モバイルスキャン導入で施工管理が効率化する仕組み

近年、建設現場のデジタル化が加速する中で「モバイルスキャン」と呼ばれる技術が施工管理に大きな変革をもたらしています。モバイルスキャンとは、スマートフォンに高精度測位装置を組み合わせて現場を丸ごと3Dデータ化する手法です。現場管理者・施工管理者・測量担当者の方々にとって、従来の手法では難しかった効率化や精度向上を実現できる可能性が注目されています。本記事では、モバイルスキャンの概要と仕組みから、施工管理業務への有効性、具体的な応用例、従来手法との比較、導入による効果、そして実際に導入する手順までを詳しく解説します。現場のDX（デジタルトランスフォーメーション）を推進し、業務効率と品質を飛躍的に高めるモバイルスキャンの仕組みを一緒に見ていきましょう。

モバイルスキャンの概要と仕組み（スマホ＋RTK＋点群）

モバイルスキャンとは、スマートフォンなどのモバイル端末に取り付けた高精度GNSS装置（RTK受信機）を用いて、現場の3次元形状を高精度にスキャンする技術です。スマホ内蔵のLiDARセンサーやカメラで周囲を撮影・計測し、RTK（リアルタイムキネマティック）測位によって得られるセンチメートル級の位置座標を組み合わせることで、無数の点からなる点群データを生成します。点群データとは、各点にX・Y・Z座標（位置情報）を持つ大量の測定点の集まりで、地形や構造物の形状を3Dモデルのように精密に表現できるものです。スマホ＋RTKにより取得される点群には正確なグローバル座標が付与されるため、現場のスキャンデータを図面座標系にそのまま重ね合わせたり、施工管理の各種計測に直ちに利用したりできます。

この仕組みにより、従来は専門機器が必要だった3Dレーザースキャンや写真測量のような高精度計測が、手のひらサイズのスマートフォン一台で可能になります。RTK技術とは衛星測位の誤差を地上の基準局からの補正情報で打ち消す方式で、数センチの誤差まで測位精度を高める手法です。スマホにRTK受信機を組み込んだデバイス（例えばLRTK Phoneのような製品）を装着すると、スマホのGPS精度が飛躍的に向上し、スマホが取得する点群データすべてに高精度な位置情報を与えられます。その結果、ただ現場を歩いてスマホのカメラを向けるだけで、広範囲の地形や構造物を短時間で絶対座標付きの3D点群として記録することが可能になります。

施工管理にモバイルスキャンが有効な理由

モバイルスキャンが建設現場の施工管理において有効とされるのは、現場業務との高い親和性と課題解決力があるためです。まず、スマートフォンを使うため携帯性が高く手軽で、いつでも必要なときに計測を実施できる点が大きな強みです。従来は測量班の手配や重機材の準備が必要だった計測作業も、モバイルスキャンなら現場担当者自身がすぐに行えるため、日常業務に無理なく組み込めます。「ちょっと現況を確認したい」「施工後に形状を記録したい」といった場面で、ポケットからスマホを取り出して即座にスキャンできる手軽さは、施工管理の現場に革命をもたらします。

さらに、モバイルスキャンは作業効率の飛躍的向上と精度確保を両立できる点で有効です。点群スキャンは一度に何百万もの測点を取得できるため、広い範囲を短時間で漏れなく記録でき、結果として工期短縮や手戻り削減につながります。人力では測りにくかった高所・急斜面なども非接触で安全に計測できるため、安全管理の向上にも寄与します。また取得データはすべてデジタル情報として蓄積・共有できるので、リアルタイムな情報共有や遠隔での意思決定も容易になります。国土交通省が推進する「i-Construction」に代表される業務DXの流れの中でも、モバイルスキャンによる高精度な現場データ取得は、人手不足の解消や働き方改革への切り札として期待されています。要するに、モバイルスキャンは施工管理業務における「早さ・軽さ・正確さ」を同時に実現する新技術なのです。

モバイルスキャンの施工管理への応用例

モバイルスキャンは施工管理のさまざまな業務シーンで活用できます。ここでは代表的な工程管理・出来形管理・数量確認・品質／安全管理の4つの観点から、その応用例を紹介します。

• 工程管理: 工事の進捗状況をモバイルスキャンで可視化することで、スケジュール管理が格段に効率化します。例えば毎日または週次で現場をスキャンしておけば、出来高の増減を3Dデータで記録できるため、計画工期に対する進み具合を直感的に把握可能です。従来は進捗の把握に写真や目測が用いられていましたが、点群データを時系列で比較すれば「どこまで施工が完了したか」「残作業量はどの程度か」を正確に把握できます。急な設計変更が生じた場合も、変更部分をすぐにスキャンして追加の土量や作業範囲を算出できるため、工程の見直しや段取り替えにも迅速に対応できます。モバイルスキャンによって得られた現況3Dデータを関係者と共有すれば、打ち合わせ時に現場の最新状況を全員が把握でき、無駄のない工程管理が可能になります。

• 出来形管理: 出来形管理とは、施工完了した構造物や造成地の形状・寸法が設計どおりになっているか検測し品質を確認する業務です。モバイルスキャンを取り入れることで、この出来形管理がより精密かつ効率的になります。3Dレーザースキャナーや写真測量で取得する点群はミリ単位の精度を達成でき、人力測定では拾いきれない微小な凹凸や寸法の差異も検出可能です。例えばコンクリート打設直後の形状をスキャンすれば、設計モデルとの差分をカラー表示することで一目で不備を洗い出せます。また一度のスキャンで広範囲の出来形を非接触で一括計測できるため、検測点をいちいち測る作業が劇的に削減され、検査担当者の負担軽減と品質管理の高度化が両立します。取得した点群データはデジタル記録として保存でき、後から任意の断面を切って寸法を再確認したり、報告書に3Dビューを添付したりと多目的に活用可能です。従来は紙の図面や写真台帳で平面的にしか残せなかった出来形情報も、点群データなら立体的なエビデンスとして残せるため、将来の定期点検や修繕計画にも役立てられます。

• 数量確認: 土工事における盛土・掘削量の把握や出来高数量の算出にもモバイルスキャンは威力を発揮します。従来、盛土量の確認には測量計算やダンプトラックの台数記録などで推計する必要がありましたが、モバイルスキャンを使えばその場で正確な体積を計算できます。例えば整地前後の地形をスキャンして比較すれば、投入した土量や撤去した土量を自動演算で即座に算出可能です。実際にモバイルスキャン対応のクラウドサービス上では、取得した点群データから指定範囲の体積をワンクリックで求める機能も提供されています。これにより、出来高報告や発注者への提出書類作成に費やす時間が大幅に短縮されます。また進捗管理の面でも、定期的な点群スキャンによって施工段階ごとの土量増減を追跡できるため、「予定よりどれだけ土を盛った／すき取ったか」を定量的に把握できます。数量管理の精度が上がることで過不足の早期是正が可能となり、予算管理や発注管理の適正化にもつながります。

• 品質・安全管理: モバイルスキャンの導入は品質管理と安全管理の両面でメリットをもたらします。品質管理面では、高精度な点群計測により施工品質のばらつきを見逃しません。出来形管理で述べたように、設計値との差を3D上で正確に検証できるため、施工ミスや規格外箇所を早期に発見して是正できます。点群データを蓄積しておけば、施工後に発生した変状や経年変化も把握でき、長期的な品質監視にも役立ちます。一方、安全管理面でもモバイルスキャンは有効です。危険な斜面や高所、重機稼働中のエリアでも、離れた安全な場所からレーザーやカメラを向けるだけで計測できるため、作業員が危険箇所に立ち入るリスクを減らせます。夜間工事や交通規制下での点検作業でも、短時間で状況把握が完了する点群計測なら周囲への安全影響を最小限にできます。また、モバイルスキャンで取得したデータを活用したAR（拡張現実）表示機能により、埋設管や危険箇所の位置を現実空間に可視化することも可能です。例えばあらかじめ地中埋設物をスキャンしておき、次回工事時にそのデータをスマホARで透過表示すれば、誤って埋設管に接触しないよう直感的に安全確認ができます。このようにモバイルスキャンは現場の「品質を守る目」と「安全を守る目」として活躍し、施工管理の信頼性を高めてくれます。

従来手法との比較（紙・写真・TS測量 など）

モバイルスキャンによる施工管理の革新性を理解するために、従来の手法と比較してみましょう。以前の現場管理では、紙の帳票や写真を用いた記録、そしてトータルステーション（TS）等による点測量が主流でした。

• 紙と写真を用いた管理: 現場での測定結果や施工状況は、これまで紙のチェックリストや野帳に記録し、併せて撮影した写真を台帳に貼り付ける方法が一般的でした。例えば出来形の確認では、巻尺やスタッフで測った寸法を紙に書き留め、完成写真を撮って保存するといった手順です。この手法では記録が二次元情報に限られるため、後から細部の寸法を再確認したり現場全体を俯瞰したりすることが困難でした。また、手書き記録は人為ミスのリスクや筆読の手間も伴い、データの検索性や共有性にも課題がありました。モバイルスキャンなら、現場そのものを3Dデータとして記録するため、紙や写真では捉えきれない空間的な情報まで含めて保存できます。結果として記録精度と情報量が飛躍的に向上し、写真では見落とすような細部も点群データ上で寸法チェックできるようになります。

• トータルステーション等による測量: 測量分野では、高精度なTSやレベルを用いて2人1組で一点一点の座標を測定するのが従来の方法でした。TS測量はミリ単位の精度で基準点や設計値との誤差を確認できる信頼性の高い手法ですが、一度に取得できるのは個々のポイント情報に限られます。広い現場全体を把握するには多数の点を測る必要があり、どうしても手間と時間がかかっていました。これに対し点群スキャン（モバイルスキャンを含む）は、一度の計測で現場の面全体をデータ化できるため「点ではなく面で測る」アプローチと言えます。例えば複雑な地形や大規模構造物でも、適切にスキャンすれば細部まで含めて数百万点の測定データを取得でき、短時間で3次元モデル化できます。またTSでは測りにくい足場の悪い場所や立ち入り困難な箇所も、非接触スキャンなら安全かつ容易にデータ取得可能です。もっとも、モバイルスキャンが登場したからといってTS等の従来手法が完全に不要になるわけではありません。現場では、精密な基準点の設定やトンネル内測量など一点ごとの厳密な測定には依然TSが有効であり、むしろTSで設置した既知点を基に点群に座標を与えるハイブリッド測量が主流です。それでも、広範囲の詳細計測という点ではモバイルスキャンの効率と網羅性は圧倒的であり、従来手法を組み合わせることでこれまで以上に精度と効率を高められるのは間違いありません。要するに、従来法（紙・写真・TS）では部分的・定性的な管理にとどまっていたものが、モバイルスキャンの併用によって全体的・定量的な管理が可能になったと言えるでしょう。

モバイルスキャン導入による効果とメリット

モバイルスキャンを現場に導入すると、施工管理業務には次のような効果・メリットが期待できます。

• 作業時間の短縮: 3Dスキャンの導入により測量・検測作業の所要時間が大幅に短縮されます。例えば、従来3日かかっていた造成地の現況測量がドローンスキャンで半日に短縮された事例や、出来形検査の測点取得が点群計測で従来比1/6の時間で完了した例も報告されています。一度に広範囲を測れるため測り直しや追加調査の手間も減り、施工全体の工期短縮に直結します。日常業務でも、朝礼前の数分で要所をスキャンして即座に進捗確認するといった運用が可能になり、スピード感のある現場管理が実現します。

• 省人化・人手不足対策: モバイルスキャンは少人数で運用できるため、人員配置の効率化につながります。従来は測量に2～3人が必要でしたが、スマホとRTKデバイスがあれば1人で高精度測量が完結します。これにより人手不足の現場でも無理なく計測業務を回せるようになります。また、専門技術者でなくとも扱える簡便さから「現場スタッフ全員が測量員」という環境を作ることも可能です。例えば各施工班のリーダーが各自のスマホで必要時にスキャンを行えば、作業の合間に並行して測定・記録が進められ、全体の生産性が底上げされます。モバイルスキャンはまさに一人一台の測量機というコンセプトで、人手不足時代の力強い味方となります。

• 精度向上とヒューマンエラー低減: 最新のRTK-GNSSとスマホセンサーによる点群計測は、適切な運用で数センチ～数ミリの精度まで達成可能です。従来手法で生じがちな読み違いや記録ミスといったヒューマンエラーもデジタル計測で最小化できます。点群データに基づく出来形測定では、計測値と設計値の差異が自動計算されるため手計算の誤りも防げます。さらに、密度の高い点群から得られる寸法データは信頼性が高く、品質検査の精度向上につながります。結果として手直しややり直し工事のリスクが減り、施工品質の安定にも貢献します。「測り忘れ」や「記録漏れ」もなくなるため、検査合格基準のすり合わせもスムーズになります。モバイルスキャン導入は精度と信頼性の底上げにつながるといえるでしょう。

• 情報共有と意思決定のスピード化: モバイルスキャンで取得したデータはデジタル形式ですぐクラウドにアップロードでき、関係者間でリアルタイムに共有できます。これにより、遠隔地の上司や発注者とも同じ3D現況を見ながら協議でき、迅速な意思決定が可能です。例えば現場でスキャンした点群をクラウドに同期しておけば、オフィスのPCから即座にデータを確認し、必要な寸法を測ったり問題箇所を指示したりできます。重たいデータもクラウド経由で扱えるため、USBメモリで持ち運ぶ必要もなくなりスムーズな情報共有が実現します。また、点群データは時系列で蓄積すれば施工の履歴データベースとなり、各段階の変更点や出来形を後から検証することも容易です。これらの仕組みは最終的に現場と社内・発注者とのコミュニケーションロスを減らし、問題発生時の対応速度や合意形成のスピードアップにつながります。

LRTK導入手順と現場へのスムーズな導入ポイント

実際にモバイルスキャンを現場で活用するための導入手順も非常にシンプルです。例えばスマートフォン用のRTKデバイスLRTK Phoneを用いれば、わずか数ステップで高精度なモバイルスキャンを始めることができます。

• デバイスの取り付け: お手持ちのスマートフォン（例：iPhoneやiPad）にLRTK Phoneデバイスを装着します。専用の小型アンテナ受信機をスマホにワンタッチで取り付けるだけで、ハードウェアの準備は完了です。バッテリーやアンテナも一体型のため煩雑な配線もなく、片手で持てるコンパクトさです。

• アプリの起動と測位開始: スマートフォンに専用アプリをインストールし、デバイスの電源を入れて接続します。初期設定は不要で、電源オン後数十秒程度でRTKによる高精度測位が開始されます。LRTKは日本の準天頂衛星「みちびき」が提供するセンチメートル級補強サービス（CLAS）にも対応しており、通信圏外の山間部などでも安定した測位が可能です。屋外で衛星からの補正情報を受信し、スマホ画面上に測位の精度（Fix状態）が表示されたら計測準備完了です。

• 現場のスキャン実施: アプリのスキャン機能を選択し、計測したい構造物や地形にスマホのカメラを向けながらゆっくりと歩行します。誰でも動画を撮るような感覚で周囲を映していくだけで、スマホ内蔵のLiDARセンサーやカメラが周囲の3D点群を取得します。LRTKデバイスにより常時スマホの自己位置がcm精度で把握されているため、移動しながらでも位置ズレのない高精度な点群測定が可能です。例えば道路や擁壁の延長を歩いてスキャンすれば、約5分程度で現況の3Dモデルが完成します。急勾配な法面や橋梁下面など直接触れにくい場所も、離れた位置からスキャンできるので安全です。

• データ保存・共有: スキャン完了後、取得した点群データはスマホ内に自動保存されます。必要に応じてワンボタンでクラウドに同期でき、オフィスに戻ることなく現場でデータ確認や解析が可能です。クラウド上では、点群データ上で距離や面積を計測したり、盛土の体積を自動算出したりといった処理がすぐに行えます。作成された3D点群やモデルはウェブブラウザ経由で共有リンクを発行できるため、専門のビューアソフトや高性能PCがなくても発注者や協力会社とデータ共有がスムーズに行えます。必要なら取得データを重ねてAR表示し、その場で設計図との照合や杭打ち位置の誘導などに活用することもできます。

以上のように、特別な技能がなくても数ステップの操作でモバイルスキャンによる高精度計測を開始できます。初期導入コストも数十万円程度からと比較的低価格で、従来の大型測量機材（数百万円規模）に比べて圧倒的に導入しやすい点も魅力です。現場へのトレーニング負担も小さく、スマホにアプリを入れてデバイスを装着すればすぐ使える手軽さから、社内への技術展開もスピーディーに行えるでしょう。モバイルスキャンを支えるLRTKのようなソリューションの登場により、3D点群活用のハードルは驚くほど下がっています。まだ導入されていない企業・現場の方も、この機会にぜひモバイルスキャンの導入による施工管理効率化を検討してみてはいかがでしょうか。スマートフォン一つで「誰でも・どこでも・いつでも」高精度な現場データを扱える時代が到来しています。従来のやり方にとらわれない一歩が、現場の生産性向上と安全・品質確保に大きく貢献するはずです。モバイルスキャンの活用によって、あなたの現場も次世代の施工管理へとアップデートしていきましょう。