top of page

iPhone スキャンのやり方|土木点群入門

タイマーアイコン.jpeg
この記事は平均9分15秒で読めます
万能の測量機LRTKの説明

「iPhoneスキャン」が土木現場で注目されています。 近年、建設業界では慢性的な人材不足に対し生産性向上が強く求められており、国土交通省主導でICT技術の活用(いわゆる *i-Construction*)が推進されています。そんな中、手軽で低コストに現場の3次元計測ができる iPhoneの3Dスキャン(点群スキャン)が脚光を浴びています。従来は高価なレーザースキャナー等の専門機器が必要だった3D測量も、スマートフォンひとつで代用できれば大幅なコスト削減と効率化につながります。本記事では、「iPhoneスキャン」の基礎から土木分野での活用方法までを解説します。安価なiPhoneによる点群取得で何ができるのか、そして将来はどのように進化していくのかを一緒に見ていきましょう。


iPhoneスキャンとは何か?

iPhoneスキャンとは、iPhoneやiPadに搭載されたセンサーとカメラを使って周囲の環境を3次元データ化(点群化)することです。点群(点群データ)とは、ドローン写真測量やレーザースキャナー等で取得した多数の点の集合体で、各点にはX・Y・Zの座標(場合によりRGB色情報も)が含まれます。膨大な点の集まりを処理することで、現場の状況を写真のようにリアルな3Dモデルとして再現でき、設計データとの比較や施工進捗の管理に役立ちます。iPhoneで取得できる点群も同様に、現場の形状を詳細に記録したものです。


iPhoneの上位モデル(iPhone 12 Pro以降やiPad Pro 2020以降)には「LiDAR(ライダー)センサー」と呼ばれる赤外線レーザー計測装置が搭載されています。このLiDARはレーザー光を対象物に照射し、反射して戻ってくるまでの時間から距離を高速に測定する技術です。この飛行時間測距によって、周囲の形状を点群データとして取得できます。例えば33.3ナノ秒後に反射光が戻れば約5m先の物体という計算になり、このような測距を毎秒数百万回行いながら空間中の点の集まりを取得します。その結果、iPhone上で瞬時に周囲が点群化される様子を目にすることができます。


iPhoneのLiDARセンサーはおよそ有効範囲5m程度で近距離の空間把握に適しています。LiDARで取得した多数の深度ポイントを合成することで、その場で手軽に3Dモデル(点群)を生成できます。一方で、LiDAR非搭載のiPhoneや遠距離の対象物には写真測量(フォトグラメトリ)によるスキャンも活用されます。写真測量では対象物を様々な角度から多数撮影し、画像解析によって3D形状を再構築します。最近のアプリはLiDARとカメラの併用にも対応しており、LiDARの点群に写真のディテールを加えることで欠損の少ない精度の高い点群生成が可能です。たとえばPix4D社のアプリでは、iPhone内蔵のLiDARとカメラで取得したデータを組み合わせて点群を作成し、抜け落ちを防いでいます。


iPhoneスキャンの最大の魅力は手軽さと低コストにあります。原理的には高精度なレーザースキャナーと同じ仕組みですが、スマホ内蔵ということで価格は桁違いに安価です。その分、得られる点群の精度や範囲は専用機器に劣るものの、現場で必要とされる十分な情報を得られるケースも多く、「どこまで精度を求めるか」が使い分けのポイントと言えるでしょう。実際、iPhoneのLiDARスキャナーは室内寸法の計測や設備配置の確認、ARによるシミュレーションなど様々な分野で既に活用が始まっています。土木の世界でも、手軽なiPhoneスキャンを現場計測の入門ツールとして使い、新しい業務効率化に挑戦する動きが広がっています。


土木業務での活用例

土木・建設分野において、iPhoneで取得できる点群データは次のような業務で活用が期待されています。


出来形管理(出来形計測): 施工後の盛土や掘削、構造物の形状をスキャンし、設計図面や規格値と比較して出来形(出来高)を確認できます。例えば法面の勾配や舗装厚を点群データから断面抽出して検証したり、橋脚や擁壁の形状を3Dモデルで記録したりできます。膨大な点群による出来形管理手法は国の要領も整備されており、iPhoneで取得した点群を用いた簡易な出来形検査にもつながります。従来は人力で計測・記録していた作業が効率化し、短時間で精度よく出来形確認が可能になります。

土量計算(数量算出): 掘削土量や盛土体積の算出にも点群データが有効です。iPhoneスキャンで現地の地形や堆積土の形状をとらえ、点群データ同士の比較やデジタル表土モデル(DTM)との差分計算によって土量を算出できます。例えば、ある掘削現場でiPhoneスキャンにより即座に土量を算出し、埋め戻しに必要な材料量の把握や残土処理の計画に役立てたケースもあります。従来は測量班の計測結果を待っていた土量計算も、その場で可能になることで工事全体の迅速な意思決定につながります。

杭位置確認・墨出し: 杭打ち工や構造物の位置出しにおいても、iPhoneスキャンが活用できます。設置済みの杭の位置を点群上で計測し、設計位置とズレがないか確認したり、逆に設計データをAR表示して現地で杭打ち位置を指示したりといった使い方です。例えば、地面に打設した杭頭の点群データから座標値を取得し、図面座標と照合することで、杭の水平位置や高さのずれをチェックできます。iPhone単体の場合、取得点群には絶対座標が含まれないため測量座標系との整合が課題ですが、既知点との照合や後述するRTK連携により高精度な位置確認も可能です。簡易な現場検測として、若手技術者でも扱えるツールになるでしょう。

ARによる可視化・検証: iPhoneの強みであるAR(拡張現実)機能と点群データを組み合わせれば、これまでにない現場可視化が可能です。例えば、埋設管工事では埋め戻し前にiPhoneで管をスキャンし点群データを取得しておき、埋設後にその管の位置や深さをAR表示で透視するといった使い方が実現しています。従来は埋設物の記録に写真撮影や手描き図面が必要でしたが、点群とARを活用すれば誰でもスマホ越しに地下の状況を把握でき、掘削時のヒヤリハット防止にも役立ちます。また施工中の構造物に設計BIMモデルを重ねて表示し、出来形の過不足や干渉をその場で確認するといったAR活用も考えられます。iPhoneでの点群計測からAR活用まで一貫して現場で完結できるため、日常業務で3D・ARを使いこなす時代がすぐそこまで来ています。


iPhoneスキャンの実践的なやり方

では、実際にiPhoneで点群スキャンを行う方法を詳しく見ていきましょう。必要な機材おすすめアプリ、そして撮影手順のコツからデータ活用法まで順を追って解説します。


必要な機材・準備

対応するiPhoneまたはiPad – LiDAR搭載の機種が望ましいです。具体的には *iPhone 12 Pro / 13 Pro / 14 Pro* などProシリーズ、および *2020年以降のiPad Pro* が該当します。これらのデバイスなら特別なセンサーを追加せずに3Dスキャンが可能です。LiDAR非搭載のiPhone(無印や旧モデル)でも写真測量モードでスキャン可能ですが、リアルタイム性や精度ではLiDAR搭載機種に劣ります。


アクセサリ・周辺機器 – 基本的にスマホ単体で構いませんが、より精度良くスキャンしたい場合はデバイスの安定化がポイントになります。撮影時の手ブレは点群データの位置ズレを引き起こすため、可能なら三脚やジンバルでスマホを固定・安定させると良いでしょう。特に広い範囲を歩き回ってスキャンする際は、ジンバル(スタビライザー)を使うとブレが軽減されスキャン精度向上に寄与します。またバッテリー消耗も激しいため、長時間の現場スキャンではモバイルバッテリーを携行することをおすすめします。屋外では日射で端末が高温になる恐れもあるので、直射日光を避ける・適宜休ませるなどの配慮も必要です。


高精度測位機器(必要に応じて) – 測量業務で精度要求が高い場合、iPhoneに取り付けられる小型GNSS受信機(いわゆる RTK受信機)の活用も検討しましょう。例えば*LRTK Phone*のようなRTK-GNSSモジュールをiPhoneに装着すれば、取得する点群にリアルタイムで緯度経度などの高精度位置情報を付与することが可能です。このようなRTK連携により、iPhone単体では難しい公共座標系での点群計測も実現できます。RTK機器は必須ではありませんが、後述する将来展望として覚えておくと良いでしょう。


推奨アプリの選択

iPhone向けには数多くの3Dスキャンアプリが提供されていますが、中でも土木分野での利用に適した代表的なものを紹介します。


Polycam(ポリカム) – 世界的にユーザーが多い人気アプリです。LiDARによるリアルタイムスキャンだけでなく、写真を使った高精細なフォトグラメトリ機能も備えています。取得した点群データやメッシュモデルはアプリ内で即座に閲覧でき、LASやPLY形式でエクスポートすることも可能です。UIが洗練されており操作も簡単なので、初めての方にもおすすめです。

Scaniverse(スキャニバース) – LiDAR搭載機種に対応した無料の3Dスキャンアプリです。スマホ上で全ての処理が完結するため、撮影後わずか1~2分程度で点群や3Dモデルが生成できます。結果をすぐ確認したい現場では大きな利点でしょう。点群データはPLYやLAS形式で出力可能で、位置情報をオンにすればスキャン時のGPS情報を含むLASファイルを生成できます。Scaniverseは手早く結果を得たい場合や、とりあえず無料で試してみたいユーザーに適しています。

OPTiM Geo Scan(オプティムジオスキャン) – 日本のOPTiM社が提供するスマホ測量アプリです。iPhone/iPadのLiDARとカメラで点群を取得し、現場の既知点座標やネットワーク型RTK-GNSSから得た測位情報で補正することで、3次元点群を簡易に取得・出力できるのが特徴です。つまり、あらかじめ設定した基準点やRTKによってスキャンデータを測量座標系に合わせて記録できるため、本格的な現場測量への活用が可能です。土木・建設向けに開発されており、点群のクラウド管理や図面化など業務利用を見据えた機能も充実しています。


上記の他にも、Apple純正の「3Dスキャナー」アプリ(サードパーティ製ですがApp Storeに存在)や、BIMデータ計測向けの「SiteScape」、写真特化の「PIX4Dcatch」など用途に応じたアプリがあります。それぞれ特徴がありますが、まずは手軽さと出力機能のバランスが良いPolycamやScaniverseから試してみると良いでしょう。


撮影・スキャン手順

実際のスキャン操作はアプリによって多少異なりますが、一般的な流れは次のとおりです。


事前準備: スキャン対象エリアの安全を確保し、邪魔な物や人の往来を可能な範囲で制限します。iPhoneのLiDARセンサー部分(背面の黒い小穴)が汚れていないか拭き取り、アプリを起動して準備完了画面を表示します。必要に応じて解像度やスキャンモード(LiDAR/写真)などアプリ設定を確認します。

スキャン開始: 対象物またはエリアに向けてiPhoneを構え、アプリの指示に従ってスキャンを開始します。LiDARスキャンの場合は録画をする感覚で、カメラをゆっくりと動かしながら周囲を歩いていきます。開始直後は位置合わせのため、対象に近づきすぎず適度な距離(1~3m程度)から撮り始めると良いでしょう。フォトグラメトリの場合は画面上のシャッターボタンを押しながら、対象をぐるりと囲むように多数の写真を撮影していきます(被写体全体をカバーするため最低30枚以上は撮影推奨)。

移動・撮影: 重複エリアを確保しつつ少しずつ移動し、見える範囲を広げていきます。屋外の地形であれば格子状に歩いてカバーしたり、構造物であれば一周回って全方向から撮影します。スマホを動かすスピードはゆっくり一定に保ち、急な振り向きやジャンプは避けます。高所や裏側など死角になる部分は、角度を変えたりデバイスを上下に動かしたりしてセンサーを向けます。途中でアプリの画面上にリアルタイムの点群モデルや警告(トラッキングロスト等)が表示されるので、隙間や抜けが無いよう適宜戻ったり補完したりします。

スキャン終了: 一通り対象を撮り終えたら、スタート地点付近に戻ってもう一度重ね撮りするなどすると精度向上に有効です(ループクロージャといって、始点と終点を結ぶことで歪みを低減できます)。最後にアプリ内の「完了」「停止」ボタンを押してスキャンを終了します。フォトグラメトリの場合はこの後、自動的にクラウドまたは端末内で画像解析が行われ、3Dモデル生成がスタートします。

データ確認・保存: 処理が完了すると、スマホ画面上に取得できた点群または3Dモデルが表示されます。その場で欠損箇所や異常がないか確認しましょう。もし一部取りこぼしがあれば、追加でその部分だけスキャンし直しデータを補完できるアプリもあります。問題なければデータに名前を付けて保存します。必要に応じて、後述の方法で点群データをエクスポートしておきます。


以上が基本的な流れです。最初は勝手が掴みにくいかもしれませんが、何度か試すうちにスムーズに計測できるようになるでしょう。


スキャンを上手に行うコツ

より精度の高い点群データを得るためのポイントやコツをいくつか紹介します。


ゆっくり丁寧に動く: スキャン中は急ぎたくなる気持ちを抑え、ゆっくり均一な速度で移動します。LiDARスキャナは無数の点を連続取得していますが、動きが速すぎるとデータが粗くなり精度低下や歪みの原因となります。特に複雑な形状や狭い室内では慎重に動かしましょう。写真測量でもブレのない写真を撮るため、焦らずに一枚一枚安定させて撮影することが重要です。

適切な距離と角度を保つ: 対象物との距離が遠すぎると点群の密度が低下し、細部が捉えられなくなります。LiDARでは概ね2~3m程度の距離が高密度点群を得やすく、5mを超えるとセンサー範囲外になる恐れがあります。一方近づきすぎも視野が狭まり非効率なので、適度な距離をキープします。また極端に斜めの角度からだとレーザーが反射しづらくデータ抜けが起きやすいです。なるべく対象に正対するかたちで撮影し、難しい箇所は角度を変えて複数回スキャンすると良いでしょう。

特徴を捉えトラッキング維持: スキャンアプリはカメラ映像中の特徴点やLiDAR形状から自身の位置を推定しています(ARトラッキング)。そのため、無地で特徴のない壁だけを写し続けると位置見失い(トラッキングロスト)を起こしやすくなります。適度に周囲の物体や地形もフレームに入れ、常に特徴が映るよう意識しましょう。例えば床や壁にマーキングテープを貼って目印を増やす方法もあります。万一トラッキングが外れた場合、慌てず少し戻って直前までスキャンできていた位置にカメラを向けると再検出できる場合があります。

環境条件に注意: 光や動く物にも気を配ります。屋外では太陽光が強すぎるとLiDARの赤外線に干渉しノイズが増えることがあります。直射日光下ではセンサーに日陰を作る工夫をしたり、朝夕など直射の弱い時間帯に計測すると良いでしょう。逆に暗すぎる場合は写真には写りにくいので、懐中電灯や投光器で明るさを補います。また、人や車が行き交う場所ではそれら動体も点群に写り込んでしまいノイズやゴースト(重複像)の原因となります。スキャン中は対象以外は極力静止してもらうか、後から不要点群を削除する前提で臨みましょう。写真測量では背景で車や人が動いた写真は解析に悪影響を及ぼすため、そうした写真は除外して処理するのがコツです。

安定させる: 手振れ対策も重要です。特に長時間のスキャンでは腕が疲れてブレが生じがちなので、三脚の活用や合間での休憩を挟むことも検討してください。三脚固定での360度撮影は高精度ですが、機動力が落ちるため狭所では一脚やスタビライザーを用いても良いでしょう。デバイスを落下させないようストラップを付ける、安全帯にホルスターを装着するなど、安全面の配慮もお忘れなく。


以上の点を踏まえて計測すれば、iPhoneでもかなり良質な点群データを取得できます。最初はうまくいかないこともありますが、練習と工夫で精度向上が可能です。


点群データの出力形式と変換方法

スキャン後に得られたデータを有効活用するには、適切な形式でエクスポート(出力)する必要があります。iPhoneスキャンで扱われる主なデータ形式と、その変換・活用方法について解説します。


LAS / LAZ: *LAS*はレーザースキャンの業界標準といえる点群データ形式です。各点の座標や強度、色情報などをバイナリで効率よく格納します。*LAZ*はLASの可逆圧縮版で、データ容量を小さくできます。土木測量の世界ではLAS形式が広く使われ、多くの点群処理ソフトやCADが対応しています。PolycamやScaniverseでは取得した点群をLAS形式でエクスポート可能です。LASデータはそのまま3D点群ビューアで可視化したり、土木用ソフトに取り込んで地形解析や出来形チェックに使えます。

PLY / XYZ / PTS: *PLY*は3Dデータ交換用のシンプルなフォーマットで、点群も格納できます(テキストまたはバイナリ)。カラー点群を含め扱いやすいため研究用途などでもよく使われます。*XYZ*や*PTS*は各点の座標値(と色)をテキストで列挙した形式で、汎用性は高いもののファイルサイズが大きくなりがちです。PLYやPTSは古いソフトや自作プログラムとのデータやり取りに使われることがあります。一般にはLASの方が効率的なので、特段の理由がなければLAS/LAZを使うと良いでしょう。なお、ほとんどの点群処理ソフトはPLY<>LAS変換機能を備えているため、仮にPLYでしかエクスポートできないアプリでも後からLASに変換可能です。

OBJ / FBX / STL(メッシュ形式): スキャンアプリによっては点群からメッシュモデル(ポリゴン)を生成できるものもあります。OBJやFBXはテクスチャ付きの3Dモデルを保存でき、建築のリフォーム検討やVR表示などに適しています。STLはポリゴン形状のみのシンプルな形式で、3Dプリント用などに広く使われます。例えば、Polycamでは点群データだけでなくメッシュデータとしてOBJやFBXでのエクスポートも可能です。ただしメッシュ化すると点群の微細な点情報は失われるため、測量での精密計測というよりは見た目重視の用途向きです。土木分野では基本は点群(LAS/PLY)のまま扱い、用途に応じて断面図を切ったりメッシュ化したりと二次加工します。


エクスポートと変換のポイント: 使用するアプリで対応する形式を確認し、必要に応じて変換ソフトを併用しましょう。例えば、ScaniverseやPolycamは点群をLASまたはPLY形式で直接出力できます。もし手持ちのアプリがLAS非対応でも、PLYでエクスポートしてからPC上の無償ソフト(CloudCompareなど)でLASに変換可能です。座標系の変換も重要です。標高や設計座標と照合するには、点群に基準となる既知点の座標合わせが必要です。単独のスキャンデータを後から測量座標に合わせる場合、現場で既知点となるターゲットを写し込んでおき、PC上でそれらの点に座標値を与えて剛体変換(3点合わせなど)する方法があります。あるいはOPTiM Geo Scanのように初めから測量座標で記録できるアプリもあります。点群を他の図面やBIMモデルと重ねる際には、これら座標変換・整合の工程が必要になる点に留意してください。


点群データの整合・合成とクラウド活用

現場で取得した点群をさらなる付加価値につなげるには、データの整合(位置合わせ)や合成、そしてクラウドサービスの活用がポイントです。


複数スキャンデータの整合・合成: 一度に広範囲をスキャンできない場合、エリアを分割して複数の点群データを取得し、後で合成することになります。例えばトンネル内部を区間ごとにスキャンして繋ぎ合わせるケースなどです。その際、各点群の位置合わせ(レジストレーション)が必要です。共通に写した特徴点やターゲットを基準にソフト上で重ね合わせたり、重複部分のICPアルゴリズムで自動整合させたりします。高価なレーザースキャナーだと専用ソフトで自動マッチングできますが、iPhone点群でもCloudCompare等の無料ツールでICP整合が可能です。コツとして、隣接するスキャン範囲に十分な重なりを持たせておくと後処理がスムーズです。また、最初からRTKで全球測位しながらスキャンすれば全データが共通座標で記録されるため、煩雑な後合成を省略できます。案件規模に応じて最適な手法を選びましょう。

クラウド連携によるデータ管理: スキャンした点群データは容量も大きく専門的なため、クラウドサービス上で管理・共有すると便利です。例えば、PolycamやScaniverseではクラウドにアップロードしてチームメンバーと3Dデータを閲覧・共有できます。土木業務向けには、取得した点群を専用クラウドにアップして断面抽出や体積計算をオンラインで行えるサービスも登場しています。クラウドにあるデータは現場と本社で即時に共有できるため、報告・検討プロセスの効率化にもつながります。セキュリティに配慮が必要な場合は、自社サーバーに点群データを保管し社内で閲覧できる環境を整備すると良いでしょう。いずれにせよ、クラウド活用により大量の3Dデータを必要な人がすぐ活用できる状態を作ることが、DX時代の情報共有の鍵となります。

検査資料の作成: 点群データそのものはデジタルな塊ですが、工事の納品成果や検査では紙やPDFの資料も依然求められます。そこで、点群から必要な情報を抜き出してわかりやすい資料にまとめる工夫が必要です。例えば出来形管理なら、点群と設計面を重ねた断面図や、要所の寸法を示した3Dビュー画像を作成します。土量計算なら、点群から計算した盛土・切土量を表やグラフで示し、必要に応じて点群の断面図も添付します。杭検査では、点群上で求めた杭頭の座標と設計座標を比較した表を作成し、そのもとになった点群平面図を付けると説得力が増すでしょう。点群は「証拠写真」の3D版とも言える存在です。重要なのは点群データをただ提出するのではなく、相手(発注者や検査員)が理解しやすい形に料理してあげることです。昨今は3次元データ提出要件が整いつつあり、将来的には点群データそのものが成果品となる場面も増えるでしょう。それまでは、点群から得られる計測結果を的確に伝える資料作りにも注力しましょう。


よくある失敗と対処法

初めてiPhoneスキャンに挑戦すると、思わぬ失敗やトラブルに直面することがあります。ここではありがちな失敗例と、その原因・対処法を紹介します。


点群が全体的に歪んでいる: スキャン結果を見たら、実際はまっすぐな壁が湾曲して点群化されている…といった歪みが発生することがあります。これは長時間連続でスキャンした際の累積誤差や、トラッキングの微妙なズレが原因です。対処法として、前述のようにスキャン範囲が広い場合は適度に区切って処理し、最後に整合する方法が有効です。また一筆書きでぐるっと回るだけでなく、始点に戻って終点にするループスキャンを試みると歪みが打ち消されやすくなります。どうしても大きく歪んだ場合は、後処理で基準平面に合わせて点群を補正(剛体変換や平面フィッティング)するとよいでしょう。

一部が二重になったりズレている: 建物角など特定の部分で点群が二重に見える場合、スキャン途中でトラッキングロストし位置が飛んでしまった可能性があります。途中でカメラの向きを変えすぎたり早く動かしすぎたりすると、アプリが現在位置を見失い、新たな基準で点群を重ね始めてしまうことがあります。このようなときは、一度スキャンを停止してその場から再開するか、最初から撮り直す方が無難です。アプリによっては「途中で一時停止と保存」ができるものもありますので、大きな対象は章立てでスキャンすることも検討してください。ポスト処理でズレた部分だけ削除し、欠けた箇所を別スキャンデータで補うという手もありますが、現場では時間が限られるため無理せず取り直す判断も重要です。

データに欠損穴が多い: 点群に大きな穴(未計測領域)が生じる原因としては、センサーが届いていないor反射しない部分があったことが考えられます。LiDARは黒色やガラス面で反射しにくく、写真測量でも鏡面や暗所は再現しづらいです。対策として、黒やガラスの対象には事前に紙やテープを貼る、あるいは角度を変えて少しでも点を取得する工夫をします。また穴ができやすい縁や裏側は意識して複数方向から撮影します。どうしても取得困難な場合は、欠損箇所のみ別途メジャー等で計測し、後でデータ補完する方法もあります。完璧にこだわりすぎず、要所は押さえるという割り切りも現場では必要でしょう。

ノイズや不要点が多い: 点群をよく見ると、空中に点のゴミが散らばっていたり、明らかに存在しない点(例えば人が通り過ぎた軌跡)が残っていることがあります。これはノイズ点で、LiDARの乱反射や動的物体の撮影によるものです。後処理でフィルタリングや不要点の削除が可能なので、気になる場合は点群編集ソフトでノイズ除去を行いましょう。例えば一定距離以上離れた点を削除するフィルターや、孤立点を間引くクリーニング機能を使うと効果的です。どうしても手作業になる部分はありますが、ノイズが減るとデータ容量削減にもつながります。事前対策としては、風で動く草木や通行人などは可能な限りスキャンに写り込まないようにし、どうしても動く背景がある場合は写真測量では後で当該写真を外すなど工夫してください。ノイズが少ないクリアな点群は後工程(モデリング等)でも扱いやすくなります。


これらの失敗は、経験を積むことで徐々に減らせます。最初は試行錯誤かもしれませんが、逆に言えば失敗から学ぶことで着実にスキルアップできるとも言えます。失敗事例をチームで共有し、次に活かしていきましょう。


導入現場の声

実際にiPhoneスキャンを業務に取り入れた現場からは、多くの喜びの声や驚きの声が上がっています。その一部を紹介します。


「測量待ちの時間がなくなった!」 – *「これまで現場で測量班が来るのを待つ間、作業が中断していましたが、iPhoneで自分たちですぐ計測できるようになり大助かりです。必要なときに即対応できるので、工期短縮にもつながりました」*(現場代理人A氏)。 *→解説*: 1人1台のiPhoneで好きなタイミングに測量できることが現場の機動力を高めています。小型RTKを組み合わせれば測量班を待つことなく即座に自前で高精度計測が可能になり、生産性向上に寄与しています。

「若手でもすぐ使いこなせた」 – *「高額な測量機は扱いが難しくベテラン任せでしたが、iPhoneスキャンは新人の自分でも直感的に操作できました。数回練習したら一人で点群計測から図面作成までできるようになりました」*(新入社員B氏)。 *→解説*: スマホアプリの親しみやすいUIシンプルな操作により、デジタル世代の若手はもちろんベテランでも抵抗なく使えるようです。実際ある現場では作業員が事前研修なしで使いこなしていたとの報告もあり、専門的な知識がなくても使える手軽さが評価されています。また「内勤スタッフに測量を任せたい」という声もあるように、現場以外の人材でも扱えることで業務の幅が広がっています。

「土量計算がその場で即できた」 – *「これまでは測量データを持ち帰って数量計算していましたが、iPhoneでスキャンしたらその場で土量がわかりました。すぐ埋め戻しの手配ができ、工事の段取りがスピードアップしました」*(施工管理C氏)。 *→解説*: 点群データからの体積算出は従来専門ソフトが必要でしたが、今やクラウド上で自動計算してくれるサービスもあります。iPhoneスキャンとクラウド活用で現地即計算・即共有が可能となり、意思決定の迅速化に貢献しています。「現場で掘削した土量を点群データから算出したり...iPhone+RTKでその場でデータ取得・共有」が実現できた例も報告されています。

「3Dデータ共有でコミュニケーション円滑に」 – *「点群をクラウドに上げておけば、本社に居る設計担当とも同じものを見ながら打合せできます。お互い現地に行かなくても済むので助かりますね」*(現場監督D氏)。 *→解説*: スキャンデータを社内クラウドで即時共有することで、現場と事務所間の情報伝達がスムーズになっています。図面や写真では伝わりづらい空間情報も、3D点群なら一目瞭然です。離れた場所からでも現地の様子を立体的に把握できるため、意思疎通のロスが減り的確な指示・協議が可能になります。


このように、実際に導入した方々からは「待ち時間が減った」「誰でも使える」「すぐ結果が出る」「共有しやすい」といった好意的な評価が数多く聞かれます。低コストでスマートに測量ができるiPhoneスキャンは、現場の常識を変えつつあると言えるでしょう。


おわりに:LRTKとの組み合わせで広がる未来

*図:iPhoneに小型のRTK-GNSS受信機を装着し、センチメートル級精度の測量を実現する「LRTK」の利用イメージ。iPhone上で点群計測から寸法確認まで行える。*


最後に、iPhoneスキャンの可能性をさらに押し広げる技術としてLRTKとの組み合わせについて触れておきます。LRTKとは、*「スマホ一体型の高精度GNSS(RTK)測位システム」*を指し、例としてレフィクシア社の提供する LRTK Phone などが挙げられます。一言で言えば、iPhoneの背面に取り付けるRTK-GNSS受信機で、スマホをそのままセンチメートル精度の測量機器に変えてしまう画期的な製品です。LRTKを利用すると、iPhoneで取得する点群一つひとつに全球測位(緯度・経度・高さ)の情報がリアルタイムで付加されます。これにより、これまでは基準点への合わせ込みが必要だった点群データが即座に公共座標系(世界測地系など)にマッピングされ、測量図としてそのまま扱えるようになるのです。


この「iPhone + RTK」の組み合わせにより、安価なスマホだけで高精度測量が完結する道が開けています。実際、2021年にはiPhoneのLiDARとRTK-GNSSを組み合わせて公共座標系で高精度3D点群を計測するシステムが登場し、点群測量の普及を後押ししました。つまり、誰でも簡単に現場をセンチメートル級の精度で3Dスキャンできる時代が到来しつつあるのです。この流れは今後さらに加速するでしょう。例えば現在は精度面でレーザースキャナーに一歩譲るiPhone点群も、RTKによる補正やAIによるノイズ低減技術の進化で、ますます実用十分なレベルに近づいています。


また、高精度化だけでなく機能の拡張も期待できます。LRTKと点群スキャン、さらにはAR技術を組み合わせれば、測量・設計・施工管理が一つのデバイスで循環する未来も見えてきます。現場でiPhoneをかざせば、即座にその場の出来形点群が取得でき、設計BIMと比較して指示を出し、将来的にはそれをARグラス等に投影して作業を誘導するといったことも夢ではありません。まさに「スマホが万能測量機になる」時代が目前に迫っています。


もちろん、現状ではiPhoneスキャンが全ての測量業務を代替できるわけではありません。精度が要求される基準点測量や、広大な面的測量(航空測量等)では専門機器が引き続き主役でしょう。しかし、現場の細かな計測や進捗管理、出来形確認など「誰でもできて素早く結果が欲しい」領域から、スマホ測量は確実に役割を広げています。必要十分な精度と手軽さを兼ね備えたiPhoneスキャンは、土木点群活用の入門として最適であり、将来的にはRTK連携で本格的な測量へとシームレスにつながっていくでしょう。


あなたの身近にあるiPhoneが、いつでもどこでも測量できる魔法のツールになる日も遠くありません。ぜひこの機会にiPhoneスキャンを現場に取り入れてみてください。最初は小さな一歩でも、積み重ねることで現場DX(デジタルトランスフォーメーション)の大きな飛躍につながるはずです。スマホ片手に誰もが測量士になれる未来が、すぐそこまで来ています。


LRTKで現場の測量精度・作業効率を飛躍的に向上

LRTKシリーズは、建設・土木・測量分野における高精度なGNSS測位を実現し、作業時間短縮や生産性の大幅な向上を可能にします。国土交通省が推進するi-Constructionにも対応しており、建設業界のデジタル化促進に最適なソリューションです。

LRTKの詳細については、下記のリンクよりご覧ください。

 

製品に関するご質問やお見積り、導入検討に関するご相談は、

こちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。ぜひLRTKで、貴社の現場を次のステージへと進化させましょう。

bottom of page