近年、土木施工の現場で3D点群データの活用が急速に広がっています。国土交通省による i-Construction 推進を背景に、ドローンやレーザースキャナーを用いた3次元測量が普及し、現場の出来形管理や測量に点群を取り入れる動きが一般化しつつあります。さらに2022年度からは、小規模な現場でも iPhoneのLiDAR(光学式3Dスキャナー)を出来形管理に正式活用できるよう検討・整備が進められ、実際に現場で使われ始めました。また最近では、スマートフォンやタブレットで手軽に高精度な点群計測が可能なアプリやデバイスも登場し、従来は専門技術者や高額機器が必要だった3D測量が身近なものになりつつあります。
しかし、せっかく取得した点群データも「測っただけ」で終わってしまっては宝の持ち腐れです。現場では「とりあえず点群を計測してみたものの、後の業務に活かせていない」「データをファイルで保存しただけで共有もされず放置されている」といった声がよく聞かれます。膨大な点群データは扱いが難しく、共有や管理のハードルも高いために、現場での利活用が進まないケースが少なくありません。本記事では、このような「計測して終わり」になりがちな点群データを、日々の現場業務で“使い続ける”ための仕組みと活用設計について解説します。スマホで手軽に点群計測ができる時代に対応した、無理なく続けられる活用スタイルを現場目線で提案し、最後にその具体的なソリューションの一つである LRTK についても紹介します。
点群データが“使われない”原因とは?
まずは、点群データが現場で十分に活用されていない原因を整理してみましょう。導入当初は新技術として期待された点群測量も、現場で定着しない背景には次のような課題があります。
• データが重く扱いにくい: 点群は高精細な3D情報ゆえにファイルサイズが非常に大きくなりがちです。一つの現場をスキャンしただけで数百MB〜数GBになることも珍しくなく、通常のパソコンでは開くだけでも時間がかかります。専用の高性能PCやソフトウェアが必要になる場合も多く、結果として「現場事務所の担当者しかデータを見られない」「社内で簡単に共有できない」という状況に陥りがちです。
• 活用フローが描けていない: 点群計測を実験的にやってみたものの、業務フローに組み込む設計がないために、その後の活用シナリオが不明瞭なケースがあります。日々の業務のどのタイミングで点群を使うのか、誰が何を判断するために見るのか、といった活用計画がないと、せっかくのデータも宝の持ち腐れです。計測担当者以外は点群の存在すら知らず、結局これまで通り写真と紙の記録で済ませてしまう…という事態にもなりかねません。
• 即座に使える形になっていない: 点群データは取得したままでは生の測量データです。そのままでは図面や報告書に直接載せることが難しく、CAD図面への変換やモデル化などの追加処理が必要になる場合があります。こうした 成果物への落とし込み に手間がかかると、結局従来の手法(手測りの数値や写真)に頼ってしまい、点群は「後でゆっくり解析しよう」と後回しにされてしまいます。最終的に解析されずじまいで終われば、本末転倒です。
このように、「データ共有の難しさ」「業務フローへの未統合」「成果物への直結不足」という三重苦が、点群の現場活用を阻む主な要因と言えます。では、これらを克服し点群を “使い続ける” ためには具体的にどうすれば良いでしょうか。ポイントとなるのは次章で述べる三つの視点からの活用設計です。
“使い続ける”ための3つの視点
点群データを一過性の記録で終わらせず、継続的に活用していくには、(1)業務フローへの組み込み、(2)データ共有の促進、(3)成果物への直結という三つの視点で仕組みを整えることが重要です。
1. 業務フローに組み込む
新しい技術も、日々の業務サイクルに溶け込まなければ現場に定着しません。点群計測を特別なイベントや専門担当者だけの作業にせず、ルーチンワークの一部に取り入れる発想が大切です。具体的には、「毎日夕方に施工エリアをスキャンして進捗を記録する」「コンクリート打設前後に必ず点群で形状を確認する」といったルールを決め、通常の写真撮影や測量チェックと同様に習慣化します。近年はスマートフォンで誰でも簡単に点群計測が行えるようになりつつあるため、従来は2人がかりだった測量作業も1人で完結可能となっています。例えば LRTK のような手のひらサイズのスマホ測量デバイスを使えば、現場技術者が一人で歩き回りながら周囲の点群を計測し、その場で設計データと比較して出来形を確認するといった使い方も可能です。このように、誰もが日常的に使えるツールを活用して測量作業のハードルを下げることで、点群を現場の当たり前のプロセスに組み込むことができます。
2. データをみんなで共有する
点群を活かす鍵の二つ目は、データ共有を円滑にする環境

