はじめに:なぜ法面測量は危険作業なのか
法面(のりめん)とは、道路やダム、造成地などで人工的・自然的に形成された傾斜地のことです。こうした法面の形状を正確に測量することは、施工計画や出来形管理に欠かせません。しかし法面測量の現場は急斜面や不安定な地盤が多く、測量作業そのものが大きな危険を伴います。実際に、足場の悪い斜面で測量中に滑落したり、上部からの落石に巻き込まれたりする労働災害も発生しています。法面での高所・斜面作業は転落や崩落のリスクが常に隣り合わせであり、測量士にとって緊張を強いられる作業でした。
法面測量の危険性は、施工の各段階でつきまといます。施工前の現地調査では地形や地質を把握するため急斜面に踏み入る必要があり、施工中の出来形確認や完成後の検査でも、法面上での計測が求められる場面があります。つまり、施工前・施工中・完成後を通じて繰り返し法面に近づく必要が生じるのです。こうした作業をいかに安全に行うかは、長年の課題でした。
従来手法の課題:斜面侵入・高所作業・人員負荷
従来の法面測量では、測量スタッフが直接斜面に立ち入って計測を行うのが一般的でした。例えば、トータルステーションで法面上のポイントを測るには、プリズムを持った作業員が急斜面を登って設置箇所まで行かなければなりません。また巻尺やスタッフ(標尺)を使った高さ測定では、斜面に沿って人が移動しながら計測する必要があります。このように人が斜面に入って直接測る手法は、常に滑落や転倒のリスクと隣り合わせでした。
高所での作業を安全に行うために、従来は親綱(ライフライン)の設置や安全帯の着用など万全の対策が取られます。しかしどんなに注意しても危険がゼロになることはなく、特に斜面上での高所作業そのものを減らすことが根本的な解決策とされてきました。また、斜面測量は肉体的な負荷も大きく、人員を複数配置して交代で作業するなどの対応が必要でした。ベテラン測量士でなければ精度確保が難しい上に、作業に時間がかかり、人手不足の中で大きな負担となっていました。
さらに、従来手法では限られた点しか測れないため、得られるデータも断片的でした。法面全体の形状を把握するには多数の点を測る必要がありますが、危険と手間から最低限のサンプル測点で妥協せざるを得ない場合もありました。結果として見落としや計測誤差のリスクもあり、品質管理の面でも課題を残していたのです。
3D点群による「非接触×省人化」測量の登場
近年、ICT技術の発展により非接触で省人化を実現する新たな測量手法が登場しました。その中心にあるのが3D点群技術による計測です。点群とは、レーザースキャナーや写真測量によって取得される多数の3次元座標点の集合体で、対象物の形状を高精度にデジタル再現したものです。法面を点群化すれば、斜面全体の形状をコンピュータ上で再現でき、必要な寸法や勾配をあとから自在に計測できます。
3D点群測量の最大の特徴は、測量者が直接斜面に触れることなく遠隔からデータ収集できる点です。レーザー光や写真撮影を使って距離や形状を測定するため、危険な場所に人が立ち入らずに済みます。また、従来は数人がかりだった作業も機器操作主体に変わるため少人数での計測が可能です。まさに「非接触×省人化」を両立する画期的なソリューションとして注目されています。
国土交通省が推進するi-ConstructionやICT施工の流れもあり、現場への3D点群技術の導入が進んでいます。法面工事においても、起工測量や出来形管理へ3次元計測を活用する事例が増えてきました。従来法面に乗り込んで行っていた危険作業をデジタル技術で代替することで、安全性の飛躍的向上と作業効率化が実現できるのです。
手段別紹介:TLS・ドローン・スマホRTKスキャンの使い分け
一口に3D点群測量といっても、現場で利用できる手法はいくつかあります。代表的な地上型レーザースキャナー(TLS), ドローン空撮(写真測量), そして近年普及し始めたスマホRTKスキャンの3つについて、それぞれの特徴と使いどころを紹介します。
地上型レーザースキャナー(TLS)
TLS(Terrestrial Laser Scanner)は三脚据え置き型のレーザー計測機で、地上から直接対象物にレーザー光を照射し、高密度の点群データを取得します。TLSの強みはミリ単位の高精度で測距できることと、数十メートル〜数百メートル先まで測れる高い到達距離です。法面下部など安全な位置に機器を設置し、斜面全体をスキャンすれば、人が登らなくても詳細な地形データを得ることができます。
TLSは樹木や岩が多い法面でも、見通しの利く位置を数カ所設けてスキャンし複数の点群を合成することで、隠れた部分も含めたモデルを構築できます。実際、急傾斜地で総合的な計測が必要な場合に、ドローンでは樹林に阻まれる箇所をTLSで補完するという使い分け事例もあります。機器は大型で専門知識も要しますが、その分精度と信頼性が高く、法面形状の出来形確認などで活躍しています。
ドローン写真測量(UAV空撮)
ドローンを活用した写真測量は、上空から現場一帯を撮影して点群化する手法です。カメラ搭載のUAV(無人航空機)で法面を含む地形を空撮し、複数の写真からフォトグラメトリ技術で3Dモデルを生成します。ドローン測量の最大のメリットは、広範囲を短時間でカバーできる点です。人力では何日もかかる大規模な法面測量も、ドローンであれば短時間の飛行で全体の点群データを取得できます。
ドローン写真測量は測量者が斜面に立ち入る必要がなく、上空からの撮影で完全な非接触を実現します。高所の法面でも地上から見えにくい箇所を真上や斜め上から撮影できるため、複雑な地形も漏れなく記録できます。ただし、濃密な樹木に覆われた斜面では写真から地表面を抽出しづらく、TLSなど地上計測との併用が有効です。また、ドローンの飛行にはバッテリー残量や風などの条件も考慮する必要がありますが、条件が整えば非常に効率的かつ安全な測量手段となります。
スマホRTKスキャン(スマートフォン測量)
最近登場したスマホRTKスキャンは、スマートフォンに高精度GNSS(RTK)受信機を組み合わせて点群を取得する手法です。最新のiPhoneやiPadにはLiDARセンサ ーが搭載されており、これにRTKによるセンチメートル級測位を組み合わせることで、誰でも手軽に3D測量が可能になります。専用のスマホアプリを使い、現場を歩き回りながらスキャンするだけで、歩行経路の周囲をリアルタイムに点群化できるのが特長です。
スマホ+RTKの利点は、機動性と手軽さです。ポケットに入るスマホを使うため、重たい機材や特別な操縦技能が不要で、思い立ったときにすぐ測量できます。1人1台のスマホ測量機として活用でき、特に小規模な法面や細部の追加計測に威力を発揮します。RTKにより取得点群には常に高精度な位置座標が付与されるため、後処理での位置合わせもスムーズです。ドローンの飛行が難しい現場や、TLSを持ち込むほどではない簡易測量において、スマホスキャンは新たな選択肢となっています。
現場での安全効果:接触ゼロ・少人数化・無足場化
3D点群技術を活用した測量が現場にもたらす安全上の効果は計り知れません。ここでは特に重要な ポイントである「接触ゼロ」「少人数化」「無足場化」について整理します。
• 接触ゼロ:最大のメリットは、測量スタッフが危険箇所に立ち入らずに済むことです。レーザースキャンやドローン空撮によって斜面に触れることなくデータ取得できるため、滑落や崩壊のリスクを大幅に低減できます。人が近づけない崩落の恐れがある法面でも、遠隔計測なら安全に現況把握が可能です。測量そのものを非接触化することで、現場の労働災害リスクは飛躍的に下がります。
• 少人数化:従来は複数人が必要だった法面測量も、点群技術の活用で最小限の人数で実施できます。例えばドローン測量ならオペレーター1人と監視役1人程度で広範囲をカバーでき、TLSも1〜2名で操作・データ収集が可能です。人員を減らせることは、危険に晒される人数自体の削減につながります。また、少人数でも短時間で測量が完結するため、長時間にわたる高所作業をしなくて済み、作業者の肉体的・精神的負担も軽減されます。
• 無足場化:点群測量導入により、測量のためだけに足場を組んだり高所作業車を使ったりする必要がなくなる場合があります。従来は安全に斜面にアクセスするため仮設足場を設置したり、高所作業車で人をリフトアップして計測するケースもありました。これら足場架設作業自体にも事故のリスクが伴います。非接触測量に切り替えれば、そもそも足場や吊り下げ設備を設置する手間・リスクが省けます。現場準備が簡素化し、周辺への安全措置も減らせるため、トータルで安全水準が向上します。
このように、3D点群技術は「人が危険に晒される状況」を根本から無くし、測量作業の安心・安全を実現します。測量員自身が安全に業務を遂行できるだけでなく、周囲の作業員や第三者にとってもリスク低減となり、現場全体の安全管理に貢献するのです。
点群活用で帳票まで自動化:施工管理者の負担減少
3D点群を取得すると、その後のデータ処理や帳票作成も飛躍的に効率化されます。従来、法面の出来形を確認するには、現地で測った点を図面にプロットし、設計値との差を計算して報告書をまとめる必要がありました。点群データを活用すれば、こうした作業の多くをソフトウェアが自動化してくれます。
例えば、法面の仕上がり勾配をチェックする場合、点群から任意の断面線を切り出し、設計断面と重ねて差分を解析できます。何十点もの手測りデータでは困難だった面的な出来形評価が、一度のスキャンで可能になるのです。出来形管理用のソフト上では、点群と設計3Dモデルを比較して厚さ不足箇所を色分け表示したり、盛土・切土の体積を自動算出したりといった機能も充実しています。施工管理者は、点群が示す客観的なエビデンスをもとに品質を確認し、不具合があれば早期に対処できます。
帳票作成の面でも、点群技術は大きな助けになります。クラウド上で点群データを共有すれば、オフィスのPCで詳細解析や図面作成が可能です。現地で取得した膨大な点群から必要な数値を抽出し、報告書に自動反映させることで、手計算 や手入力のミスを防止できます。写真管理や測量野帳への記録もデジタル化されるため、紙ベースでの整理に追われることも減るでしょう。
さらに最近では、点群データとAR(拡張現実)技術を組み合わせて可視化する取り組みも注目されています。タブレット越しに現場を見ると、取得した点群に基づく完成予想モデルをその場に重ねて表示できるため、設計と現況のずれを直感的に把握できます。これにより、「出来形を数値でチェックする」作業に加えて「出来形をその目で確かめる」ことが可能になり、発注者や関係者への説明も容易になります。
3D点群活用による自動化と可視化は、施工管理者の負担を大幅に減らすとともに、出来形管理の精度向上にもつながります。煩雑なデータ処理や帳票作成から解放された技術者は、より創造的な業務や全体管理に時間を割けるようになるでしょう。
発注者検査との親和性:3Dデータで検査がスムーズに
出来形管理で取得した点群データは、発注者(施主)側の検査業務にも好影響を与えます。従来、完成検査では施工者が提出した図面や測定値をもとに発注者が現地確認を行い、必要に応じて再測定するという流れでした。3D点群という客観的なデジタル記録があれば、検査担当者はそのデータを直接確認しながら出来形を評価できるため、従来よりスムーズに検査が進みます。
例えば、法面工事の完成検査時に点群データが提出されていれば、発注者はオフィスのPC上で法面形状を自由に閲覧し、必要な断面や勾配を確認できます。現地では見づらい箇所も仮想空間上で容易にチェックでき、「見るべき点を見落とす」リスクが減ります。また、点群データと設計モデルの比較結果(例えば色分けのヒートマップ図など)があれば、一目で出来形の良否を判断できるため、検査合格までのやりとりが円滑になるでしょう。
国土交通省の「出来形管理要領(案)法面工編」でも、3次元測定技術を用いた出来形管理手法が示されており、点群データを完成図書として活用することが推奨されています。これは、発注者側が3Dデータを公式な成果物として受け入れる基盤が整いつつあることを意味します。実際に、点群による出来形管理を採用した現場では、紙の図面に代えて電子納品データをそのまま検査に利用するケースも出てきています。
このように、施工者・発注者双方が3Dデータを共有することで「データに基づく透明性の高い検査」が可能になります。発注者にとっても、わざわざ危険な斜面に立ち入って細部を確認する必要が減り、効率的かつ安全に品質確認が行えます。最終的には、データを介した信頼関係が構築され、検査の迅速化と合意形成のスムーズさにつながるのです。
まとめ:省人化で守る測量の安全と品質
法面測量における3D点群技術の活用は、危険と隣り合わせだった作業に革命をもたらしています。非接触計測と省人化によって測量者の安全を確保しつつ、詳細なデータ取得によって測量品質も向上するという、従来は両立が難しかった課題を同時にクリアできるようになりました。人手に頼る部分をテクノロジーで補完・代替することで、作業者の命と健康を守りながら、施工管理や品質保証のレベルを上げることができるのです。
安全性向上と効率化は表裏一体です。危険な作業を減らせば労働災害が減少し、結果として計画中断や人員ロスも防げます。また、点群データを用いた高精度な出来形管理により、手戻りや追加手直しのリスクも減らせます。つまり、省人化・省力化によって生まれた余裕が現場全体の生産性と品質を押し上げる好循環が生まれるのです。
法面工事のみならず、建設業界全体で慢性的な人手不足と技能者の高齢化が進む中、3D点群技術のようなDXツールは今後ますます重要になるでしょう。危険作業に人を晒さない優しい現場づくりと、確実な品質確保を両立するために、ぜひこれら新技術の活用を検討してみてください。
おまけ:スマホ×LRTKで始める安全な点群測量
「最新の機材を用意するのはハードルが高い…」と感じる方に朗報です。近年はスマートフォンを使って手軽に点群測量を行えるソリューションが登場しています。その代表例がスマホ+LRTKによる測量です。LRTKとは、小型のRTK-GNSS受信機をスマホに取り付けることで、スマートフォンをセンチメートル精度の測量機に変身させる技術です。
スマホとLRTKを使えば、従来は高価な専門機器が必要だった法面の3D計測を1人で簡単に実施できます。例えば、どうしても近づけない急斜面の上部の点も、地上からスマホのカメラでターゲットを捉えて測位することで、安全な場所にいながら座標を取得できます。現場を歩き回りながらスマホ内蔵のLiDARスキャナーでスキャンすれば、数分以内に法面の点群データを取得することも可能です。その点群にはRTKによる絶対座標が付与されているため、後から設計図との比較や出来形計算を行う際も補正作業が要りません。
LRTKを活用したスマホ測量は、省人化・安全性向上・帳票効率化のすべてを小さな端末で実現できる点が魅力です。取得した点群データは即座にクラウドへアップロードして共有でき、オフィスで体積計算や図面化を行ったり、関係者と3Dビューアで状況を確認 したりできます。また、AR機能を使って設計モデルと現況点群を重ね表示し、施工箇所での出来形確認や合意形成に役立てることもできます。これまで専門技術者に頼っていた測量作業が、スマホ片手に誰でもこなせる時代になりつつあります。
安全で効率的な法面測量を実現する一歩として、スマホ×LRTKによる点群測量を検討してみてはいかがでしょうか。最新技術を上手に取り入れることで、現場の安全と品質を守りながら、生産性の向上を図ることができるでしょう。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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