近年、3D計測技術として注目されるLiDAR(ライダー)は、レーザー光で周囲の環境を測定して3次元の点群データを取得する手法です。その中でも長距離LiDARスキャンは、離れた対象物まで測定可能な点が大きな特徴で、広範囲の地形測量や自動運転車の環境認識など多彩な分野で活用が進んでいます。本記事では、長距離LiDARスキャンの概要や仕組み、どのくらいの距離を計測できるのか、精度はどれほどか、そして具体的な活用例について、約7分で理解できるよう解説します。最後に、この技術を支える高精度測 位デバイスとの組み合わせによる新たな展開にも触れます。
目次
• 長距離LiDARスキャンとは
• 長距離LiDARスキャンの測定距離
• 長距離LiDARスキャンの精度
• 長距離LiDARスキャンの活用例
• まとめ
長距離LiDARスキャンとは
LiDARとは「Light Detection and Ranging」の略で、レーザー光を対象に照射し、反射して戻ってくるまでの飛行時間(Time of Flight)を測定することで対象物までの距離を計算する技術です。得られた多数の距離データを点の集まり(点群)として記録することで、周囲環境の3次元形状を高精度に捉えることができます。従来のカメラや写真測量とは異なり、LiDARは自ら光を発して距離を直接測るため、夜間でも動作し、対象物の色や模様に関わらず実寸大の形状を取得できる点が特徴です。
長距離LiDARスキャンとは、その名のとおり遠距離まで測定可能なLiDAR計測を指します。一般的なレーザースキャナーでは数十メートルから数百メートル先まで計測できますが、長距離対応の機器では数百メートルを超える離れた物体も捉えることが可能です。これは、測定方式にタイムオブフライト型(ToF方式)を採用し、高出力のレーザーパルスや高感度なセンサーを組み合わせることで実現されています。三角測量方式の近接センサー(工業用の変位計やスマートフォンの顔認証センサーなど)は高精度でも測定範囲が数メートル程度と限られますが、LiDARはこの飛行時間計測によって広い測定範囲と高精度を両立できる点が強みです。
遠くまでレーザーが届く長距離LiDARスキャンが注目される背景には、安全性と効率の向上があります。例えば、従来は人手で時間をかけて行っていた広大な土地の測量も、遠距離対応のレーザースキャナーを用いれば離れた位置から一気にデータ取得が可能となり、作業時間を大幅に短縮できます。また、自動運転車のように高速移動するプラットフォームでは、できるだけ遠方の障害物を早期に検知する必要があるため、長距離検知可能なLiDARが不可欠です。このように、離れた対象を非接触で精密に捉えられる長距離LiDARスキャンは、様々な現場で活用価値が高まっています。
長距離LiDARスキャンの測定距離
長距離LiDARスキャンが実際に「どのくらい遠くまで」測定できるのかは、使用する機器の性能や周囲の条件によって変わります。一般的な地上設置型の3Dレーザースキャナーでは、半径数百メートル程度の範囲を一度に計測できるものが多く、特に高性能なモデルでは最大で800m〜1000m先の対象まで点群を取得できる場合もあります。自動運転向けの車載LiDARでは、走行中に約200〜300m先の歩行者や車両を検知できる長距離タイプが登場しており、中には反射率の低い暗色の物体でも約250m先で捉え、明るい物体なら500m前方まで検出可能な先進的センサーも報告されています。空中から地表を測量するエアボーンLiDAR(ドローン搭載LiDARや航空機レーザ測量)でも、数百メートル上空から地形や構造物をスキャンし有用なデータを得ることができます。
もっとも、LiDARの測定距離はターゲットの性質と環境条件によって大きく左右されます。レーザー光は対象物に当たって初めて反射光がセンサーに戻ってきますが、対象が黒い物体や光を吸収しやすい素材だと、戻ってくる光が非常に微弱になるため測定可能距離が短くなります。逆に明るい色や金属のようによく反射する物体は、比較的遠くからでも検出しやすくなります。また、雨や霧、粉塵などが空気中にあるとレーザー光が拡散・減衰してしまうため、悪天候時には想定よりも測定可能距離が縮むことがあります。日中の強い日射の下でも、外乱光によるノイズが増えることでセンサーの感度が低下し、最大距離がやや制限されるケースがあります。したがって、カタログ上で「最大800m」などと謳われている長距離LiDARでも、実際の現場環境ではもう少し短い距離までしか安定測定できない場合がある点に注意が必要です。
LiDARの長距離化において鍵となる技術要素には、レーザーの波長と出力があります。一般に市販されている多くのLiDAR機器は905nm帯の赤外線レーザーを使用していますが、この波長は人間の目に見えないものの高出力では網膜に有害となるため、安全基準上レーザーの強度に制限があります。一方、1550nm帯のレーザーは角膜で吸収されて網膜に到達しにくい ため、同じ安全基準下でも相対的に高エネルギーのパルスを照射でき、結果としてより遠距離まで光を届けることが可能です。そのため、近年では1550nmレーザーを採用し500mクラスの探知距離を実現する長距離LiDARも登場しています。ただし波長が長くなる分、センサーや光学系のコストが上昇する傾向もあり、用途に応じた使い分けが行われています。いずれにせよ、必要な測定レンジに見合ったLiDAR機器を選定し、現場の明るさや気象条件にも配慮することで、長距離LiDARスキャンの能力を最大限に引き出すことができます。
なお、LiDARは光学的な計測手法ゆえに測定可能なのはレーザー光が届く範囲(視通し範囲内)に限られます。建物の陰や地形の死角になっている部分は一度のスキャンでは取得できないため、広大なエリアを余すことなく記録するには、機器を複数地点に移設して死角を埋めるか、ドローンや車両による走行計測を組み合わせる必要があります。
長距離LiDARスキャンの精度
次に、長距離LiDARスキャンの精度について見てみましょう。一口に精度と言っても、「距離測定の誤差(空間精度 )」と「どれだけ細部まで捉えられるか(分解能や点密度)」の2つの観点があります。まず距離測定の誤差ですが、高性能なレーザースキャナーではカタログスペック上、距離方向の誤差が±数ミリ程度と記載されていることが一般的です。例えば、一部のハイエンドな地上型LiDAR機器では「距離誤差±1mm」といった非常に小さな値が公表されています。ただし、このような値は理想的な環境下で機材本来の性能を示したものに過ぎません。実際の屋外計測では、先述のような天候・気温や対象物の材質、さらには地面からの照り返し光など様々な要因で若干の誤差増大が避けられません。一般的な現場においては、良質なLiDARスキャンであっても数ミリから数センチ程度の誤差範囲に収まると考えるのが現実的です。それでも、遠距離から非接触で計測できる手法としては極めて高い精度と言えるでしょう。また、取得できる点の数が非常に多いことから、各点にわずかな誤差があっても統計的に平均化され、形状全体として精度を高められる利点もあります。例えば、多数の点から平面をフィッティングすれば偶然誤差がならされてミリ単位の寸法を導き出せるように、点群データは量の多さによる精度向上効果も期待できるのです。
もう一つの精度の要素である分解能・点密度にも目を向ける必要があります。LiDARスキャンでは、レーザー照射方向を微細な間隔で走査することで多数の点を取得しますが、この間隔(角度分解能)やレーザー光スポットの大きさによって、再現できるディテールの細かさが決まります。近くの対象であれば数ミリ間隔の点群が得られていても、同じ機器でも数百メートル先の対象となると、レーザー発射の角度間隔に対して距離が遠いために点と点の間隔が大きく広がってしまいます。また、レーザー光自体も伝播中にわずかに拡散するため、遠距離ではスポット径が大きくなり、小さな隙間や細部は一つの点に集約されて捉えにくくなります。結果として、遠方の対象物ほど細かな形状の再現性(解像度)は下がり、取得できる点群の密度も低くなってしまうのです。そのため、例えば100m先にある電線やひび割れのような極細ターゲットは、長距離LiDARでは検出が難しいケースがあります。重要なのは、長距離では精度(誤差)が多少悪化し、解像度も低下することを踏まえて計測計画を立てることです。必要に応じて近距離からの詳細スキャンと組み合わせたり、解像度を補うためにスキャナーの設置箇所を増やすなどの対策も検討されます。
加えて、長距離LiDARスキャンの絶対精度(測位座標系に対する正確さ)を確保するには、位置合わせの工夫も不可欠です。固定設置のLiDARで単発的に測る場合、取得した点群データは機器設置場所を基準とした相対座標で記録されます。複数の地点からスキャンしたデータを統合する場合や、モバイルマッピング(移動体搭載LiDAR)で長距離を連続走行しながら計測する 場合には、各点群同士の位置合わせ(位置特定)が重要です。この際、GPSやGNSS(全地球測位システム)から得られる緯度経度の情報や、既知の基準点を適宜用いてジオリファレンス(測地座標への紐付け)することで、広範囲にわたる点群データの精度を向上させることができます。特に車載型やドローン搭載型のLiDARでは、センサーの自己位置推定にわずかな誤差が蓄積すると、長距離移動の終盤には数センチ以上の位置ずれが生じることもあります。そのため、要所で高精度な位置補正を行ったり、ループを描く経路で走行して誤差を打ち消すといった工夫が実践されています。
長距離LiDARスキャンの活用例
長距離LiDARスキャンは、その利点を生かして様々な分野で活用されています。ここでは代表的な活用シーンをいくつか紹介します。
土木測量・地形調査: 地上型の長距離レーザースキャナーは、広範囲の地形や構造物を短時間で測量する用途に適しています。例えば、道路やトンネルのルート上にレーザースキャナーを設置すれば、数キロメートルに及ぶ道路周辺の地形や構造物を一気に計測することが可能です。実際に、車両にLiDARを搭載したモバイルマッピングシステムでは、高速道路の路面形状や沿道設備を走行しながら安全に取得し、道路設計やインフラ維持管理に役立てる取り組みが行われています。従来、人手で行うと膨大な時間と人員を要した現況測量も、長距離LiDARスキャンを活用することで大幅な効率化と省力化が実現できます。
建築・構造物の計測: 高層建築物や橋梁、プラント設備といった大規模構造物の計測にも、長距離LiDARスキャンが力を発揮します。ビルの外壁や煙突・鉄塔などは接近して測ることが難しい場合がありますが、離れた地点からレーザーでスキャンすれば、安全な位置にいながら構造物全体の3D形状を取得できます。これにより、建物の立面図作成や構造健全性の点検、変位のモニタリングなどに必要なデータが得られます。特に、足場を組んだり高所作業車を使ったりせずに遠隔から精密計測できる点は、作業の安全確保とコスト削減の両面で大きなメリットです。
自動運転・交通分野: 冒頭でも触れたように、自動運転車(ロボットカー)のセンサーとしてLiDARは重要な役割を担っています。長距離タイプのLiDARセンサーを車両に搭載することで、前方の車両や歩行者、障害物を早期に検知 し、進路変更や減速をスムーズに行うことができます。例えば高速道路を時速100kmで走行する場合、100m先の物体を検知できれば約3.6秒の猶予が得られますが、検知距離が200mあればその倍の時間を持って対応できます。これは安全マージンの拡大につながり、緊急時のリスク低減に直結します。夜間や雨天でもLiDARは安定して距離と形状を捉えられるため、カメラやミリ波レーダーと併用しつつ、自動運転の「目」として車両周囲360度の見守りに活用されています。
ドローン計測・空中マッピング: ドローン(UAV)に小型のLiDARユニットを搭載すれば、空中から広域の3Dレーザ測量を行うことができます。従来は人が立ち入れない急斜面の地形測量や、大規模な土砂災害現場の状況把握などに重機と人力で対応していた場面でも、ドローンLiDARを用いれば上空から短時間で詳細な地形データを取得できます。森林の樹木計測では、上からレーザーを照射することで樹冠だけでなく林床まで点群が届き、航空写真では見えない地表面の起伏も捉えられるため、森林資源の調査や埋もれた遺跡の発見にも寄与しています。空からの長距離LiDARスキャンは、測量だけでなく農業(土地の排水状況把握等)や環境モニタリング(海岸線や河川の侵食観測)など幅広い用途で期待されています。
防災・メンテナンス: 河川堤防や山腹の変状監視、地すべり箇所のモニタリングなど、防災分野でも長距離LiDARの活用が進んでいます。危険な現場に人が立ち入らなくても、遠方からレーザースキャンすることで崩壊の兆候を捉えたり、災害後の被害状況を迅速に把握したりできます。また、送電線の巡視点検では、地上からレーザーで電線や周囲の樹木高さを測定し、必要な伐採や保全措置を判断するといった取り組みもなされています。長距離LiDARスキャンによる定点観測データを時系列で比較すれば、インフラ設備の微小な変化や劣化傾向を把握することも可能で、予防保全や計画的なメンテナンスに役立ちます。
まとめ
長距離LiDARスキャンは、レーザー計測技術によって遠方の対象物を高精度かつ安全に捉えられる画期的な手法です。測定距離の面では、適切な機器選定と環境条件のもとで数百メートル先までの計測が可能となり、人手では難しかった広範囲データの取得を短時間で実現します。精度の面でも、従来の光学的な測距手法に比べ距離による精度低下が少なく、得られた点群データを解析することでミリ〜数センチ単位の情報まで活用できます。ただし、長距離になるほどデータの解像度低下やセンサー位置誤差の蓄積といった課題もあるため、必要に応じて複数手法の併用や補正が重要です。
こうした課題に対応するため、近年ではLiDAR点群に正確な位置座標を与える周辺技術も発達しています。その一つが高精度GNSS(全球測位衛星システム)による位置補正で、例えばiPhoneに装着して利用できるGNSS高精度測位デバイスのLRTKを用いれば、取得した点群データにリアルタイムでセンチメートル級の位置情報を紐付けることが可能です。LRTK(iPhone装着型GNSS高精度測位デバイス)のようなソリューションを活用することで、長距離LiDARスキャンで得た広範囲の点群にも高精度の測地座標を付与でき、測量成果としての信頼性を飛躍的に高めることができます。こうした新しい計測ソリューションは、現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を力強く後押ししています。長距離LiDARスキャンと最新の測位技術を組み合わせ、安全かつ効率的に現場のデジタル化を推進していきましょう。
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