LiDAR(ライダー)は、レーザー光を対象に照射し、その反射光が戻ってくる時間から距離を測定するリモートセンシング技術です。高速で発射したレーザーパルスの往復時間を計算することで、周囲を点の集合(点群データ)として3次元的に記録できます。そのため、LiDARを用いた3Dスキャンは土木測量、建設、インフラ管理、都市計画、自動運転、さらにはメタバースやデジタルツインの構築まで幅広い分野で活用が進んでいます。従来の多くのLiDARセンサーは有効範囲がおよそ100m程度でしたが、技術の進歩により長距離LiDARスキャンが可能なセンサーも登場してきました。では、長距離にレーザーを照射して実際にどこまで測れるのでしょうか。また、そのような長距離測定ではどの程度の精度が得られるのでしょうか。本記事では、長距離LiDARスキャンの到達距離と精度について、目安となる数値や知っておきたいポイントを解説します。
目次
• 長距離LiDARスキャンとは?
• LiDARの到達距離を左右する要因
• LiDARの測定距離の目安
• 長距離LiDAR計測の精度
• 長距離LiDARスキャンの活用例
• 長距離測定で精度を確保するポイント
• まとめ
長距離LiDARスキャンとは?
LiDARの性能指標の一つに「測距可能距離」、つまりどれだけ遠くの対象まで計測できるかという項目があります。LiDARは直進性の高いレーザー光を使うため、本来遠距離の対象物でも距離を直接測定できるポテンシャルを持ちます。しかし、多くのLiDARでは安全基準や出力の制約上、従来は100m前後が一般的な有効範囲でした。近年ではセンサー性能の向上により、条件次第で200m近くまで測定可能な長距離対応LiDARも現れています。なお、最近では最大約200m先まで捉えられるセンサーを「200m LiDAR」と称することもあり、遠距離から高精細な点群データを取得できる技術の象徴となっています。この長距離LiDARスキャンにより、一度に取得できる点群の範囲が大幅に広がり、広大な敷地や高層構造物を少ない設置箇所で効率よくスキャンすることが可能になりつつあります。言い換えれば、長距離LiDARスキャンとは、従来は困難だった数百メートル先の対象物をレーザーで計測し、高精度の3D点群データとして取得できる技術を指します。
LiDARの到達距離を左右する要因
LiDARが遠くまで測定できるかどうかは、センサーのハードウェア性能と周囲の環境要因によって決まります。まず大きな要素はレーザー光の出力と波長です。レーザーを強く照射すれば遠くの物体からも反射を得やすくなりますが、同時に人間の目に対する安全基準(アイセーフ)を満たす必要があります。一般に905nm帯のレーザーは人の網膜に達しやすいため出力に制限がありますが、1550nm帯の赤外線レーザーを用いることで、高出力でも安全に到達距離を延ばす技術が登場しています。また、LiDARの受光センサーの感度も重要です。距離が延びるほど戻ってくる反射光は微弱になるため、高感度な受光素子(例えばアバランシェフォトダイオード等)やノイズを低減する巧みな信号処理によって、微かな信号を正確に検出できるかどうかが最大測定距離を左右します。
さらに、対象物側の性質も影響します。白色や金属のように反射率の高い物体は遠方からでも検出しやすい一方で、黒色やマットな表面はレーザー光を吸収しやすく有効距離が短くなります。大きな面積を持つ対象物は反射エネルギーが多いため遠くからでも捉えやすいですが、小さく細い対象物は距離が離れるにつれて検出が難しくなります。加えて、大気中の条件も到達距離に影響します。空気が澄んでいればレーザーは遠くまで届きますが、霧や雨、粉塵があると光が散乱・減衰してしまい、有効範囲が大幅に減少します。強い日射しの下ではセンサーが受け取る背景ノイズが増えるため、検出感度が下がる要因となります。したがって、LiDARの到達距離はセンサー性能だけでなく、対象物の性質や周囲の環境条件によっても大きく変動するのです。
なお、LiDARの視野角や走査方式も間接的に測定距離に影響します。一度に広い視野をカバーできるLiDARは便利ですが、同じ出力でも光を広範囲に拡散する分、一方向あたりに割けるエネルギーが低下し、結果として最大検出距離が短くなる場合があります。逆に視野を限定して集中的に測距するセンサーは、その分だけ遠くまで届く傾向があります。目的に応じて適切なセンサーを選定することも、長距離計測には重要です。
LiDARの測定距離の目安
LiDARセンサーの到達距離は機種や用途によって大きく異なりますが、ここでは目安となる一般的な距離範囲を紹介します。現在市販されている地上設置型の3Dレーザースキャナー(地上LiDAR)の多くは、有効範囲がおおむね100~200m程度です。自動運転車向けの車載LiDARでも、最新のものは約200m先の障害物まで検知できる性能を持ちます。
航空機やドローンに搭載する空中計測用LiDARの場合、飛行高度が数百メートル~数千メートルに及ぶため、地上まで届く高出力レーザーが用いられます。一般的なドローン搭載LiDARでも100~300m程度の高度から地形を測量できますが、有人航空機に積む大規模な航空LiDARでは1,000m以上先の地表面をスキャンするケースもあります。
特別に長距離性能を追求したLiDARシステムでは、さらに遠方までの測定も可能です。高出力レーザーと大型の受光光学系を備えた測量用LiDARには500mや1km以上のレンジを持つ機種も存在します。中には最大4,000m先まで測距できると謳う地上レーザースキャナーの事例もあります。特定条件下では2~3km先の対象を捕捉できたという報告もあります。ただし、これほどの超長距離計測はあくまで特殊なケースであり、通常の実務では数百メートル程度が現実的な上限と言えるでしょう。一般的な目安として、LiDARは良好な条件下で数百メートル先まで測定可能であり、それ以上の距離を必要とする場合には専用の高性能機器や特別な手法が求められます。
なお、LiDARの検出可能距離を超える領域では、電波を用いるレーダーによる検知が補完的に利用されることもあります。 レーダーは数km以上先まで届き悪天候にも強い一方、測距精度や解像度はLiDARに劣るため、近〜中距離の精密計測にはLiDAR、超長距離での概略検知にはレーダーといった使い分けがなされています。
長距離LiDAR計測の精度
LiDARによる距離計測の精度は非常に高く、長距離であっても基本的には数センチ以内の誤差に収まります。最新の高性能LiDARセンサーでは、近距離では数ミリ~1cm程度の精度を達成するものもあり、距離が100m程度離れても±2~3cm程度の誤差範囲に収まるよう綿密な校正が施されています。つまり、相対距離に関しては数十メートル先でも数百メートル先でもレーザー測定自体の精度はほとんど変わりません。ただし、実際の計測現場では、距離が伸びるにつれて大気の揺らぎやセンサー内部ノイズの影響でわずかに測定ばらつき(ランダム誤差)が増加する傾向があります。それでも、条件が整っていれば遠方でも誤差数センチ程度の高い精度を維持できます。実際、地上に設定した検証用の基準点と取得点群を比較した結果、100m以上離れた対象でも高さ方向の誤差が2cm以内に収まったケースも報告されています。適切な運用のもとでは、長距離においてもLiDARは数センチ程度の誤差で3次元情報を取得できる非常に信頼性の高い手法と言えます。
なお、LiDARの精度にはセンサー内部での距離計測精度(「相対精度」)と、点群を地図座標に合わせた際の精度(「絶対精度」)があります。前者はLiDAR単体で取得した点群内の相対的なずれ量で、上記のように極めて小さい値です。後者は取得した点群全体の位置を既知の基準座標と比較した精度で、測位機器や基準点との調整によって決まります。絶対的な位置精度という観点では、距離測定の精密さだけでなくセンサーの姿勢角度誤差や位置測位誤差も考慮する必要があります。固定設置のLiDARであれば、センサー設置時のわずかな傾きが遠距離で大きな位置ずれとなって現れる可能性があります。また、移動体に搭載したLiDARでは、機体の揺れやIMU(慣性計測装置)のわずかな角度誤差が距離とともに増幅され、点群データの位置合わせに影響します。例えば0.01度の姿勢誤差は、100m先では数センチのずれとなり得るため、長距離になるほどセンサーのキャリブレーションや安定化が重要になります。さらに、遠距離ではレーザーの照射点同士の間隔(角度分解能に対する点群密度)が大きくなるため、小さな対象物や細部形状の再現性は近距離に比べて低下します。こうした理由から、長距離LiDARスキャンで高精度を実現するには、センサー機器の入念な校正、高精度な姿勢測定(高性能IMUやGNSSの活用)、必要に応じて複数視点からの点群統合による補完が欠かせません。
長距離LiDARスキャンの活用例
具体例を挙げると、自動運転車両のセンサーでは高速道路走行を想定して数百メートル先の障害物を検知することが要求されます。レンジの長いLiDARがあれば、高速走行中でも前方の状況を早期に把握でき、安全性の向上に寄与します。特に時速100km以上で走行する場合、約200m先の物体までわずか7秒程度で到達してしまうため、遠方の障害物を事前に捉えて余裕を持って減速・回避するには長距離LiDARによる早期検知が不可欠です。
山間部の地すべり現場や河川・ダム、橋梁などの構造物のモニタリングでは、危険区域に立ち入らず離れた地点から広範囲の地形変化を測量できることが大きな利点です。例えば急峻な斜面に生じた亀裂も、安全な場所からLiDARで遠隔観測して崩壊の兆候を捉えることができます。また、都市全体の3Dマッピングにおいても、高所(高層ビルの屋上やドローンなど)から市街地を俯瞰するようにスキャンすれば、短時間で広域のデジタル地形モデルを取得可能です。従来は多数の測量点を移動していた作業も、長距離LiDARなら一地点から広範囲をカバーでき、都市のデジタルツイン構築に威力を発揮します。
大規模災害時の状況把握では、被災現場に近づかなくても遠方から被害範囲を点群データとして記録でき、迅速な解析と対応に活用できます。例えば豪雨後の洪水被害では、ドローン搭載LiDARで浸水範囲を上空からスキャンし、水没エリアの広がりを即座にマップ化することが可能です。さらには、森林の植生調査や河川流域の地形把握など環境分野においても、広域を効率よく測量できる長距離LiDARの利点が活かされています。航空機搭載LiDARで広大な森林の樹高分布やバイオマス量を面的に計測すれば、従来困難だった森林資源の把握や土砂災害リスク評価の高度化に役立ちます。このように、遠くまで見通せるLiDARスキャンは自動車から社会インフラ、環境・防災に至るまで幅広い領域で活用される有力なソリューションとなっています。
長距離測定で精度を確保するポイント
長距離LiDARスキャンで良好な精度を得るには、いくつかのポイントに留意する必要があります。まず、センサーのキャリブレーションを万全にしておくことが基本です。測定前に機器内部の較正を行い、レーザー発射系と受光系の角度ずれや距離オフセットを可能な限り取り除きます。地上型LiDARの場合は三脚の据え付けを安定させ、水準器で傾きを補正しておくことで遠距離での誤差 蓄積を防げます。移動しながら計測するモバイルマッピングでは、IMUやコンパスによる姿勢角の補正を適切に行い、センサーの揺れや傾きを抑制することが重要です。また、GNSS(全球測位衛星システム)を併用してセンサー自体の高精度な位置情報を取得すれば、取得した点群に即座に正しい絶対座標を付与できます。特にリアルタイムキネマティック(RTK)方式の高精度GNSSを組み合わせれば、長距離スキャンでも各点にセンチメートル級の位置精度を確保でき、後処理で点群同士の位置合わせを行う手間も大幅に削減できます。
次に、測定環境の選定も精度向上に直結します。可能であれば晴天で大気の揺らぎが少ないタイミングを選び、濃霧や雨天は避けるのが望ましいでしょう。強い直射日光下での計測ではセンサーに入るノイズが増えるため、日没前後や夜間にスキャンすることで遠距離における信号対雑音比(S/N比)を改善できる場合もあります。さらに、遠距離では得られる点群が疎になりがちですので、重要な対象物については可能な範囲で近距離から追加計測して細部を補完するといった工夫も有効です。取得後のデータ処理においても、不要なノイズ点のフィルタリングや、複数スキャンの統合(マルチスキャン合成)による点群密度の向上を行うことで、精度と品質を高めることができます。また、高反射シートやプリズムなどのターゲットをあらかじめ遠方の要所に設置しておけば、通常より強い反射が得られるためレン ジ限界付近での測定安定性向上にも役立ちます。そして、計測計画の立案やオペレーターの熟練度も無視できません。対象や現場条件に応じて適切な機器設定やスキャン経路を選択することで、効率的に高精度なデータを取得できます。これらのポイントを押さえることで、長距離LiDARスキャンにおいても信頼性の高い精度を確保しやすくなるでしょう。
まとめ
長距離LiDARスキャンにより、これまで測ることが難しかった遠方の対象も高精度にデジタル計測できる時代が到来しつつあります。到達距離と精度の両面で優れた性能を引き出すには、センサー技術と運用ノウハウの両方が重要ですが、本記事で述べたポイントを踏まえれば数百メートル先までの測量でも十分な精度を確保できるでしょう。一方で、LiDAR計測の裾野はさらに広がっており、高性能機器だけでなく手軽なソリューションも登場しています。その一例がスマートフォンと高精度GNSSの組み合わせです。例えばiPhoneに装着できる高精度GNSS受信機のLRTKを利用すれば、スマートフォン内蔵のLiDARスキャナーで取得した点群にリアルタイムでセンチメートル級の位置情報を付与できます。大掛かりな機材がなくても、現場で取得した点群を即座に地図座標に重ね合わせられるため、長距離LiDARスキャンが難しいようなシーンでも手軽に高精度3D測量を行うこと が可能です。長距離LiDARの活用とこうした新しい技術を組み合わせることで、現場のデジタル化と効率化は今後ますます進んでいくことでしょう。今後もLiDAR技術の進歩によってさらなる長距離化・高精度化が期待されると同時に、必要な機材やオペレーションも簡素化されていくと考えられます。長距離LiDARスキャンを上手に活用して、効率的かつ安全な計測業務を実現していきましょう。
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