日本が誇る「準天頂衛星システム(QZSS)みちびき」の登場により、これまで専門機材や多額の費用が必要だったセンチメートル級の高精度測位が、ぐっと身近なものになってきました。特に近年は、スマートフォンと組み合わせたRTK測位ソリューションが普及しつつあり、「初期投資ゼロ」で始められる高精度測位として注目を集めています。本記事では、みちびきがもたらす高精度測位のメリットから、スマホRTKによる手軽な測位手法、そして導入コストを大幅に削減できる理由までを解説します。さらに、建設・土木・測量の現場で広がる活用シーンを紹介し、記事の最後では誰でも簡単に始められる新世代の測量システムLRTKについても触れます。
みちびきがもたらすセンチメートル級測位とは
まず「みちびき」とは何か、その概要と高精度測位への貢献について押さえておきましょう。みちびきは日本版GPSとも称される準天頂衛星システム(QZSS)の愛称で、2018年以降4機体制で本格運用されています。これにより、日本国内では常に1機以上のみちびき衛星が頭上に位置するようになり、安定した測位サービスが提供されています。みちびきの最大の特徴の一つが、「センチメートル級測位補強サービス(CLAS)」です。CLASはその名の通り、衛星からの補強信号によってGNSS測位の誤差を数センチメートル程度まで補正する画期的なサービスです。従来、GPS単独測位では5~10m程度の誤差が避けられませんでしたが、みちびきのCLASを利用すれば、対応受信機で誤差を数センチまで縮小することが可能になります。これは世界的に見ても先進的な取り組みで、日本全国どこでも衛星からの通信だけでセンチメートル級精度を得られる点が大きな強みです。
このような高精度測位サービスは、測量や土木施工、農業、自動運転など幅広い分野への応用が期待されています。例えば建設業界では、国土交通省が提唱するi-Construction(アイ・コンストラクション)においてICTを活用した施工の一環として、高精度GNSSによる施工管理や機械誘導が推進されています。みちびきは、そうした現場での測位精度向上に大きく寄与し、作業効率と安全性の向上を「みちびく」存在だといえるでしょう。
RTKとは? 従来の測位技術との違い
みちびきの話題に入る前に、高精度測位を語る上で欠かせないRTK(リアルタイムキネマティック)方式について簡単に整理します。RTKは、基準局(基地局)と移動局(ローバー)の2台のGNSS受信機を使い、リアルタイムで測位誤差を補正する技術です。従来の単独測位と比べて、どのような違いがあるのでしょうか。
• 測位精度の違い: 単独測位(一般的なGNSS受信機)では、大気の影響や衛星時計誤差などにより、水平方向で数メートルの誤差が生じます。スマートフォンの地図アプリで自分の位置が数メートルずれる経験をされた方も多いでしょう。それに対しRTK測位では、基準局と移動局が同じ衛星信号を受信して誤差要因を相殺するため、誤差は1〜3cm程度にまで収まります。測位精度が飛躍的に向上することで、例えば従来は数メートルのズレが致命的だった重機の自動制御や設計図との出来形照合なども、安全かつ正確に行えるようになります。
• 仕組みの違い: 単独測位では補正がないため、衛星軌道の誤差・電離層遅延・時計誤差・マルチパス(反射)など様々な要因で測位にズレが生じます。一方、RTKでは既知の座標に設置した基準局がこれら誤差成分を算出し、無線やインターネット経由で移動局に補正データを送信します。移動局側は受け取った補正情報を用いて自分の測位結果をリアルタイムに修正することで、センチメートル級の精度を実現します。いわば「隣にもう一人の測位役(基準局)を置いて比較しながら測る」イメージで、これにより単独では除去できなかった誤差を差し引いて高精度化しているのです。
• 必要な機材の違い: 従来の高精度測位には、大型のGNSSアンテナや専用端末を三脚に据えて使い、さらに基地局用の機器や電源、無線モデムなど多数の装備が必要でした。当然、初期費用も高額で、数百万円規模の投資が当たり前だったため、大手企業以外にはなかなか導入が進みませんでした。また機材が重く嵩張るため、現場へ運搬しセッティングするだけでも一苦労でした。
RTK方式は1990年代から実用化が進み、日本でも電子基準点(国土地理院のCORS網)を利用したネットワーク型RTKや、民間による補正情報サービスの整備が進んだことで、以前より使いやすい環境が整いつつあります。しかしそれでも、従来型のRTK受信機は依然として高価で専門知識も求められることから、「もっと手軽に高精度測位を活用したい」というニーズが高まってきました。このニーズに応えるべく登場したのが、次章で紹介するスマホ対応のRTK測位という新たなソリューションです。
スマートフォンとみちびきで実現する手軽な高精度測位
近年、技術の進歩により「スマホをそのまま測量機に変える」ことが現実のものとなってきました。ポイントは、スマートフォンと小型の高精度GNSS受信機を組み合わせてRTK測位を行う仕組みです。具体的には、スマホにBluetoothや専用接続で外付けのRTK-GNSSモジュールを連携させ、スマホ上のアプリで基準局からの補正情報を受信することで、スマホ内蔵GPSでは実現できなかったセンチメートル級測位を可能にします。
例えば、iPhoneに取り付けて使える超小型GNSSデバイス「LRTK Phone」のケースでは、専用のスマホカバーに重さ125g・薄さ13mm程度のRTK受信機を装着し、スマホと一体化して使用します。スマホとLRTKデバイスはBluetoothで接続され、わずらわしい配線は不要です。これだけで通常は5~10m程度あったスマホGPSの測位誤差が、一挙に数センチまで向上することが確認されています。まさにスマートフォンがポケットサイズの測量機に早変わりするわけです。
さらに特筆すべきは、こうしたスマホRTKデバイスがみちびきのCLASにも対応し始めている点です。CLAS対応の受信機であれば、携帯圏外の山間部や災害現場でも上空の衛星から補正情報を直接受信できます。従来は携帯通信が届かない場所ではRTK測位を諦めざるを得ませんでしたが、みちびき対応デバイスならオフライン環境でも高精度測位が可能です。例えば、2023年に発生した地震被害の記録では、通信インフラが途絶した地域でCLAS対応のスマホRTKが活躍し、被災状況の写真に高精度な位置情報を付加して記録できた事例もあります。みちびき +スマホRTKの組み合わせは、日常業務はもちろん、いざという時の信頼性確保にも大きな力を発揮するのです。
初期投資ゼロで始める高精度測位、その理由とは
従来、高精度測位の導入には多額の初期投資が壁となっていました。しかしスマホRTKの登場により、そのハードルは大きく下がっています。なぜ「初期投資ゼロ」と言えるほど低コストで始められるのでしょうか。
第一に、手持ちのスマートフォンを活用できる点が挙げられます。専用の高価な受信機一式を新たに揃えなくても、皆さんがお持ちのスマホに小型受信機を「プラスする」だけで済むため、機器購入費用を大幅に削減できます。スマホと連携する外付けRTKモジュール自体も、従来の据え置き型機器に比べて価格が抑えられており、数十万円程度のワンタイム購入で導入可能な製品が登場しています。高精度GNSS装置に数百万円を投じることを考えれば、桁違いに安価と言えるでしょう。
第二に、補正情報サービスの充実があります。これまでは自前で基準局を設置しなければRTKが使えませんでしたが、現在は国土地理院の電子基準点網や民間のネットワークRTKサービスを利用して、インターネット経由で補正データを取得することが容易になりました。中には行政や大学が提供する無償の補正サービスも存在し、小規模事業者でもランニングコストを抑えて利用できます。また、みちびきのCLASは衛星から無償で補強信号を得られるため、一度対応機器を用意すれば通信料なしで補正が受け取れる利点があります。つまり、基地局を自前で用意しなくても良い環境が整いつつあることで、初期投資だけでなく運用コストの面でも負担を軽減できるのです。
第三に、サブスクリプション型の利用が広がっている点も見逃せません。クラウドサービスを活用した高精度測位プラットフォームでは、月額課金で常に最新のソフトウェアやデータサービスを利用できます。高価なソフトを買い切りで導入する必要がなく、必要な期間だけ契約すれば良いので、初期費用ゼロ円からスタートすることも可能です。例えばあるスマホRTKサービスでは、ハードウェアを購入すれば専用アプリは無料、クラウド機能は月額利用とすることで、導入時のハ ードルを極力下げています。こうした徹底したコスト削減により、「高精度測位=高額投資」の常識が覆りつつあります。
以上の理由から、スマホRTKを活用すれば実質的に初期投資ゼロ円に近い形でセンチメートル測位を始めることができます。もちろん厳密にはデバイス購入費や通信・サービス利用料は発生しますが、それでも従来比で圧倒的な低コストであることは間違いありません。高精度測位の恩恵を、小さな現場や限られた予算のプロジェクトでも気軽に享受できる時代が到来したのです。
現場で広がるスマホRTK活用シーン
それでは、こうした手軽な高精度測位が実際の現場でどのように役立つのか、具体的な活用シーンを見てみましょう。建設・土木・測量の様々な業務において、スマホRTKは生産性向上の切り札となり得ます。
• 現地調査・測量: 測りたい ポイントにスマホ一体型のGNSS受信機を持って行き、ボタンを押すだけでその地点の緯度・経度・高さを記録できます。測位結果は日本の平面直角座標系やジオイド高にも自動変換されるため、従来は手間だった座標変換作業も意識する必要がありません。測ったデータには日時やメモも付けられ、現場で得た情報をその場でデジタル記録できます。広い敷地の地形測量でも、1人でテンポ良く点を拾っていけるため、測量にかかる日数を大幅に短縮できます。
• 施工での墨出し・出来形管理: 設計図や施工データ上の座標をスマホに取り込んでおけば、現地でその位置まで誘導してくれる位置誘導機能も活用できます。従来は測量士が二人一組で行っていた丁張設置や杭打ちの位置出し作業も、スマホRTKがあれば単独で正確にこなせます。出来形(完成形状)の計測でも、高精度な位置情報付きの写真や点群データを取得しておけば、仕上がりを後からオフィスで詳細に確認できます。経験と勘に頼っていた現場管理が、データに基づく客観的な管理へと進化するのです。
• 点群計測・3D記録: スマホカメラや対応するセンサーを用いて周囲をスキャンし、3次元の点群データを生成することも可能です。各点には高精度 な座標が付与されるため、簡易的な地形モデルや構造物の変位計測などにも活用できます。例えば掘削前後の地表面をスキャンして土量を自動計算したり、出来形の3Dモデルを作成して出来高を算出するといったことも手軽に実現できます。
• ARによる施工支援: スマホRTKで得た自己位置を基に、設計データを現実空間に重ねて表示するAR(拡張現実)技術も実用化が進んでいます。地下に埋設された管やケーブルの位置を現場でAR表示して掘削作業を支援したり、完成予定の構造物モデルをその場に投影して出来上がりをイメージするといった使い方です。高精度な位置合わせが必要なARも、スマホRTKならではのセンチメートル精度によって実現性が高まります。
• データ共有と即時フィードバック: スマホRTKソリューションの多くはクラウドサービスと連携しており、現場で取得したデータをその場でクラウドにアップロードできます。オフィスにいる管理者や設計担当者は、ウェブ上の地図で最新の測量結果や写真を即座に共有・確認できます。これにより「測って終わり」ではなく、「測ったその場から次の意思決定に活用する」というリアルタイムな現場運用が可能になります。現場とオフィスの情報連携がスムーズになることで、手戻りの削減や報告業務の効率化にもつながっています。
このように、スマホRTKの活用シーンは多岐にわたります。一人一台のスマホが万能測量機となることで、現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)が一気に加速すると言っても過言ではありません。人手不足やベテラン技術者の減少に直面する建設業界において、手軽で正確な測位ツールは生産性向上と品質確保の両面で強力な武器となるでしょう。
LRTKで始める簡単測量
最後に、スマホRTKの具体的なソリューション例としてLRTKをご紹介します。LRTKは「いつでも、どこでも、誰でもRTKを活用できる」をコンセプトに開発された新世代のRTK-GNSSシステムです。難しい操作や専門知識は一切不要で、スマートフォンにデバイスを装着して専用アプリの「測位開始」ボタンをタップするだけで、高精度測位がスタートします。補正情報の取得も非常に簡単で、アプリ上でネットワーク型RTK(NTRIP)に接続したり、みちびきCLASモードに切り替えたりと、ワンタッチで設定可能です。測位中のデータはリアルタイムにク ラウドへアップロードできるため、現場で測った情報がそのままオフィスと共有され、即座に活用できます。現場の技術者がスマホ感覚で扱える民主化された高精度測位ツールとして設計されており、「誰でも簡単に使える測量機」を実現した点が画期的です。
LRTKのハードウェアはバッテリー・アンテナ一体型の超小型受信機で、スマートフォンと組み合わせても片手で持てるコンパクトサイズです。耐久性や測位精度も現場での利用に充分な仕様となっており、まさにポケットに入るRTK測量機と言えるでしょう。ハードは買い切り型でコストを抑え、必要なクラウドサービスはサブスク利用できるため、初期投資を限りなくゼロに近づけて導入できる点も大きな魅力です。「高精度測位をもっと身近に」という思いから生まれたLRTKなら、専門機材がなくても今日から手軽にセンチメートル測位を体験できます。ぜひこの機会に、みちびき対応スマホRTKの力を実感してみてはいかがでしょうか。あなたの現場にも、LRTKで始める新しい測量スタイルがきっと大きなメリットをもたらすはずです。
LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上
LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。
LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。
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