最近、測量の現場で「一人測量」というスタイルが注目を集めています。人手に頼らず、たった一人で測量作業を完結できるこの方法は、技術の進歩と現場の課題解決ニーズにより広がりつつあります。本記事では、一人測量の基本的な考え方や注目される背景から、必要な準備、具体的な“測る・記録・共有”の流れ、そしてメリット・デメリットまでを解説します。さらに、新しい測量ソリューションであるLRTKの技術的な概要と利点を初心者にも分かりやすく紹介し、一人測量による効率的な現場作業のはじめ方を具体的にご案内します。
一人測量が注目される背景
従来、測量と いえば複数人のチームで行うのが当たり前でした。典型的には1人が測量機器(トータルステーションなど)を操作し、もう1人がスタッフやプリズムを持って目標地点に立つ、といった役割分担が必要でした。しかし近年、人口減少や熟練測量技術者の不足といった課題に直面し、少ない人員で効率良く作業を行う必要性が高まっています。そのような状況で一人測量が脚光を浴びるようになりました。
一人測量が可能になった背景には、測量技術の大きな進歩があります。例えば、ロボティックトータルステーションの登場により、機器が自動でターゲットを追尾するため一人での測量が容易になりました。また、GNSS(GPSなどの衛星測位)技術の発達も見逃せません。特にRTK-GNSS(リアルタイムキネマティック測位)は、移動局と基準局のデータを組み合わせてリアルタイムにセンチメートル級の測位精度を実現する技術で、一人で高精度な位置測定が可能です。政府主導のi-Construction推進や建設業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れも後押しし、現場の測量作業をICTで効率化する動きが加速しています。こうした技術革新と業界のニーズの高まりにより、「一人でも正確に測れるならその方が良い」という考え方が普及し始めているのです。
一人測量に必要な準備(機材・アプリ・通信環境)
一人測量を実践するには、いくつかの機材と環境を整える必要があります。以下に基本的な準備項目を挙げます。
• 高精度測位が可能な測量機器:一人で測量するためには、簡単に持ち運べて高精度の位置情報を取得できる機器が不可欠です。代表的なものにRTK-GNSS受信機があります。例えばポケットサイズの高精度GNSSデバイスであるLRTKは、スマートフォンに取り付けて使用でき、一人測量を強力に支援します。
• スマートフォン・タブレットと専用アプリ:測位機器から得られるデータを表示・記録し、操作するための端末が必要です。一般的なスマートフォンやタブレットで構いません。LRTKの場合、専用のスマホアプリ(iOS/Android)が用意されており、測位の開始・停止やデータ保存、クラウド連携などをボタン一つで行えます。扱い慣れたスマホをコントローラーにできるので、特別な知識がなくても直感的に操作できます。
• 通信環境(ネット接続):RTK測位の精度を得るには、基準局からの補正情報をリアルタイムで受け取る必要があります。そのため、多くの場合は現場でインターネット接続(携帯電話の4G/5G回線など)が必要です。LRTKのような機器では、Ntripと呼ばれるネットワーク型のRTK補正サービスに対応しており、スマホ経由で補正データを取得できます。通信エリア外でインターネットが使えない場所では、準天頂衛星システム(QZSS)の提供する衛星補強信号を利用することで補正情報を得る仕組み(日本の準天頂衛星「みちびき」が提供するCLAS補強信号)にも対応しています。
• その他の準備:正確に測るための工夫として、機器を安定させる一脚やポール(三脚)などがあると便利です。例えばLRTKにはオプションのポールが用意されており、地面の特定ポイントにデバイスを当てて測定する際に役立ちます。また、長時間の作業に備えてスマホや測位機器の予備バッテリーを用意しておくと安心です。
“測る・記録・共有”ワンストップの流れ
一人測量では、「測る」「記録する」「共有する」までの一連の作業を一気通貫で行います。LRTKを活用した具体的な流れを見てみましょう。
• 測量準備:現場で測量を開始する前に、スマートフォンに測位デバイス(LRTK)を装着し、専用アプリを起動します。アプリ上で現在の測位モードや補正情報の受信状態を確認し、センチメートル級の精度(RTKのFIX解)が得られていることを確認します。
• ポイントの測定(測る):測りたい地点にデバイスを持って移動し、そのポイントでアプリの測定ボタンを押します。例えば地面のある位置を測る場合、ポールの石突きをその地点に当て、スマホ画面のボタンをタップするだけです。これでその瞬間の高精度な緯度・経度・高さのデータが取得されます。
• データの記録(記録する):測定ボタンを押すと、自動的に測位データがスマホ内に記録されます。記録には日時や測点番号、測位状態(例:固定解かフロート解か)なども含まれます。LRTKアプリでは、日本の 平面直角座標系への変換やジオイド高の自動計算も行われ、現場でそのまま実用的な座標値を得られます。必要に応じて測点に名前を付けたりメモを残したりすることもでき、紙の野帳がなくても詳細な記録管理が可能です。複数ポイントを連続して測る場合も、ボタン操作を繰り返すだけで次々とデータを蓄積できます。
• クラウドへの送信・共有(共有する):一定のポイントを測り終えたら、アプリからワンタップでデータをクラウドにアップロードできます。LRTKクラウドなどのWebサービスと連携しており、現場で取得した測位情報が即座にクラウド上の地図にプロットされます。オフィスにいる同僚や他の関係者も、ブラウザから最新の測量結果を確認できます。これにより、USBでデータを持ち帰ったり手書きメモを転記したりする手間なく、現場とオフィスで情報をシームレスに共有できるのです。
• データの活用:共有された測量データは、そのまま図面作成や体積計算、報告書作成などに活用できます。例えばクラウド上で2点間の距離や囲まれたエリアの面積を計測したり、点群データとしてダウンロードして設計ソフトに取り込んだりと、後工程への引き継ぎもスムーズです。現場で撮影した写真に高精度な位置情報を紐付けて保存しておけば、あとで写真と地点の情報をまとめて参照することもで きます。
このように、一人測量では測る→記録→共有の全てが現場で完結します。測った直後にデータ共有までできるため、測量後すぐに次の作業に移ることができ、全体のリードタイムが大幅に短縮されます。
一人測量のメリット
一人測量を導入することで、現場作業に様々な利点が生まれます。主なメリットを以下にまとめます。
• 省力化と人件費の削減:一人で測量が完結すれば、これまで2人以上必要だった作業を半分以下の人員でこなせます。人手不足の解消に役立つのはもちろん、人件費コストの圧縮にもつながります。
• 効率アップと迅速な対応:人手の調整を待つことなく、必要なときにすぐ測量ができるようになります。現場で「今すぐこのポイントを 測りたい」と思った時に、一人測量ならすぐに対応可能です。段取り待ちの時間が減り、全体の工期短縮や迅速な意思決定にも寄与します。
• 高精度なデータ取得:RTK-GNSSを使った測量により、従来の簡易なGPS測定より格段に精度の高いデータが得られます。センチメートル級の位置情報が即時に得られるため、出来形管理や設計との照合など精密さが要求される作業にも対応できます。
• リアルタイムな情報共有:クラウド連携によって、取得したデータをリアルタイムでオフィスや別の端末と共有できます。現場から戻る前に情報を共有できるため、その場で上長や同僚に確認を仰いだり、次の指示を仰いだりすることも可能です。コミュニケーションロスが減り、手戻りの防止にもつながります。
• 携帯性・手軽さ:LRTKのようなデバイスは小型軽量で持ち運びが容易なため、現場作業員が常に携行できます。ポケットに入れておき、必要な時にすぐ取り出して測れる手軽さは大きな魅力です。これにより、「ついで測量」が可能になり、後回しにしがちだった細かな測定作業もその場で片付けられます。
• 多機能な活用:一人測量用の最新機器は単に点を測るだけでなく、多彩な機能を備えています。例えばスマホのカメラやLiDARと組み合わせて周囲の点群(3次元データ)を取得したり、AR機能で図面上の計画線を現地に投影して位置出し(墨出し)に使ったりすることも可能です。一人で測量しながら同時に現場の記録や確認作業を行えるため、作業工程の重複を減らし効率化できます。
一人測量のデメリット・注意点
便利な一人測量にも、導入にあたって注意すべき点やデメリットがあります。以下に主要なポイントを挙げます。
• 測位環境への依存:高精度測位は衛星信号や通信環境に左右されます。ビルの陰や山間部などGNSSの電波が届きにくい場所では精度が出ない場合があります。また、通信圏外ではネットワーク型RTK補正が受けられません(LRTKでは衛星補強に対応していますが、地域や状況によっては限界があります)。作業前に測量エリアの環境を把握し、場合によっては従来手法も併用するなどの備えが必要です。
• 機器の電源管理・耐久性:一人測量ではスマホと測位機器にフルに依存するため、電池切れや機器不調が起きると作業が止まってしまいます。長時間の測量を行う際は予備バッテリーを携行し、事前に機器の充電を十分に行っておきましょう。雨天時の防水対策や炎天下での機器の過熱防止など、現場環境での機器管理にも注意が必要です。
• 初期投資と習熟:新しい測量機器やソフトウェアを導入するには、ある程度の初期コストがかかります。ただしLRTKのように従来の高価な測量機器と比べてリーズナブルな製品も登場しており、一人一台配備もしやすくなっています。また、便利な反面、最初は機器の使い方やデータの扱いに慣れる必要があります。導入時には試験運用期間を設け、十分に練習してから本番作業に使うと安心です。
• 安全管理:一人で作業が完結するからといって、安全面の配慮を疎かにしてはいけません。測量中は周囲の状況にも注意を払い、危険を伴う場所では必ず適切な安全策を講じましょう。一人作業だと万一の事故時に発見や救助が遅れるリスクもあります。事前に作業予定を他のスタッフと共有し、定期連絡を入れるなどの対策を取りつつ、 安全第一で進めることが大切です。
• 測量成果の確認:一人で全て行えるとはいえ、測量の結果精度やミスのチェック体制は確保すべきです。複数人での測量では互いに確認し合うことでエラーを防止していました。一人測量でも、例えば重要な基準点は念のため従来手法でも測定して照合する、データはクラウド上で上司にダブルチェックしてもらうなど、品質確保のプロセスを取り入れると安心です。
一人測量導入のステップと成功事例
実際に一人測量を導入する際の大まかな手順を押さえておきましょう。以下のステップで進めるとスムーズです。
• ニーズの確認と計画立案:まず、自社(自部署)の業務でどの場面に一人測量を活用できそうか洗い出します。人手不足の解消が急務の作業や、頻繁に発生している測量タスクをピックアップし、一人測量導入の優先度を考えます。

