太陽光発電の発電量シミュレーションでは、日射量、温度、方位、傾斜角、モジュール特性に加え、故障や保守によって発電設備が停止する時間をどう見込むかも重要です。ただし、PVsystの停止損失は、年間発電量から任意の割合を直接差し引くための入力欄ではありません。
本稿では、PVsyst公式ドキュメントの `System Unavailability loss` を便宜上「停止損失」と呼びます。この機能では、停止時間の割合または日数、あるいは具体的な停止期間を設定し、その期間中はシステムを停止状態(OFF)として計算します。設定した時間割合と、結果として表示されるエネルギー損失率は、季節、時刻、天候によって一致しない点が重要です。
PVsystマニュアルを参照して設定する際は、入力値の意味、全停止と部分停止の違い、他の損失項目との重複、根拠の保存方法を整理する必要があります。以下では、公開前に誤解が生じやすい点を避けながら、実務で確認したい4つの注意点を解説します。
目次
• 停止損失とは何かを正しく整理する
• 注意点1:停止損失を一律の割合だけで決めない
• 注意点2:定期点検と突発停止を分けて考える
• 注意点3:他の損失項目との二重計上を避ける
• 注意点4:根拠を残し、案件ごとに見直せる設定にする
• 停止損失の設定で実務担当者がつまずきやすいポイント
• 停止損失を適切に扱うための運用データ活用
• まとめ:停止損失は小さな入力項目ではなく事業性を左右する前提条件
停止損失とは何かを正しく整理する
PVsystの停止損失は、公式ドキュメントでは `Unavailability loss` または `System Unavailability loss` と表記されています。想定する対象は、機器故障や保守作業などにより、発電システムを利用できない期間です。設定した停止期間中、PVsystはシステムを停止状態として扱います。
夜間や日射不足の時間は、通常、停止損失として追加する対象ではありません。これらの時間は、もともと発電可能量が小さいか、発電しない条件として気象データと機器モデルに反映されます。停止損失へ含めるのは、発電できる可能性がある時間帯に、故障、保守、外部停止などの理由でシステムを停止させる想定です。
ここで最も重要なのは、PVsystの停止損失が「システムをOFFにする期間」を設定する機能だという点です。たとえば、発電所全体が8時間停止するケースは表現しやすい一方、複数台あるパワーコンディショナのうち1台だけが停止するケースを、同じ8時間の全停止として入力すると損失を過大評価します。部分停止や出力低下を扱う場合は、影響範囲ごとに別のシミュレーションを作成して加重合算する、または等価な全停止時間へ換算して近似するなど、別途の整理が必要です。近似を用いた場合は、その方法を前提条件として明記します。
PVsystでは、システムの利用不能時間を時間割合または日数で定義できます。また、具体的な停止期間を設定できるほか、発生時期が読みにくい場合は 停止期間をランダムに配置できます。公式ドキュメントでは、ランダム生成は年間で最大5期間とされています。
入力した時間割合は、年間エネルギー損失率そのものではありません。たとえば、年間時間の1%を停止させても、停止が夜間や低日射時間に多ければエネルギー損失は1%より小さくなり、快晴日の昼間に集中すれば大きくなる可能性があります。PVsystも、実際のエネルギー損失は停止した季節、時刻、天候に依存し、指定した利用不能時間とは一致しないと説明しています。
そのため、PVsystの停止損失には統計的な意味合いがあります。所定の年間エネルギー損失率を直接指定する機能ではなく、特定の損失率へ合わせるには、停止期間を調整しながらシミュレーション結果を確認する必要があります。年間発電量の1%を差し引きたいから時間割合も1%にする、という設定は根拠になりません。
シミュレーション後は、停止損失が結果変数 `UnavLss` として確認でき、損失図にも反映されます。入力した停止時間だけでなく、最終的に何kWh、何%のエネルギー損失になったかを結果側で確認することが大切です。画面名や配置はPVsystのバージョンによって変わる可能性があるため、使用中のバージョンに対応する公式マニュアルも併せて確認してください。
停止損失を設定する目的は、任意に悲観的な発電量を作ることではありません。現実に起こり得る停止を、再現可能で説明できる前提としてモデルへ反映することです。値を大きくすれば安全側になるとは限らず、他の損失との重複や全停止の過大評価があれば、設備の価値を不必要に低く見積もることになります。
注意点1:停止損失を一律の割合だけで決めない
停止損失の設定で避けたいのは、過去案件の値や社内標準値を、その意味を確認せずに流用することです。設備規模、システム構成、保守拠点までの距離、予備品の有無、監視体制、契約上の対応条件が違えば、故障の発見から復旧までの時間も変わります。標準値は初期検討の出発点にはなりますが、案件固有の条件を確認したうえで採否を判断する必要があります。
特に注意したいのが、「年間発電量に対して何%の停止損失を見込むか」という目標値から、同じ数値の時間割合を入力する方法です。PVsystが受け取るのは利用不能の時間条件であり、結果として生じるエネルギー損失は、停止期間中の発電可能量によって決まります。時間割合とエネルギー損失率を同じものとして扱ってはいけません。
点検日や工事日が決まっている場合は、可能な範囲で具体的な停止期間を設定した方が、年間一律の時間割合より説明しやすくなります。点検を低日射時間帯に行う計画なのか、日中の全停止が必要なのかによって、同じ作業時間でも損失量は変わります。計画停止の日時が未確定であれば、想定時期を複数用意して感度を確認する方法もあります。
突発停止の発生時期が予測できない場合は、時間割合または日数と、ランダムに配置する停止期間を使って検討できます。ただし、1回のランダム配置だけで結果を固定すると、たまたま日射の多い日に停止したかどうかで値が変わります。同じ年間停止時間でも、配置を変えた複数ケースを比較し、結果のばらつきを把握 すると判断しやすくなります。
案件条件を整理する際は、少なくとも次の要素を確認します。
• 設備全体が停止する事象か、一部設備だけが停止する事象か
• 予想される発生回数と1回当たりの継続時間
• 異常発生から検知までの時間
• 遠隔復旧、現地到着、部品調達、交換作業に必要な時間
• 定期点検を実施する季節と時間帯
• 系統側停止、積雪、出力制御などを別項目で扱っているか
大規模設備は機器点数が多いため停止事象が増える可能性がありますが、冗長構成や常時監視、予備品の配置によって復旧を早められる場合もあります。小規模設備でも、巡回頻度が低い、現場が遠い、アラート監視が限定的といった条件があれば、停止が長期化することがあります。設備容量だけから停止損失の大小を断定するのは適切ではありません。
地域条件についても、積雪、強風、塩害、山間部のアクセス、通信環境などが、故障頻度や復旧時間へ影響する可能性があります。ただし、これらを一律に停止損失へ加算するのではなく、どの事象がシステム全停止につながるのかを具体化します。たとえば、積雪による受光面の遮蔽は、PVsystでは月別のsoiling attenuationで表す方法が案内されており、停止損失へ重ねて入れると二重計上になり得ます。
標準値を採用する場合は、出典、対象設備、対象年度、保守条件、停止の定義を記録します。「業界標準だから」という説明だけでは、計算条件の再現性がありません。案件ごとの差分を文章で残すことで、標準値を使った場合でも後から妥当性を検証できます。
注意点2:定期点検と突発停止を分けて考える
二つ目の注意点は、計画停止と突発停止を分けることです。定期点検や計画工事は、実施日、時間帯、停止範囲を事前に調整できる可能性があります。一方、機器故障や保護停止は発生時期を選べず、検知、原因特定、部品手配、復旧までの時間にも不確実性があります。
計画停止では、まず設備全体を止める必要があるかを確認します。点検対象が一部の回路や一部のパワーコンディショナに限られる場合、発電所全体をOFFにするPVsystの停止損失へ、そのまま作業時間を入力すると過大評価になります。逆に、受変電設備の点検や安全上の理由で全体停止が必要な作業は、具体的な停止期間として反映しやすい事象です。
部分停止を扱うときは、対象設備の容量比だけで単純換算するより、その時間帯に対象ブロックが生み得た発電量を基準に考える方が適切です。方位、傾斜、機器仕様がほぼ同じなら、停止時間に影響容量比を掛 けた等価全停止時間で近似できる場合があります。ただし、異なる方位や設備構成が混在する場合は、対象範囲を別モデルとして計算し、結果を合算する方が誤差を説明しやすくなります。
突発停止は、「発生頻度」と「停止継続時間」を分けて考えます。故障回数が少なくても、交換部品の調達に時間がかかれば損失は大きくなります。反対に、軽微な保護停止が発生しても、遠隔で短時間に復旧できれば影響は限定的です。年間停止時間だけでは、改善すべき工程が見えません。
停止継続時間は、次のように分解すると実務上の対策へつなげやすくなります。
• 異常発生から監視システムが検知するまで
• 通知から担当者が内容を確認するまで
• 原因の切り分けと復旧方針を決めるまで
• 現地到着または遠隔操作を実施するまで
• 部品交換や安全確認を終えて運転を再開するまで
通信障害や監視障害は、それだけで必ず発電量を減らすとは限りません。発電設備が正常に運転を続けていれば、通信が途切れても直ちに停止損失にはなりません。ただし、実際の機器停止を発見できず、復旧開始が遅れた場合は、停止時間を長くする要因になります。通信不具合を独立した発電損失として計上するのか、検知遅延として停止時間へ反映するのかを区別してください。
保守契約に「何時間以内に対応」と書かれていても、それが受付、一次連絡、遠隔確認、現地到着、復旧完了のどこまでを指すかで意味が異なります。停止損失の根拠にする場合は、契約文言だけでなく、実際の対応フローと部品供給条件を確認します。
新設案件で実績がない場合は、類似案件のデータを参考にできます。ただし、設備規模だけでなく、構成、地域、保守事業者、監視方法、予備品、アクセス条件を比較する必要があります。類似案件の平均値は答えではなく、初期仮定を作る材料です。計画停止と突発停止を別々に積み上げたうえで、PVsystへどのような停止期間として与えるかを決めます。
注意点3:他の損失項目との二重計上を避ける
停止損失を追加するときは、他の損失項目へ同じ事象を含めていないか確認します。PVsystには、soiling、IAM、温度、ミスマッチ、配線、インバータ、補機、変圧器、経年劣化、系統出力制限など、複数の損失モデルがあります。停止損失は、これらをまとめて保守的にするための予備率ではありません。
積雪は代表的な注意例です。PVsyst公式ドキュメントでは、積雪の影響は気象データに直接含まれず予測も難しいため、懸念がある場合は特定月のsoiling attenuationを部分的または完全に設定する方法が案内されています。積雪影響をsoiling側で設定したうえで、同じ期間を停止損 失にも含めると、同じ発電機会を二重に減らす可能性があります。
出力制御や連系点の上限も、停止損失と分ける必要があります。PVsystには `Grid Power Limitation` の設定があり、条件に応じて系統出力制限による損失を別に表示できます。設備が運転しながら出力を制限される事象を、システム全体のOFF期間として入力すると、時間帯ごとの出力制御の挙動を正しく表せません。
一方、系統事故や計画停電により、連系中の発電設備が実際に完全停止する期間を想定する場合は、停止損失として表現する考え方があります。ただし、蓄電池を含む弱系統・独立運転のモデルでは、系統利用不能に専用の設定があるため、対象システムの構成に合う機能を選びます。名称だけで分類せず、シミュレーション中に設備が全停止するのか、出力だけが制限されるのかを基準にします。
経年劣化は、設備が運転していても出力が徐々に低下する現象です。停止損失は、指定期間にシステムをOFFとして扱うものです。経年劣化の余裕を停止損失へ重ねて入 れると、長期発電量を必要以上に低くする可能性があります。汚れ、温度、配線、変換効率についても同様に、既存の損失モデルへ反映した分を停止損失へ再度含めないようにします。
清掃作業では、清掃によるsoiling損失の回復と、作業に伴う停止を分けます。発電を継続したまま清掃できるなら、停止損失は発生しません。安全上の理由で全体停止する場合だけ、その停止期間を検討します。一部区画ずつ清掃する場合は、全体停止として入力せず、部分停止の近似方法を明記します。
補機消費も停止損失とは異なります。監視装置、空調、ファンなどが電力を消費する場合は、補機消費の設定対象です。設備停止と補機消費を同じ予備率へまとめると、損失の原因と改善策が分からなくなります。
二重計上を避けるには、損失項目ごとに次の3点を記録すると有効です。
• 原因:何が発電量を減らすのか
• 挙動:全停止、部分停止、出力制限、効率低下のどれか
• 設定先:PVsystのどの機能または外部計算で扱うか
この整理により、同じ事象が複数の入力欄へ入り込むことを防げます。複数担当者でモデルを作る場合は、社内の分類ルールと案件固有の例外を共有してください。
注意点4:根拠を残し、案件ごとに見直せる設定にする
停止損失では、入力値だけでなく、停止期間の作り方を残すことが重要です。同じ時間割合でも、停止した日時が違えばエネルギー損失は変わります。数値だけを記録しても、後から同じ結果を再現できない場合があります。
最低限、次の情報を保存します。
• 使用したPVsystのバージョン
• プロジェクト名と計算バリアント
• 使用した気象データと対象年
• 入力した時間割合または日数
• 具体的に設定した停止日時
• ランダム配置を使った場合の条件と作成方法
• 全停止として扱った事象
• 部分停止を等価換算した場合の計算方法
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