はじめての点群管理｜ファイル形式とクラウド運用の基礎知識

点群データとは？活用シーンをやさしく解説

「点群データ」とは、現実空間に存在する物体や地形を無数の点の集合（点群）で表現した3次元データです。各点には位置座標（X, Y, Z）が含まれ、機器によっては色（RGB）や反射強度といった情報も記録されます。従来の2次元測量では平面上の座標(X, Y)のみですが、点群データでは高さ(Z)も含めた空間情報を取得できるため、対象物を立体的かつ写真のように鮮明に再現できる点が大きな特徴です。

*標高に応じた色分けで可視化した点群データの例。森林や建物、地形の起伏を高精度に3Dで記録できる*

点群データは近年、建設業を中心にさまざまな分野で活用が急拡大しています。例えば建設現場の測量では、ドローン空撮や地上レーザースキャナーにより施工前後の地形を点群として取得し、設計段階での正確な土量計算や出来形管理に役立てています。点群を用いることで、必要な測量や検測の回数を最小限に抑え、工事の効率化・省力化を図れます。また施工後に得た3Dデータは、橋梁や道路など構造物の維持管理にも活用されます。従来は困難だった広範囲（森林・河川・街区など）から局所的な箇所（橋梁部分や道路の一部など）までを、高い再現度で3D記録できる点群の利点が評価されているのです。

実際、国土交通省が推進する「i-Construction」施策のもと、工事の測量から維持管理に至るプロセスで3次元点群の活用が提唱されています。例えば自治体では老朽化インフラの保全のため、道路やトンネルの現況を点群計測しデジタルアーカイブ化する取り組みが進んでいます。建設会社でも、出来形管理や出来高測定への点群活用、さらには完成データを用いた将来のリニューアル工事計画など、用途は多岐にわたります。

点群データの取得方法としては、専用の3Dレーザースキャナーによる計測のほか、ドローン搭載カメラでの写真測量（フォトグラメトリ）や車両にセンサーを搭載するモバイルマッピングなど様々な手法があります。LiDAR（ライダー）と呼ばれるレーザー計測技術では、レーザー光を照射して反射までの時間から距離を求めることで高密度な点群を取得します。写真測量では多数の写真画像から3D形状を再構築して点群化します。それぞれ利点がありますが、近年はドローン普及により安価で手軽な写真測量点群も増え、あらゆる現場で点群データが身近なものになりつつあります。

主な点群ファイル形式の違いと使い分け

点群データはさまざまなファイル形式で保存・交換することができます。代表的な形式として LAS, LAZ, E57 などがあり、それぞれ特徴があります。以下に初心者向けに違いと使い分けを解説します。

• LAS (LASer) – 点群データの保存で最も広く使われている業界標準のバイナリ形式です。もともと米国の業界団体ASPRSが策定した規格で、測量やGIS分野で一般的です。LASファイルには各点の座標や強度、分類情報などをバイナリ形式で効率よく格納でき、CSVなどテキスト形式に比べ容量を大幅に削減しつつ高速に読み込めます。そのため国や自治体が公開する航空レーザ測量成果もLAS形式が多く採用されています。

• LAZ – LASのデータを圧縮した形式です。LASファイルを可逆圧縮することで、データ精度を保ったままファイルサイズを大幅に縮小できます。具体的にはLASの約1/10のサイズになることもあり、配布・保管が格段に容易になります。LASとLAZは内容的には同じ点群データを含むため、必要に応じて相互に変換可能です。ただしLASに比べ読み書き時に圧縮処理の負荷がかかるため、ソフトによっては直接LAZを扱えない場合もあります。基本的には点群データは配布時にLAZ圧縮するのがおすすめです。

• E57 – 3D点群を含むイメージングデータのためのベンダーニュートラルなオープン形式です。ASTM（国際標準化団体）の標準規格に基づいており、LASと異なり点群だけでなく360°画像やメタデータも一緒に保存可能なのが特徴です。各メーカーのレーザースキャナーは独自形式を持つ場合がありますが、E57は共通交換フォーマットとして用いられ、異なる機種間でもデータ互換しやすくなっています。例えば地上型スキャナーで取得した点群+写真データをまとめてE57で書き出し、他社製ソフトで読み込む、といった使い方が可能です。ベンダー独立の形式のため将来的な資産としても安心でき、異なる現場間や企業間でデータを受け渡す際に重宝します。

そのほかにも、ASCII（テキスト）形式で座標を並べただけのTXT/CSVや、3Dモデル用のPLY形式、ロボティクス分野のPCD形式など様々な点群フォーマットがあります。ただ初心者はまずLAS/LAZ/E57の3つを押さえておけば十分でしょう。例えば国土地理院や自治体の公開データではLAS/LAZが主流ですし、メーカー間でやり取りする場合はE57が選択肢になります。各形式ごとに対応ソフトや利便性が異なるので、用途に応じて使い分けることが大切です。

点群ファイル容量の目安と圧縮のポイント

点群データのファイルサイズは取り扱い上の大きな課題です。高密度な点群は非常に大容量になりがちで、ハードディスクの容量圧迫や転送の負担につながります。例えば公共測量で要求される点群密度（1平方メートルあたり4点以上）で、約300m×400mの範囲を計測すると、点数は簡単に1,000万点を超えます。各点が持つ情報はXYZ座標とRGB色などで、これだけで生データは100MBを優に超え、場合によっては500MB規模にも達します。点群はテキストよりバイナリ形式（LAS等）の方が効率的ですが、それでもこれほどの容量になるのです。

そのため、点群データの管理・配布では圧縮が重要になります。先述の通りLASを圧縮したLAZ形式を用いれば、ファイルサイズを約1/10に圧縮できます。例えば500MBのLASデータも50MB程度になれば、メール添付やクラウド経由での配布も現実的になります。またLAS形式そのものもバイナリ仕様でCSVよりは軽量なので、基本はLASベースで扱い、配布時にLAZ圧縮という流れが一般的です。

圧縮以外の容量対策としては、不要点の削減や間引き（サンプリング）も有効です。解析目的によっては高密度すぎる点群は情報過多なので、解析精度に影響しない範囲で点の間隔を広げてデータ量を減らすこともあります。また範囲が広大すぎる場合はエリア分割してファイルを分けることも検討します。こうした軽量化処理は後述するクラウドサービス上で自動実行できるものもあります。

初心者の方はまず、「点群一式で数百MB〜数GB規模になる」という点を念頭に置きましょう。撮影範囲や密度によってはUSBメモリに収まらないケースも珍しくありません。そのため、社内で扱う際は容量に余裕のあるストレージを用意し、圧縮形式（LAZなど）で保管・受け渡しするのがベストプラクティスです。特にメール送付やクラウドアップロード時は、生LASのままだと時間も通信量もかかるため、必ず圧縮を検討してください。

点群データのクラウド管理と代表的サービス

近年は点群データをクラウド上で管理・共有する動きも盛んです。クラウドサービスを使うことで、社内外の関係者がインターネット経由で同じ点群データを閲覧・活用できるため、共同作業や情報共有が格段にスムーズになります。ここでは代表的なクラウドサービス例と、クラウド運用の基本ポイントを紹介します。

• InfiPoints Cloud（インフィポイントクラウド） – 国内メーカー（エリジオン社）の提供する点群クラウドサービスです。特徴は、事前処理から共有までワンストップで行える点です。例えば3Dスキャナー付属ソフトで位置合わせした点群をE57形式でアップロードすれば、クラウド上で自動的に点群のフィッティング（位置補正）やノイズ除去、人や車の除去、点群の軽量化まで一括処理してくれます。処理完了後はWEBブラウザ上で3Dビューアとして点群を閲覧でき、関係者にはURLを共有するだけで現場の3Dデータを見てもらえます。高性能PCや専用アプリは不要で、一般的な事務PCとネット環境さえあれば大量の点群を扱えるのが利点です。アクセス権限もユーザーごとに編集・閲覧を細かく設定でき、不要な人には公開されないようセキュアな共有が可能です。

• ScanX（スキャン・エックス） – ゼンリンなどが提供する国産のオンライン点群処理・共有プラットフォームです。こちらもWebブラウザで動作し、点群をアップロードするだけで高度な自動分類（地表・構造物・植生の分離）やノイズ除去を実行、結果をクラウド上で確認できます。処理後は共有リンク(URL)を発行して関係者に配布すれば、受け手もブラウザ上で点群を自由に閲覧・計測できます。ScanXではフォルダごとにユーザー権限を管理者・編集者・閲覧者に分けて共有でき、さらに閲覧のみ可能な公開リンクも発行できるため、データ改ざんや漏洩を防ぎつつ必要な相手と情報共有ができます。クラウド上で複数ユーザーが同時に点群処理できるため、大規模現場のデータを並行処理して作業時間を短縮するような使い方もされています。国土交通省の「i-Construction大賞」で大臣賞を受賞した実績もあり、国内40都道府県以上で導入が進んでいます。

• Trimble Connect（トリンブルコネクト） + リアリティキャプチャ – 海外製の建設コラボレーションクラウドであるTrimble Connectにも、点群データ共有機能が統合されています。Trimble社の「Reality Capture」サービスを通じて、巨大な点群データや360度画像をクラウド上に安全に保管・共有し、関係者でコラボレーションできるのが特徴です。測量技術者やリモートでの現場管理担当者が、このプラットフォーム上で点群データを共同閲覧・注釈し、設計図との比較や出来形チェックを行うといった運用が可能です。Trimble Connect自体はBIM/CIMモデル共有で有名ですが、点群も含めたリッチな現場データのクラウド管理に対応しています。

これら以外にも、Autodesk社のAutodesk Construction Cloud（旧BIM 360）やBentley社のProjectWise ContextShareなど、BIMやGISの延長で点群をオンライン管理できるプラットフォームがあります。国内測量会社でも独自にクラウド点群ビューアを用意しているところが増えており、今後ますますクラウド活用は広がるでしょう。ポイントは「ブラウザだけで大容量点群を見られる手軽さ」と「データを一元管理できる効率性」です。クラウドに上げておけば最新データが常に共有され、誰かが古い版を見ていた…といったミスも防げます。特に遠隔地との共同作業や、現場と本社の情報共有にはクラウドが強い味方となります。

クラウド活用時の注意点（ネット環境・セキュリティ・コストなど）

クラウドで点群を扱う際には便利な反面、いくつか注意すべきポイントもあります。以下に初学者が押さえておきたい留意点をまとめます。

• 通信回線の環境: 点群データは容量が大きいため、クラウドにアップロードしたり閲覧する際には高速で安定したインターネット回線が必要です。例えば数百万点クラス（数百MB）のデータをアップロードする場合、光回線でも時間がかかりますし、モバイル回線では通信量超過の恐れもあります。クラウド上で点群を表示する際も、3Dビューアは逐次点群をダウンロードしながら描画します。ネットが不安定だと表示が途切れたり遅延が発生するので、可能なら有線LANや5Gなど高速環境を用意しましょう。また社内ネットワークのセキュリティで外部クラウド接続が制限されている場合、プロキシ設定等の対応が必要になることも覚えておいてください。

• データセキュリティ: 点群には現場の詳細な3D情報が含まれるため、機密情報の塊とも言えます。不特定多数に公開すると防犯上問題になるケース（例えば重要インフラの構造データなど）もあります。そのためクラウド共有時はアクセス権限の設定が重要です。上述のInfiPoints CloudやScanXのように、ユーザーごとに閲覧のみ許可や編集許可を制御できるサービスを選びましょう。最低限、社外秘データはパスワード付きで共有し、不要になったリンクは速やかに無効化する運用が求められます。またクラウドサービス自体の信頼性（通信の暗号化やサーバの所在、運営企業の信頼度）も確認ポイントです。国土交通省関連の要件では、クラウド利用時にデータセンターが国内にあること等を条件とする例もあります。自社で許容できるクラウドのセキュリティレベルを社内ポリシーとして定めておくと安心です。

• ライセンス・コスト: クラウドサービス利用には利用料（ライセンス費用）が発生します。多くはサブスクリプション（月額課金）制で、ユーザー数やデータ容量に応じてプランが設定されています。例えばScanXの場合、初期費用なしで月額約3万円から使えるプランがあります。一見高く感じるかもしれませんが、従来オフラインの点群処理ソフトは数百万円の初期投資が必要なものもあり、それに比べれば低コストで始められる利点があります。とはいえ長期的に使うと費用が積み重なるため、プロジェクト規模に応じたプラン選定や、使わない月は休止できる契約形態の有無などをチェックしましょう。またクラウド上のデータ容量が増えすぎると追加料金が発生するケースもあります。不要データは削除し、ローカルにバックアップしておくなどコスト管理も意識しましょう。社内で複数部門が使う場合は、契約アカウントの共通利用や一括契約割引なども検討すると良いでしょう。

以上のように、クラウド活用にはインフラ面・運用面での注意が必要ですが、適切に対処すれば大きな問題はありません。要は「速いネット、適切な権限管理、賢い契約」の3点を押さえることです。初めは試験的に無料プランやトライアル期間を利用し、自社の環境で問題なく動くか、費用対効果に見合うかを検証してみると良いでしょう。

点群データの社内共有・納品・閲覧活用例

最後に、点群データの社内共有や対外的な納品・閲覧に関する活用例を紹介します。点群ならではの共有方法を知っておくと、研修や業務で役立ちます。

• 社内共有: 社内の別部署やチーム間で点群を共有する場合、従来はハードディスクにコピーして手渡ししたり、巨大なファイルをネットワークドライブ経由で受け渡す必要がありました。しかしクラウドを用いれば、URLリンク一つで簡単に共有可能です。例えば施工管理部門が取得した現場点群をクラウドにアップし、設計部門や営業部門に閲覧権限を付与すれば、各自のPCからブラウザで現場の3D状況を即座に確認できます。重いソフトを各PCにインストールしたり、高スペックマシンを用意する必要もありません。またデータ更新もリアルタイムに全員に反映されるため、「最新版はどれか？」といった混乱も防げます。社内教育でも、現場未経験の新人に3D点群で臨場感ある現場状況を見せながら説明すると理解が深まるでしょう。

• 発注者への納品: 国や自治体など発注者に成果品として点群データを納品するケースも増えています。その際は指定のファイル形式や媒体に従う必要があります。例えば国土地理院ではLAS形式、国交省直轄工事では納品要領で点群の形式や座標系が指定される場合があります。大容量データの納品には、ハードディスクやSSDを用いることもありますが、最近は発注者と相談の上でクラウド経由でのデータ引き渡しを行う例もあります。パスワード付きZIPにしてクラウドストレージにアップし、ダウンロードURLを知らせる方法です。ただし納品物としては正式には物理媒体が要求されるケースもあるため、事前に要領を確認しましょう。また、納品物として点群のビューアデータを同梱することもおすすめです。受領者が専門ソフトを持っていなくても、フリーの点群ビューアや3D PDF形式などで閲覧できれば親切です。例えばAutodeskのRecap Viewerや、無償の「CloudCompare」で開ける形式で添付する、Webブラウザで見られるHTMLビューアを付ける等の工夫が考えられます。点群データは専門家以外には扱いづらい場合もあるので、誰でも見られる形で渡す配慮が大切です。

• 現場見学・合意形成: 点群の閲覧活用として、社内外問わず合意形成ツールとして使う方法もあります。例えば工事関係者全員で点群を見ながら出来形を確認したり、完成イメージを共有する場面です。クラウドビューア上で気になる箇所にマーキングやコメントを付与し、その場で議論できるサービスもあります。自治体では住民説明会で点群から起こした3DモデルやVRを見せるケースも出てきました。平面図や断面図では伝わりにくい情報も、点群由来のリアルな3Dデータなら直感的に伝えられます。例えば道路拡幅計画の説明で、現在の道路周辺をスキャンした点群と計画BIMモデルを重ねて示すことで、住民の理解が深まったという報告もあります。社内でも、ベテランの技術者が点群画面を見ながら若手に施工手順を指導するなど、新しい研修スタイルが模索されています。点群データは「バーチャル現場見学」ツールにもなり得るのです。

まとめ

点群管理の基礎知識として、データとは何かからファイル形式、クラウド活用まで一通り解説しました。ポイントを振り返ると以下のようになります。

• 点群データの基礎: 無数の点で空間を再現した3Dデータで、測量・施工管理・維持管理など幅広く活用が進んでいる。従来の2D図面では得られない直感的な現場把握や精密な体積計算などが可能。

• 主なファイル形式: 標準的なLAS、圧縮版のLAZ、オープンなE57形式が三本柱。LAZで容量削減、E57で他社機器との互換性確保など、用途に応じて使い分ける。

• 容量と圧縮: 点群は大量の点ゆえファイルが巨大になりがち（数百万点で100MB超えも普通）。LAZ圧縮や不要点の間引きでデータ軽量化を図ることが重要。

• クラウド運用の利点: ブラウザで大容量点群を閲覧・共有でき、現場と事務所・発注者間のスムーズな情報共有が可能。専用ソフトや高性能PCが不要になり業務効率アップ。

• クラウド利用時の注意: ネット回線の帯域確保、アクセス権限の適切管理、そしてライセンス費用・ストレージコストの把握が肝要。セキュリティと利便性のバランスを考えて導入する。

初めて点群データを扱う方は、まず本記事の内容を踏まえ、自社でできる範囲から少しずつ取り入れてみてください。最初は小さな現場の点群を試しに処理し、クラウドで共有してみるとイメージが掴めるでしょう。点群管理は奥深い分野ですが、基本を押さえれば決して難しくありません。本記事がその第一歩としてお役に立てば幸いです。現場のデジタル化を推進し、効率的で分かりやすい情報共有に点群データをぜひ活用してみてください。これからの建設ICTにおいて、点群管理の知識は必ずや現場の大きな武器となるでしょう。