点群データとは何か?従来手法との違い
点群データとは、3次元空間上の無数の点の座標によって地形や構造物の形状を表現したデータです。レーザースキャナー(LiDAR)や写真測量によって短時間で高精度に取得でき、点の集合がコンピュータ上に現場そのものの立体画像のように再現されます。各点にはX・Y・Zの位置情報(場合によっては色情報も)を持ち、いわばデジタルな「現場の写し(デジタルツイン)」を作成できるのが特徴です。
従来の施工管理では、平面図や写真、あるいは限られた測量点による2次元的な情報で現場を把握していました。図面上では高さなどの立体情報が 断片的で、写真も限られた視点からの記録に過ぎません。人がメジャーやトランシットで一点一点寸法を測る手法では、膨大な手間と部分的なデータしか得られませんでした。これに対し点群データは、一度に広範囲の現況形状を高密度に記録でき、取得後に任意の箇所の距離・面積・体積・高さを自由に計測できます。情報量は桁違いに多く、必要な寸法を後からソフト上で測定したり、設計図・3Dモデルを作成したりすることも容易です。例えば、施工後の出来形管理(完成した構造物や地形の形状確認)でも、完成した盛土や造成地形を点群データで丸ごと記録しておけば、図面がなくとも正確な3Dモデルや断面図を作成でき、品質管理や将来の改修計画に役立ちます。つまり点群によって、これまで2次元情報では見えなかった現場の全貌を“見える化”し、データとして蓄積できるのです。
点群で広がる施工管理の活用領域
点群データの導入により、施工管理のさまざまな業務が変革を遂げつつあります。現場目線で、特に次のような領域で活用が広がっています。
• 測量・出来形管理への活用: ドローン(UAV)や地上レーザースキャナーによる点群計測は、従来法に比べて大幅な省力化を実現します。例えば大林組の造成現場では、これまで4人で7日間(28人工)かかっていた土量測定を、UAV空撮写真から生成した点群データを用いることで2人で1日(2人工)に短縮できました。点群上で盛土量や掘削量を即座に算出できるため、土工管理の効率が飛躍的に向上しています。また、出来形管理では完成形状を点群で記録し、設計モデルとの比較検証や納品書類の作成にも応用されています。人力では計測困難な岩盤や法面形状も含め、現地そのままをデータ化して品質確認できる点で、従来の写真や断面図より信頼性の高い出来形管理が可能です。
• 進捗確認・遠隔施工管理への活用: 点群データは現場の進捗を立体的に可視化し、関係者全員で共有するのに役立ちます。清水建設では地下駅工事において、スマートフォン搭載のLiDARで取得した現場点群をクラウド上の管理プラットフォーム(Autodesk BIM 360 Docs)で設計BIMモデルと共有し、“現場に行かない施工管理”を実現しました。点群と360度写真により、本社にいながら現場の状況把握や出来形チェックを 行うことができ、現場巡回の往復4時間の移動が30分のオンライン確認で済むようになったといいます。点群データはオンライン会議でも立体形状が一目で把握でき、必要に応じてクラウド上で寸法計測も可能です。設計の3Dモデル(BIM/CIM)と現況点群を重ね合わせれば、施工済箇所と未施工箇所が直感的に比較でき、工程ごとの進捗率確認や残工事のシミュレーションにも役立っています。このように点群を活用することで、現場の進捗管理とリモート監督が高度化し、離れた場所からでもタイムリーな意思決定が可能となっています。
• 安全管理への応用: 点群計測は危険箇所の把握や、安全対策にも貢献します。人が立ち入るのが危険な急斜面やトンネル内部も、遠隔操作のドローンや地上LiDARで非接触に計測でき、作業員の負担軽減と安全確保につながります。また取得した高精度3Dデータを解析すれば、崩壊の兆候がないか変位をモニタリングするといった予防保全も可能です。前田建設では独自の工事安全打合せシステムと点群データを連携し、現場の立体情報を共有しながら効果的な安全管理を実践しています。さらに清水建設の事例のように、点群や360度映像によるリモート巡視を取り入れることで、現場に赴く回数自体を減らしつつ安全指摘事項の早期発 見・是正が図れるようになっています。点群データの活用は、安全管理においても新たな可能性を切り拓いていると言えるでしょう。
点群導入による効果とメリット
点群を施工管理に導入すると、具体的にどんなメリットが得られるのでしょうか。現場から報告されている主な効果を整理します。
• 現場の可視化と情報共有: 点群データによって現場の状況がリアルな3Dで再現されるため、ベテランから若手まで共通のイメージを持ちやすくなります。図面や写真だけでは伝わりにくかった空間的な理解が深まり、発注者や協力会社とのコミュニケーションも円滑になります。クラウドを介して複数拠点でデータを共有すれば、誰もが最新の現場全体像を確認でき、意思疎通のロスが減ります。これは品質・安全に関わる認識合わせにも有効で、組織全体で現場を“見える化”する効果は大きいです。
• 測量・施工管 理業務の効率化: 点群導入による省力化・時間短縮の効果は顕著です。前述のように土量計算に費やす時間が従来比で1/10以下になったケースや、3次元計測から図面作成までのリードタイムを90%削減した例もあります。繰り返し行われる出来形測定や現況確認も、一度点群を取得しておけば追加の測量に出る手間が減り、「撮るだけ」で現場データ収集が完結します。これにより施工管理技術者はより付加価値の高い業務に時間を割けるようになり、生産性向上につながります。
• 品質・精度の向上: 点群は非常に高密度な測定データであり、人力では見落としていた細部まで記録できます。取得した点群から必要な寸法を後から何度でも測り直せるため、測り漏れや記録ミスがなく、出来形の確認精度が上がります。また、設計モデルとの整合チェックを点群上で行えば、出来高不足や施工誤差を早期に検知して是正できるため、結果として品質保証の水準が高まります。従来は平面図と現場を見比べていた検査も、点群とBIM/CIMモデルの重ね合わせで自動照合するようになれば、ヒューマンエラーの低減と品質管理の効率化が同時に図れます。正確なデータに基づく施工は手戻り削減やクレーム防止にも寄与すると期待されています。
• 遠隔管理・安全性の向上: 点群活用により、オフィスから現場を把握して指示を出す遠隔施工管理が現実味を帯びてきました。これにより現場への移動時間や人員を削減でき、長距離移動や長時間労働の負担軽減、ひいては働き方改革にもつながります。遠隔で複数の現場を管理できれば、限られた人員で多くの現場を掛け持ちすることも可能となり、人手不足対策にも効果的です。安全面でも、危険個所をリモート計測してリスクを事前に察知したり、災害時に被害状況の点群を即座に取得して対策を検討したりと、迅速かつ安全な対応ができます。結果として「現場に行かずに現場を管理する」スタイルが現実のものとなりつつあり、これまでの常識にとらわれない柔軟な働き方・安全管理が実現されています。
国内における導入事例あれこれ
日本の建設業界でも、点群技術の活用が徐々に広がりを見せています。ここでは大手ゼネコンから地方自治体、中小企業まで、代表的な事例をいくつか紹介します。
大林組(ゼネコン大手) – 早くからCIM(Construction Information Modeling)に注力してきた同社は、造成工事でドローン空撮写真から3D点群を作成し、専用ソフト「TREND-POINT」による土量計算を現場で実践しました。その結果、従来は測量チームが一週間かけていた土量算出が、現場技術者2名・1日で完了するようになり「28人工が2人工」に大幅削減。3次元CADを使わず誰でも点群データから地形モデルや体積算出ができるワークフローを確立し、「施工の効率化」「工期短縮とコスト削減」というCIMの狙いを現実のものにしています。現場技術者全員が3Dを使いこなせる環境を整備した点で、ICT施工の先進的な成功例と言えます。
清水建設(ゼネコン大手) – 首都圏の大型地下駅工事において、iPhoneのLiDARで取得した点群や360°カメラ画像、BIMモデルをクラウド上で共有し、リモート施工管理を実現しました。本社からVRゴーグルを通じて現場空間を確認しながら打合せを行うなど、 点群データを日常的に活用したオンライン協働に取り組んでいます。この一連の施策は国土交通省の「i-Construction大賞(2021年度)」を受賞し、現場に行かずに品質・安全を確保する新たな管理手法として高く評価されました。同現場では点群計測からクラウド共有までの時間を従来比で90%削減し、8倍もの生産性向上を達成したとも報告されています。清水建設の事例は、大手ならではの先進技術の総合活用で施工管理を変革した好例です。
静岡県(地方自治体) – 国のi-Construction施策を受け、静岡県は土木工事の発注において3次元データ活用を積極推進しています。平成28年度よりICT活用工事を試行し、完成図書として3次元点群データの納品を求める仕組みを導入しました。従来の紙の完成図に代わり、工事完成時にもう一度現場全体を3次元計測し、その点群データを納品させることで、出来形管理とは別に精密なデジタル記録を蓄積しています。さらに取得データは将来的に社会インフラとして幅広く活用できるよう、オープンデータとして一般公開し始めました。例えば自治体保有の道路点群を、自動運転技術の実証に提供するなど他分野への展開も図っています。このように地方自治体でも点群を公共資産データとして位置付け、維持管理や地域課題の解決に活かそうという動きが出てきました。
石井建材株式会社(中小建設企業) – 従業員64名ほどの地域建設会社である同社は、若手技術者主体でBIM/CIMや点群活用に挑戦し注目されています。小規模工事でも効率良く現況を把握するため、iPadと簡易3Dスキャンアプリ「快測Scan」等を導入し、従来は地上型レーザースキャナー(TLS)が必要だった測量を手軽に実施できるようにしました。取得した点群は自社設計の提案にも活用されています。例えば道路改良の案件で、点群化した現地形に対して張出歩道や排水路の設計案を3Dで重ね合わせ、出来上がりイメージを関係者と共有しながら計画を練りました。その結果、土工の影響範囲を直感的に示すなど分かりやすい提案が評価され、業界団体から表彰を受けています。この事例では、高額な機材がなくてもタブレット等で安価・迅速に3D現況測量を行い、中小企業なりにICT施工を実現した点が大きなポイントです。若手社員が最先端技術を使いこなすことで社内の意識改革にもつながり、人手不足や技術継承の課題に挑む好循環を生み出しています。
導入のハードルと克服策
便利な点群技術ですが、実際に導入する際にはいくつかのハードルも存在します。特に中小規模の企業では以下の「3つの壁」に直面しがちです。ここでは課題とその克服策を整理します。
• コスト面の壁: 高性能な3Dレーザースキャナーや専用ソフトは非常に高価で、これまで初期投資が数百万円〜数千万円にもなりました。例えば地上型レーザースキャナーは1台1,000万円前後にもなり、小規模工事ではとても採算が合いません。加えて点群処理ソフトのライセンスも数十万円、データ処理用の高性能PCも必要となる場合が多く、中小企業にとってコスト負担が大きいのが現実です。克服策: 近年、この状況は大きく変わりつつあります。安価なドローン測量機器や月額課金のクラウドサービスが登場し、「3D=高額」のイメージを覆し始めました。例えばオンライン点群処理サービス「ScanX」は月額3万円程度から利用可能で、専門知識がなくてもブラウザ上で点群データの編集や解析ができます。またスマートフォンやタブレットの上位モデルに搭載されたLiDARを使い、比較的安価なアプリや補助デバイスで点群計測を行う例 も増えました。こうした低コスト技術を活用すれば、従来なら二の足を踏んでいた企業でも導入しやすくなっています。
• 技術・ノウハウ面の壁: 「点群データの扱いは専門家でないと難しいのでは?」という先入観も普及を妨げる一因でした。確かに一昔前は、測量士やCADオペレータなど限られた人だけが扱う高度専門分野という位置づけで、現場の監督や技術者にはハードルが高かったのも事実です。データ量が膨大でPCが固まってしまう、ソフトの操作が複雑で使いこなせない、といった声もありました。克服策: こちらも近年は状況が改善しています。ソフトウェアのユーザーインターフェースが洗練され、直感的な操作で点群処理ができる製品が増えました。先述のスマホアプリ型計測では、写真を撮る感覚でスキャンできるため専門知識が不要で、現場作業員でも扱える設計になっています。「計測からクラウド共有までワンタッチ」「ボタン一つでBIMモデルと点群を重ねてチェック」など、各社のソリューションが使いやすさを競っています。また教育面でも、国や業界団体が研修会や事例集を通じてノウハウ普及を図っており、情報入手が容易になりました。社内に詳しい人がいなくても、外部のサポートやベンダーの協力を得ながら小さく始めて慣れていくことができる環境が整いつつあります。
• 人的リソース(時間・人手)の壁: 新しい技術を導入するには、学習や試行錯誤に割く時間と人員の余裕も必要です。しかし人手不足で日々の業務に追われる中小企業では、「新人に研修へ行かせるにも代わりがいない」「現場が詰まっていて新しい機械を試すヒマがない」という状況が往々にしてあります。専任のICT担当者を置ける大企業とは異なり、現場技術者が本業と並行して習得しなければならず負担が大きいことも障壁です。さらに経営層にとっても効果が見える前に人件費や時間を投下する決断は簡単ではなく、「導入しても持て余すのでは」と不安を抱くケースもあります。克服策: この壁を乗り越えるには、トップダウンとボトムアップ双方のアプローチが重要です。経営層がDXの必要性を正しく理解し戦略的な投資と位置付けること、そして現場側では若手を中心に小規模な案件からトライして成功体験を積むことが有効でしょう。幸い、先進事例から得られる定量的な効果データ(例えば「測量工数を○割削減」等)が増えてきたため、ビジネス上のメリットを説得材料にできます。限られた人数でも回せるようになるメリットを強調し、まずは手の空 く時期に簡単な計測から始めてみるのも一つです。最近のツールは自動化・省力化が進んでおり、一人でも短時間で結果を出せるケースが多くなりました。このように「やってみたら意外と簡単だった」という成功体験が社内に生まれれば、点群活用は無理なく日常業務に溶け込んでいくでしょう。
国のi-Construction政策と今後の展望
国土交通省が提唱する「i-Construction」は、まさにこの点群技術を含むICT活用によって建設生産プロセス全体の生産性向上を目指す政策です。2016年のスタート以来、測量から設計・施工・維持管理まで3次元データを活用する取り組みが推進されており、直轄工事ではICT施工(3D測量やマシンガイダンス等)の活用が続々と標準化されつつあります。その結果、国や大手が主導する大型プロジェクトだけでなく、中小規模の工事においても発注者から3Dデータ提出や活用提案を求められる場面が増えてきました。実際、国交省直轄工事を受注するAランク・Bランク企業(大~準大手)の9割以上はICT施工の経験がある一方、地域の小規模企業ではまだ一部に留まっています。今後はi-Construction施策のもとで、中小企業への技術支援や安価なツール提供を進め、業界全体の底上げが図られていくでしょう。
こうした流れの中で登場したのが、デジタルツインやメタバースといった次世代の現場管理手法です。上図は清水建設が導入したVRシステムによる施工検討の様子ですが、点群データで再現した実際の現場空間に複数人が集い、遠隔から没入型で打合せを行っています。安藤ハザマなど他の大手も、点群をベースに仮想空間上で現場の変化を3次元的に捉え、工程データと連動させて進捗を見える化・予測するようなデジタルプラットフォーム開発を進めています。将来的には、取得した点群データにAIが自動で異常検知したり、施工の出来高を自動判定してレポートを作成したりすることも現実になるかもしれません。まさに「点群で現場が動き出す」時代が目前まで来ているのです。
今や点群データは、単なる測量の産物ではなく、施工管理の新たなスタンダードとなりつつあります。現場をまるごとデジタル化して利活用することで、熟練者の経験や勘に頼っていた部分をデータに基づく科学的な管理へとシフトできるでしょう。可視化・省力化・遠隔化というキーワードのもと、生産性向上と働き方改革、安全品 質の確保を同時に実現する点群活用は、建設業界の未来に向けた大きな武器となるはずです。技術の進歩とともに誰もが当たり前に3Dデータを使いこなす日も近く、「点群で現場を見て測って動かす」新時代が本格的に幕を開けようとしています。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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