近年、建設や土木の現場で3D計測技術の導入が進んでいます。3Dの測量データは地形モデルの作成からインフラ構造物の維持管理点検まで幅広く活用され、施工の効率化や高度なデータ分析に貢献しています。しかし、従来の3D計測では高い精度を確保するために、地上基準点となるマーカー(ターゲットや標識)を多数設置しなければならず、現場での準備や後処理に手間と時間がかかっていました。広い造成地や橋梁のような大規模構造物を測る場合には、作業員が事前に現地へ出向き、測量標識を設置・測定 しておく必要があり、安全面やコスト面での負担も大きくなります。
こうした課題を解決するアプローチとして注目されているのが「マーカー不要」の3D計測です。マーカー不要とは、対象物に目印となるターゲットを配置せずとも、複数の測定データを高精度に位置合わせ(合成)できる手法を指します。適切な技術と機器を用いることで、面倒なマーカー設置作業を省略しつつ、同等の精度で3次元点群データを取得することが可能になります。現場での下準備時間が大幅に短縮でき、危険箇所への立ち入りも削減できるため、安全性と生産性の向上につながります。
本記事では、建設・土木分野の測量や点検業務においてマーカー不要の3D計測を実現するために導入前に知っておきたい7つのポイントを解説します。SLAM技術を搭載したハンディスキャナー、ドローンによる写真測量(フォトグラメトリ)、地上型レーザースキャナー、カメラによるフォトグラメトリ、モバイルマッピングシステムなど、最新の手法や関連技術要素を幅広く取り上げ、それぞれの特徴や精度確保のポイントを紹介します。これから3D計測の省力化・効率化を目指す方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
• マーカー不要の3D計測とは何か
• マーカー不要で精度を確保するための技術要素
• SLAM搭載ハンディ型3Dスキャナー
• ドローン写真測量でマーカーを省略
• 地上型レーザースキャナーによるターゲットレス計測
• モバイルマッピングシステムによる広範囲計測
• 高精度GNSSとスマートフォンを活用した最新ソリューション
マーカー不要の3D計測とは何か
まず、「マーカー不要の3D計測」とは何を意味するのでしょうか。一般に、複数の測定データ(写真や点群)を高精度に合成するには、共通の参照点が必要になります。従来はこの参照点として、地面や構造物上に目印となるマーカー(ターゲット)を配置し、各データにそのマーカーの位置を写し込むことで位置合わせを行ってきました。例えばドローン写真測量では白黒のターゲット板(標定点)を地表に置いてGPS測量し、写真データの座標補正に用います。また地上型レーザースキャナーでも、球形ターゲットや反射シールを現場に設置しておき、それらが重複して写る位置を基準に複数の点群を統合します。マーカーは測量精度を担保する上で重要な役割を果たしますが、その設置・計測・撤去には労力が伴い、現場状況によっては困難な場合もありました。
これに対し、「マーカー不要」の手法では事前に物理的な目印を置くことなく、データ間の位置合わせをソフトウェアやセンサーの力で実現します。写真測量であれば画像同士の特徴点マッチングによる自己位置決定、レーザー計測であれば形状の重なり合いによる点群同士の自動位置合わせ(ターゲットレス登録)などの技術が用いられます。また、後述するようにGNSSやIMU(慣性計測装置)といった位置・姿勢センサ ーを併用し、各データ取得時の絶対位置や向きを把握して統合するアプローチもあります。適切に運用すれば、マーカーを使わなくても所要の精度で3D計測を行うことが可能です。その結果、大幅な省力化(下準備の時間短縮)や安全性の向上(危険箇所での作業削減)といったメリットが得られるため、現場でのニーズが高まっています。
マーカー不要で精度を確保するための技術要素
マーカーを使わずに高精度な3D計測を行うには、センサーやアルゴリズムの高度な活用が欠かせません。物理的な目印の代わりに、機器側で位置や姿勢、形状を高精度に把握し、データ同士を正しく重ね合わせる必要があります。そのために特に重要となる技術要素をいくつか押さえておきましょう。
高精度GNSS(測位センサー): GNSS受信機を用いて各測定の位置座標を取得すれば、データ取得時から絶対座標が付与されます。特にRTK方式のGNSSならセンチメートル級の測位が可能で、ドローンの写真やレーザースキャナーの点群に直接正確な位置情報を与えることができます。これにより従来は基準点となるマーカーで行っ ていた位置補正を大幅に簡略化できます。
IMU(慣性計測装置): 加速度センサーやジャイロ(角速度センサー)からなるIMUは、機器の動きや向きをリアルタイムに計測します。移動しながら計測する際に、自身の位置推定を継続する「航法装置」の役割を果たし、GNSSが途切れる場面でも相対位置を追跡します。IMUデータはSLAMや写真測量の計算過程で組み合わされ、より安定した位置合わせ(例: VIO: Visual-Inertial Odometry)に寄与します。
高性能カメラとレンズキャリブレーション: 写真測量ではカメラの画素数や光学性能が精度に影響します。高解像度の画像は細部の特徴点をより多く捉え、位置合わせの精度向上につながります。また、レンズのゆがみ補正やカメラ間の正確なキャリブレーションも重要です。複数のカメラやマルチレンズのデバイスを使う場合、事前に内部パラメータを校正しておくことで、得られる点群モデルの誤差を小さくできます。
高精度レーザーセンサー: レーザースキャナー自体の測距精度や角度分解能も結果の精度 を左右します。高品質なレーザー測距センサーはミリ単位の精度で距離を測定可能で、得られる点群データの精密さが向上します。また機種によってはIMUやコンパスを内蔵し、本体の傾きや方位を記録することで、異なる測站間の点群を粗合わせする機能もあります。
これらの要素に加え、データ処理ソフトウェアのアルゴリズムも重要です。SLAMのループクロージング(自己位置の誤差収束)や写真測量の最適化計算(バンドル調整)など、高度な演算処理によってマーカーなしでも整合性の取れた3Dモデルが生成されます。ただし、計測対象の状況にも注意が必要です。周囲に特徴物が少ない単調な地形や、鏡面のようにパターンがない構造物を測る場合、自動位置合わせが不安定になる恐れがあります。そのような場合には、撮影範囲の工夫(別角度から撮影する等)や追加の基準測定(要所のみ標定点でチェックする等)を組み合わせて、精度を検証すると安心です。
SLAM搭載ハンディ型3Dスキャナー
マーカー不要を実現する代表的な機器の一つが、SLAM技術を搭載したハンディタイプの3Dスキャナーです 。SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)は自らの位置推定と周囲の地図化を同時に行う技術で、ハンディスキャナー内部のレーザーやカメラによって周囲をスキャンしながら位置を把握し、移動経路全体の点群地図を構築します。オペレーターが機器を手に持って歩くだけで周囲を連続的に計測でき、通常は三脚を据えて行う静止スキャンとは異なり、リアルタイムかつシームレスな測定が可能です。建物内部の形状記録やプラント設備の寸法取り、トンネル内の変位計測など、従来ターゲット配置が難しかった空間でも手軽に3Dデータ化できる点が大きなメリットです。
SLAMスキャナーは原理上、マーカーを必要としません。計測中に取得する点群同士は、SLAMアルゴリズムによって特徴的な形状の一致で逐次位置合わせされていきます。例えば室内であれば壁や柱、機械設備などの形状を捉え、それらが重なるように隣接フレームを自動的に統合します。ただし、長距離を連続で移動すると少しずつ位置にズレが蓄積するドリフト誤差が生じる点には注意が必要です。広い空間を測る際は、U字型に一周回ってスタート地点に戻り「ループクロージャ」を行うことで誤差を打ち消す工夫がよく行われます。また、必要に応じて計測範囲の一部に既知点を設け、得られた点群を後でその座標系に合わせ込むことで、全体の精度を補正することもできます。最新の機種では、屋外測定用にGNSSを組み合わせて絶対座標を付与できるものも登場しており、SLAMの利便性と測量座標の両立が進んでいます。
このようにハンディ型のSLAMスキャナーは、迅速な現場計測を可能にする有力なツールです。設置に時間を取られず、複雑な構造物の細部まで短時間で点群化できるため、施工管理の現況把握や構造物の変位モニタリングなど幅広い用途で活用されています。一方で、トンネルや長大な空間でパターンが単調な場合には誤判定が起きやすいため、適用範囲を見極めて使うことが大切です。計測対象に十分な形状の特徴がありさえすれば、マーカーを使わなくても必要な精度で現場の3Dデータを取得できるでしょう。
ドローン写真測量でマーカーを省略
上空からの写真撮影によって地形や構造物を3D化するドローン写真測量(フォトグラメトリ)でも、近年はマーカーを大幅に減らす取り組みが進んでいます。従来、ドローンで空撮した画像から正確な点群やオルソ画像を作成するには、地上にグラウンドコントロールポイント(GCP)と呼ばれる基準点マーカーを多数配置し、それらの座標を既知点としてソフトに与える必要がありました。広い造成 地を測量する場合、10点以上のGCPを測定・設置するのが一般的で、その作業だけで半日以上を要することもありました。しかし、近年登場したRTK対応ドローン(高精度GNSS搭載UAV)を使えば、写真の撮影位置自体をセンチメートル精度で記録できるため、必ずしも多数のGCPを設けなくてもモデルを高精度に地理座標へ合成できます。
実際にRTKドローンを用いた検証では、GCPゼロでも誤差2~3cm程度で地形モデル化できたケースが報告されています。ただし、現実の現場で常に完全にマーカーをゼロにできるとは限りません。電波受信状況によってはRTKの精度が乱れるリスクもあるため、念のため検証用のチェックポイントとして数点のみ簡易な標識を設置し、後処理で精度を確認する運用が安全策として推奨されます。それでも従来に比べれば設置点数は格段に減らせるため、上空測量の効率は飛躍的に向上します。特に、急峻な法面(のりめん)や立ち入り困難な現場でも空中から撮影するだけで測量が完結するため、作業員が危険な場所に赴く必要がなくなり、安全面のメリットも大きいです。
ドローン写真測量でマーカーを省略するには、その他の条件設定も重要です。高品質な3Dモデルを得るには、画像のオーバーラップ(重複度 )を十分に確保し、ソフトウェアが特徴点を検出しやすいよう計画飛行する必要があります。通常は前後左右とも8割程度の重複率で撮影し、地表の模様や物体が複数の写真に写り込むようにします。地上が草木で覆われている場合は写真測量では地面の点群を取得できないため、別途地表の測量データと統合する、あるいはレーザースキャナ搭載ドローンを活用するといった手段も検討されます。用途にもよりますが、現在ではマーカー設置ゼロでのドローン計測事例も増えており、土量計算や出来形管理、インフラ点検などさまざまな場面で実用に供されています。
地上型レーザースキャナーによるターゲットレス計測
三脚据え付け式の地上型レーザースキャナー(TLS: Terrestrial Laser Scanner)でも、ソフトウェア技術の進歩によりターゲットレスで点群を合成することが可能になってきました。従来は複数の測站で取得した点群を統合する際、各スキャンに共通して映る球体マーカーや反射ターゲット板を設置し、それらを目印に手動で位置合わせを行うのが一般的でした。現在では、専用ソフト上で点群同士を自動的に重ねるクラウドマッチング(ICP登録)の手法が確立しており、重複部分の形状から最適な位置ずれ補正を計算することで、マーカーを使わずとも高い精度で合成できます。特にプラント配管や市街地の建物測定など、各スキャン領域に特徴的な構造物が豊富に含まれる場合は、ターゲットレスでも確実に対応できるケースが増えています。
ターゲットレス計測を成功させるには、各スキャン間で十分な重複領域を確保することが重要です。隣接するレーザー測定位置ごとに、少なくとも3つ以上の特徴ポイントが共通して取れるような配置でスキャンを計画します。例えば建物の壁面や床・天井など、大きな平面が複数の測站にまたがるようにすることで、後処理ソフトがそれらを一致させて統合してくれます。ただし、平坦で目印のない空間や、幾何学的に対称性が高い構造物(円形のサイロが並ぶ設備など)では、自動マッチングが誤った位置合わせをしてしまうリスクもあります。そのため、現場状況によっては要所に数個だけターゲットを配置して保険をかけたり、スキャンした点群に対して後から既知点で変換(1点でも絶対座標が分かれば全体を平行移動可能)したりする工夫も有効です。
また、最新のレーザースキャナーは本体に傾斜センサー(デュアルアクシスコンペンセータ)や電子コンパスを内蔵し、各測站の傾きや方位を自動記録できるものがあります。こうした機能により、スキャンごとの相対的な向きズレをあらかじめ補正し、後の点群合成作業を簡素化することができます。屋外では、スキャナー自体にGNSS受信機を搭載して観測位置を計測できる機種も登場しており、ターゲットを用いず直接測地座標にマッピングするアプローチも実用化されつつあります。地上型レーザースキャナーはミリ単位の精度で詳細形状を取得できる強力な手法ですが、ターゲットレス機能を上手に活用することで、その運用効率を一段と高めることができるでしょう。
モバイルマッピングシステムによる広範囲計測
道路や市街地といった広範囲の現況を効率的に3D計測するには、モバイルマッピングシステム(MMS)と呼ばれる移動計測技術が有効です。MMSは車両やカートに高精度GNSS、IMU、複数のレーザースキャナーやカメラを搭載し、走行しながら周囲の点群データやパノラマ画像を同時に取得できるシステムです。測定データにはリアルタイムで測位された自己位置が付加されるため、取得した点群は即座に地図座標にプロットされます。走行しながら取得したデータがすぐにGISやCAD図面に利用できる手軽さが特徴で、長距離の道路線形測量や都市インフラの資産管理用データ収集などに広く活用されています。
MMSでは原則として地上にマーカーを設置する必要がありません。車両に搭載したRTK-GNSSが常時高精度の位置を測定し、IMUが車体の姿勢変化やGNSS信号が途切れた瞬間の移動量を補完します。その結果、得られる点群群ははじめから相互に整合した状態で出力され、後から複雑な位置合わせ作業を行わなくてもデータがまとまります。専用装置の高い計測性能により、時速数十キロで走行しながらでも数cm程度の精度で点群化が可能であり、通行止め等をせずに道路形状を取得できるため、交通への影響や作業員の危険を最小限に抑えられます。
もっとも、都市部のビル街や樹木の多い道路では、衛星が遮蔽されて一時的にGNSSが測位不能となる場合があります。そのような環境ではIMU単独の推測航法となるため、走行距離が長くなると徐々に誤差が蓄積します。必要に応じて、GNSSが再び捕捉できた時点でデータ間をリセットして誤差補正したり、トンネル区間では入口と出口で別途静的測位を行ってつなぎ込んだりといった対策が取られています。それでも、地上に多数の測量点を設ける従来手法と比べれば圧倒的に省力化できることは確かです。MMSは初期投資こそ大きいものの、一度に広範囲をカバーできるため中長期的な作業効率は高く、近年では地形図作成や道路台帳整備、橋梁やトンネルの定期計測など様々なプロジ ェクトで導入が進んでいます。
高精度GNSSとスマートフォンを活用した最新ソリューション
最後に紹介するのは、高精度GNSSセンサーとスマートフォンを組み合わせた新しい計測ソリューションです。近年のスマートフォンには高性能なカメラやLiDARセンサー、IMUが搭載されており、小型ながら3Dスキャンに利用できるポテンシャルを備えています。例えば最新のiPhoneは背面に深度計測用LiDARを内蔵しており、数メートル範囲であれば周囲の点群を瞬時に取得することが可能です。こうしたスマホの能力に、さらにセンチメートル級測位が可能な外付けGNSS受信機を組み合わせることで、手のひらサイズの機器だけで高精度なマーカー不要計測を実現できます。
具体例として、iPhoneに装着できる小型GNSSデバイスのLRTKがあります。LRTKを用いれば、スマートフォンが受信する衛星測位データをリアルタイムに補強し、従来は専用機器が必要だったRTK測位をスマホ上で簡単に扱えるようになります。さらにスマホ内蔵のLiDARやカメラアプリを使って現場をスキャンすれば、その点群に自動で測位された絶対座標が付与 され、マーカー設置なしで現地の3Dモデルが即座に得られます。取得データはクラウド経由でその場で共有・確認することもでき、重たい機材を持ち運ぶことなく迅速に測量成果を得られる点が大きな魅力です。
このようなスマートフォン活用の計測ソリューションは、今後ますます実務での利用が期待されています。専用の3Dスキャナーやドローンを運用するほどではない小規模な測量や日常点検業務でも、スマホ+GNSSであれば手軽に導入できます。熟練技術者でなくとも扱いやすいインターフェースであるため、現場担当者自らが必要なときに素早く計測を行うことが可能です。マーカー不要の3D計測のハードルを一段と下げるこうした最新技術を活用し、安全かつ効率的な現場管理に役立ててみてはいかがでしょうか。
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