iPhoneスキャンで盛土管理｜高精度点群

はじめに

建設現場における盛土工事の管理は、施工品質と安全性を確保する上で欠かせない重要業務です。従来は測量の専門技術者が現場に赴き、丁張や高さ管理、出来形（施工後の形状）確認などを行ってきました。しかし、これらの作業は時間と手間がかかり、進捗状況の把握や土量計算、沈下（地盤沈下）の監視などにおいてタイムリーな情報共有が難しいという課題がありました。また、広範囲にわたる盛土の測量には多大な労力が必要で、危険な斜面での計測時には作業員の安全面の懸念もあります。

一方近年、スマートフォン技術の進歩により、iPhoneのスキャン機能を活用して手軽に高精度な3D測量データ（点群）を取得する手法が注目されています。AppleのiPhoneシリーズ（iPhone 12 Pro以降）にはLiDAR（ライダー）センサーが搭載されており、周囲の環境をレーザーで計測して3次元点群として記録できます。LiDARによる計測範囲は約5m程度と限られますが、近距離の地形把握には十分で、iPhoneをかざして歩くだけで現場の地形をリアルな3Dモデルとして再現可能です。さらに、LiDAR非搭載のiPhoneでもカメラで多数の写真を撮影し、フォトグラメトリ（写真測量）技術で点群化するサービスも登場しており、Pix4DcatchやSiteScape、Scaniverseといったアプリを使えば写真から高密度な点群モデルを生成できます。こうしたスマホ点群計測の広がりにより、特殊なレーザースキャナーやドローンを用いなくても、誰もが身近な端末で3Dスキャンを行える時代が到来しました。

本記事では、iPhoneを用いたスキャン（LiDAR・写真計測）が盛土管理にもたらすメリットと具体的な活用方法について解説します。盛土工事における従来の管理上の課題を整理したうえで、iPhoneで取得した点群データによって何が変わるのか、そして現場での実践的な活用手順やクラウドを活用した遠隔共有、現場の声まで幅広く紹介します。最後に、話題のスマホRTK技術LRTKと組み合わせた高精度測量への親和性にも触れ、よりスムーズな新技術導入へのヒントをお届けします。

iPhoneスキャン（LiDAR・写真計測）の概要

まず、iPhoneによる3Dスキャンの仕組みと特徴を押さえておきましょう。LiDARスキャンとは、iPhoneなどに搭載された赤外線レーザーで物体までの距離を瞬時に測定し、点群（多数の測距点）を生成する技術です。iPhone 12 Pro以降のモデルではこのLiDARセンサーによって、カメラだけでは難しかった精密な奥行き計測が可能となりました。取得された無数の深度データをリアルタイムに合成することで、スマホ上で手軽に3Dモデル（点群）を構築できます。例えば足元の地形や盛土の法面形状を、その場ですぐに立体モデル化して確認することも可能です。

ただしiPhone単体のLiDAR計測には限界もあります。前述の通り測定できる距離範囲が数メートル程度に限られるため、非常に広い盛土現場を一度にスキャンすることは苦手です。また、iPhoneで取得した点群データには緯度経度などの絶対座標（全球測位基準）が付与されないため、地図座標系での精密な測量には工夫が必要です。しかしこの点は後述するRTK技術との連携によって解決可能であり、実際にiPhoneとRTKを組み合わせて公共座標系でセンチメートル精度の3D点群計測を実現するシステムも登場しています。

一方、写真測量（フォトグラメトリ）を用いたiPhoneスキャンも有効な手法です。現場の写真を多数撮影して専用ソフトやクラウドサービスで処理することで、高密度の点群データを生成できます。近年はスマホ内蔵の各種センサーやAR技術と組み合わせて位置合わせを自動化し、誰でも簡単に写真から3Dモデル化できるアプリが普及しています。LiDAR非搭載のiPhoneでも写真計測を行えば点群取得が可能なので、最新のiPhoneでなくともスマホスキャンの恩恵を受けられます。

要するにiPhoneスキャンとは、特殊な機材を使わずにスマートフォンひとつで現場の3次元データを取得する新しい手法です。高価なレーザースキャナーや専門知識がなくても、現況の地形や構造物を手軽にデジタルコピー（点群化）できる点が画期的です。この技術はすでに建設業界でも注目されており、国土交通省主導のi-ConstructionやBIM/CIMの推進も相まって、施工管理やインフラ維持管理への活用が急速に広がりつつあります。

盛土工事における従来の管理課題

盛土工事の現場では、施工計画に基づいて所定の位置と形状になるよう土砂を盛り立て、所要の締固めを行います。その盛土管理には以下のような項目があります。

• 施工中の進捗確認: 盛土が計画通りの高さ・形状まで進んでいるか確認する作業です。従来はスタッフが現場を目視巡回したり、要所で高さをレベル測量する程度で、盛土量の正確な把握は難しい面がありました。日々の出来高（施工量）はダンプの搬入台数などから推計するケースも多く、進捗遅れや過不足をリアルタイムに検知しにくいという課題があります。

• 出来形管理（形状・寸法の検測）: 盛土完了後に、所定の断面形状や標高になっているか検査する工程です。これまでは完成後に測量班が杭間の断面ごとに高さを測り、設計断面と照合して出来形図を作成するのが一般的でした。しかし点での測定では全体の形状把握が難しく、細かな凹凸や局所的な過不足を見逃す恐れがあります。また施工後にズレが判明すると手戻りの原因にもなります。

• 体積計算（土量算出）: 盛土に使用した土の容積を算出することは出来高管理や出来形証明の上で重要です。従来は盛土前後の地盤高を測って縦横断図を作成し、断面積から体積を計算していました。計算にはCADや専用ソフトを要し、現場で即座に算出することは困難でした。手計算に頼る部分もあり、迅速さと正確さの両立が課題でした。

• 沈下監視: 盛土施工後の地盤沈下や盛土材の圧密沈下をモニタリングする作業です。盛土の経時的な安定性評価に不可欠ですが、従来は沈下板や沈下計測装置を要所に設置し、定期的にレベルで高さ測定を行う必要がありました。設置箇所周辺の点でしか把握できず、盛土全体の面としての沈下傾向を掴みにくいという制約がありました。

• 安全性評価（法面の点検等）: 盛土の法面勾配や表面状況の安全確認も重要です。従来は施工後に目視で亀裂や変状の有無を点検し、必要に応じて角度を測ったりしていましたが、人が急斜面に立ち入る作業は危険が伴います。また人力目視では微細な変化を定量的に記録することは難しく、経時変化の把握にも限界がありました。

以上のように、盛土管理には多面的なチェック項目があり、従来手法ではどうしても時間・労力の負担やデータ不足による見落としが発生しがちでした。特に出来形測定や土量計算は施工後にまとめて行われるため、その場でのフィードバックが遅れがちで、是正や工程見直しのタイミングを逃すリスクもありました。

iPhoneスキャンによる高精度点群取得で変わること

そこで登場するのが、iPhoneを使って現場の点群データを取得し、盛土管理に活用するアプローチです。iPhoneスキャンによる高精度点群は、上記の課題に対して次のような変化をもたらします。

• 手軽さ：スマホは常に携帯しているものです。必要なときにすぐポケットから取り出して測れる手軽さは画期的で、重たい機材を構えて測量班を待つ必要がありません。例えば現場監督自らがスマホ片手に盛土の形状をスキャンすれば、その日のうちに現況データを取得できます。誰でも扱える簡便さにより、日常的な進捗確認に点群計測を取り入れやすくなります。

• スピード：iPhoneスキャンなら計測からデータ化までが非常に迅速です。リアルタイムにスマホ画面上へ点群が表示され、その場で計測漏れにも気付けます。従来は測量結果を持ち帰ってから図化・計算していた工程も、スキャン後すぐに自動処理で結果を得られます。例えば、ある現場ではスマホ点群導入により測量作業時間が最大90%削減できたとの報告もあり、効率面で飛躍的な向上が期待できます。

• 解析の容易性：取得した点群データはパソコンやクラウド上のソフトで容易に解析できます。点群上で任意の二点間距離を測ったり、断面図を好きな位置で切って寸法検証するといった計測が後から自由に行えます。施工前後の地形データを突合せれば自動で盛土量を算出することも可能です。難解な計算式に頼らず直感的に体積や形状を把握できるため、出来形図や数量報告書の作成もスムーズになります。

• 可視化と記録性：点群は現実の姿を点の集合体として高精度に記録したデータです。写真のようなリアルな3Dモデルを画面上に再現できるため、関係者全員が空間的なイメージを共有しやすくなります。従来は伝わりづらかった盛土の出来映えも、カラー点群や陰影表示によって一目瞭然です。また、一度取得した点群はデジタル記録として残るので、後日「施工直後の地形」「○ヶ月後の地形」を比較して沈下や変状を検知するといった長期監視にも活用できます。

このように、iPhoneスキャンで得られる点群データは手軽さ・スピード・解析容易性・可視化の点で従来手法にないメリットをもたらします。それによって現場での迅速な意思決定や品質管理の高度化が可能となり、盛土工事の生産性と安全性が大幅に向上します。「必要なときにすぐ計測し、すぐ活用する」というフローが現場に根付けば、土木施工の管理手法が一変すると言っても過言ではありません。

iPhoneスキャンを活用した盛土管理の実践方法

それでは、具体的にiPhoneスキャンを盛土管理にどのように取り入れるか、その手順の一例を紹介します。ポイントは施工前後の地形を点群データとして比較することと、点群から必要な情報を自動抽出することです。

• 施工前の現況地形をスキャン: 盛土を行う前の原地盤の形状をiPhoneでスキャンし、点群データとして保存します。盛土エリア全体を歩いてLiDAR計測すれば、現況の高低差や地形起伏をもれなく記録できます（範囲が広い場合はエリアごとに分割してスキャンし、後で点群同士を結合します）。

• 施工後（または途中経過）の盛土表面をスキャン: 盛土工事が完了した段階、もしくは途中の中間検測時に、同様にiPhoneで盛土表面の点群データを取得します。盛土材で覆われて見えなくなる前の地盤と、盛土形成後の表面という2つの状態の3Dデータを確保します。

• 点群の差分解析: 施工前後の点群データを重ね合わせ、差分を解析します。具体的には、盛土前の地盤モデルと盛土後のモデルの高さの差を計算することで盛土厚を面全体で求め、そこから盛土体積（埋め立て土量）を自動算出します。従来は丁寧な測量と手計算を要した土量算出も、点群同士の引き算で一瞬です。出来形図面と照合すれば、設計断面に対して過不足なく盛土できているか一目で判明します。必要に応じて追加盛土や過剰分の削取りといった判断も即座に下せるでしょう。

• 断面図・縦横断形状の確認: 点群データ上で任意の位置に断面線を設定し、盛土の出来形断面図を自動生成します。複数箇所の断面形状を短時間で作図できるため、従来は抜き取り検査的に限られた地点でしか確認できなかった全断面の形状を把握できます。法面勾配や天端幅が設計通りか、局所的に凹凸やはみ出しがないか、といった点も3D断面図によって容易にチェック可能です。紙の図面では見落とした部分も点群なら色付きの立体データで示されるため、視覚的に非常に分かりやすくなります。

• 経時モニタリング: 盛土完了後も、定期的に同じエリアをiPhoneでスキャンすることで、経時的な地形変化を追跡できます。例えば施工後1ヶ月毎に点群を取得しておけば、初期沈下や雨洗による法面形状変化などを差分点群で検出できます。従来は数点の測点データから推測していた沈下量も、点群比較により「盛土全域で○○cm沈降」や「一部エリアのみ沈下傾向」といった詳細分析が可能となります。点群データはデジタルな記録として残るため、将来的な補修計画や維持管理の資料としても有用です。

以上のように、iPhoneスキャンを用いれば盛土前後の地形を詳細に記録し、施工直後の出来形確認からアフターケアまで一貫して活用できます。例えば差分点群による盛土量計算は、現地でスキャンするだけでその場で完了するため「土をどれだけ入れたか」をすぐ数値で把握できます。また、点群上で断面を切って出来形検査をすれば即座に品質確認ができ、不具合が見つかればその日のうちに是正工事に着手できます。このような即応性により、盛土工事のPDCAサイクルを大幅に短縮することが可能です。

クラウド連携と3Dビューアによる現場・オフィス間の連携強化

iPhoneで取得した点群データは、クラウドサービスや3Dビューアを活用することで現場とオフィスの垣根を超えた情報共有を実現します。専用の閲覧ソフトがなくても、近年はウェブブラウザ上で点群モデルを表示・操作できるプラットフォームが登場しています。そのため現場でスキャンが終わったらスマホから直接点群データをクラウドにアップロードし、事務所のPCやタブレットで即座に閲覧・分析するといったワークフローが可能です。

例えば、現場の監督員が取得した盛土の点群をクラウド共有すれば、遠く離れたオフィスにいる施工管理担当者や設計者もリアルタイムにその3Dデータを確認できます。平面的な数値報告ではなく立体モデルで進捗や出来形を把握できるため、現場状況の理解度が飛躍的に高まります。場合によっては発注者（行政担当者）とも3Dデータを共有し、オンライン会議で出来形の出来栄えを立体的に示しながら協議するといったことも可能です。点群データ上で気になる点にマーキングして指示伝達するなど、コミュニケーションの精度も上がるでしょう。

さらに、クラウド上にあらかじめ設計データの3Dモデルや基準高情報をアップしておけば、現場で取得した点群との自動重ね合わせによって「設計通り施工できているか」を即座に検証することもできます。例えば盛土の完成形モデルを事前に用意し、それと現況点群をクラウド上で比較すれば、出来形の過不足を色分け表示したヒートマップを生成することも容易です。従来は施工後に時間をかけて行っていた出来形検定も、現場でスキャンした直後に自動処理されるため、その場で合否判定まで行えるケースもあります。この即時性と可視化により、出来形管理はよりスピーディーかつ確実なものとなります。

クラウド連携の利点は、データの単一化と蓄積にもあります。現場で集めた高精度な点群データはクラウドに一元管理され、関係者全員が最新情報にアクセスできます。現場では即座に出来形の確認や是正措置が行え、オフィスでは収集データを基に図面作成や報告書作成を進める——このように、並行して作業ができるため全体のリードタイムが短縮されます。またクラウド上に蓄積されたデータは将来の維持管理や施工計画の策定にも活用可能で、組織としてナレッジを共有し蓄積する効果も期待できます。

このように、iPhoneスキャンとクラウド・3Dビューアを組み合わせることで、現場（フィールド）とオフィスの連携が飛躍的に深化します。従来は測量データを紙やPDFにしてから共有していたプロセスが、「現場でデータ取得→即クラウド共有→関係者が閲覧・判断」というリアルタイムな情報共有に置き換わります。その結果、施工管理における意思決定の速度が格段に上がり、現場の変化に即応できる俊敏なマネジメントが可能となります。

盛土管理への活用事例と現場の声

実際にiPhoneスキャンを盛土管理に活用し、効果を上げている事例も現れ始めています。ある中堅ゼネコンでは、道路改良工事の現場管理にスマホ＋RTKによる点群測量を採用し、従来は別々に行っていた測量と出来形確認を一括で行えるようにしました。現場代理人はiPadに小型GNSS受信機を装着して毎朝盛土の出来形を点群スキャンし、即座にクラウドで数量（盛土量）計算して工事進捗を把握、日報作成も自動化されています。従来なら測量班の測定結果を待ってから事務所で数量集計していた作業が、現場でスキャンするだけで完結してしまう好例です。また別の施工現場では、LRTK（後述）を用いてiPhoneのLiDARスキャナーで周囲をスキャンするだけで点群データを即座に取得し、各点に高精度な位置座標が付与されることでその場で盛土のボリューム計算まで可能になったとの報告があります。得られた測定結果は即クラウド経由で事務所と共有されるため、担当者はオフィスにいながらリアルタイムに出来形データを確認・検証できたといいます。

安全性向上の面でも、スマホ点群の効果を実感する声があります。高速道路の法面崩落現場では、危険な斜面に直接立ち入ることなく離れた位置からiPhoneスキャンで崩落土量を計測し、点群上で必要な補修箇所を把握するといった活用が可能でした。従来は人力で崩落範囲を測るにも危険が伴いましたが、遠隔からの計測で作業員の安全確保と迅速な状況把握が両立できた事例です。またトンネル工事や鉄道の保守点検においても、狭隘な現場で重機を設置する手間を省き、スマホスキャンで得たデータから変位や異常位置を正確に記録して作業効率化を図る試みが進んでいます。

こうした現場の事例からは、「一度スマホスキャンを使うともう以前のやり方には戻れない」「現場の働き方が劇的に変わった」といった声も聞かれます。特に若手の技術者からは直感的に使えるツールとして好評で、難しい測量の知識がなくとも高精度な出来形データを扱える点が評価されています。実際、国土交通省の新技術情報提供システム（NETIS）においても、スマホ点群計測の有用性が公式に認められつつあります。例えばあるスマホ計測アプリは「経験の少ない職員でも計測が容易にできる」としてNETISで最高評価のVEを獲得しており、新人でも即戦力となる点が人手不足対策として期待されています。

最後に整理すると、現場から寄せられるスマホスキャン活用のメリットとしては以下の点が挙げられます。

• 操作性: 専門機器と比べ操作が簡単で習熟しやすく、直感的に使えるため現場スタッフ自ら計測しやすい。測量の専門知識がなくても扱えるので、ベテランに頼らず若手や非測量担当者でも計測業務に参加できます。

• 効率: 計測からデータ処理・共有までの時間が大幅短縮され、作業効率が飛躍的に向上します。実例として測量作業が90%減の時間で済んだ報告もあり、日報作成や出来形図作成の自動化によって省力化が実現しています。

• 安全性: 危険箇所も遠隔から計測できるため、作業員の安全確保につながります。急斜面や崩落箇所に立ち入らずにデータ取得が可能で、従来必要だったリスクの高い測量作業を置き換えています。現場滞在時間の短縮も熱中症や事故リスク低減に寄与します。

• 納品品質向上: 点群という精密データにより、出来形管理の精度が上がり報告書や図面の品質も向上します。特にBIM/CIMが原則義務化される中、3次元データでの納品にスムーズに対応できる点は大きな強みです。データの客観性・再現性が高いため発注者との認識共有も円滑になり、手戻り防止や出来形証明の信頼性向上につながっています。

現場の声を総合すれば、iPhoneスキャンをはじめとするスマホ点群計測は「施工管理の新たなスタンダード」になりつつあると言えます。効率化・安全性・品質確保の三拍子を実現できるこの技術を、盛土管理にも活用しない手はありません。

LRTKを活用した簡単な測量・出来形管理との親和性

最後に、iPhoneスキャンの可能性をさらに引き出す技術としてLRTK（スマホ対応RTK測位システム）との連携について触れておきます。LRTKとは、iPhoneやiPadに後付けして使用できる超小型のRTK-GNSS受信機（測位デバイス）で、スマホをセンチメートル級測位が可能な測量機へと変身させるソリューションです。ネットワーク型RTK（Ntrip）による補正情報を受信することで、L1/L2帯などマルチ周波のGNSS測位をスマホ上でリアルタイムに行い、水平1～2cm程度・垂直2～3cm程度の精度を実現できます。

このLRTKをiPhoneに装着して活用すれば、前述したスマホ点群計測に絶対座標の精度が加わります。具体的には、iPhoneのLiDARでスキャンした点群データ一つひとつにRTK測位による緯度・経度・高さといった全球測位座標を紐づけることが可能です。その結果、取得した点群を即座に公共座標系などの測地系座標に変換でき、現場で取得した3Dデータがそのまま図面座標上の数値と一致するようになります。これまで、スマホ点群は相対的な形状把握には有用でも絶対的な位置合わせには追加の測量が必要でした。しかしLRTKと組み合わせることで、スマホで取得した点群が即測量図と同一座標系の高精度データとなり、公式な出来形成果としてもそのまま利用できるレベルに引き上げられます。

さらに、LRTKの専用アプリを使うことで、単なる測位だけでなく現場で必要とされる様々な計測ニーズにワンストップで応えることができます。例えば、iPhoneのLiDARと連携した点群計測機能では、盛土や掘削の出来形面をスキャンして面積・体積を自動計算したり、取得直後にクラウドへデータを同期して関係者と共有するといったこともボタン操作一つで可能です。クラウド上では点群データと設計3Dモデルの自動重ね合わせもできるため、現場でスキャンした点群をアップロードするだけで設計通りの形状かどうか即時にチェックできるのも特長です。つまり、LRTK + iPhoneがあれば、これまで別々の機器やソフトで行っていた測量・出来形確認・写真記録・ARシミュレーションまで一手に担うことができ、まさに「いつでもポケットに入れて持ち歩ける一人一台の万能現場ツール」として機能します。

実際の盛土現場においても、LRTKのようなスマホRTKを併用することで計測ワークフローが大きく変わります。例えば盛土や掘削の体積算出では、従来は現況を綿密に測量して事務所でデータ処理していましたが、LRTK導入後は現場でiPhoneスキャンするだけで高精度点群が取得でき、その場で盛土ボリュームの計算まで完了します。点群データには既に座標が付与されているため座標変換の手間もなく、得られた成果は即座にクラウド共有されてオフィス側でもリアルタイムに確認できます。このように、一連の計測・検証・共有プロセスがシームレスに繋がることで、盛土管理の業務効率と精度は飛躍的に向上します。

LRTKを含むスマホRTK技術との親和性は、iPhoneスキャンを現場に「自然に導入」していく上で大きな追い風となるでしょう。高価な測量機器を揃えずとも、手持ちのスマホに小型デバイスをプラスするだけで、誰でも従来同様の精度で測量・出来形管理ができるようになるからです。現場作業員が自分のスマホを測量機代わりにできれば、測量待ちの時間はゼロになり、必要なときに即計測・即判断というこれまでにない敏捷性を現場にもたらします。既に早期導入している企業からは「もはやスマホ測量なしには現場管理を考えられない」との声も出始めており、スマホ＋RTKによる新たな測量スタイルが建設業界のスタンダードとして定着しつつあります。

盛土管理においても、iPhoneスキャンとRTKの融合はこれからさらに価値を発揮していくでしょう。高精度点群を誰もが手軽に扱える環境を整えることで、施工管理のDX（デジタルトランスフォーメーション）は確実に前進します。従来は専門家の領域だった3次元測量を現場主体でこなせるようになれば、現場の生産性と品質・安全は新たな次元へと引き上げられます。ぜひこの機会にiPhoneスキャンと最新技術の活用を検討し、盛土管理の現場を次のステージへ進化させてみてください。