太陽光発電所の影解析とその重要性
太陽光発電所の設計において、周囲の樹木や建造物、地形による影の影響を正確に評価することは極めて重要です。太陽電池パネルにかかる影は発電量の低下を招くだけでなく、ストリング(直列接続されたパネル群)の出力バランスを崩すことで追加の損失(ミスマッチロス)を引き起こします。
特に日本のように山林や建物が近接する立地では、近隣の森や高台の影による発電ロスは無視できません。もし周囲の影響を見落としてシミュレーションを行えば、実際の発電量が予測を大きく下回り、事業計画に支障をきたす可能性があります。 したがって、影解析では「樹木の影も見逃さない」綿密な検討が求められます。
従来の影解析における課題
これまで、太陽光発電の影解析にはいくつかの課題がありました。第一に、影の原因となる物体の情報収集が容易ではないことです。発電所の近隣にある樹木や建造物の高さ・位置を正確に把握するには、従来は測量器具を用いた現地測定や、設計図・地形図からの推定が必要でした。しかし、これらの方法では人的手間がかかる上、すべての障害物を網羅できない恐れがあります。たとえば、一部の小さな樹木や敷地外の構造物は図面に反映されておらず、見落とされてしまうケースもあるでしょう。
第二に、データを取得できた としてもそれをシミュレーションに反映する手間が課題でした。PVsystなどのシミュレーションソフトに影要因を入力するには、一般的に3Dモデル化や座標の指定が必要です。設計者が手作業で近隣物体を3Dモデル化するのは煩雑で、簡略化し過ぎれば精度が損なわれます。結果として、従来の影解析では「簡易な地平線データから遠方の山影だけを考慮し、近接する樹木の影は見逃していた」「パネル同士の影は検討したが、周囲構造物の影響までは手が回らなかった」ということが起こりがちでした。このような課題を解決するには、影の原因を高精度かつ網羅的にデータ化し、それをシミュレーションに確実に取り込む新たな手法が求められていました。
PVsystによる詳細な影シミュレーション
太陽光発電シミュレーションソフトウェアであるPVsystは、世界的に広く利用されているツールであり、影の影響を詳細に評価できる強力な機能を備えています。PVsystでは発電所の3次元シーン(レイアウト)を構築し、太陽の軌道に沿って各時刻のパネル受光面への影のかかり具合を計算することが可能です。そのため、正確な3Dモデルを入力すれば、周辺の構造物や樹木による影のロスを定量的に算出できます。さらに、詳細設定では日射が遮られる割合を計算するだけでなく、影によるストリング電圧・電流の不均衡まで考慮した電気的ミスマッチ計算も実行可能です。これにより、影によって各ストリングが持つ最大出力点のズレから生じる追加損失までも評価し、より実際の発電挙動に近いシミュレーションが行えます。
しかし、PVsystの精緻な影解析機能を最大限活用するためには、それに見合う高精度な入力データが不可欠です。パネル配置や地形データはもちろん、周囲の障害物(樹木や建物)の位置・寸法が正確でなければ、シミュレーション結果も現実から乖離してしまいます。言い換えれば、「シミュレーション精度は入力データの精度に依存する」のです。では、その高精度データをどのように取得すればよいのでしょうか。その答えの一つが、次に述べるLRTKによる3D点群データの活用です。
LRTKによる高精度点群測量の利点
LRTKとは、スマートフォンに装着する超小型のRTK-GNSS受信機を中心とした測量ソリューションで、誰でも手軽に高精度な3次元測量(点群計測)を行えるようにする技術です。RTK-GNSSとは衛星測位に補正情報を組み合わせて位置をセンチメートル級の精度で特定する手法であり、LRTKをスマホに取り付けることでスマホの位置を常時cm精度で測位できます。一方、近年のスマートフォン(例: LiDARセンサー搭載のモデル)には数メートル先までの環境を3Dスキャンできる機能が備わっています。LRTKはこのスマホの3Dスキャン機能と高精度測位を組み合わせることで、広範囲を歪みなく精密に点群データ化できるのが大きな特徴です。従来は専門のレーザースキャナーやドローン測量が必要だった作業を、スマホ片手に1人で短時間で完了できるため、現場の負担を大幅に軽減します。
LRTKによる点群測量の具体的な利点を整理すると、次のようになります。
• 高精度(センチ単位): RTK-GNSSにより取得される点群には地理座標(絶対座標)が付与されており、各点の位 置誤差は数cm程度に収まります。これにより、計測した樹木や地形の高さ・位置を実際の座標系で正確に把握でき、シミュレーション用モデルの精度が飛躍的に向上します。
• 網羅性と詳細度: 点群データは現地の地形起伏や構造物の形状を微細な部分まで捉えます。手計測では困難な樹木の枝葉の広がりや、複雑な地表の凹凸までもデータ化できるため、見落としが減ります。「現場を丸ごとデジタル化」するイメージで、後からオフィスでデータを見返しながら気になる物体の寸法を確認するといったことも可能です。
• 即時性と効率: スマホと小型端末のみを用いる手軽さから、思い立ったときにすぐ測量を開始できます。計測自体も短時間で完了し、点群はスマホ画面上でリアルタイムに生成状況を確認できます。その場で必要な寸法(例えば樹高や距離)を測定することも可能で、データ化と同時に解析の一部が行えるため、現地での判断をスピーディーに行えます。
• 低コスト: 専用の3Dレーザースキャナーや測量用ドローンは、機器本体やソフトウェアが非常に高額で(高級車が買えるほどの費用がかかり)、装置も大型で運搬・設置に手間がかかります。こ れに対しLRTKデバイスと対応スマホがあれば、専用機材に比べて格段に安価に導入できます。既に手持ちのスマホを活用できる場合はなおさらです。さらに、外部の測量会社に出来形測量や土量計算を依頼する頻度を減らせれば、その分のコスト削減効果も期待できます。中小企業でも導入しやすく、「1人1台」のスマホ測量体制を構築することも可能です。
以上のように、LRTKを用いることで高精度・高密度の点群データを手軽に取得でき、太陽光発電所の影解析に必要な「周囲環境のデジタル化」が飛躍的に容易になります。
LRTK点群データの3Dモデル化とPVsyst取込の流れ
では、実際にLRTKで取得したデータをどのようにPVsystのシミュレーションに活かすのか、その一連の流れを確認しましょう。大まかなステップは以下のとおりです。
• 現地での点群データ取得: 計画地やその 周辺にスマートフォン+LRTKを持ち込み、発電所予定地全体を歩き回りながら3Dスキャンを行います。例えば、敷地境界付近の樹木や既存建物、地面の高低差など、影の原因となりうる対象を満遍なくスキャンします。LRTKにより取得された点群は即座にスマホ上で確認でき、取りこぼしがないか現場でチェック可能です。
• 点群データの処理と3Dモデル化: 取得した点群データをもとに、シミュレーションで扱いやすい形式の3Dモデルを作成します。不要なノイズ点を除去し、必要に応じて樹木や建物の点群からポリゴンメッシュへの変換を行います。広範囲の地形であれば地表面の点群だけを抽出してデジタル地形モデル(DTM)を生成することもあります。LRTKクラウドなどのサービスを利用すれば、点群データをアップロードしてブラウザ上で3Dビューイングや簡易な編集が可能です。最終的に、周囲環境(地形や樹木・構造物)の3Dモデルデータが準備できたら、PVsystが読み込めるフォーマット(例えばCollada形式(.dae)等)に書き出します。
• PVsystへのモデル取り込み: PVsystのプロジェクトにおいて「近接影(Near Shadings)」の3Dシーン編集画面を開き、先ほど生成した3Dモデルをインポートします。モデルのスケールや配置座標は、LRTKの絶対座標データのおかげで現実どおりになっているはずですが、必要ならPVsyst上で位置調整も可能です。敷地内の太陽電池パネルのレイアウト情報も同時に設定します(PVsyst内でアレイを配置するか、外部CADで作成したレイアウトを取り込む方法があります)。こうして、パネル配置と周囲の環境物体が一つの3次元シーン上に揃えば、現実の発電所を仮想空間に再現したことになります。
• 影シミュレーションの実行と結果分析: 3Dシーンが完成したら、PVsystで発電シミュレーションを実行します。ソフトウェアは1年(8760時間)の各時間について太陽位置を計算し、各パネルが部分的または全面的に影になる割合を求めます。その上で、影による受光損失と電気的損失を考慮したエネルギー予測を算出します。シミュレーション結果として年間発電量や月別発電量、システム効率(PR値)等が得られ、特に影によるロス量がレポート中に明示されます。例えば、「近接物による遮光損失:年間△△kWh(▲▲%)」といった具合に、樹木や構造物の影がどれほど発電ロスを引き起こすか定量的に示されます。この結果をもとに、次の設計最適化ステップへと進みます。
シミュレーション結果に基づく設計最適化の実例
高精度な影シミュレーション結果が得られたら、それを踏まえて発電所設計の最適化を検討します。シミュレーションによって「いつ」「どこに」「どれくらい」の影が生じるかが把握できるため、対策の優先順位や方針が明確になります。以下に、影解析結果を活かした設計改善の一例を紹介します。
例: あるメガソーラー案件では、敷地東側のすぐ外に高さ15mほどの森林が隣接していました。LRTKで取得した点群データからこれら樹木の高さ・位置を正確に3Dモデル化し、PVsystでシミュレーションしたところ、毎朝の時間帯に東側アレイの半数近くが樹木の影に覆われることが判明しました。その影響で、該当するストリングでは受光量の低下に加えてミスマッチロスが生じ、年間で数%程度の発電量ロスにつながる結果となりました。当初、この森林の影は設計段階で軽視されていましたが、詳細シミュレーション結果を受けて対策が検討されました。
設計チームはまず、物理的な 対策として敷地境界付近のいくつかのパネル列を配置変更する案を試しました。具体的には、最も影の影響を受けるエリアのパネルを削減し、その分を影の少ない別エリアに再配置するレイアウト変更を行ったのです。これにより、朝方に完全な影に入ってしまうパネルを減らし、影の影響を受けにくい配置とすることで、予測年間発電量が向上することが確認されました。また、技術的な対策としては、影の避けられない一部ストリングに対してパワーオプティマイザ等のデバイスを導入し、局所的なミスマッチ損失を低減させることも検討されました。シミュレーション上でその効果を評価した結果、オプティマイザ導入によって影ありストリングと影なしストリングの出力差が緩和され、発電ロスが回復することがデータで示されました。これらの最適化検討はすべて、LRTKによる詳細データがあってこそ可能となったものです。結果として、影の影響を最小化する配置・機器構成が導き出され、発電所全体の年間予測発電量が信頼できる値に改善されました。
この例から分かるように、精密な影解析によって得られた定量データは、設計上の意思決定を裏付ける強力な根拠となります。従来は経験や勘に頼っていた「どの程度影を見込むか」という判断も、PVsystの数値結果に基づき合理的に行えるようになります。例えば、「ある樹木を伐採すれば年間○○kWhの発電増が見込める」「パネル配置を最適化すれば月別PR値の低下を▲▲%緩和できる」といった具合に、投資対効果を踏まえた設計最適化が可能になるのです。
おわりに:スマホ完結のLRTK測量で誰でもできる高精度影解析
太陽光発電所の影解析において、周囲の樹木や構造物、地形の影響を見逃さず、正確にシミュレーションすることは、もはや欠かせないプロセスとなりました。LRTKで作成した高精度3DモデルをPVsystに取り込めば、現実の環境をそのまま再現したシミュレーションが実現し、発電量予測の精度が飛躍的に向上します。これにより、計画段階で潜在的なリスクや損失を洗い出し、的確な設計変更や対策を講じることができるようになります。
特筆すべきは、この高度な一連の解析がスマートフォンだけで完結し得る点です。LRTKの登場によって、かつては専門業者に依頼したり高価な機材を必要とした3D測量が、現場技術者自身の手で手軽に行えるようになりました。スマホ片手に発電所周辺を歩くだけで、高精度の点群データが取得でき、あとはソフト上でシミュレーションに流し込むだけ です。誰でも使える簡易測量ツールであるLRTKは、太陽光発電の設計プロセスに新たなDX(デジタルトランスフォーメーション)をもたらしています。
今後は、LRTKによるスマホ測量とPVsystシミュレーションの組み合わせが、太陽光発電所設計の新たな標準となっていくでしょう。周囲の「樹木の影も見逃さない」綿密なシミュレーションで、発電事業の信頼性と収益性をしっかりと支えることが可能になります。高精度な3Dモデルを武器に、ぜひ皆様のプロジェクトでも最適な設計・運用を実現してみてください。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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