近年、レーザー光を用いたLiDAR(ライダー)スキャンは、測量やマッピング、自動運転など様々な分野で注目を集めています。中でも、「長距離LiDARスキャン」は広範囲の地形や構造物を高速かつ高精度に計測できる技術として期待されています。しかし、高性能な3Dレーザースキャナーを導入する際には、その「導入費用」や適切な機種選定、運用上の注意点を十分に理解しておく必要があります。誤った機種選定を行うと期待した精度が得られなかったり、過剰な投資につながったりするため、事前に情報を整 理しておくことが肝心です。
そこで今回は、長距離LiDARスキャン導入にかかる費用の目安や、用途に応じた機種の選び方、さらに運用時の注意点について解説します。
目次
• 長距離LiDARスキャンとは?
• 長距離LiDARスキャン導入にかかる費用
• 長距離LiDARスキャンの主な用途
• 用途に応じたLiDAR機種の選定ポイント
• 長距離LiDARスキャン導入時の注意点
• まとめ
長距離LiDARスキャンとは?
LiDAR(Light Detection and Rangingの略)はレーザー光で対象物との距離を測定し、周囲の形状を三次元データとして取得する技術です。レーザーを照射し、反射して戻ってくるまでの時間から距離を算出する原理で、これにより無数の測定点からなる点群データを生成できます。現在のLiDARスキャナーは1秒間に数十万回ものレーザー照射と測距を行えるため、広い空間でも短時間で高密度のデータを取得できる点が特徴です。いわばLiDARはレーザーによる測距センサーであり、このセンサーと回転機構や制御ソフトウェアなどを組み合わせたものが3Dレーザースキャナーです。そして長距離LiDARスキャンとは、その名のとおり数百メートルから数キロメートル先までの遠距離を計測できるタイプのLiDARスキャナーを用いた計測を指します。
一般的に長距離計測を可能にするLiDARでは、高出力のレーザー光を断続的(パルス状)に照射して時間差を測るTime-of-Flight方式が採用されます。パルス方式はレーザーの減衰に強いため、広い範囲の地形測量や上空からの測定、遠方にある構造物の計測に適しています。一方で、建物室内の詳細計測など近 距離で高精度が要求される場合には、連続波の位相差を利用するフェーズシフト方式が用いられることもあります。このようにLiDARには用途に応じた方式の違いがありますが、広域を効率よく三次元化できる点で長距離LiDARスキャンは他の計測手法にない利点を持っています。例えば、アクセスが困難な地形や高所にある対象物でも、遠距離から安全に計測できることから、土木測量やインフラ点検などで活躍しています。
長距離LiDARスキャン導入にかかる費用
長距離LiDARスキャンを導入する際、最も大きな費用要素となるのはLiDARスキャナー本体の購入費です。LiDAR機器の価格はタイプや性能によって大きく異なり、簡易的な短距離向けモデルから、高性能な広範囲計測対応モデルまで幅広い価格帯にわたります。特に数百メートル以上の距離を高精度で測定できるプロ向けLiDARスキャナーは高度なセンサーと光学系を備えており、一般にかなり高額な傾向があります。例えば、片手で持ち運べる小型ハンディタイプのLiDARは低価格な反面、対応できる測定距離や精度に限界があります。逆に、遠距離用に複数のレーザー発振器や高感度センサーを搭載した据え置き型の大型スキャナーは非常に高価ですが、その分長射程と高精度を両立しています。一方で、測定距離や精度を限定すれば比較的安価な製 品も存在するため、自社の用途に見合った性能と費用のバランスを見極めることが重要です。
また、機器代以外にも導入には様々なコストが伴います。例えば、取得した点群データを処理・解析するためのソフトウェアライセンス費用が発生する場合があります。LiDARスキャナー専用の解析ソフトやCADソフトウェアは有償のものも多いため、必要な機能と費用を事前に確認しておきましょう。さらに、計測に用いるターゲット(標定点)や反射板、防塵フィルターなどの消耗品、機材を設置する三脚や固定具といった付属品にもコストがかかります。高精度な測位のためにGNSS受信機やIMU(慣性計測装置)を併用する場合は、その購入費や利用料も考慮が必要です。
そして忘れてはならないのが保守・サポート費用です。高価な精密機器であるLiDARスキャナーは、定期的なキャリブレーションや点検を行うことで精度を維持します。メーカーや販売代理店によっては保守契約やサポートサービスが提供されており、問い合わせ対応やソフトウェアアップデート、修理時の対応などの安心を得られる反面、それらにも年間契約費等のコストが発生します。導入前に、購入費だけでなく運用開始から維持管理まで含めた総合的なコストを試算し、予算計画を立てておくことが大切です。
頻度や規模によっては、思い切って購入するよりもレンタルや外部の計測サービスを利用する方がコスト効率に優れる場合もあります。自社で継続的に活用する計画なのか、一度限りのプロジェクトなのかを見極めて判断しましょう。また、近年は3D計測機器の導入に対する補助金や助成制度が設けられているケースもあります。そうした制度を活用できれば、初期費用の負担を幾分軽減することも可能です。
長距離LiDARスキャンの主な用途
長距離LiDARスキャンは、その広範囲を一度に計測できる特性から、多様な分野で活用されています。代表的な用途の一つが測量・土木分野です。広域の地形測量では、従来の人力による測量では困難な山林や急斜面の地形も、遠距離から安全に計測できます。取得した高密度な点群データは、地形図の作成や土木設計の基礎資料として役立ちます。また、橋梁やトンネル、ダムといったインフラ構造物の点検にもLiDARスキャンが用いられています。老朽化した構造物の変形やひび割れを非接触で計測し、維持管理に活かすことがで きます。建築分野でも、歴史的建造物や高層ビルの外観を遠距離からスキャンして3Dモデル化することで、現況の記録や改修計画の資料とする取り組みが行われています。
一方、モビリティの分野では、自動運転車やドローンにLiDARが搭載され、周囲環境の検知に利用されています。自動運転ではLiDARセンサーが車両の「目」となり、前方の歩行者や障害物を数百メートル先まで検知して安全な走行を支援します。また、上空からの広域観測にもLiDARが活躍しています。例えば森林資源調査ではドローン搭載型のLiDARを用いて森林の樹高や植生密度を測定したり、防災分野では河川堤防や山腹の地形を航空レーザースキャンで把握して土砂災害のリスク評価に役立てたりしています。このように、長距離LiDARスキャンは地上から空中まで幅広い場面で利用され、遠隔計測による作業リスク低減や短時間での現況把握といった効率化を実現し、安全性・生産性の向上に大きく寄与しています。
用途に応じたLiDAR機種の選定ポイント
長距離LiDARスキャナーを選定する際は、自社の用途や現場条件に合った機種を選ぶこと が重要です。なお、3Dレーザースキャナーは大きく、固定設置して高精度計測を行う「地上据え置き型」、人や車両が移動しながら計測できる「モバイル型」、そして空中から広範囲を測れる「ドローン搭載型」に分類できます。それぞれ精度や適用範囲、計測スピードに違いがあるため、自社の目的に合ったタイプを選ぶことも肝要です。闇雲に高性能な機種を導入しても、必要以上の投資になったり、逆に廉価な機種では性能不足で業務に支障をきたす恐れもあります。まずは求める計測精度と範囲を明確にしましょう。例えば、橋梁の変形計測や精密な出来形管理といったミリ単位の誤差も許されない用途であれば、三脚に据え付けるタイプの高精度スキャナーが必要になります。一方、おおまかな土量計算やリフォーム前の現況把握程度であれば、数センチ程度の精度が出せるモバイル型(移動しながら計測できるタイプ)のスキャナーでも十分なケースがあります。また、1平方メートルあたりに取得したい点群密度も基準の一つです。密度を上げれば詳細な形状まで表現できますが、その分データ量が増え、処理負荷も高まります。後の活用シーン(設計ソフトへの取り込みやBIM連携など)を見据えて、過不足ない精度・密度を満たす機種を選ぶことが大切です。
次に、使用環境への適応性も考慮しましょう。主な現場が屋外であれば、防塵・防水性能(IP等級)の高い機種や、温度・湿度変化に強い設計のものが望ましいです。粉塵が舞う工事現場や雨天下でも安定して動作できるかは、実際の運用で大きな差となります。また、計測対象の材質にも注目してください。黒色のアスファルトや炭素繊維はレーザーを吸収しやすく、ガラスや鏡面は光を反射・透過してしまうため、機種によってはうまく測れないことがあります。最近のLiDARでは複数回反射を取得するマルチリターン機能や、受光センサーの高感度化により低反射物体への対策が進んでいますが、主要な対象物に対して十分なデータが得られる性能か確認しておくと安心です。なお、機材の大きさや重量も実運用上の重要な要素です。ドローン搭載であればペイロード(搭載重量)制限や飛行時間への影響、車載利用であれば取り付けスペースや振動対策にも留意する必要があります。
最後に、データ処理や既存業務フローとの適合も重要なポイントです。3Dスキャンで得られる点群データは膨大なサイズになるため、高性能なパソコンや専用ソフトウェアが必要になります。導入を検討する際には、スキャナー本体のスペックだけでなく、そのデータをどう処理し活用するかまで含めて計画しましょう。具体的には、スキャナーが出力するデータ形式が自社のCADソフトやBIMソフトと互換性があるか、点群合成やノイズ除去のツールは揃っているか、といった点です。必要であればクラウド型の点群処理プラットフォームや、外部の解析サービスの活用も視野に入れてください 。計測からデータ活用までの流れをトータルで検討することで、機種選定における真のコストパフォーマンスを見極めることができます。
長距離LiDARスキャン導入時の注意点
長距離LiDARスキャンを導入・運用する際には、いくつか留意すべきポイントがあります。まず、計測精度とキャリブレーションに関する注意です。LiDARスキャナーの性能はカタログスペック上では高精度でも、実際の現場では環境要因によって精度が左右されます。測定前には機器を正しく校正し、必要に応じてメーカー推奨の手順でウォームアップやキャリブレーションターゲットを用いた確認を行いましょう。また、長距離の測定ではレーザー光が拡散しやすくなるため、遠距離では誤差が大きくなりがちです。重要な計測では対象物に近づいて追加スキャンを行う、複数の位置からデータを取得して点群を重ね合わせる(複数スキャンの統合)といった工夫で、精度低下や死角を補うことができます。
次に、安全性と法規制にも注意が必要です。LiDARが発するレーザーは通常、不可視光であり適切に使用すれば人の目に害がないクラ ス1レーザーがほとんどですが、機種によっては出力が強いため直接覗き込まない、周囲の人に配慮する、といった基本的な安全対策を守ることが大切です。特にドローンにLiDARを搭載する場合は、飛行に関する法律や許可申請を遵守し、安全な運用計画を立てましょう。人口密集地での上空レーザースキャンでは、周辺への周知やプライバシーへの配慮も欠かせません。
さらに、計測対象の材質によっては点群データに欠損が生じる場合があります。黒色塗装の面やガラス・水面などは反射が弱いため、取得点が減少したりノイズが増えたりすることがあります。必要に応じて写真撮影による補完や、別角度からのLiDAR再計測を行い、データ欠損を補うようにしましょう。
また、データ処理と運用体制の面でも事前の準備が求められます。高精細な点群データはファイルサイズが非常に大きく、数時間の計測で数十GBに達することも珍しくありません。現場で取得した直後はノートパソコンでは開けないほど重たい場合もあるため、オフィスに持ち帰ってから専用PCでの処理やデータ軽量化が必要になります。データ管理の手順(ファイル名の整理、バックアップ、クラウド共有など)もあらかじめ決めておくと、後の作業効率が上がり ます。加えて、LiDARスキャンを扱う人材の育成も重要です。高度な機器であっても、適切な操作方法や点群解析の知識がなければ宝の持ち腐れになりかねません。導入時にはメーカーや販売店による講習を受けたり、熟練者からノウハウを共有してもらったりして、現場で機器を最大限活用できる体制を整えましょう。
まとめ
長距離LiDARスキャンは、従来困難だった大規模空間の三次元計測を可能にし、測量からインフラ管理、自動運転まで幅広く社会に貢献する技術です。その導入には機器コストや専門知識が必要ですが、用途に合った機種選定と十分な準備を行えば、計測業務の効率化や高度化に大きく寄与するでしょう。本記事で述べたように、導入費用を検討する際は機器本体だけでなくソフトウェアや運用コストまで含めて総合的に判断し、また使用目的に応じた最適なスキャナーを選ぶことが成功の鍵となります。現場での安全管理やデータ活用の計画もしっかり立て、最新技術を現場に定着させていきましょう。
なお、近年ではスマートフォンを活用した新たな計測手法も登場しています。例えば、LRTKというiPhone装着型の高精度GNSS測位デバイスを利用すれば、スマートフォンで取得した点群データにセンチメートル級の位置情報を付与することが可能です。これにより、専用の高額な機材を用いずとも手軽に高精度の測量が行えるようになりつつあります。実際に、LRTKとスマホ内蔵LiDARを組み合わせて斜面や橋脚をスキャンし、詳細な3D点群データを取得するといった事例も登場しています。長距離LiDARスキャンの導入を検討する際は、こうした最新ソリューションも視野に入れることで、費用対効果の高い運用方法が見つかるかもしれません。長距離LiDARスキャンを正しく導入すれば、これまで手作業で時間を要していた計測業務が飛躍的に効率化され、精度の高いデータに基づく意思決定が可能になります。最新のデジタル技術を積極的に活用し、現場のDXを推進していきましょう。
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