点群データとは何か?
 *点群データのイメージ図(無数の点で空間を表現した様子)* 点群データ(ポイントクラウド)とは、現実の物体や地形の形状を無数の点の集まりで表現した三次元データのことです。各点には位置を示す3次元座標値(X,Y,Z)が記録され、点によっては色(RGB)や強度などの情報も含まれます。例えば建物や地形を点群データ化すると、その表面上にある何百万もの測定点がコンピュータ上に再現され、まるで写真のように立体的な点の集合体として表示されます。密度の高い点群ほど細部まで表現でき、点の色情報も持たせれば実物そっくりの3Dの風景が点の集まりで描かれるイメージです。
ポ イントは、点群データそれ自体が精密な測量データであるということです。写真は見た目はリアルでも距離や高さなどの寸法は測れませんし、平面図や断面図は人手で測った一部の数値から作られた概略図に過ぎません。しかし点群データの場合、取得した無数の点それぞれに実空間の座標(位置)と場合によっては色が紐付いているため、対象物の形状や大きさをそのまま詳細にデジタル記録できます。言い換えれば、現実の形を丸ごとコピーしてデジタル保存できるのが点群データの強みです。従来は測量士が現場で一点一点を計測して図面化していたものも、点群技術を使えば短時間で広範囲を一括して立体計測でき、後から必要な寸法をソフト上で測ったり設計図を起こしたりすることも容易です。このような迅速さと正確さから、土木・建設業界でも国土交通省主導の「i-Construction」施策を追い風に、測量・設計・施工管理・維持管理まで点群データの3D活用が急速に広がっています。
点群で何ができるのか?
点群データを活用すると、従来の2次元図面や写真では難しかったさまざまなことが可能になります。その主な活用例を挙げてみましょう。
• 施工前後の比較・出来高管理:工事前と工事後の地形をそれぞれ点群計測して重ね合わせれば、盛土や掘削の体積(土量)を自動で算出できます。これにより出来高報告書用の数量計算が格段に効率化します。また、施工後の出来形管理(※)にも点群が有効です。出来形管理用に取得した点群データを設計時の3Dデータと重ねてCIMモデル化すれば、発注者との合意形成や出来形検査の事前協議にも活用できます。例えば大型のコンクリート構造物では、コンクリート打設後に点群を取得して設計モデル(BIMデータ)と重ね合わせることで、出来上がった構造物の位置や形状が図面どおりかすぐに確認できます。もしズレや不足があれば早期に発見して補修できるため、手戻りの防止や品質確保につながります。このように点群データで施工中・施工後の形状を記録・照合することで、出来高管理や品質管理が効率化されます。
• 正確な3Dモデル化・現況把握:点群データは非常に情報量が多く精密なので、後から必要に応じて詳細な3Dモデルや断面図を作成することも可能です。たとえば完成した構造物全体を点群で丸ごと記録しておけば、将来になって図面が手元になくても正確な現況の3Dモデルを復元できます。これは将来の改修計画や維持管理にも役立ちます。また、橋梁やトンネル等では竣工時の点群データを保存しておき、定期点検時の新たな点群と比較することで経年変化や変位・劣化の検出も行われています。このように点群データは施工管理から維持管理、さらには将来の計画立案まで幅広く活用でき、現場のデジタルツイン(現実空間の双子となるデジタル模型)を実現する基盤技術としても注目されています。
• 数量算出・寸法計測:点群化されたデータ上では、あとから任意の2点間の距離を測ったり面積・体積を計算したりすることが自由にできます。現地で重労働だった土量算出も、点群データから必要断面ごとに自動集計できます。例えば毎週ドローンで土砂の山を点群計測すれば、ソフト上で盛土の体積を算出して工程ごとの進捗や搬出入量の管理に活かせます。人力では難しい複雑地形の体積や構造物の表面積なども、点群解析を使えば正確に割り出すことが可能です。
※出来形管理(できがたかんり)・・・施工後または施工途中の構造物や地形が設計どおりに出来ているかを確認・記録する工程のことです。公共工事では細かな基準に沿って厳密に実施される重要な施工管理業務の一つです。
点群データの取得方法
点群データはどのように取得するのでしょうか? 主な方法として、以下のような3次元計測手法が普及しています。
• 地上型3Dレーザースキャナー(TLS: Terrestrial Laser Scanner):三脚に据え付けたレーザースキャナーを360度回転させ、周囲の構造物や地形をレーザー光で測量します。反射したレーザーの飛行時間や位相差から各点までの距離を計測し、高密度の点群を取得できるのが特長です。ミリ単位の高精度計測が可能で、トンネル内や建物内部など近距離で高い精度が求められる測定に適しています。一方で一度にカバーできる範囲は限定的なので、広い現場を計測するには機器を据え直して複数回スキャンし点群同士を位置合わせする必要があります。機材は高価ですが、据置型ゆえ安定した精度で測定できる利点があります。
• ドローン(UAV)による写真測量またはレーザ測量:上空を飛行するドローンにカメラやレーザースキャナを搭載し、空から現場の3D測量を行う手法です。ドローンによる空中写真測量では、現場上空から多数の写真を撮影し、専用ソフトで写真を合成(フォトグラメトリ技術)して点群データ化します。比較的安価な機材で広範囲を一度に取得できますが、精度は数cm程度と言われ、より正確な位置合わせには既知点による補正(GCP設置)が必要です。一方、レーザースキャナ搭載ドローン(空中LiDAR)であれば上空から直接高密度の点群を取得でき、樹木に覆われた地表面の計測などにも有効です。山岳地や広大な敷地の測量など、地上から入りにくい広範囲の現況把握にドローン点群は威力を発揮します。
• 移動型マッピングシステム(MMS):車両にレーザースキャナーや360度カメラを搭載し、公道を走行しながら周囲の点群を取得するシステムです。道路やトンネルの形状計測、街路の資産管理などに利用されており、一度の走行で沿道の膨大な点群と位置座標、全方位画像を同時に記録できるのが特長です。国や自治体でもモバイルマッピングによるインフラ点検や道路台帳作成が進みつつあり、従来数十人日かかっていた道路調査・図面作成作業が約半分以下の時間で完了した事例もあります。
• 写真測量(フォトグラメトリ):通常のカメラで対象物を様々な角度から撮影し、複数の写真画像からソフトウェアで3D形状を復元する方法です。ドローン写真測量もこの一種ですが、地上から建物や構造物を撮影して点群化することも可能です。近年はAI技術の向上で写真からの点群生成精度も高まっており、文化財の記録や事故現場の再現など幅広い分野で活用されています。写真さえ撮れば後で点群化できる手軽さが魅力ですが、対象全体をぐるりと撮影する必要がある、ガラスや水面はうまく再現できない等の制約や精度限界もあります(必要に応じてレーザ計測と併用されています)。
• スマートフォンやハンディ型計測器の活用:最近では、特殊な高額機材がなくてもスマホで手軽に3Dスキャンする試みが注目されています。例えば近年発売のiPhoneやiPad Proの上位モデルにはLiDAR(ライト検出と測距)センサーが搭載されており、端末をかざしてかゆっくり動かすだけで周囲数メートルの点群を取得できます。専用のアプリを使えばスマホカメラで撮影した画像から点群生成(フォトグラメトリ)することもできます。スマホ単体のスキャン精度は2~5cm程度と言われ専門機には及びませんが、現場の現況記録や進捗確認には十分実用レベルです。実際、「スマホ測量」と呼ばれる手法が中小建設業者や測量初心者でも導入しやすい3D計測として期待されており、高価なレーザースキャナをいきなり購入しなくてもスマホ+安価な補助デバイスでセンチメートル級の測位精度を得る試みも登場しています。
以上のように取得手法はいくつもありますが、現場の規模や求める精度によって最適な方法を選ぶことが重要です。たとえば広範囲の地形測量にはドローン、細部精度が必要な構造物計測には地上レーザースキャナ、といった使い分けが考えられます。また最近では地上・空中の併用や、写真測量とレーザのデータ融合なども行われており、一長一短を補って効率良く点群を取得する工夫がされています。
現場での簡単な活用事例
実際の土木・建設現場で、点群データはどのように使われているのでしょうか。ここでは初心者にもイメージしやすい身近な活用事例をいくつか紹介します。
• 出来形・品質のチェック:前述の通り、点群計測は出来形管理や品質確認に大きな効果を発揮します。施工途中でコンクリートを打設したら、その都度点群を取得して設計データと重ね合わせ、仕上がりが図面どおりか即座に確認できます。トンネル掘削でも、掘削後に断面形状を点群で記録し所定の厚みが確保されているかチェックできます。不具合があれば早期に対処でき、後戻り工事を防ぐことができます。また、完成後の構造物について点群データからコンクリート表面のゆがみやひび割れを解析し、浮きや剥離の異常検知に役立てる研究も進んでいます。点群の高精度さを生かして品質管理を高度化・省力化する取り組みが各所で広がっています。
• 工事進捗の可視化・共有:点群データは工事の進み具合を立体的に記録・把握するのにも役立ちます。例えば土工事の現場では、工事中の現場を定期的にドローンやレーザースキャナでスキャンして点群化することで、時系列での地形変化や出来形の変遷を追跡できます。クラウド上に各段階の点群データを蓄積すれば、本社や遠隔地から即座に現場の3D状況を確認することも可能となり、施工管理や進捗確認をリアルタイムで遠隔実施することもできます。実際、清水建設の実証では現場の点群を取得して即座に本社共有し、離れた場所から進捗管理できるようになったケースも報告されています。このように点群データを使えば、施工状況を立体的かつ直感的に把握できるため、現場担当者とオフィス側で同じ情報を共有しながら意思決定できるメリットがあります。
• 関係者や住民への説明:点群データを元にした3DモデルやVR技術は、工事内容を分かりやすく伝えるコミュニケーション手段としても有効です。例えば完成予想の3Dモデルを点群と統合し、VRゴーグルでバーチャル施工現場を体験できる場を設ければ、発注者や地域住民も工事のイメージを直感的に掴むことができます。実際にある道路拡幅工事では、施工前に発注者向けのVR体験会が開かれ、参加者が仮想空間内を歩き回って工事計画の詳細を理解する試みが行われました。言葉や図面だけでは伝わりにくい工事内容も、VR上で体感すれば一目瞭然です。その結果、「安全対策や施工中の地域への影響まで含めて多角的に理解が深まった」と高い評価を得ています。さらに着工前の地元説明会でVRを活用することで、住民の方々にも工事の完成イメージを具体的に伝えられ、理解と協力を得やすくなる効果が期待されます。このように点群データから起こした3DモデルやVR・AR技術を使えば、専門外の人にも工事内容をビジュアルに説明でき、合意形成や周知活動の強力な助けとなります。
• 施工計画のシミュレーション:3次元の現況点群データ上で重機の動きをシミュレーションしたり、仮設構台や重機ヤードの配置計画を立案したりする活用も進んでいます。現場を丸ごとデジタル化した点群モデル上であれば、重機が通れる経路の確認やクレーン作業の死角チェックなども事前に行うことができます。例えば、ある橋梁工事では点群モデル上で施工ステップのアニメーションを作成し、工事手順の検討や関係者間の打合せに活用した例があります。仮想空間で計画を検証することで、安全性の確認や工程の最適化が図れ、着工後のトラブルを未然に防ぐことができます。点群データはこうした施工BIMやCIM(施工段階での3D活用)の土台データとしても重宝されています。
導入に必要な機材・コストと始め方
最後に、点群活用を始めるにあたって必要な機材やコスト、導入のステップについて解説します。高度な3D計測というと「莫大な初期投資が必要では?」と不安になるかもしれませんが、工夫次第でスモールスタートも可能です。
● 必要な機材とおおよその初期投資:導入形態によって費用は大きく異なります。高精度な地上型レーザースキャナー(TLS)は本体価格が700~1000万円程度と非常に高価ですが、一方でドローン写真測量用の機材一式であれば数十万円台(例:70万円前後)から導入できます。レーザ搭載型ドローンでも約400万円程度とTLSよりは抑えられます。さらに最近注目のスマホ測量であれば、手持ちのスマートフォンと数万円程度のアプリ・補助機器があれば始められるため初期投資はほとんど不要と言えま す。例えばiPhoneのLiDARで簡易点群を取得し、必要に応じて後処理ソフト(月額利用も可)で解析するといった方法なら、100万円以下の予算でも十分可能です。加えて、点群処理用のパソコン(高性能なGPU・大容量メモリ搭載が望ましい)も必要ですが、こちらも既存の社内PCを増設・流用できれば新規コストを抑えられます。
● スモールスタートと外部活用:はじめから高額な機材を購入するのが難しい場合、レンタルや外注サービスの活用も有効な手段です。3Dレーザースキャナーや測量ドローンはレンタル会社から日単位で借りることができ、試験的に使ってみて効果を確認することができます。また、専門の測量会社に点群計測そのものを依頼する方法もあります。例えば年に数回だけ点群計測が必要、といった場合は外注した方がコスト効率が良いでしょう。最近では点群データ処理に特化したクラウドサービス(例:クラウド上に写真をアップすると点群化してくれるサービスや、点群の自動解析サービス)も登場しており、ソフトウェアを自前で持たなくても利用料のみで必要なときだけ使うこともできます。このように購入・自社完結にこだわらず、段階的に外部リソースも活用しながら導入するのが賢明です。
● 導入・運用のポイント:初心者が点群活用を軌道に乗せるには、社内の理解とスキル習得も大切です。まずは小規模な現場や社内研修で試験的に使ってみて、効果を数字で示すとともに現場スタッフの抵抗感を減らすようにしましょう。また、機材の操作研修やデータ処理のトレーニングも必要です。幸い最近はメーカーやソフト提供各社がオンライン講習やサポート情報を充実させていますし、国交省や各都道府県もICT活用工事の事例集やガイドブックを公開しています。それらを参考に基本手順や注意点を学びつつ、小さな成功体験を重ねて社内ノウハウを蓄積することが肝心です。点群データは一度使いこなせれば現場の生産性向上に大きく寄与する技術ですので、無理のない範囲からぜひチャレンジしてみてください。きっと「これなら現場で使える!」という実感を得られるはずです。(※)各種参考資料や事例は国土交通省のウェブサイト等に多数掲載されています。
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