スマート施工時代に求められる「一人測量」
近年、建設現場にはICT化の波が押し寄せ、スマート施工 と呼ばれるデジタル技術の活用が急速に進んでいます。ドローンによる3次元測量やマシンガイダンスなど、国土交通省が推進する *i-Construction* の一環で現場の生産性向上が図られてきました。こうした背景の中で、特に注目されているのが測量作業の省人化 です。
従来、測量には熟練の測量技術者と特殊な機材を要し、二人一組 での作業が当たり前でした。
しかし、深刻な人手不足と技術者の高齢化が進む建設業界では、少人数でも効率よく現場を回せる仕組みが求められています。実際、建設業界では就業者数がピーク時の1990年代後半から約3割減少し、現場の担い手の高齢化も顕著になっています。*「一人で測量を完結したい」* というニーズは高まりを見せており、その切り札として登場したのが 小型測量器 なのです。
小型測量器とは何か?従来の測量との違い
小型測量器 とは、その名の通り携帯可能な小型サイズの測量機器の総称です。手のひらに収まるGNSS受信機や、スマートフォンと連携して使える測量デバイスなど、従来の据え置き型機材とは一線を画すコンパクトな装置が該当します。例えば、近年ではスマホに装着できる超小型のGNSS測量端末が登場しており、スマートフォンを高精度な測量機器に変身 させることが可能になっています。また、レーザー距離計などの 電子測定器 も広義には小型測量器と言えるでしょう。これらを使えば、メジャーで人海戦術的に行っていた距離測定も、一人で瞬時に正確に行うことができます。
従来の測量では、トランシットやトータルステーション(TS)といった大型光学機器を据え付け、もう一人がスタッフ(標尺)やプリズムを持って測るという 二人作業 が一般的でした。機材も重量があり、運搬や設置に手間がかかるため、測量には時間と労力が必要だったのです。それに対し小型測量器は、ポケットに入るサイズ や軽量ボディを実現しつつ、高性能な測位・測定ができるよう設計されています。重い三脚や発電機を必要とせず、思い立ったときにさっと取り出して使える手軽さが大きな違いです。特別な訓練を受けた測量士でなくても扱いやすく、現場の誰もが使える道具としての測量機 を目指して開発されています。
なお、1人で操作可能な自動追尾式トータルステーション(ロボティックTS)などの従来型手法もありますが、機器の価格が高価で運用にも熟練を要するため普及が進みませんでした。スマホ連携の小型測量器はそれらに比べて低コストで扱いやすく、現場への導入ハードルが格段に下がっている点も特徴です。
最新技術が支える「ラクラク一人測量」のしくみ
小型測量器を用いれば、これまで複数人がかりだった測量作業を一人で完結 させることが可能になります。その鍵を握るのが、近年急速に実用化が進んだ RTK-GNSS などの高精度測位技術です。一般的なスマートフォン内蔵GPSの測位精度は5~10m程度の誤差があります。地図アプリを使う分には問題なくとも、建物の位置出しや境界の測量といったセンチメートル単位の精度 が要求される作業には到底使えません。そこで登場したのが、衛星測位の誤差を補正して精度を飛躍的に向上させる RTK(リアルタイムキネマティック)方式 です。
RTKでは、既知の地点に設置した基準局と移動局(測量者側)の両方で同時にGNSS衛星信号を受信し、その観測データの差分をリアルタイムに利用して誤差を打ち消します。これにより、単独測位では数メートル生じていた誤差が 1~2cm程度 にまで縮小されます。実際にRTK測位を行うには、現場に自前の基準局を設置するか、国土地理院が運用する電子基準点ネットワークや民間の補正情報サービスを利用してインターネット経由で補正データを取得する必要があります。さらに、日本では準天頂衛星みちびき(QZSS)からセンチメートル級測位補強サービス(CLAS)が提供されており、携帯電話の圏外となる山間部などでもCLAS対応の受信機を使えば衛星経由でリアルタイムに高精度測位が可能です。以前は高精度なGNSS測量機器といえば据え置き型で数kgの重量があり、操作にも専門知識が必要でした。しかし現在では、スマホとBluetooth等で連携する 小型GNSS受信機 が登場し、誰でもスマートフォン一つでRTK測位を活用できるようになっています。
スマホがユーザーインターフェースと通信役を担い、小型受信機が高感度な測位を担当することで、従来は熟練者にしか扱えなかったセンチ精度測量が手軽なワンオペ作業 になりつつあるのです。
例えば、小型測量器の代表格である LRTK というデバイスは、iPhoneなどに装着して使う超小型のRTK-GNSS受信機です。専用ケースを介してスマホに後付けするだけで、スマホが高精度測位端末に早変わりします。ネットワーク型RTK(Ntripなど)を設定したスマホとLRTKが衛星補正情報を受信すれば、現場で歩きながらポイントごとに測るだけで位置座標を次々と取得可能です。従来ならTS測量でオペレーターと補助者が必要だった法面の出来形測定も、LRTKを装着したスマホ1台 で完了します。要所でスマホ画面のボタンをタップしていくだけで緯度・経度・高さが自動記録され、手書きでメモを取る必要もありません。このように、最新技術を駆使した小型測量器によって「スマホでラクラク測量 」が現実のものとなっています。
さらに最近のスマートフォンには LiDARスキャナ (光検出・測距センサー)が搭載されており、小型測量器との組み合わせで新 たな活用法も広がっています。スマホのカメラで周囲をスキャンして点群データ(多数の点の集合による3Dデータ)を取得する際にも、同時に自分の位置を高精度に把握できるため、広範囲を歩き回っても点群に歪みが生じません。取得した座標データはクラウドで即時に共有でき、事務所のパソコンからリアルタイムに現場の測量結果を確認することもできます。こうしたデジタル連携 によって、測ったデータをその場で活用・共有しやすいのも最新の小型測量器ならではの利点です。
小型測量器がもたらすメリット
小型測量器の導入により、現場にもたらされるメリットは計り知れません。主な利点を整理してみましょう。
• 省力化・人員削減: 一人で測量作業を完結できるため、測量のために人手を割く必要が大幅に減ります。人員不足に悩む現場でも、最小限の人数で必要な測量をこなせるようになります。
• 時間短縮・効率向上: 機材の準備や複数人での段取りが不要になり、思い立ったときにすぐ測れるため作業時間が短縮されます。データの自動記録やクラウド共有により、測定結果の整理・報告もスピーディに行えます。
• 高精度な測位: RTK対応の測量器であれば、センチメートル単位の測位精度を実現できます。手軽に使える機器でも品質の高いデータ を取得できるため、出来形管理や品質検査にも十分耐えうる成果が得られます。
• 携帯性・即応性: ポケットに入るサイズや軽量設計の機器が多く、現場を移動しながらの測定も苦になりません。高所や狭所、離れた測点にも一人で赴き測れるため、現場のあらゆる状況にフレキシブル に対応できます。
• 安全性の向上: 少人数で計測できることで、危険な場所での作業人数を減らせます。また、短時間で測量を終えられるため、交通量の多い道路上での作業などでも安全リスクの低減に繋がります。

