見失いやすくなります。
実務では、Loss Diagramの後段が大きいとき、インバータ効率だけを疑うのではなく、DC/AC比、入力電圧条件、ACルート、注入点までの距離、補機設定などへ戻ることが重要です。System Lossは、最後の仕上げの損失であると同時に、売電量や注入量を直接押し下げる損失でもあります。だからこそ、初心者でもここを独立した確認ポイントとして持っておくべきです。
順番6|最後に月別Loss Diagramへ戻る
Loss Diagramを年間値だけで読んで終わるのはもったいないです。PVSystは、Loss Diagramを月別でも確認できると明記しており、これによって各損失の季節差や影響の出方を評価できます。初心者向けに言えば、年間図で全体像をつかんだあと、月別図に戻って「いつその損失が効いているのか」を見るのが最後の仕上げです。
この順番が重要なのは、年間値だけでは原因のタイミングが見えないからです。たとえば、影損失が大きいと分かっても、冬の朝に偏っているのか、春秋の昼前後に効いているのかで重みが違います。温度損失も同じで、夏だけ大きく落ちているのか、年間を通じて高いのかで見るべき対策が変わります。System Lossも、真夏だけインバータ過負荷が出ているのか、年間を通じてAC側の抵抗損が効いているのかでは意味が変わります。
実務でよくあるのは、年間Loss Diagramでおおむね納得してしまい、月別へ戻らないことです。しかし、月別を見ると、年間では見えなかった偏りがはっきりすることがあります。冬季だけ影が大きい、真夏だけインバータ関連損失が目立つ、梅雨期に低照度損失が増えるといった傾向は、月別で見るほうがずっと分かりやすいです。これにより、年間値だけでは抽象的だった損失が、設計や運用の具体的な課題として見えてきます。
初心者がLoss Diagramを使いこなしたいなら、年間図を読んだあとに必ず月別へ戻る習慣をつけることが大切です。年間図は全体像を示し、月別図はその理由を示します。この二つを往復して見られるようになると、Loss Diagramは単なる結果画面ではなく、設計判断のためのかなり強い資料になります。
初心者がつまずきやすいポイント
Loss Diagramで初心者が最もつまずきやすいのは、損失率を足し算してしまうことです。PVSystははっきりと、各損失は直前のエネルギー量に対する割合であり、加算できないと説明しています。それにもかかわらず、項目ごとのパーセントを全部足して全体損失を語ってしまうと、図の意味は大きく崩れます。Loss Diagramは順番の図であって、単純集計の図ではありません。
次に多いのは、PRの基準とLoss Diagramの基準を混同することです。EArrRef はPR計算用、EArrNom はLoss Diagramの出発点です。この違いを意識していないと、Loss Diagram上の損失とPRの関係を誤って理解しやすくなります。初心者のうちは、Loss Diagramは Loss Diagram の基準で読み、PRは別の要約値として扱うほうが整理しやすいです。
また、前段の受光条件やアレイ損失を見ずに、いきなり後段のSystem Lossだけを見るのもよくある誤りです。Loss Diagramの後段は前段を通過したエネルギーに対して効いているため、前段の損失が大きい案件と小さい案件では意味が変わります。後段だけを見て設 備効率の話にしてしまうと、本当の原因を取り逃がすことがあります。
さらに、年間図だけで安心するのも危険です。PVSystが月別表示を用意しているのは、季節差の確認が必要だからです。年間で小さく見える損失でも、月別では特定時期に偏って大きく出ていることがあります。初心者がまず避けたいのは、「年間で見れば問題ないから大丈夫」という短絡的な読み方です。
現地条件の精度がLoss Diagramの納得感を左右する
Loss Diagramはソフトの中で完結した結果図のように見えますが、その納得感は現地条件の把握精度に大きく左右されます。とくに影損失や配線損失は、設備配置、障害物位置、列間距離、盤や変圧器の位置関係など、実際の現場条件がそのまま効いてきます。PVSystの損失は詳細にモデル化されていますが、前提条件がずれていれば、きれいなLoss Diagramでも実務上の説得力は弱くなります。
たとえば、Near shading を十分に反映していないと、前段の受光損失が小さく見えすぎるかもしれません。逆に、ACルートや注入点の位置関係が実態より短く置かれていれば、後段のSystem Lossが小さく見える可能性があります。つまり、Loss Diagramはただの「結果」ではなく、「どれだけ正確に現場条件を入れられたか」の写しでもあります。
その意味で、現場の位置関係を高精度に把握しておくことは、Loss Diagramの前提を詰めるうえで大きな意味があります。障害物との離隔、設備の方位、盤や注入点までの配置をより正確に整理できれば、影損失や配線損失の前提も整いやすくなります。PVSystのLoss Diagramをより実務に近い資料として使いたいなら、机上の入力だけでなく現地把握の精度を高める視点が欠かせません。
この観点から見ると、現場の位置関係を高精度に把握する手段として、iPhone装着型GNSS高精度測位デバイスのLRTKへ自然につながります。設備配置や障害物位置、ルートの距離感を現地で高精度に押さえやすくなることで、PVSystのLoss Diagramに入る前提条件も詰めやすくなります。Loss Diagramをただ読むだけでなく、より納得感のある図に近づけたい実務では、こうした現場把握の精度が大きな助けになります。
まとめ
PVSystのLoss Diagramを初心者が迷わず読むには、まず左端の基準エネルギーを確認し、次に受光条件に近い損失、モジュール・アレイ側の損失、EArrMPPまでの到達度、インバータ以降のSystem Loss、最後に月別図へ戻るという順番で読むことが大切です。この六つの順番を持っているだけで、損失率の大きい項目に振り回されず、どこが本当のボトルネックかを整理しやすくなります。
重要なのは、Loss Diagramを損失率の一覧としてではなく、発電プロセスの流れとして読むことです。PVSyst自身が示しているように、Loss Diagramは設計の質を俯瞰するための図であり、各損失は前段に対する割合です。だからこそ、順番を守って読み、原因を前後関係で整理することが、初心者向けでありながら実務でも通用する基本になります。
そして、その読み方をさらに確かなものにするには、現場の位置関係をより正確に把握することが欠か せません。影や配置、ルート条件を高精度に整理したい場合は、iPhone装着型GNSS高精度測位デバイスのLRTKを活用する視点も有効です。Loss Diagramを正しく読む力と、現場を正確に押さえる力を組み合わせることで、より納得感のある発電量予測と設計判断につなげやすくなります。
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