点群がここまで簡単に!導入で迷う理由がなくなる新常識

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近年、土木業界で「点群」という言葉を耳にする機会が飛躍的に増えました。かつては専門技術者だけの高度な領域だった3次元の点群データ取得・活用が、今や誰でも手軽に扱える時代になりつつあります。本記事では、点群とは何かという基礎から始め、なぜ今これほど注目されているのか、昔は難しかった理由と現在は簡単になった背景、実際に現場で活用している人々の事例、導入後に得られた効果、そして導入をためらう人が抱きがちな3つの不安とその解決策、さらに「今からでも遅くない」導入のために最低限必要な準備までを詳しく解説します。この記事を読み終える頃には、点群活用の新常識を理解し、導入に迷う理由がなくなっていることでしょう。
点群とは何か?初めての人にもわかりやすく
「点群(てんぐん)」とは、一言でいうと3次元空間上の多数の点の集まりです。各点は位置座標(X, Y, Z)を持ち、カラー写真を併用すれば色(R, G, B)の情報も含まれます。例えば地形や建物、構造物の表面をレーザースキャナーやカメラで計測すると、無数の点の集合体として形状を記録できます。得られた点の集まりをコンピューター上で表示すると、あたかも写真のように対象物の形が再現されますが、その実体は点の集合データです。
点群データの特徴は、対象物の形状をありのままに高密度な点で表現できることです。従来は測量士が特定の地点を一つひとつ計測して図面化していましたが、点群を使えば対象物全体を一度に面的に取得できます。例えばレーザースキャナーであれば短時間で広範囲に数百万以上もの測点を取得でき、複雑な地形や大規模構造物でも非接触で容易に形状を記録できます。このため土木・測量の分野のみならず、製造業や建築、防災、文化財の保存など幅広い領域で応用が広がっています。
では、なぜこれほど点群に注目が集まっているのでしょうか?次章ではその背景に迫ります。
なぜ点群に興味が集まっているのか?~DX時代の新たな武器~
1. デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進: 建設業界では深刻な人手不足や長時間労働、生産性停滞といった課題に直面しており、これを解決する切り札としてDXが推進されています。3D点群は建設DXを象徴する技術の一つで、業務効率化・省力化に直結する革新的なソリューションと期待されています。国土交通省も「i-Construction(アイ・コンストラクション)」と称してICT技術の現場導入を推進しており、その流れの中でドローンやモバイル端末を用いた点群計測が現場に浸透しつつあります。要するに、点群はデジタル時代の新たな武器として注目を浴びているのです。
2. 圧倒的な時間短縮と生産性向上: 点群計測最大のメリットは、従来に比べ測量・計測作業のスピードが飛躍的に向上することです。例えば、数ヘクタール規模の造成地を測量する場合、トータルステーションで約3日かかっていた作業が、地上型レーザースキャナーなら約2日、ドローン写真測量なら半日程度で完了したとの報告があります。実験ではドローン搭載レーザースキャナーで従来法の6分の1の時間で広範囲のデータ取得を終え、作業全体を半分以下に短縮できた例もあるほどです。これは人件費削減や工期短縮にも大きく寄与します。実際、従来は2人がかりで3時間かかった現場測量も、レーザースキャナーなら1人で済み作業時間が大幅短縮され、天候の影響も受けにくくなったとの声もあります。点群データ活用により、業務のスピーディー化・効率化が実現することは多くの事例で実証済みです。
3. 正確性・網羅性の向上: 点群は膨大な点で形状を捉えるため、従来の一部点の測量よりも精密で網羅的なデータ取得が可能です。例えば古いインフラ設備やプラント施設など、図面が存在しないものでも点群データから正確な3Dモデルを起こすことができます。取得した3Dデータから 必要に応じて2Dの平面図や断面図を自在に切り出せるため、設計や施工計画、維持管理にも役立ちます。いわばデジタルツインとして現場のありのままの姿を手に入れることができるのです。
4. 安全性の向上: 点群計測は非接触で行えるため、危険な箇所に人が立ち入らずに済むという利点もあります。高所や崩落の恐れがある場所でも、遠隔からレーザーや写真で計測できます。作業員の安全確保や、交通規制の短縮など副次的な効果も期待できます。
このように、DXによる業務改革や圧倒的な効率化・省力化、高精度化、安全性向上といった多くのメリットが点群に注目が集まる理由です。では、かつて点群が難しい専門領域だったのはなぜでしょうか?次で過去の状況を振り返ります。
昔は難しかった理由 – 高価な機器・複雑な操作の壁
点群技術が今ほど注目される以前、導入にはい くつものハードルがありました。かつて点群計測が難しかった主な理由を振り返ってみましょう。
• 専門機器が高価だった: 一昔前(10~20年前まで)、3Dレーザースキャナーなどの計測機器は非常に高額で、数百万円から数千万円するものも珍しくありませんでした。また高精度のGNSS(GPS)機器やソフトウェアも高価で、限られた大企業や専門業者しか導入できない状況でした。点群データ活用自体は昔から可能性が知られていたものの、機器やソフトが高価で手が出せないため一般には広まりにくかったのです。
• 高度な専門知識・スキルが必要: 以前は機器の操作やデータ処理に高度な専門知識が求められました。レーザースキャナーで取得した膨大な点群データを、専用ソフトで位置合わせ(レジストレーション)したりノイズ除去したりする作業は、経験の浅い人には容易ではありませんでした。また従来のCADに点群を取り込むとデータ量が重すぎて動作が極端に遅くなるなど、「点群データは扱いにくい」というイメージが定着していた時代もあります。
• 高性能コンピューター環境が必要: 大規模な点群を処理・編集するには当時の一般的なPCでは非力で、ハイスペックなワークステーションが必要でした。そのため扱うのに高性能PCが必要でコストがさらに嵩むという課題もありました。一部ではデータ容量の大きさゆえに保存や共有も大変だという声もあり、現場で活用するにはハードルが高かったのです。
• 運用面の整備不足: 過去には3D点群データを現場業務の中でどう扱うか、標準的なワークフローが確立していませんでした。発注者側の理解も追いつかず、「導入しても成果品として認められるのか?」という不安もあり、現場に根付くまで時間を要しました。
このように、「導入コスト」「技術的難易度」「環境整備」の面で昔は点群活用のハードルが高かったのです。しかし近年、これらのハードルは急速に低くなっています。次に「今はなぜ簡単になったのか」を見てみましょう。
今はなぜ簡単なのか?~スマホ、RTK小型化、クラウド、直感操作の進化~
技術の進歩により、点群活用は文字通り新常識になるほど簡単になってきました。その背景となる主な要因を解説します。
• 計測機器の低価格化・小型化: 前述の高価だった機器が、この10年ほどで一気に手の届く存在になりました。たとえば、市販のドローンに搭載できる小型レーザースキャナーや、高性能カメラによる写真測量ソリューションが続々登場し、機器価格も下がっています。またGNSSを使ったRTK測位(リアルタイムキネマティック)も、アンテナ一体型の小型受信機が普及し、安価にセンチメートル級の測位が可能になっています。従来は据置型で大掛かりだった装置が、今や片手で持てるサイズで持ち運び自在です。例えばレーザースキャナーも地上据置型・車載型・ドローン搭載型・手持ち型と選択肢が広がり、目的に応じて使い分けられるようになりました。機器の選択肢と価格面の敷居が下がったことは、誰もが導入しやすくなった大きな理由です。
• スマートフォンの活用と直感的な操作: 特筆すべきはスマホの活用です。2020年発売のiPhone 12 Pro以降にはLiDAR(ライダー)という3Dスキャナが標準搭載され、これにより点群計測のコストが大幅に低下しました。iPhoneを現場で活用する動きは爆発的に広がり、国交省のi-Constructionでも小規模現場の出来形管理に採用され始めています。スマホアプリを使えば、対象をなぞるようにスキャンするだけで点群データを取得でき、その操作はゲーム感覚と言っていいほど直感的です。例えば土木建設向けのスマホ測量アプリでは、iPhoneを持って現場を歩き回りながらスキャンするだけで高精度の3D測量ができ、測量資格や特別な経験がなくても扱え、長時間の研修も不要とされています。「スマホで測れるならやってみよう」と若手を中心に現場での試用が一気に広がったのです。直感的なUIのおかげで、専門知識のない人でも迷わず使えるよう設計されている点も大きな進歩です。
• クラウド&自動処理の活用: データ処理のハードルも劇的に下がりました。今や大量の点群データもクラウド上にアップロードして自動処 理するサービスが充実しています。写真から点群を生成するフォトグラメトリ(写真測量)ソフトも高性能化し、撮影画像をクラウドに投げれば自動で点群化・正確なオルソ画像生成まで行ってくれるケースもあります。重たいデータはクラウド上で管理し、現場ではタブレットでさっと閲覧できる環境も整いつつあります。例えば近年はタブレット端末でも快適に点群を表示・確認できるビューワーソフトが登場し、「点群データは重くて扱いにくい」というイメージは過去のものになりつつあります。
• ソフトウェアの進化と自動化: 点群処理ソフトも進歩し、ノイズ除去や点群同士の位置合わせもワンクリックでできるような自動化が進んでいます。国産ソフトも増え、たとえば福井コンピュータ社のTREND-POINTのように土木向けに特化した点群編集ソフトも普及しました。測量出身でない方でもマニュアルに沿って操作すれば、断面を切ったり体積計算をしたりといった処理がスムーズに行えます。メーカー各社もサポート体制を整え、講習会やオンサイトサポートも充実しているため、導入後すぐに使いこなせる環境が整っています。
以上のように、ハード ・ソフト両面での技術革新が「点群は難しい」という常識を過去のものにしました。今では「誰でも簡単に高精度な点群を取得できる」時代なのです。それでは実際に現場では誰がどのように使っているのか、次に見てみましょう。
誰が使っている?~初心者から若手技術者まで広がる活用事例~
点群活用のすそ野は急速に広がり、今では測量の専門家以外にも利用が広がっています。ここでは「誰が使っているのか」という視点で事例を紹介します。
● 現場の新人・若手技術者: これまで測量経験のない新人でも、3Dレーザースキャナーを現場で扱うケースが増えています。例えばとある測量会社では、「レーザースキャナーなら未経験の若手でも単独で扱え、データを取って来られる」といいます。最初は先輩が付き添い指導しますが、操作が簡単なので新人に任せやすいメリットがあるとのことです。実際に新人社員が1人で現場をスキャンし、取得した点群データを社内の詳しい者が処理するという流れで業務を回せているそうです 。「2人がかり3時間」が「1人で短時間」になり、先輩社員の負担も減ったといいます。このように若手が積極的に新技術を活用し、業務効率化の牽引役となっています。
● ベテラン技術者のサポートツールとして: 若手だけでなく、現場経験豊富なベテランも点群技術を新たな武器として使い始めています。熟練者ほど従来手法との比較でその効率の高さを実感し、「もっと早く導入すればよかった」と驚く声も多いです。ベテランが若手に操作方法を学び、一緒に現場で活用しているケースもあります。点群で取得した地形データを自分の経験と照らし合わせ、より的確な施工計画を立てるといった新しい活用法も生まれています。
● 中小規模の建設会社、測量会社: 大手ゼネコンだけでなく、中小の現場でも点群導入が進んでいます。例えばiPhoneと専用アプリを使った手軽な3D測量は、多数のゼネコンや中小建設会社で導入実績があります。特別な測量資格がない現場監督でも、iPhone 12 Pro以降の機種さえあれば