近年、ドローンやスマートフォンを用いたフォトグラメトリ(写真測量)技術が建設・土木の現場で急速に普及し始めています。フォトグラメトリとは、複数の写真画像から対象物の3次元モデル(点群データやメッシュモデル)を復元する手法です。これにより現場の構造物や地形を デジタルツイン として丸ごと記録・再現でき、従来の断面測量や目視記録では得られなかった詳細データを効率的に取得できます。高性能カメラ・LiDARを搭載したドローンによる空中撮影や、スマホ+RTK測位によるモバイルスキャンの登場で、誰でも手軽に高精度な3D計測が可能となりつつあります。この記事では、フォトグラメトリが活躍している最新事例として、構造物点検、土量管理、災害復旧の3 つの分野を取り上げます。それぞれでどのように写真測量が活用され、精度や効率面でどんなメリットを生んでいるのか、従来手法との比較を交えて専門的かつわかりやすく解説します。記事の最後には、現場導入を後押しする LRTKによる簡易測量 ソリューションもご紹介します。
構造物点検へのフォトグラメトリ活用:高所・狭所も安全に詳細3D化
社会インフラの橋梁やトンネル、ダムなど構造物の定期点検にもフォトグラメトリが新たな風を吹き込んでいます。従来の橋梁点検では、高所作業車を出動させたり足場を組んだりして橋桁の下面や支承部に近接し、人の目でひび割れを探し幅をスケールで測定する――といった手作業が中心でした。これらは多数の人員と時間を要するうえ、高所での危険作業も避けられませんでした。しかし写真測量の導入により、このプロセスが大きく変わり始めています。
例えば橋梁点検では、ドローンで橋全体を下から隅々まで撮影し、得られた数百枚の写真から橋梁の精密な3Dモデルを生成できます。または、スマートフォンにRTK対応の小型GPSアンテナを装着したモバイルスキャン手法も有効です。作業員が橋の歩道や川岸からスマホを構造物に向けて動画撮影するだけで、橋桁下面や支承(橋を支える継手部分)など近寄りにくい箇所も含めて橋全体の点群データを取得できます。生成された3D点群モデルには各部位の写真テクスチャも貼り付いているため、オフィスに居ながらにして デジタルツイン上で詳細な点検解析 を行うことが可能です。ひび割れやコンクリート剥離の位置・形状もモデル上で正確に確認でき、実寸計測から劣化の程度を客観的に把握できます。特にフォトグラメトリによる点群モデルは構造物全体を 漏れなく 記録しているため、人力では見落としがちな微細なクラックも見逃しません。また定期点検ごとに3Dモデルを蓄積し比較すれば、経年変化の追跡も容易です。前回点検時と比べてひび割れが進展していないか、部材が変形していないかといった変化を数ミリ単位で定量的に検出でき、長期的なインフラ健全性評価に役立ちます。
こうしたフォトグラメトリ活用による構造物点検のメリットをまとめると次のとおりです。
• 非接触で安全な高所点検: 支承部や桁裏など高所・狭所の点検を、地上からカメラ撮影するだけで済ませられます。高所作業車や仮設足場の使用を大幅に削減し、作業員の危険リスク低減につながります。
• 点検作業の効率化: ドローンやスマホで短時間に広範囲をスキャンできるため、現地調査の所要時間が飛躍的に短縮されます。従来比で30~40%程度の工数削減に成功した事例もあり、夜間作業や交通規制の短縮によるコスト削減効果も期待できます。
• 精密な劣化診断データ: 得られた点群+写真の3Dモデル上でひび割れ幅や部材寸法を正確に測定でき、補修の要否判断を裏付ける客観的エビデンスとなります。人力では見つけにくい微小損傷までデジタルデータに残せるため、診断の信頼性が向上します。
• データ蓄積と活用: 点検結果を3Dデータとしてクラウドに蓄積すること で、将来の補修計画立案や耐久性評価に活かせます。紙の記録と違い半永久的に劣化状況を保存できるデジタルアーカイブとなり、インフラ維持管理の高度化に貢献します。
土量管理へのフォトグラメトリ活用:出来形計測の精度向上と即時解析
土工事や舗装工事などの出来形管理(施工後の仕上がり形状の検査)にもフォトグラメトリが威力を発揮しています。従来の出来形測定では、測量スタッフが現場を歩き回り、各所で高さや厚みをスタッフ棒とレベルで測定していました。例えば道路工事では、路盤や舗装の厚さを施工完了後に数十箇所サンプリング計測し、設計通りの高さ・傾斜になっているか確認するといった具合です。もちろんこの手法では測定点が限られるため、全体の勾配変化や局所的な凹凸を十分に把握できないリスクがありました。人手測量は時間と人員もかかり、広範囲の出来形確認には大きな負担となっていました。
フォトグラメトリを出来形管理に導入すれば、こうした課題が一挙に解決します。工事完了直後 に ドローン空撮やスマホスキャンで施工面全体を撮影 すれば、わずか数分で路面全体や盛土全体をカバーする高密度点群データが得られます。例えば舗装が終わった直後に担当者が路肩を歩きながらスマホで路面をスキャンすると、道路の全幅・延長にわたる舗装面を漏れなく記録した3D点群が取得できます。これをクラウド上で設計図の仕上がりモデルと重ね合わせれば、出来形の過不足を色分け表示するヒートマップを即座に生成可能です。全地点について設計高さとの差が±何センチかを可視化できるため、規格外に高すぎる・低すぎる箇所が一目で判別できます。従来は断面図や水準測量でしか把握できなかった 勾配の微妙な不陸 や舗装厚の不足も、このヒートマップで見逃しません。また点群データから任意の場所の断面や高さを後から読み取れるので、縦断勾配(坂の傾き)や横断形状も追加測定なしに自由に解析できます。「図面では気付かなかった局所的な水溜まりが発生していないか?」といった細かなチェックまで3Dデータ上で完結できます。
さらに土工現場では、フォトグラメトリによる3D測量が土量管理(盛土・切土量の算定)にも威力を発揮します。例えば造成工事で 盛り土を行った場合、完了後にドローン写真測量で敷地全体の地形モデルを取得し、施工前の地形データとの差分から搬入土量を自動算出できます。従来は人手で断面をいくつも測って体積推定していた作業が、点群データの差分計算により数分で正確に完了します。ある現場では4人が数日かけていた土量測定が、1人が数十分歩いてスキャンするだけで済んだという報告もあり、大幅な時間短縮と人件費削減につながっています。点群による体積計算は人力計測に比べ誤差も小さく、出来高数量(工事量)の確実な把握に役立ちます。加えて、写真測量データは面的・網羅的なので「計測漏れ」がなく、後になって「一部だけ盛土厚が不足していた」といった見落としを防止できます。現場で取得したデータは即クラウドにアップロードして関係者と共有でき、発注者立会い検査にもその場で対応可能です。
フォトグラメトリを活用した出来形・土量管理によって得られる主なメリットは以下のとおりです。
• 精度と品質の向上: 点群データにより施工面を全面的に計測で きるため、設計との差異をミリ単位でチェック可能です。広範囲の高さ・厚みを100%検証でき、従来見逃していた不陸や局所的な規格外も確実に発見できます。
• スピードアップと省力化: 一度のスキャンで多数の点を取得できるため、人力で一点一点測っていた手間が大幅に削減されます。測量作業が高速化し、リアルタイムで解析結果を取得・共有できます。夜間作業や交通規制の短縮で安全面・コスト面の負担も減ります。
• 安全性の向上: 道路上や斜面上での測量作業時間を最小化でき、作業員の労働安全が高まります。車道での巻尺測定や急傾斜地での立ち入りが不要になるため、事故や転落リスクを低減できます。
• データの即時活用: 現場で取得した点群データからその場で体積計算や断面図作成を行えるため、出来形検査と同時に出来高確認まで完結します。クラウド連携によりオフィスに居る上司や発注者ともリアルタイムでデータを共有でき、検査承認までのタイムラグを縮めます。
災害復旧におけるフォトグラメトリ活用:被災状況の迅速把握と計測
地震や豪雨による土砂崩れ・河川氾濫などの災害発生時にも、フォトグラメトリは被害状況の迅速な把握と復旧計画立案に大きく貢献しています。従来、災害直後の現場では限られた人員で被害箇所を目視点検し、測量機器で一部の断面を測って崩壊土砂の量を推定するといった手法が取られてきました。しかし二次災害の危険がある現場への立ち入りは困難で、しかも広範囲の状況を短時間で測るのは容易ではありませんでした。
フォトグラメトリ技術を使えば、少人数でも遠隔から安全に 被災地の詳細な3Dデータを取得できます。例えば大規模な土砂崩れ現場では、ドローンで上空から被災斜面を撮影し、その写真群から崩壊地形の点群モデルを作成することで、崩落範囲や土砂流出量を正確に計測できます。もし災害前の平常時にその斜面をあらかじめスキャンし基準データを残しておけば、発災後に再度同じ箇所を撮影するだけで、前後の点群差分から「どのエリアがどれだけ崩れたか」を自動算出できます。実際に、数日かかっていた土砂量の算定が数分で完了するケースも報告されており、初動対応のスピードが飛躍的に向上します。得られた数値データは復旧工法の選定や重機手配、土砂の処分計画などを立案する際の根拠資料となります。また、点群モデル上で被災箇所の寸法や勾配を計測すれば、仮設道路のルート検討や二次崩壊のリスク評価も的確に行えます。
フォトグラメトリによる災害対応の利点は、安全性と即時性にあります。人が立ち入れない危険区域でも、離れた場所からドローンや高倍率カメラで撮影するだけで状況を把握できます。これにより、救助隊や技術者の二次災害リスクを低減しつつ、必要な情報を短時間で収集可能です。被災後数時間以内に現場の3D地形図やオルソ画像が得られれば、関係機関が共有して被害の全貌を立体的に認識でき、迅速な意思決定につながります。実際、2021年に発生したある大規模土石流では、国が公開していた事前の基盤地形データと災害後に撮影した写真測量データを比較することで、崩落土砂量の正確な算定や、崩壊要因となった盛土の位置特定に成功しています。このように、災害前後のデジタルツイン比較によって被害分析を高度化できるのです。
加えて、フォトグラメトリで作成した3Dモデルはその後の復旧工事や安全管理にも活用できます。例えば崩壊した法面の点群データから不安定な領域を抽出し、その範囲を現場でAR表示することで、立入禁止エリアを視覚的に示すことが可能です。スマホの画面越しに実際の風景に危険領域が赤く重ね表示されれば、作業員は「どこまで近づくと危ないか」を直感的に理解できます。また、復旧設計で計画した補強材の配置や土留めの位置をARで現地に投影し、施工時の精度管理に役立てる応用も考えられます。従来は経験に頼っていた災害復旧の現場判断も、3Dデータ+ARによる見える化で科学的根拠に基づく対策へと進化しつつあります。
現場導入を支える簡易測量ツール:LRTKによる手軽なフォトグラメトリ
フォトグラメトリのメリットを知っても、「高度な技術なので導入が大変そうだ」と感じる方もいるかもしれません。しかし現在では、誰でも使える簡易測量ツールが登場し、写真測量のハードルは大きく下がっています。その代表例が、東京工業大学発スタートアップ企業レフィクシア社が開発した LRTK です。LRTKはスマートフォンに装着できるポケットサイズのRTK-GNSS受信機で、スマホをそのままセンチメートル級精度の“測量機”に変身させるデバイスです。スマホのカメラやLiDARセンサーと連携し、写真撮影→点群化→測位 をワンストップでこなせる専用アプリも備わっています。これ一台で位置座標の取得から3D点群スキャン、さらにはARによるモデル投影まで多彩な機能を発揮し、取得データはリアルタイムにクラウド共有することが可能です。機材の価格も従来の測量機器に比べて非常にリーズナブルに設定されており、「1人1台」の携帯型測量ツールとして注目されています。
LRTKの登場により、それまで高価なレーザースキャナーや熟練技術者が必要だったフォトグラメトリ測量を、現場の誰もが手軽に実践できるようになりました。たとえば従来トータルステーションで半日がかりだった出来形測定が、LRTKなら1人で数十分のスキャンで完了し、即座にクラウドで点群解析まで行えるといった具合です。測量作業が劇的に効率化するだけでなく、取得した点群データをその場で確認して不足箇所があればすぐ取り直すこともできます。スマホアプリの直感的な操作画面により専門知識がなくとも扱いやすく、現場担当者自身が計測からデータ分析まで一貫し て実施できるため、外注コストの削減や人材不足の解消にもつながります。
さらにLRTKは国土交通省が推進するICT施工やi-Constructionにも適合しており、地方自治体や中小建設業者でも導入しやすいソリューションとなっています。実際に全国の現場で静かなブームとなりつつあり、「スマホでできる簡易3D測量」として高く評価されています。フォトグラメトリ活用の最前線を支える技術がこれほど身近になった今こそ、自社の業務や地域インフラ管理への導入を検討してみてはいかがでしょうか。最先端の計測テクノロジーを味方につけて、安全性と生産性を飛躍的に高めるチャンスと言えるでしょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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