iPhone スキャン×クラウド共有｜点群管理

導入：なぜ「iPhoneスキャン×クラウド共有」が現場の点群管理を変えるのか

建設業界では近年、国土交通省主導のi-Constructionなどにより3次元測量やBIM/CIM活用が推進され、現場で取得される点群データの重要性が増しています。従来は地上型レーザースキャナーやドローン写真測量によって点群を取得していましたが、高価な機器と専門スキルが要求され、データ処理にも時間がかかりました。その結果、せっかく取得した点群を現場とオフィス間ですぐ共有・活用することが難しく、合意形成や意思決定にタイムラグが生じていたのです。

こうした課題を解決する新たなアプローチがスマートフォンによる点群計測とクラウド共有です。特に「iPhoneスキャン」は注目を集めており、iPhoneに搭載されたLiDARスキャナーや高性能カメラを活用して誰でも手軽に現場を3Dスキャンできるようになりました。例えば、iPhoneに超小型のRTK-GNSS受信機を装着する「LRTK Phone」のようなシステムでは、現場作業員がスマホを持って歩くだけでセンチメートル級の高精度点群を取得し、取得後すぐにクラウド上で共有できるようになります。これにより、現場とオフィスがリアルタイムに3Dデータでつながり、施工管理や測量のワークフローが一変しつつあります。

本記事では、iPhoneスキャンの基本からクラウド点群管理のメリット、具体的な活用方法や導入時の疑問点までを総合的に解説します。「iPhoneスキャン×クラウド共有」がどのように現場の点群管理を変革し、施工管理者・測量士・建設会社経営層・自治体職員・現場作業員といった幅広い関係者にとって役立つのか、詳しく見ていきましょう。

iPhoneスキャンの基本（LiDAR／フォトグラメトリ、点群出力、特徴）

LiDARスキャン: iPhone 12/13/14 Proシリーズや2020年以降のiPad ProにはLiDARセンサーが搭載されており、レーザーパルスによって空間の深度を測定することで3D点群を取得できます。iPhoneのLiDARは有効範囲がおよそ5mとされ、カメラをかざして歩くだけで部屋や大型設備などの空間を短時間でスキャンできるのが特徴です。一方で、スマホ内蔵のLiDARは測量用の大型レーザースキャナーに比べると点群密度が低く、小さな物体や細かな凹凸の再現はやや不得意です。実際、モバイルLiDARで生成した点群は点の間引きによりエッジが滑らかになりがちですが、後述するフォトグラメトリで生成した点群は細部まで高密度に形状を捉えることができます。スマホLiDARのメリットはその場で即座に点群結果を得られる即時性にあり、スキャン直後にデータを確認したり計測に使ったりできる点が現場作業に向いています。

フォトグラメトリ: フォトグラメトリ（写真測量）は、iPhoneの高解像度カメラで撮影した多数の写真から3次元モデルや点群を再構築する手法です。最新のiPhoneを含むほぼ全てのスマホで利用可能で、LiDAR非搭載の機種でもフォトグラメトリなら3Dスキャンが行えます。特徴として、大型構造物から小さな部品まで高精細にスキャンでき、テクスチャ（表面の色や模様）まで含めたリアルな3Dモデルを生成できる点が挙げられます。特に小物や複雑形状のディテール再現性はLiDARよりフォトグラメトリが優れ、5cm角程度のマーカー（標定点）が点群上で識別できるほど高密度な点群が得られた事例もあります。ただし、一度に処理できる写真枚数に上限があるため、広範囲の地形全体を一度でフォトグラメトリするのは難易度が高く、この点ではリアルタイムに広範囲を歩いて記録できるLiDARスキャンが適しています。フォトグラメトリによる3Dモデル生成は一般的に以下の流れで行われます:

このようにクラウド上の強力な処理能力を借りて点群化するため、処理には多少時間がかかります（数分～数十分程度）が、その分極めて精緻な点群データが得られます。なお最近では、LiDARとフォトグラメトリの長所を組み合わせたハイブリッド手法も登場しています。たとえばPix4Dcatchのように、基本はフォトグラメトリで高精細点群を生成しつつ、iPhoneのLiDARを併用してスキャン結果を即時プレビューしたり、鏡面・水面など写真だけでは点群化しづらい対象を補完したりするアプリもあります。総じてiPhoneスキャンでは、LiDAR＝即時性と手軽さ、フォトグラメトリ＝精細さという使い分けが可能であり、現場の用途に応じて両者を使い分けることで効率的な3D記録が行えます。

クラウド点群管理のメリット

iPhoneで取得した点群データをクラウド上で管理・共有することには、従来のオフライン運用にはない様々なメリットがあります。ここでは主な利点を5つ挙げて解説します。

• 現場とオフィスのリアルタイム共有: 現場でスキャンした点群データを即座にクラウドへアップロードし共有できれば、離れたオフィスからでも最新の現場状況を3Dで確認可能です。例えば、施工中にiPhoneで取得した地形の点群を本社スタッフがほぼリアルタイムにチェックし、必要な指示をすぐ出すこともできます。従来は「測って持ち帰り、PCで処理してから共有」という手順に時間を要していましたが、クラウド連携により現場とオフィス間の情報伝達がシームレスになり、対応スピードが飛躍的に向上します。

• 発注者・協力会社との合意形成の効率化: 点群という客観的な3D記録をクラウド経由で関係者全員が閲覧できるようにすることで、発注者や協力会社との認識合わせが容易になります。口頭説明や平面図だけでは伝わりにくい出来栄えや施工箇所の細部も、点群データ上で「見て」共有できるため納得感が違います。クラウド上で複数のステークホルダーが同じデータを同時に確認し、コメントや注釈を付けることも可能なため、リモート会議でも具体的な合意形成を進めやすくなります。結果として、協議や承認にかかる時間が短縮され、プロジェクト全体の円滑化につながります。

• 点群履歴の保存・比較（施工前後・経年劣化）: クラウドに点群データを蓄積しておけば、「ある時点の現場」を丸ごとアーカイブとして保存できます。施工前の地形や施工直後の出来形、さらには定期点検時の構造物状態といった時系列の点群履歴を残せるため、後から過去データと比較して変化を把握することが容易です。例えばトンネルや橋梁を毎年スキャンしておけば、ひび割れや変形の進行状況を3次元で経年比較でき、劣化の傾向を定量的に掴めます。施工前後の地形点群を突き合わせて盛土・掘削量を算出したり、出来形検査時に設計モデルと点群を比較して施工精度を評価したりすることも可能です。このように点群の履歴管理ができることは、従来の写真管理や2D図面管理にはない大きなメリットです。

• PC・スマホ・タブレットでのマルチデバイス閲覧: クラウド上に点群データを置くことで、専用ソフトがインストールされた高性能PCがなくてもブラウザ経由で3Dデータを閲覧できるようになります。関係者は各自のオフィスPCはもちろん、タブレットやスマホから現場点群を見ることも可能で、場所や端末を選びません。例えば現場にいながら手持ちのタブレットで上司に点群を見せたり、出張先でノートPCからクラウドにアクセスしてデータを確認したりといった柔軟な運用ができます。URLリンクを共有すれば発注者や協力会社も専用ビューア不要でアクセスでき、「誰でも3Dが見られる」環境が実現します。これにより点群データの活用範囲が一気に広がります。

• ファイル軽量化とリンク共有、容量削減: 点群データは容量が大きくなりがちですが、クラウドを活用すればデータ容量の課題も緩和できます。巨大な点群ファイルをメール添付したりUSBで手渡したりする必要はなく、クラウド上のデータへのリンクを共有するだけで済みます。受け取る側も自前のPCにデータをダウンロードせずに済むため、ローカルストレージを圧迫しません。クラウドサービス側で容量無制限プランや大容量ストレージを備えていることも多く、複数の現場で取得した点群データを一元管理しても容量不足に悩まされにくくなっています。さらにサービスによっては点群の軽量表示（ダウンサンプリングや一部表示）機能があり、低速回線下でもスムーズに3D閲覧が可能です。クラウド活用により「重い点群を軽く扱う」ことが現実的となり、データ共有のハードルが大きく下がります。

クラウド対応アプリ・プラットフォーム例（Polycam, SiteScape, LRTKクラウドなど）

現在、iPhoneを用いた3Dスキャンとクラウド共有に対応するアプリやプラットフォームが多数登場しています。その中から代表的な例をいくつか紹介します。

• Polycam（ポリカム）: 世界的に利用者の多いオールインワンの3Dスキャンアプリです。iPhone/iPadのLiDARスキャナーによる高速スキャンと、高品質なフォトグラメトリによる詳細スキャンの両方に対応しており、大きな空間から小さなオブジェクトまで幅広く3Dキャプチャできます。スキャン後はクラウド上でモデルを編集・共有する機能も充実しており、作成した点群や3DモデルはPolycamのWebプラットフォームにアップロードしてPCブラウザ上で閲覧・共有可能です。実際、Polycamではユーザーが過去に作成したLiDARスキャンデータをアップロードし、デスクトップやモバイルから閲覧・編集・共有できる3Dビューアを提供しています。エクスポートできるデータ形式もOBJやPLYなど十数種類と豊富で、取得した点群を他のCADソフトやBIMソフトに持ち込む用途にも適しています。手軽さと機能性から、日本国内でも建築・土木分野でPolycamを活用する例が増えています。

• SiteScape（サイトスケープ）: 建設業界向けに特化したiPhone/iPad用のLiDARスキャンアプリです。無償版でもLiDAR搭載デバイスであれば点群スキャンが行え、クラウドに1件の点群を同期してブラウザ経由で閲覧できます。プロ版（有料）にすると「マルチスキャン」機能が解禁され、10回分の連続スキャンをクラウド上で自動整合・合成して一つの点群モデルに統合することが可能です。これによりiPhone単体では難しい広範囲の大規模スキャンも、部分ごとに測定した点群を後でクラウド上で結合して高精度な全体モデルを得るといった使い方ができます。またSiteScapeはチーム利用も想定されており、点群上の任意位置にメモ（テキストや写真注釈）を残す機能が備わっています。ブラウザ上で点群を共有しつつ、関係者が注釈を付けて情報交換できるため、遠隔での現場確認や指示出しツールとして優秀です。建設現場の出来形管理や設備の納まり確認などに採用が進んでおり、「今あるiPhoneで始められる簡易3Dスキャン」として注目を集めています。

• LRTKクラウド: 日本発のプラットフォームで、Lefixea社の提供する「LRTK Phone」アプリと連携したクラウドサービスです。LRTK PhoneはiPhoneに取り付ける超小型RTK-GNSS受信機（LRTKデバイス）を用いて、高精度な位置情報付きの点群計測を可能にするソリューションで、「誰でも簡単に絶対座標付き点群を作成」できることが特徴です。現場で取得した点群データはワンボタンで自動クラウド同期され、ブラウザ上の専用ビューアで即座に3D表示・計測が行えます。LRTKクラウドでは距離・面積・体積といった測定もクラウド上で完結し、専用ソフトのインストールや高スペックPCが不要です。さらに共有リンクを発行すれば、ライセンスを持たない関係者でもデータにアクセス可能で、受け取り側は高性能なワークステーションや点群ビューアを用意しなくても点群を確認できます。加えて、LRTKはRTK-GNSSにより得られた全球測位座標（絶対座標）を各点に付与しているため、生成された点群データを他の測量データや設計図と容易に統合できる利点があります。例えば別途取得したドローン測量点群や既存の図面データとも座標のズレなく重ね合わせ可能で、クラウド上でそれらを一元管理することもできます。LRTKクラウドは国内のインフラ工事などで導入が始まっており、スマホ一つで取得から共有まで行える点群管理ツールとして今後の展開が期待されています。

iPhoneスキャン→クラウド→解析のワークフロー

では実際に、iPhoneで現場をスキャンしてからクラウドでデータ活用するまでの一般的な流れをステップごとに見てみましょう。スマホとクラウドを組み合わせた場合、以下のようなスムーズなワークフローが実現します。

• 現場で3Dスキャン: まずはiPhoneやiPadを使って計測対象をスキャンします。LiDAR搭載のiPhoneであれば専用アプリを起動してカメラをかざし、歩き回ることで周囲の3D点群を取得できます。例えばLRTK Phoneの場合、現場担当者がiPhoneにRTKデバイスを装着して歩くだけで、5分以内にスキャンが完了するとの報告もあります。フォトグラメトリでスキャンする場合は、対象物の周囲から多数の写真を撮影するか、アプリによってはビデオ撮影で自動的に写真フレームを取得してくれるものもあります。いずれにせよ、従来は専門技術者に任せていた点群計測を現場作業員自身が数分～数十分で実施できる点が大きな違いです。

• クラウドに自動アップロード: スキャンが完了すると、取得データをクラウドにアップロードします。多くのアプリではアップロード操作をするだけで、その場でクラウド同期が開始されます。例えばLRTK Phoneでは「計測データは現場からLRTKクラウドにアップロードされ、事務所に戻るころには関係者とデータが共有されている」状態になります。現地でインターネット接続できる場合は即時にアップロードできますし、圏外であっても端末内にデータを保存しておき後で事務所でアップロードするといった運用も可能です。アプリによっては圏外環境を考慮し、後述するようにiPhone内部で3D生成処理まで完結させることで現場では通信を必要としないものもあります。ポイントは「測ったデータをすぐクラウドへ」送り出し、早期に関係者間で共有できるようにすることです。

• クラウド上で可視化・共有: アップロードされた点群データはクラウドプラットフォーム上で自動的に3Dビューアに反映され、ブラウザから閲覧できるようになります。現場から数分で送信された最新の点群を、本社のPCやタブレットで即座に開いて確認するといったことが可能になります。関係者にはあらかじめ閲覧用のアカウントを発行するか、または閲覧リンクを共有しておき、アップロード完了通知と共にデータを見てもらいます。ブラウザ上ではマウス操作やタッチ操作で点群を回転・拡大縮小し、気になる箇所を自由な視点で見渡すことができます。例えば、SiteScapeではクラウドに同期した点群を任意のデバイス（PCやスマホ）で閲覧可能で、Nikon-Trimbleの「ポイントクラウドビュー」のように大容量点群をスマホや低スペックPCでも軽快に表示できるクラウドサービスも登場しています。このようにクラウド上で場所を選ばず点群を可視化できることが、現場とオフィス双方に大きな利便性をもたらします。

• クラウド上で測定・解析: クラウドプラットフォームには点群データの簡易解析機能が備わっている場合が多く、アップしたデータをそのまま計測や比較に活用できます。典型的な機能は距離・面積・体積の計測で、ブラウザ画面上で2点間の距離や任意範囲の面積、メッシュで囲んだ体積などを算出できます。例えばLRTKクラウドでは専用ビューア上で距離や面積、体積を測定でき、離れた場所から現場の出来形を把握することも可能です。また、プラットフォームによっては点群同士の差分比較（2つの点群の距離を色分け表示して形状変化を可視化するなど）や、設計CADデータ・BIMモデルとの重ね合わせ表示といった高度な解析もできます。例えばTrimble Connectを拡張したポイントクラウドビューでは、同じ座標系にそろえた点群データと3D設計モデルをクラウド上で重ねて表示する機能があります。これにより設計図通りに施工できているかを視覚的に検証でき、施工管理や品質検査に役立ちます。さらに各測点（スキャン時の位置）ごとに360度写真を紐付けて表示できるシステムもあり、点群と実写を同時に見ることでオフィスにいながら現場を疑似体験することも可能です。このようにクラウド上で提供される解析ツールを使えば、現場から持ち帰ったデータをローカルPCで処理せずとも、その場で必要な情報を引き出して業務に反映できます。

• レポート作成・共有: クラウド上で取得データの確認や計測が完了したら、その結果をレポートや図面としてまとめて共有します。例えば出来形検査であれば、点群データ上で測定した寸法や断面図をスクリーンショットとして日報や報告書に貼り付けることができます。クラウドビューアから直接PDFレポートを出力できるサービスもあり、計測結果の一覧や点群のサムネイル画像を自動生成してくれるものも存在します。点群データそのものも、プロジェクトの記録としてクラウド上に保存しておけば、関係者はいつでも必要なときにアクセスしてダウンロードしたり再分析したりできます。リンク共有した点群モデルを発注者が自ら画面操作して確認する、といった使い方も普及し始めています。最終的に、クラウド上ですべての工程が完結することで、現場での3Dスキャンからデータ活用、報告・共有までがワンストップで実現します。これにより、データ活用までのリードタイムが飛躍的に短縮され、現場DXの大きな推進力となっています。

BIM／CIM連携や図面・写真との統合管理

クラウド上に蓄積された点群データは、BIMモデルやCIM（コンストラクション・インフォメーション・モデリング）データ、さらには従来の図面や写真と組み合わせて活用することで真価を発揮します。点群は現実のありのままを3次元で記録したもの、BIM/CIMモデルは設計意図を盛り込んだ3次元データ、と位置づけられますが、クラウドプラットフォーム上で両者を統合表示することが可能です。例えば先述のTrimble Connectベースのサービスでは、クラウド上で同一座標系の点群データと3D設計モデル（BIM/CIM）を重ねて表示し、設計と施工実績のズレを詳細に検証できます。iPhoneスキャンによる点群は位置合わせ（ジオリファレンス）が課題になりがちですが、LRTKのようにRTK-GNSSで絶対座標を付与しておけばBIM/CIMやGISとの位置合わせも自動的に行われ、正しい位置・向きでモデルを配置できます。このように統合されたデータ環境下では、例えば設計図と現場点群を見比べて出来形の良否を色分け表示したヒートマップを生成したり、点群と図面から差分土量を算出したりといった応用も容易です。

また、図面データ・写真との統合管理もクラウドならではのメリットです。各点群測定位置に対応する全方位写真（パノラマ画像）を点群と同時に表示できるシステムでは、オフィスにいながら現地の視点で周囲を見回すことができます。点群では識別しづらい標識やマーキングなども写真で補完でき、直感的な現場把握に役立ちます。さらに、点群やBIMモデル、図面、写真、各種ドキュメントをクラウド上の同一プラットフォームに集約すれば、関係者は一つの画面から必要な情報すべてにアクセスできます。これによって従来は別管理だった施工図面・検査写真・点検記録・点群データ等を一元的に紐付けられ、工事記録の信頼性と管理効率が飛躍的に向上します。例えば出来形図書を作成する際にも、クラウド上の点群データから断面図を切り出し、図面や写真と組み合わせて配置するといった作業がスムーズに行えます。点群技術とBIM/CIM・図面情報の融合は、まさにデジタルツインの実現に近づくものであり、これからの建設DXにおける中核になるでしょう。

実際のユースケース：道路舗装、構造物点検、盛土・法面管理など

それでは、iPhoneスキャン×クラウド共有が具体的にどのような現場で活用できるのか、代表的なユースケースを見てみましょう。

• 道路舗装の出来形管理: 道路の舗装厚や平坦性の確認には通常、完成後に測定スタッフが現地で厚さを抜き取り検査したり、路面の凹凸を計測したりする手間がかかっていました。しかしiPhoneスキャンを用いれば、舗装直後の路面をその場で点群スキャンし、クラウド上で設計モデル（標準断面）と比較することで所要厚が確保されているか即時にチェックできます。例えばLRTK Phoneでは、コンクリート打設直後や舗装完了直後に点群を取得し、現場で「設計通りか」をリアルタイムに判定する実証も行われています。点群上で舗装厚を断面計測すれば、人手による抜き取り検査の頻度も減らせ、品質確認の効率化につながります。また、舗装表面の高さや勾配を点群から解析することで、水たまりができない適切な縦断・横断勾配になっているかの検証も可能です。従来は工事後日に別途測量していた出来形検査を現場即時に行える点が大きなメリットです。

• 構造物点検（インフラ維持管理）: トンネルや橋梁、擁壁や法面といったインフラ構造物の定期点検にも3D点群は有用です。iPhoneのLiDARで構造物表面をくまなくスキャンしておけば、ひび割れや変形の状態を時系列で記録・比較できます。例えばトンネル内を歩きながらiPhoneスキャンし、クラウド上で過去に計測した点群と重ね合わせれば、どの箇所に新たなクラックが発生したか、どれくらい変位が進んだかを一目で把握できます。LRTKの事例では、法面（のりめん）をスマホでスキャンしておき、年次点検ごとに点群を重ねて経年変化を把握するといった活用が報告されています。点群そのものが精密な三次元記録となるため、目視記録よりも客観性・再現性の高い維持管理データとなります。また、スマホベースの計測は装置が小型軽量なため、高所作業車を使わず脚立程度で届く範囲なら計測可能で、狭所でもスムーズにスキャンできます。取得した点群データはクラウド上で関係者と共有し、補修の優先順位検討や報告書作成に役立てられます。将来的には、AI解析と組み合わせて点群から自動で損傷箇所を検出する技術も見据えられており、インフラ点検のDXにおいてスマホ点群は大きな武器となるでしょう。

• 盛土・法面管理（土量測定と変状監視）: 土木工事における盛土・掘削などの土量管理や法面形状の管理にもiPhoneスキャンが威力を発揮します。従来、盛土や地盤の出来形確認には人手による測量やドローン空撮が必要でしたが、小規模現場であればスマホスキャンで十分対応可能です。例えば、ある造成現場では盛土前後の地形をそれぞれiPhoneでスキャンし、クラウド上で点群同士を比較して自動的に盛土量を算出しました。LRTK Phoneでは測量から体積計算まで現場で完結できるため、追加の土砂があと何立米必要か、ダンプ何台分の残土が出るか、といった情報を即座に把握できたといいます。これにより余剰土の処分手配や埋戻し材の調達を迅速に行え、施工計画の調整が効率化しました。法面管理の面でも、設計の法面勾配と出来形を点群で比較し、崩壊の恐れがない勾配になっているか確認できます。さらに、出来上がった盛土や法面を定期的にスキャンしておけば、時系列で点群を重ねて法面全体の変状（膨らみや陥没）を監視することも可能です。崩落の兆候を早期にキャッチし、安全対策に活かすといった予防保全の場面でも、クラウド上の点群データが役立っています。

以上のように、「iPhoneスキャン×クラウド共有」は道路工事から構造物維持管理まで幅広いユースケースがあります。現場で発生する様々な計測・記録業務を、省力化しつつ精度高く行える点が大きな強みと言えるでしょう。

よくある質問：セキュリティは？操作は難しい？通信環境は？

最後に、現場に新しい技術を導入する際によく出る疑問や不安点について触れます。

Q: クラウドに上げたデータのセキュリティは大丈夫？ A: セキュリティ面の懸念は多くの方が抱くポイントですが、一般的に信頼性の高いクラウドサービスではデータ通信の暗号化やサーバー側の安全管理が徹底されています。たとえば各アプリのクラウドはHTTPSなどで保護され、ユーザーごとの認証システムにより第三者にデータが漏れない仕組みになっています。また、機密性の高い工事の場合はアクセス権を限定したりパスワード付きの共有リンクを発行したりして対処可能です。どうしても外部クラウドの利用が難しい場合には、オンプレミス（自社サーバー上）で点群管理システムを運用できるソリューションを検討する手もあります。いずれにせよ、主要なクラウド対応アプリ（例: Trimble Connect系やBentleyのSystemsなど）は建設業向けのセキュリティ基準に準拠していますので、基本的な安全策が講じられていることを確認しておきましょう。

Q: 導入したいけど、機械が苦手な人でも操作できる？難しくない？ A: 操作性については心配いりません。スマホアプリとして提供されているiPhoneスキャンツールは直感的なUIになっており、カメラで写真や動画を撮る感覚で扱えるものがほとんどです。実際、LRTK Phoneの開発元も「訓練不要で大規模現場をスキャンできます。カメラを向けて歩くだけで絶対座標のついた高精度点群が生成されます」と謳っており、専門知識がなくても現場担当者がすぐに使いこなせることを重視しています。初回は多少勝手が分からなくても、試しに自分のオフィスや身近な構造物をスキャンしてみれば、コツを掴むのに長い時間はかからないでしょう。「難しそう」に見える3Dスキャンも、iPhoneという身近なデバイスのおかげでぐっと身近な技術になっているのです。一度使ってみれば、その手軽さと便利さを実感できるはずです。

Q: 現場の通信環境が不安定だけど大丈夫？データ量も大きいのでは？ A: クラウドにデータを送るには基本的にインターネット接続が必要ですが、アップロードは必ずしもリアルタイムで行う必要はありません。現場が圏外や電波不安定な場合でも、まずiPhone内に点群データを保存しておき、後で事務所や自宅のWi-Fi環境でアップロードする運用で問題ありません。実際、LRTK Phoneの新機能であるフォトグラメトリでは、iPhone内部で3Dモデルを生成してしまうため現場ではサーバー送信が不要となり、山間部でもグローバル座標付きの点群計測が行えています。また、最近ではStarlinkなど衛星インターネットを現場に持ち込んでリアルタイム伝送する試みも登場しており、通信手段は多様化しつつあります。データ量に関しては、LiDARスキャンの点群であれば数十MB～数百MB程度、フォトグラメトリの高精細モデルでも数百MB～1GB程度が目安です。5Gや光回線なら短時間で送信できますし、4G回線でもアップロード自体はバックグラウンドで行われるため、作業の邪魔にはなりません。どうしても大容量データを扱う場合は、現場では点群を分割取得して小分けに送信し、後でクラウド上で合成する（SiteScapeのマルチスキャンのような）方法も有効です。総じて、通信環境が不安でも運用次第でカバーできますので、大きな障壁と捉えずにまずは小さな現場から試してみると良いでしょう。

おわりに

スマートフォンとクラウドを活用した点群管理は、建設・土木の現場に確実に変革をもたらしています。「iPhoneスキャン×クラウド共有」は、従来専門家の専売特許だった3次元計測を現場の誰もが日常的に使えるツールへと押し上げました。特にLRTKのようにスマホにRTK-GNSSを組み合わせたソリューションでは、点群データの各点に高精度な緯度・経度・標高が付与されるため、出来上がった点群モデルはまるで現場そのものを持ち歩いているかのように扱うことができます。取得データはそのままBIM/CIMモデルやGIS地図上に重ねてもピタリと整合し、クラウド上で関係者全員がセンチメートル級精度の3D情報を共有・活用できる時代が到来しました。今後はデバイスやAI技術のさらなる進化で、iPhoneスキャンの精度・速度が一段と高まっていくでしょう。現場DXを推進する施工管理者や技術者の方々には、ぜひこの流れを前向きに捉え、まずは小さなステップからでもスマホ点群とクラウド活用を試してみていただきたいと思います。手のひらから生まれる点群データが、クラウドを介して現場と世界をつなぎ、建設現場の生産性と創造性を高める――その未来はすでに目の前に来ているのです。