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みちびき(準天頂衛星システム)とは?土木測量プロが知っておくべき基礎知識

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万能の測量機LRTKの説明

イントロダクション: 近年、土木測量や建設現場で頻繁に耳にするようになった「みちびき」という言葉をご存知でしょうか?みちびきとは、日本が独自に構築した衛星測位システム(準天頂衛星システム)の愛称であり、その名には「道を導く」という意味が込められています。GPSを補完・強化して日本全国で安定した測位を可能にすることを目的に導入されたシステムです。従来、単独のGPSによる測位精度は約10m程度と言われていましたが、みちびきを活用することで測位精度が飛躍的に向上し、状況によっては数cmレベルの高精度な位置情報を得ることも可能です。本記事では、みちびき(準天頂衛星システム)の概要から、最新のセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)の特徴、そして現場での活用方法まで、測量技術者が知っておくべきポイントを基礎からわかりやすく解説します。なお、土木測量のプロフェッショナルにとって、みちびきの基本知識を押さえておくことは、これからの高精度測位時代に対応する上で欠かせません。


準天頂衛星システム「みちびき」とは

みちびき(英: QZSS:Quasi-Zenith Satellite System)とは、日本版GPSとも呼ばれる我が国の衛星測位システムです。その最大の特徴は、「準天頂」と呼ばれる特殊な軌道を採用している点にあります。準天頂軌道に投入された衛星は日本のほぼ真上(天頂付近)に長時間滞在するよう設計されており、山間部やビル街などでも常に高仰角で衛星信号を受信しやすくなります。現在(2020年代後半)、みちびき衛星は4機体制で運用され、日本全国をカバーしています。さらに7機体制への拡充が予定されており、2025年前後にはみちびき単独でも測位が可能なシステムとなる見込みです。


もともとGPS衛星は米国が運用する全球測位システムで、日本でもカーナビや測量機器に広く利用されてきました。しかしGPS衛星は地球を周回する軌道の関係で、上空に見える衛星の数や位置は時間や場所によって変動します。たとえば山あいの現場や高層ビルに囲まれた街中では、時刻によっては視界に入るGPS衛星が不足し、位置を求められない「衛星遮蔽」の状態になることもありました。そこで登場したのが準天頂衛星システム「みちびき」です。日本専用に設計されたこのシステムは、GPSを補完して常に十分な衛星数を確保する役割を担います。みちびき衛星からの信号をGPSと併用することで、衛星配置の偏りを補正し、どんな時間でも安定的に測位できる環境を実現します。特に日本付近に特化した軌道設計のため、日本国内での測位精度と可用性の向上に大きく貢献しています。


RTK測位と従来の高精度化手法

みちびきが登場する以前、現場でセンチメートル級の高精度測位を行うには、RTK(Real-Time Kinematic)測位という手法が一般的でした。RTK測位では、既知の正確な座標を持つ基地局と、移動しながら位置を測定する移動局(ローバー)の2地点で同時にGNSS衛星信号を受信します。そして両者の観測データを比較し、電波が大気を伝搬する中で生じる誤差をリアルタイムに補正することで、移動局の位置を数cmの精度で算出します。通常、RTKでは水平位置で約2~3cm、鉛直方向で約4~5cm程度の誤差に抑えられ、数秒以内という短時間で高精度な解(固定解)を得られることが知られています。


しかしRTK測位を安定して行うためには、基地局から継続的に誤差補正情報を送り続けてもらう必要があります。当然ながら基地局が設置されていない環境ではRTK測位自体が成立しません。そのため、従来の高精度測位では以下のような方法で補正情報を入手していました:


ローカル基地局方式(スタンドアロン型RTK): 測量現場付近の既知点にユーザー自身が基地局用GNSS受信機を設置し、UHF帯の無線などを用いて移動局に補正データを送信する方法です。比較的シンプルな構成ですが、現地に基地局機器を設営する手間や、無線通信の距離制約があります。また基地局から遠く離れると補正精度が低下し、おおむね10km以上離れると誤差が大きくなる点もデメリットです。

ネットワーク型RTK方式(Ntrip/VRS方式): インターネット経由で補正情報を取得する方法です。たとえば国土地理院が運用する電子基準点網(約1300か所)など複数の基準局データを利用し、利用者周辺の仮想基準点(VRS:Virtual Reference Station)での補正情報を生成して配信します。ユーザーは移動局側で携帯回線を通じNtripクライアント(専用アプリや測量機の機能)を用いてこのデータを受信し、高精度測位を行います。この方式では自前の基地局設置が不要となり、基準局からの距離による精度低下も事実上解消されるため、ローカルRTKより効率的です。ただし補正情報配信サービスへの加入が必要であり、月額・年額の利用料金が発生します。また携帯通信網を利用するため、電波圏外の環境では測位ができないという制約もあります。


以上のように、従来は「基地局を用意する」か「通信インフラ経由で補正情報を入手する」いずれかの手段がなければ、現場でリアルタイムにセンチメートル精度を得ることは困難でした。山奥の測量現場や電波環境の悪い地域、さらには大規模災害で基地局や通信が寸断された状況では、残念ながらリアルタイム測位を諦めるか、後日オフィスでデータ処理を行う後処理解析(PPPなど)に頼らざるを得なかったのです。


みちびきの「センチメートル級測位補強サービス(CLAS)」とは

こうした中、2018年以降に運用が開始されたのがみちびきのセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)です。CLAS(Classと発音: シーラス)は、その名の通り誤差数cm以内の精度で位置を測定するための補強情報を提供するサービスで、日本全国を対象に準天頂衛星(みちびき)から配信されます。平たく言えば「衛星を使ったRTK補正情報の放送サービス」であり、みちびき導入によって実現した最新技術です。


CLASは技術的にはPPP-RTK(Precise Point Positioning-RTK)と呼ばれる方式を採用しています。国土地理院の電子基準点ネットワーク(GEONET)から全国のGNSS観測データを集約し、国側で衛星軌道誤差や時計誤差、電離圏・対流圏遅延などの誤差情報を計算します。それら補正情報をパッケージ化して、みちびき衛星のL6帯電波(L6D信号)に乗せて送信するのです。ユーザー側はCLAS対応のGNSS受信機を使ってL6D信号を受信し、自分の測位データに補正を適用することで、リアルタイムに数cmの高精度位置を得ることができます。


従来のRTK方式と比べたCLASの画期的な点は、「ユーザーが自分で基地局を用意しなくて良い」こと、そして「補正情報取得のために通信回線(インターネット等)を必要としない」ことです。基準局(電子基準点)は国が整備・運用するものを仮想的に利用し、その誤差補正情報が上空のみちびき衛星から直接降ってくるイメージです。したがってユーザー側は現地で基地局を設営する手間も、スマホの電波が届くか心配する必要もありません。日本国内であればどこでも統一された補強情報を無料で受信できるため、山間部や離島・沖合といった通信が届きにくい場所でも高精度測位を実現できます。実際、*2023年の能登半島地震*では被災地で携帯通信網が遮断される中、CLAS対応の小型RTK受信機が活躍し、現地測量に大きな威力を発揮しました。非常時のバックアップとしても、みちびきCLASは極めて有用と言えるでしょう。


この他にも、みちびきCLASの導入によって得られるメリットは多岐にわたります。代表的なポイントを挙げると次のとおりです。


基地局設置や有料サービス契約が不要: 従来は高精度測位のために高額な基地局機器を購入したり、民間の補正情報サービス(月額数万円~)に加入する必要がありました。CLASの登場により、こうした初期投資やランニングコストの大幅削減が可能です。特に自社で測位インフラを整備する余裕がなかった中小規模の土木会社・測量事務所にとって、高精度測位へのハードルが一気に下がる恩恵は計り知れません。

通信環境に依存しない安定測位: CLASは衛星経由で補正情報を受信できるため、地上の携帯電話網や無線LAN環境に左右されません。例えば深い山林やトンネル坑口付近の測量、遠洋の海上測位、さらには災害直後の被災地など、これまでリアルタイム測位が難しかった場所でもCLAS対応機器さえあればセンチメートル級測位が可能となります。

広域移動や複数現場での一貫した測位: 日本全国をカバーする衛星配信サービスのため、測位中に場所を大きく移動しても一貫して利用できます。例えば高速道路や鉄道のインフラ点検・巡回作業で長距離を移動する場合や、広大な敷地の測量を行う場合でも、途中で基地局を移設したりVRSのエリア切替を意識する必要がありません。上空の視界さえ確保できていれば、どこでもリアルタイムに補正情報を受け取り続けられます。この特長は、ドローン測量や移動車両搭載型の計測(MMS:モバイルマッピングシステム等)にも有効で、広範囲を連続的に測位・センシングするユースケースを後押しします。

多様な分野への応用拡大: 建設測量やICT施工の現場では、設計座標に基づく出来形管理や重機のマシンガイダンスなどセンチメートル級の位置情報が欠かせません。CLAS対応機器を用いれば、山間部のトンネル坑口やダム建設現場のように通信が不安定な環境下でも、高精度な出来形測定や測量計画が行えます。また鉄道・道路の巡回点検では、作業員が携行する受信機で軌道や路面の変位をモニタリングしたり、橋梁点検時に写真に高精度な位置タグを付与する、といった使い方も可能です。さらには農業分野(自動トラクターによる精密農業)や、港湾・海洋調査(海上での測位)など、従来ネットワークRTKの整備が難しかった領域でもCLASが役立つでしょう。このように、みちびきCLASは土木測量・建設からインフラ保全、災害対応、農業まで幅広い分野で活用が期待されています。


CLASを利用するために必要な機器

前述のように、CLASは魅力的なサービスですが利用には専用のGNSS受信機が必要です。一般的なGPS受信機やスマートフォン内蔵のGPSではL6帯のCLAS信号を受信できないため、高精度測位対応と明記された機器を用意する必要があります。近年では各メーカーから準天頂衛星対応の測位機器が登場しており、中にはスマートフォンと連携できる小型のCLAS対応受信機も現れています。こうした新世代のGNSS受信機を活用すれば、従来は据え置き型の大型機材が必要だったRTK測位を、より手軽に現場へ導入することが可能になっています。


特に注目されているのが、スマホと一体化して使える超小型RTK受信機「LRTK」です。LRTKは東京工業大学発のスタートアップ企業レフィクシア社が開発したデバイスで、アンテナ・受信機・バッテリー・通信モジュールをオールインワンで内蔵したポケットサイズの高精度GNSS受信機です。専用のスマホケースに装着してBluetooth等で接続することで、普段お使いのスマートフォンがそのままセンチメートル精度の測量機器に早変わりします。みちびきを含むマルチGNSS(GPS・GLONASS・Galileo・北斗)複数周波数に対応しており、もちろんみちびきのCLAS信号(L6帯)にも対応済み。そのため都市部のビル街や山間部でも多くの衛星を捉えて高信頼な測位ができ、携帯の電波が届かない現場でも単独でセンチメートル級精度を出せる点が大きな強みです。またLRTKシリーズにはスマホ装着型の「LRTK Phone」だけでなく、据え置き利用向けの「LRTK Pro2」やヘルメット取付型などのバリエーションがあり、現場のニーズに応じて選択できます。いずれも建設現場での過酷な使用に耐える防塵・防水性能を備えており、中でもLRTK Pro2は傾斜補正機能を搭載しているためポールを傾けた状態でも先端の正確な座標を取得可能です(障害物を避けて測点を測る際に有効)。このように、LRTKの登場によって「誰でも持ち運べてすぐ測れる」高精度測位の実現に一歩近づいたと言えます。


LRTKを使った簡単な測量手順

では、実際にLRTKを使って測量を行うにはどのような手順になるのでしょうか。驚くほどシンプルな流れで高精度測位が始められます。


LRTKデバイスを用意・装着: あらかじめLRTK受信機をスマートフォンに取り付けておきます。超小型軽量のため、特別な機材設置は不要です。現場に着いたらスマホに装着されたLRTKの電源を入れます。

測位アプリを起動: 専用のスマホアプリを立ち上げ、GNSS受信を開始します。みちびきのCLAS信号をキャッチできる空が開けた場所であれば、すぐに複数の衛星を捕捉しはじめます。

高精度測位の開始: 衛星からの測位信号とCLAS補強信号の受信が安定したら、リアルタイムに高精度な位置情報が算出されます。初期収束に多少時間(数十秒~1,2分)がかかる場合もありますが、ほどなくして数cm内の測位解が得られます。あとは測りたい点にポール先端を合わせてアプリ上で記録ボタンを押すだけで、センチメートル精度の座標をクラウド上に保存できます。

測量データの共有・活用: 計測した点の座標データはスマホからそのままクラウド経由で共有可能です。オフィスのPCで即座に座標リストや測量図に反映させたり、重機の施工データに取り込むこともスムーズに行えます。


以上のように、LRTKを活用すれば煩雑な基地局設営や通信設定を行うことなく、現場に到着してすぐに測量作業に取り掛かることができます。専門的な教育を受けていない作業員でもスマホ感覚で扱えるため、人手不足が懸念される建設・測量業界において、新人や他分野の技術者でも直感的に扱える点も現場導入を後押しするでしょう。高精度な衛星測位をこれまで以上に身近にするLRTKは、国土交通省が推進する*i-Construction*(建設現場の生産性向上施策)にも最適なソリューションです。みちびきとLRTKの組み合わせにより、測量現場の精度と効率は飛躍的に向上すると言っても過言ではありません。ぜひこの機会に、次世代の測位技術を現場に取り入れてみてはいかがでしょうか。


LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上

LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。

LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。

 

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こちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。ぜひLRTKで、貴社の現場を次のステージへと進化させましょう。

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