i-Construction 2.0の定義と目的
i-Construction 2.0は、国土交通省が2024年4月に策定した建設現場の生産性向上策で、建設現場のデジタル化・オートメーション化を通じて働き方改革と生産性1.5倍(2040年度までに3割の省人化)を目指す取り組みです。少子高齢化による建設業の人手不足に対応するため、生産年齢人口が2040年までに約2割減少する見込みという背景もあります。そのため限られた人数でも安全かつ快適に働ける現場を実現 することが目的です。
この施策では建設プロセス全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、現場作業の大幅な省力化・効率化を図ります。具体的な柱として 「施工のオートメーション化」(建機の自動・遠隔施工など)、「データ連携のオートメーション化」(BIM/CIM等による情報共有の自動化)、「施工管理のオートメーション化」(検査の遠隔化や管理業務の自動化)の3本が掲げられています。これらにより、一人ひとりの生産性を高め、少人数でも高品質なインフラ整備を持続できるようにする狙いです。
i-Construction 1.0からの進化点
従来の*i-Construction*(いわゆる「1.0」)は2016年度に開始され、主にICT建機の導入や測量・設計データのデジタル化によって建設生産性20%向上(2025年までに)を目標としていました。実際、この第一世代の取り組みではドローン空撮による3D測量やマシンガイダンス機能付き建機などが普及し、2022年度時点で国交省直轄工事の87%がICT活用工事となり、 生産性も約21%向上する成果を上げています。当初目標の20%向上を前倒しで達成したことで、さらなる抜本的改革への下地ができました。
i-Construction 2.0はこの成果を踏まえて取り組みを深化させたものです。1.0がICT活用による部分的な効率化(測量の省力化や施工機械の高度化など)が中心だったのに対し、2.0では建設プロジェクト全体を貫くデジタル施工と情報統合に重点を置いています。例えば、従来は設計図面と施工管理が別々のデータで運用されることも多かったところを、最初から3Dモデル(BIM/CIM)を契約図書として活用し、調査・設計から施工、検査・維持管理まで一貫してデジタルデータを連携させます。さらに建機の自動運転や現場管理のリモート化など現場業務そのものの自動化まで視野に入れている点が大きな進化です。要するに、i-Construction 2.0では「ICT建機による効率化」から「データ駆動型の施工プロセス全体最適」へと次元を上げ、真のDXによる生産性向上を図っているのです。
点群データの役割と重要性
i-Construction 2.0を支えるキーテクノロジーの一つが点群データの活用です。点群(ポイントクラウド)とは、レーザースキャナーや写真測量によって得られる無数の測点から構成された3次元データで、現実世界の形状を高精度にデジタル記録できるものです。簡単に言えば、建物や地形を構成する表面を大量の点の集合体として丸ごとデジタルコピーする技術です。このデータがあれば、現場を細部まで3Dで再現し、後からソフト上で寸法を計測したり図面・モデルを作成したりすることも容易になります。
現況把握の場面では、ドローン空撮や地上レーザー計測により着工前の地形や構造物を点群化し、従来より短時間で詳細な地形モデルを取得できます。例えば、通常は人力で数日かかる測量作業が、ドローンを使えば数時間で完了するケースもあります。得られた高密度の点群から土量や面積を自動算出できるため、設計数量の精度向上にもつながります。
出来形管理(施工後の出来高・形状確認)の場面でも点群データは威力を発揮します。例えば完成した構造物を丸ごと点群で記録しておけば、仮に紙の図面が手元になくても、データから正確な断面図や3Dモデルを起こせます。これにより施工精度の確認や品質管理が効率化され、将来の改修計画立案にも役立ちます。従来は測定が難しかった複雑形状部分も点群なら非接触で網羅的に計測でき、ヒューマンエラーの低減と品質向上に寄与します。
さらに点群データは、現実空間の「双子」となるデジタルツインの基盤としても重要です。点群により現場の最新状況を逐次デジタルコピーしておくことで、施工中の進捗を仮想空間上で見える化したり、出来形と設計データとの差分をAIで自動検出したりといった応用も可能になります。例えば、施工前後の点群を比較して自動で盛土・切土量を算出したり、毎日の重機施工結果を点群でチェックして設計通り掘削できているか確認するといった次世代の施工管理が現実のものとなってきています。以上のように点群技術は、現況把握から出来形管理、そしてデジタルツインによる高度な現場管理まで、次世代施工管理を拓く鍵となるのです。
i-Construction 2.0を支える関連技術
i-Construction 2.0の実現には、点群以外にも様々な先端ICT技術が統合的に活用されます。ここでは主な関連技術とその役割をわかりやすく解説します。
• BIM/CIM(3次元モデルの原則適用): BIM(Building Information Modeling)/ CIM(Construction Information Modeling)は建築・土木の3D情報モデル手法です。国土交通省は2023年度から原則として全ての公共工事でBIM/CIMを導入し、平面図ではなく3Dモデルを契約図書として活用する方針を打ち出しました。これにより、設計段階から施工・維持管理まで一貫してデータ連携が可能になります。具体的には、3Dモデル上で構造物の形状決定や数量算出を行い、そのモデルを直接ICT建機に連携して自動施工したり、モデルに施工経過(4Dシミュレーション)を紐付けて工程を最適化したりします。将来的には2D図面は必要に応じてモデルから生成する形に移行し、全プロセスのデジタル一元化が進む見込みです。
• 遠隔臨場(リモート現場監督・検査): 建設現場で行われる発注者による立会検査や出来形確認を、オンラインで実 施する仕組みです。ウェアラブルカメラや360度カメラで撮影した現地映像・点群などを使い、発注者や監督職員が事務所にいながらリアルタイムで現場確認できます。国交省は2024年より直轄工事の検査に遠隔臨場を原則全面適用し、関連要領も策定しました。これにより、検査のために人が現場へ赴く手間を削減しつつ、記録データによる客観的な品質確認が可能になります。遠隔臨場は移動時間の短縮だけでなく、感染症対策や働き方改革の観点からも注目され、今後地方自治体の工事検査などにも広がっていくでしょう。
• AIによる自動解析・検知: AI(人工知能)技術は、膨大な現場データの解析自動化に活用されます。例えば、コンクリート構造物の配筋検査では、現場で撮影した写真をAIで解析し、鉄筋の間隔や本数・径・かぶり厚さを自動計測して出来形を確認するシステムが本格運用されています。これにより人が一つひとつスケールで測っていた作業を省力化し、配筋検査にかかる時間を大幅短縮することができました。他にも、点群データや映像をAIが解析して工事の進捗を自動判定したり、出来形と設計モデルとの差異を自動検出したり、不良箇所(ひび割れや変形)を早期に発見する技術開発も進んでいます。AIは今後、膨大な現場DXデータの“目利き役”として、施工管理や保守点検の効率化・高 度化に一層貢献していくでしょう。
• 5G通信・クラウド活用: 現場とオフィス間で大量のデータをやり取りしたり、遠隔操作やリアルタイム共有を行うには、高速・大容量の通信インフラが不可欠です。そこで注目されるのが5G(第5世代移動通信)や通信衛星等を使った現場のネットワーク化です。5Gなら高解像度動画や点群データを遅延なく送受信できるため、遠隔地からの建機操作や現場ライブビューによる指示もスムーズになります。また、クラウドサービスを使って現場データを一元管理すれば、オフィスの設計者や発注者ともリアルタイムで情報共有が可能です。例えば、ドローンで撮った点群や写真をクラウドにアップロードし、関係者全員が最新の現況データを閲覧できるようにすれば、意思決定の迅速化と情報の透明性向上につながります。このように通信・クラウド技術は、i-Construction 2.0のデータ連携の土台として重要な役割を果たします。
• デジタルツイン: デジタルツインとは、現実の建設現場や構造物と連動した仮想空間上のコピー(双子)モデルのことです。上記のBIM/CIMや点群、IoTセンサーなどのデータを組み合わせることで、現場の状態をサイバー空間にリ アルタイムに再現できます。例えば工事中の構造物について、設計時の3Dモデルに現場で取得した点群や施工記録データを統合すれば、現在の施工進捗や出来形をデジタル空間で再現・シミュレーションできます。これにより、仮想空間上で施工手順の検証(施工シミュレーションによる工程最適化)や、完成後の維持管理計画の予測、災害時の影響シミュレーションなどが可能になります。デジタルツインの利点は、現実の試行錯誤を最小限に抑えつつ最適解を導き出せる点や、遠隔地からでも現場の状況を把握・指示できる点です。i-Construction 2.0により蓄積された高精度な3Dデータ群は、このデジタルツイン実現の基盤となり、将来的には常時アップデートされる仮想現場で高度な施工管理を行う姿も期待されています。
実際の適用事例と導入効果
既に国内の多くの現場で、i-Constructionの考え方に基づくICT技術導入が進んでおり、その効果が現れています。ここでは具体的な事例と得られた成果をいくつか紹介します。
• 3D測量による作業時間短縮: 従来、山間部の測量などで は測量士を含む複数人が何日もかけて現地測量を行っていました。ところがUAV(ドローン)やMMS※を活用した3D測量を導入した現場では、野外での測量作業日数が従来の10日から0.5日(半日)に短縮された例があります。加えて事務所内での図面作成作業も10日から5日に減り、トータルの作業期間と手間を大幅に圧縮できました。(※MMS=モバイルマッピングシステム:車両搭載型レーザ計測)また別の現場では「通常10日間かかる施工前測量がドローンではわずか4時間で完了」という報告もあり、このように3次元測量技術は測量・計画工程を劇的に効率化しています。迅速に高精度データを得られることで、工期短縮だけでなく初期計画の精度向上や設計変更の減少といった波及効果も生まれています。
• ICT建機による施工の効率化・省人化: マシンガイダンスやマシンコントロール機能を備えたICT建機(ショベルやブルドーザなど)を導入すると、重機オペレーターの熟練度に左右されず正確な施工が可能になります。ある実験では、同じ掘削作業を通常施工とICT建機で比較したところ、直接施工時間が約43%短縮されました。加えて、ICT建機では丁張(位置・高さのための木杭)が不要となり測量の手間も削減、オペレーター1人で作業可能なため従来は必要だった2人の補助作業員も不要となり、実質的に人員を67%削減できたと報告されています。これは単一事例ですが、他の現場でも「バックホウのICT化で作業スピードが1.5倍になった」「従来3名体制の施工を1名でこなせた」等、大幅な省力化と生産性向上が数多く報告されています。人手不足で従来なら2班必要な工事を1班で回せるようになったケースもあり、企業にとっては人員配置の柔軟性が増すメリットも大きいです。
• デジタル施工管理による品質・安全向上: 点群や写真データを活用したデジタルな施工管理は、品質確認と安全性確保にも寄与しています。例えば前述のAIによる配筋検査を導入した現場では、鉄筋の本数や間隔のチェック作業がタブレット上で自動化され、配筋検査に要する時間を大幅短縮するとともに、見落とし防止や記録の一元化によって検査精度も向上しました。また遠隔臨場を活用した出来形検査では、検査員が高所や危険箇所に直接立ち入らずに確認できるため、安全性の向上と労働災害リスク低減にもつながっています。ドローンによる高所点検やレーザ計測による法面の変状検知など、人が危険を冒して行っていた作業をテクノロジーで代替する取り組みも進みつつあります。さらに、デー タ共有によって発注者・現場間の認識齟齬が減り、手戻りややり直しの減少(品質不良の未然防止)も報告されています。総じて、デジタル技術の導入は「早く・安く・安全に・高品質に」施工を進めることに直結しており、現場から経営まで多面的な効果が得られることが実証されています。
i-Construction 2.0導入ステップと成功のポイント
先進技術を現場に根付かせるには、段階的な導入と現場目線の工夫が重要です。ここでは、i-Construction 2.0を踏まえた導入のステップと、プロジェクトを成功させるためのポイントを解説します。
• ビジョンの共有と計画立案: まず経営層や管理者がi-Construction 2.0の目的(省人化・効率化による生産性向上)を正しく理解し、社内でビジョンを共有します。現場の課題と照らし合わせて「どの業務をデジタル化・自動化すべきか」を洗い出し、導入計画を立てましょう。国や自治体の施策・補助金情報も収集し、社内体制や予算の準備を行います。トップダウンでDX推進の意思を示すことがまず成功の第一歩です。
• 小規模な現場で試験導入: 初めての導入時には、リスクの低い小規模プロジェクトから着手するのが無難です。例えば、まずは造成工事の一部でドローン測量とICT建機を試してみる、といった具合にパイロットプロジェクトを設定します。小さな現場で運用方法や課題を現場スタッフとともに学び、うまくいけば徐々に適用範囲を拡大します。この段階で得られたフィードバックをもとにマニュアル整備や機材選定の見直しを行えば、本格導入の成功率が高まります。
• 必要機材・ソフトの準備と研修: デジタル施工には専門機材やソフトウェアが不可欠です。事前にドローンや3Dスキャナー、ICT建機、BIM対応ソフトなど必要なツールを揃えます(購入だけでなくレンタルや協力会社の活用も検討)。並行して操作研修や講習会を実施し、担当者が機材を使いこなせるようにします。社内に専門人材がいない場合はメーカーやサービス提供企業の支援を受けるのも有効です。人材育成と機材整備をセットで進めることで、現場へのスムーズな適用が可能になります。
• データ共有基盤の構築: i-Construction 2.0ではプロジェクトのあらゆるデータを一貫して活用すること が重要です。クラウド上に現場データ共有システムを整備し、測量データ・設計モデル・施工履歴・検査記録などを関係者全員がリアルタイムに閲覧できる環境を作りましょう。これにより、設計変更があれば即座に現場に通知される、現場で取得した点群や写真がすぐ本社・監督員と共有できる、といったメリットが生まれます。部門間・企業間でデータをシームレスに連携させ、情報のサイロ化を防ぐことが成功のポイントです。
• 現場スタッフへの浸透とフォロー: 新技術導入に際しては、現場オペレーターや作業員の理解・協力も不可欠です。従来のやり方に慣れたベテランにも、ICT導入による効率アップや安全性向上のメリットを丁寧に説明し、不安の解消に努めます。現場から改善提案や意見を吸い上げる姿勢も大切です。また、導入初期は専門スタッフやサポート要員を現場に配置して困りごとに即対応できるようフォローします。現場目線での伴走支援によって、技術が現場に定着しやすくなります。
• 効果の見える化と継続的改善: 導入後は、生産性指標(工期短縮率や省人化効果、出来形の品質指標など)を計測し、その成果を社内外に共有しまし ょう。例えば「ドローン導入で測量時間が○割短縮」「ICT施工で残業時間が○時間削減」など数値で示すと、現場のモチベーションアップや経営層の追加投資判断にもつながります。加えて、現場から上がった課題(例:機器間のデータ互換性問題や追加機能の要望)に対しては、ソフト更新や運用フロー改善などPDCAを回して継続的に改善します。技術は日進月歩ですので、最新の動向をキャッチアップしながら自社のDXレベルを段階的に引き上げていくことが肝要です。
以上のステップを踏むことで、現場・経営・行政が一体となった効果的なi-Construction 2.0の導入と活用が可能になります。ポイントは「焦らず段階を追って導入し、データと人の両面から現場改革を進めること」です。これにより、建設現場の次世代施工管理が実現し、将来的な担い手不足や働き方改革の課題にも対応できるでしょう。
最後に、i-Construction 2.0はゴールではなく手段です。重要なのはこの施策を通じて現場の生産性向上と働きやすい環境が実現し、ひいてはインフラ整備が持続可能になることです。ICTに不慣れな現場でも一歩ずつデジタル技術を取り入れ、点群データが拓く新たな施工管理の メリットを享受できるよう、できるところからぜひ取り組んでみてください。現場の未来は確実に明るく変わっていきます。
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